女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

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10. 異世界よいとこ、一度はおいで

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 私はずっと、疑問に思っていた。
 なぜいつも、私の魂は加奈子のいるこの世界に迷い込むのかと……

 その答えを今日、私は見出した気がする。

「きっと、この『げーむ』のせいなのね。『だーくまたー』的な、人の計り知れない力が作用し、次元の歪み? いえ、『げーむ』を媒体として並行世界を産み出した……もしくは『にゃんこ型機械仕掛け人形』が暗躍しているのか……さしずめ私のベッドは、『たいむましん』なのね……」

 うんたらかんたらーー
 つい難しい言葉を並べてみたが、ちょっとした現実逃避だ。

 画面の中では王妃様主催のお茶会が盛大に行われていた。いわゆる息子のためのお見合い会というやつだ。
 王太子の婚約者本命候補は先の3人だが、他にも幾人かの未婚の令嬢達が王宮の庭を彩っていた。まさしく、言葉通りの意味で色とりどりだった……

 青とか緑とか紫とかピンクとか、なんで人間の髪がそんなあり得ない色なのかしら……? この人たちの遺伝子どうなっているの?
 軽い目眩を覚えてしまう。

 私もカトレアと共にその場にいたが、出番はなんと、たったのワンショットだった。しかも、

「レオナルド殿下、温室の洋ランが見頃だそうですね。どうかカトレアを案内してくれませんか」

 血縁の気安さからか、厚かましくも王太子にお願いする私……

 いやいやいや、実際の私はそんなこと絶対言いませんからね! 今日の主役を会場から抜け出させるなんて、常識的に考えてあり得ないじゃないの!

「もちろん喜んで」

 しかもなぜ、そこで快諾するんです!? 殿下、自分がホストの自覚あります?

 加奈子がイエスを選択したにもかかわらず、憤慨せずにいられない。
 
 そうして二人は温室に向かったのだけどーー
 あのー……その一角には近寄らない方がいいと思いますよ。温室で花を交配させるため、わざと設置している蜂の巣がありますので。刺されますよ?

 優雅にカトレアをエスコートする殿下に、無駄なツッコミまで入れてしまう。

 大いに違和感のあるゲームは、それでも進んでいった。所々イベントも発生するが、何とも盛り上がりに欠ける。それもそのはず、加奈子が女目線で王子を動かしているからだ。

 女の子同士、みんな仲良く。

 誰かが手持ち無沙汰にしていたら、そちらに声をかけ、こっちが拗ねたら、こっちを宥め。ちょっと進展しそうな令嬢の前でも、視界に具合の悪そうな侍女が入れば、心配してその様子を窺いに行く。
 
 結果、行き着く先は『いい人』止まりのエンディングだった。交流を持った誰とも結婚に至らず、やがて国王と貴族院推薦の、どこかの令嬢と政略結婚したらしい。

 国民に愛された賢王として、堅実な治世を敷いたーー

 と、テロップが流れて、ゲームは振り出しに戻った。

「うーん。山なしオチなし、意味がなし……」

 恋愛の恋の字にもかすら無い終わり方に、加奈子は眉を顰めた。生粋のゲーマー、結構勝ち負けに拘る彼女は消化不良らしい。

「これは意地でも、誰か、対象を一人に絞った方がいいのかな……」

 そうしてスタートした第2ラウンド。
 加奈子は標的を、大本命のヒロイン、私の妹のカトレアに定めたらしい。

▶︎カトレアをお茶に誘う
▶︎カトレアと庭園を散歩する
▶︎アメリアに、カトレアの様子を聞く

 選ぶ選択肢は全てカトレア関連。加奈子が全力でカトレアを落としにかかっているので、完全に先程とは話が変わってしまった。

 二人だけのお茶会は勿論のこと、一緒に城下町に下りて買い物を楽しんだり、そこで小さなプレゼントを贈ることも忘れない。カトレアがお父様に会いに来城するという情報を仕入れれば、廊下の陰で待ち伏せしたりもした。

「もはやストーカーじゃん……」

 げんなりと、画面の中のレオナルド殿下に向かって加奈子が呟く。
 隣で私もウンウンと深く頷いた。殿下の見た目が良いからまだ許されるが、はっきり言って犯罪者一歩手前だ。

 成人前の少女に必死に言い寄る大人の男という、異様な光景が続いた後、数々の試練、イベントを経て、二人はようやく正式に婚約を交わすことになった。

 その婚約発表の舞踏会の夜ーー

 若い二人は暴走した。
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