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身勝手

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「マオさん、何故?」

部屋に入ってきたマオさんに全く笑顔がない。

「気がつかれましたか。まぁ食しても大した毒性はありませんから、ちょっと腹が痛くなるだけ。」

私達の食事に毒見はいる。けど、その人は何もなっていない。
この毒に即効性なんてないし、ほんの少しなら…成人男性にきつくは効かない。

ガタガタン
「動くなっ」

部屋にいた護衛にマオさんは捕まった。最初から逃げる気がないのは見ていてわかる。

「…待って!!まだ連れていかないでっ!マオさん、私とセドリック様に言いたい事があるのでしょう?でなければ、貴方はこんな事はしないわ。」
「買い被りすぎ過ぎですよ。私はこういう男です。」
「…いいえ、違うわ。やろうと思えばいつでも出来た。なのに今日なのは理由があったはずよ!」
「……」
「マオさんっ!何でもいいの!いい事でも悪い事でも言ってっ!!」
「……貴女がここに帰って来たからです。」
「…?」

私が…?

「いや、エリザベス様を連れ戻したセドリック様が憎かった…と言うべきでした。」

「どういう事だ?」

「……自害した女性の邸で働いていた事がある。その時はまだ彼女は10にも満たない子だった。」

マオさんの知り合いだったの…

「誘拐事件、それはもう起きてしまった。どうにか出来る事じゃない。…けど、命を絶ってしまうとは思わなかった。16才の彼女が一体何をしたというのか…。」
「……」
「彼女が死んだ日、エリザベス様は俺と庭にいてハッキリ口にした。『警察なんて役立たずだ』と。気持ちよかったですよ。実際に誘拐されそうになった、そんな貴女が本音を言ってる。」

マオさんの前でそんな事を言ったのか、憶えていないわ。ただいつも思っていたし、今日だって思ってたから乗り込んだのよ。

「今日、『エリザベス様は警察に行って犯人探しの手伝いをするつもりだ』…とルネがセドリック様に言ってたのが聞こえた。誘拐されそうになっても、掌に深い傷をおっても、自分がやるんだと行動している。ただそれをセドリック様が連れ戻した。間抜けな警察より誰よりも犯人を追い詰められる人だと思ったのに。……まぁ、身勝手な話なんですけどね。」

「…マオさんを連れていかないで。ここにいてもらう事は出来なくても、何か罰をくだす事はしないで。」

「それは出来ません。」

ラッドさんにすました声で言われて私は我慢出来なかった。

「出来ないじゃなく、やるのよ。今ここにいる者が他言しなければ無かった事に出来るわ。」

「…出来ません。」

「そう、なら私も一緒に行かないとね。マオさん、行きましょう。」

私はマオさんのもとへ歩いた。

「リズっ!何を言ってるんだっ!!そんなのただの八つ当たりだろっ!」

セドリックが横を通りすぎようとする私の手を掴むけれど、私はそれを振り払った。

「庭で毒草を育てていたのは私よ。それに、のこのこ帰って来た私は馬鹿だったわ。結局囮にされているのだから、自分で動くか相手を待つかの違いだわ。」

「囮?」

「そういうのが解らないところが危機感がないのよ。ラッドさん、貴方は教えて貰ってたでしょう?私よりも王太子殿下に何かあれば大変だものね。…その顔、当たりね。王子が無事なら私は死んでもいいという事よ。」

私を囮にして犯人を捕まえたい。私が殺されるかもしれないのを黙認してる。それを囮からつっこまれれば、お得意のすましたポーカーフェイスも形無しね。

そうか、わかったわ。私に何故山ほど護衛をつけていたのか。犯人を生け捕りにしたいからだと思っていたけど違うのね。

「このまま襲われる事がなければ、そのうち私の護衛を減らすわよね。安全だと判断するからじゃない、そこからが囮ね。」
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