上 下
8 / 187

婚約者が消えた2

しおりを挟む
『マール君を膝の上から下ろしてもいいですか?』って聞いていいかな?じゃないとご飯たべられないしね。

「あの…」
「マールはニナさんの事が大好きなのね」
マール君はコクンと頷く。
とっても言い出しにくくなったわ…。マール君、私の何をそんなに気に入ったのかしら。

「ニナさんは今何か仕事はしているのかい?」
…いきなり痛い所をつかれたわ…だって無職ですから。
「いえ…。ただいま求職中でして…」 

放置されて、裏切られて、牢獄へ…。
家も、知り合いも、お金もない…。
切ない…

「では、うちのマールの教育係をして貰えないだろうか」

きょういくがかり…。
お勉強や楽器であれば教えてあげられるけど、普通専門の先生をつけるよね。

「専門の教育係をつけたりはしないのですか?私がマール君の教育係など畏れ多い…」

出来るだけ貴族からは離れたい、と言うのが本音なのよね。

「もちろん給金は出す。この屋敷に部屋も用意する。だから、考えてくれないだろうか!」

「あの私…」
ちょっと待って。ここで暫く働いて、お金がたまったら出ていけばいいよね?今考え無しに出ていっても働き口が見つからなかったら、運が悪ければ死んじゃうもの。

これは渡りに舟よ。

1、2ヶ月なら、きっと気がつかれないと思うし。
気がつかれても相手は私の顔を見た事もないんだから、どうどうと他人のふりして逃げればいいんだもんね。因みに私も相手の顔は知らないのよね。

「私でお力になれるのなら、喜んでお引き受け致します。」
「有り難う!では、早速今日からお願い出来るだろうか。」
「はい。」

今日からでも何でもいいの。
そろそろマール君を私の膝の上から下ろしていいという、その許可がほしいのよ。

私がここにいるって聞いて嬉しかったのかな…ギュッと抱き締められて苦しいのよね…

それから10分くらいして『ずっとそこにいたらニナさんがご飯を食べられないでしょう』…と、言ってくれた。やっと!



 教育係とは言っても、何をすればいいのか全く指示が来ないのよね…

今までのノートを見ると、字もわかってるし、難しい文章も書けてるし…計算にかんしては、すでにかけ算まで出来ているなんて…。最近の5才はすごいのね。教える必要性を全く感じない。

ただただ、膝の上で絵本を読んでくれとジェスチャーするだけ。

もちろん読むけど、教育係だよね?これでいいの?

「マール、ニナさん、お茶にしましょうか」

「はい。ありがとうございます。」

何もしてないのにお茶を頂くなんて、申し訳ない気がするわ…。

「ニナさん、教育係といっても難しく考えないで。マールと一緒に数時間過ごしてくれるだけでいいの。それ以外は自由に過ごしてくれて構わないのよ。」
「それだけでいいのですか?」
「ええ。」

自由時間があるなら、その時間に仕事探しが出来るよね。『楽しく暮らす』第一歩が踏み出せるかも!

「…ニナさんももう解っているとは思うけれど、マールは声を出す事が出来ないの。お友達もあまりいないし、いつも部屋にこもりがちで…。けれど、ほら、これを見て。」
  
紙を受け取って内容を見るとこう書いてある。

『あの人に会いたい。』

あの人っていうのは私…?

「この子は私達に何かしてほしいと頼む事が殆んどないから、嬉しかったの。引き受けてくれて本当に感謝するわ」

奥さまの目から涙が…
「こちらこそ、光栄です。ありがとうございます」

1、2ヶ月で辞めたいって言いづらくなったわ…。もっときちんと最初に意思を伝えておくべきだったよね…

明日、旦那様に伝えよう。それとなく。



 マール君の教育係になって早1週間。

そして仕事を探して1週間になるんだけど、私はなにが出来るかな?
チャレンジしなきゃ何も始まらないよね!
でも、街の人は私がマール君の教育係だと知っていて、仕方なしに雇います…っていう感じで申し訳ないし…だから今行き詰まっている状態なのよね。
伯爵家で働くと、こんな落とし穴が隠されているなんて…。
教育係といってもマール君と遊んでいるだけなのだけど、そんなの周りからすれば関係ないよね。
楽しく暮らす為には、やはり貴族との関わりを絶たなきゃ駄目だわ。

う~ん
いっそのこと、この街で仕事を探すんじゃなくて、隣街まで行ってみようかな。
明後日はお休みだしね。ラドクリフ伯爵達はパーティー招待されているから。

教育係をしていて思ったんだけど、子供にお勉強を教えるっていうのはどうかしら?相手がお金持ちとか、貴族とか、身分なんてどうでもいいの。
私の習った事を全てを使って出来るような所で働きたい…。でも家庭教師するにも伯爵に紹介状を書いてもらわないと駄目だよね。
後ろだてもないのに、『教師やります!』なんて無理だもの。

伯爵が紹介する相手は、それなりの身分の高い家庭だろうし、そうなると私じゃ無理…私の教養は役にたたないのね…

やはり、結婚して別居するのがいいのかな…。

でも仕事は出来なくなる可能性が高い。
『王子と結婚してるけど別居してるので関係ありません。』とか絶対無理に決まってるわ。教育係をしているというだけで仕事が出来ない状態なんだし。

それに何より、結婚したら1人で街を歩くなんて許してくれない気がするのよね…。

やはり、逃げ切って楽しい暮らしを手に入れる!
駄目だった場合は、溺愛してる女性でもいいし、好きな女性をつくって頂いても構わないから、早く子供を産んでもらうようにしなきゃっ!
目指せお払い箱!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◯完結まで毎週金曜日更新します ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

処理中です...