女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

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24. しゃるうぃだんす?

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 腹の底はどうであれ、表面上は和やかに歓談する人混みをレオナルド殿下にくっついて回る。

 いつもの私なら、入場後は精力的に一人で会場内を巡るのだが。公爵令嬢が夜会を1人で歩くなど少し見目が悪いが、将来の人脈作りのために、国の中枢の方々を見つけては意見交換をするのだ。
 しかし今日はレオナルド殿下の元を離れないと心に決めていた。

 腕に縋り付いたままの私を、殿下は始め不思議そうに見ていたが、無理に引き離すような無粋なことはしなかった。上品にそのままエスコートして、挨拶に来る参列者たちに気安く応じている。

「レオナルド殿下。ご挨拶申し上げます」

「ライオネル。それにキャサリン嬢も。今日はよく来てくれた」

 来た!

 華やかに着飾ったキャサリン嬢と、今日の彼女のエスコート役、お兄様のライオネル・ケージー様だ。
 キャサリン嬢がチラリと私を窺い見たが、私は澄ました顔でそれを軽くいなした。

「今晩は。良い夜ですわね、ライオネル様、キャサリン様」

 にっこりと、まるで見せつけるようにレオナルド殿下に寄り添って、私も2人に挨拶する。

 今日の私は、これ以上レオナルド殿下に多くの令嬢達を寄せ付けないために、それを邪魔する悪女なのだ!

 何としても殿下の『ハーレム』構築だけは阻止しなければと、考え抜いた上での苦肉の策だった。だが敵も負けじと、実力行使に出てきた。

「あの、レオナルド殿下。出来ましたら一曲、お相手いただけませんかしら?」

 キャサリン嬢が恥ずかしそうにそっと手を差し出して、殿下にダンスの相手を求めてくる。清楚な見た目に反して、結講肝は据わっているらしい。実際、女性から申し出ることはかなりの無作法なのだけど、逆に貴方に興味がありますよという分かりやすいサインになるので、男性にしたら鼻が高いことだった。

 我知らず、殿下の腕に掛けている私の手に力が入った。

「喜んで……」

 キャサリン嬢程の上位貴族の誘いを断ったら、彼女の恥になる。だからレオナルド殿下も心得ていて、彼女の手を取ったのだけど。

「……と言いたいのだけど、先の鍛錬の時に足を捻ってね。残念だが、今日はダンスが出来ないんだ。しかしどうか、キャサリン嬢には今夜の舞踏会を楽しんでいって欲しい。ナイジェル」

「はっ」

 いつの間にか後ろに控えていた側近の一人が前に進み出た。彼も先の変わったお茶会に参加していたうちの1人だ。
 レオナルド殿下はキャサリン嬢の手の甲に軽いキスを落とし、そのままナイジェルと呼ばれた青年にその白魚のような手を託した。

 ナイジェル様は優雅にお辞儀をして、改めてキャサリン嬢の返事を待つ。何故かその目が熱っぽく見えるのは、私の気のせいだろうか?

「キャサリン嬢、ぜひ私と踊っていただけますか?」

「……喜んで」

 少し不服そうに、それでも素直にダンスホールに進んでいく彼女の後ろ姿を、私はドキドキとしながら見送った。優雅に踊り出す2人に、何となくホッと胸を撫で下ろす。
 殿下が足を怪我しているなんて、私も全然知らなかった。もし本当なら、せめて私には入場前に教えてくれればいいのに。

 しばらくしてライオネル様の前からも辞し、2人して休憩の態で衛兵の陰に隠れる。すぐに給仕が飲み物を持って来てくれた。

「宜しかったのですか?」

 こっそりと囁いた。殿下が笑って私の顔を覗き込む。

「ダンスのことかい?」

「……皆さま、レオナルド殿下と踊れることを楽しみにされていますわ」

 これを機に殿下と懇意になりたいのだから当然だ。特に今は、王太子が結婚相手を探していることが広く知られている。候補に上がっていない令嬢達、それ以上に年頃の娘を持つ野心家の親達が、虎視眈々と未来の王妃の座を狙っていた。
 今もそういった視線が、私達の挙動を窺うようにじっとりと纏わり付いている。

「何というか……下手に噂になるわけにもいかないからね。一人と踊ると際限がなくなるだろう。幼少から鍛えているとはいえ、流石にそこまでの体力はないよ。だから昨日、足を挫いたんだ」

「……計画的に?」

「はは、ちゃんと鍛錬したよ?」

「……なら、足を挫くのも仕方ありませんわね」

 悪びれることもなくタネを明かすレオナルド殿下に、私も共犯者の笑みで返す。「それに……」と意味ありげに呟いて、殿下は私の耳に唇を寄せた。

「今日は可愛いが側に居てくれるのでね」

「な!」

 クスクスと悪戯っ子のように笑うレオナルド殿下に、じわじわと私の頬の温度が上がった。

 知らなかった。殿下って天性のタラシだったのね……

 これではハーレムを狙えるのも無理がないと、私は思い知った。
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