私もあなたもモブなのだから、向かうところ敵はなし!!

シンさん

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運命の日

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 さて、今日が運命の日なのであるけども、教科書を破られたヒロインにイチゴを摘みに行かせるのは難しい。明日から勉強が出来なくなってしまうわけだしね。

「キース、メーベルさんとイチゴを摘みに行ってほしいの。」
「メーベル?誰それ?」
「私のクラスにいる女の子。黒髪ストレート、茶色の瞳で、色白の凄く可愛い子よ。」
「それ俺が行かなきゃ駄目なの?ミコが一緒に行けばいいだろ。」
「だめよ。」

 イチゴを摘んでるメーベルさんが男に囲まれてるところを、ウルフが助ける事でルートが発生する。でもウルフは全ルート攻略後しか出てこないから、現れないかもしれない。もしウルフに助けてもらえない場合、私ではメーベルさんを守りきれない可能性がある。だから、男であるキースに行ってもらわないと。

「キース、万が一の時はこれを。」

 私はテニスボールくらいの丸い物体をキースの掌に握らせた。

「私特製お手製催涙玉、塩胡椒玉、唐辛子玉よ!使う時は絶対風上で、逃げながら相手に投げつけて。」
「万が一って何だよ…。」
「ごちゃごちゃ言ってないで、行きなさい。可愛いメーベルさんのもとへ!!」

 私は思いっきりキースの背中を押した。

 ・・・・

「うわっ!」
「キャッ!」
「っゴメン!!大丈夫だったか?ちょっとミコに押されて…」
って、もういないし。どこ行ったんだ、ミコのやつ!!

「こ…こちらこそ申し訳ありません。」

 俺にぶつかった事でメーベルさんの顔が青くなった。貴族じゃない彼女からすれば、この学園で人にぶつかる事すら怖いのか。

「あの、メーベルさんですか?」
「はい…あの……」

 思いっきり引いてるぞ。

「俺と一緒に野イチゴ狩りに行きませんか?」
「……」

 まわりにいる生徒達がざわついている。
 俺、伯爵家の息子だし、そりゃこの子を誘えばそうなるよな。

「……私……教科書を買いに…行きますので……せっかくお誘い」
「それは、ミコが行ってくれてるよ。何か街に用事あるらしくて。そのついでに買ってくるって。」

 ギャラリーがヤバイぞ……。ここで誘うべきじゃなかった。俺がこんな下手に出てると、後からメーベルさんが『庶民のくせに生意気』…とか、馬鹿な奴らに言われないか?それは駄目だ。
 仕方ない…メーベルさん!ちょっと頑張ってくれ!!

「誘ってやってるんだ、断るなんて事しませんよね?庶民のお嬢様。」
「あ……申し訳ありません…お供させて頂きます!荷物持ちでも何でも、お申し付けください…!!」

 ……ゴメン、メーベルさん!
 けど、イチゴ摘みに行きたいんだ。ミコの頼みを断ると後々面倒だし。

「行くぞ。グズグズするな。」

 俺が歩き出すと、メーベルさんは小走りでついてきた。


 イチゴが沢山ある森は、俺とミコが見つけた穴場だ。滅多に人は来ないし、ここなら普通に話しかけても大丈夫だよな。

「メーベルさんゴメン。偉そうな態度とって。」
「えっ!?キース様、どうなさいましたか。私のようなものに、そんな……」
「イチゴを摘みに来たいからって、あまりにも酷かった。」

 ミコ…俺のメンタルずたずただぞ!!

「キース様は貴族ですから……それが当たり前です。」
「俺には当たり前じゃないんだよ。別に君は何一つ悪くないんだから。でも、皆が見てる前で俺が頭を下げてると、メーベルさんが後でもっと酷い目にあわされる可能性もあるだろ。そんなくだらない事で、虐めたりする奴は必ずいるから。」

 そう言うと、メーベルさんの目から涙がポロポロ溢れてきて、俺は焦った。

「何で泣いてんの!?」

 泣いているメーベルさんに、俺はどうしていいか解らなかった。

「…有り難うございます。」
「え?」

俺、礼を言われるような事したっけ……?よくわからん!!

「メーベルさん。とりあえず、イチゴ摘みましょう!!」

 イチゴを手に取ろうとした時、ガサガサと音が聞こえた。音のする方向を見ていると、森の奥から男が数人出て来た。

「こんなとこで何イチャイチャしてんだよ。」
「あれ、金持ちばっか通う学園の制服だぜ?」
「姉ちゃん可愛いなぁ、俺らも相手してくんねぇ?」

 …うわ…何だこいつら。1、2、3、4、5人も。たちの悪い奴らに囲まれたな。

 ガタガタと震えるメーベルさんを、俺は背に隠した。

 メーベルさんだけでも何とかしないと。けど俺は自慢じゃないが弱い!

「おい兄ちゃん、金と女おいていけ、ならお前は助けてやるよ…ヒヒヒ」

 キモっ!!
 そういえば、ミコが『万が一のために』って催涙玉を渡してきたな。まさかアイツ、こうなるの知ってたのか?いや、まぁ今はそんな事はどうでもいい。メーベルさんを逃がさないと!

 ここは風上、おあつらえ向き!

「メーベルさん、1、2、3で後ろにおもいっきり走って」

 メーベルさんにだけ聞こえるように、小さな声で言った。

「…はい……」
「いち、に、さん!!」

 ボン!!
 俺は特製催涙玉を男達に投げつけた。
 お手製だというから見くびっていたけど、その効果は絶大だった。

「うわぁぁぁ!!」
「目がぁぁ!!」

 5人とも転がり回って悶えていた。

「こっちだ!!早く!!」

 俺はメーベルさんの手を掴んで、その場を後にした。

 ミコ、帰ったら覚えとけよ!!
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