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6. ピンクの子犬

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「ねえ、お姉様。このリボン、曲がってない? 大丈夫?」

 しきりに胸元の大きなリボンを弄りながら、不安そうに妹のカトレアが言う。

 柔らかなアプリコットブロンドの髪に、大きな澄んだ空色の瞳。まだ大人になり切る前のふっくらとした顔立ちは、まるで子犬みたいでたいへん愛らしい。
 今も迷い犬みたいに困ったように上目遣いに見つめてくるから、私の庇護欲は刺激されまくっていた。

「カトレア、そんなに触ってはダメよ。かえって歪んでしまうわ」

 言い聞かすように窘めて、少し傾いたリボンを直してやる。

 因みに私の髪色は、青みがかった地味なダークブロンドだ。瞳も緑がかった薄茶色ーー榛色をしており、まったくもって華やかさに欠ける。

 お父様の色味と似てるから、気に入ってはいるけれど。もう少し、明るい色だったら良かったのに……

 ちらりと目の前にいるお父様を見遣って、こっそりとため息を吐く。仕事人間のお父様は、私達の会話に入ることなく何かの報告書に目を通していた。

 今、私達親子三人は親戚の家に向かう途中だった。

「ほら、これで良いわ。ーーふふ、可愛いわね。今日のドレスの色、貴女の肌によく似合っている」

「でも子供っぽくすぎない? 私もお姉様みたいな、エンパイアスタイルのドレスが良かった……」

 カトレアはまだ13歳。頑張って背伸びをしたい年頃なのだろう、ちらりと自身のフワフワの甘めのドレスを見遣り、そして羨ましそうに、今度は私の落ち着いたペールラベンダー色のドレスを見つめた。

「お姉様はスタイルがいいから、どんなドレスも似合って良いわね」

 そう言って、カトレアは小さく口を尖らせた。自分のささやかな胸を見下ろし、残念そうに首を振る。確かに成長途中の華奢なカトレアが私の細身のドレスを着たら、まるで棒切れみたいで貧相だろう。

 でもねカトレア。実のところ、私がこの形のドレスを好んで着るのは、お洒落云々よりも楽だからよ。胸下に切り替えがあるから、コルセットでギュウギュウに身体を絞めなくていいからね。

 貴女ももう少し大きくなったら、思い知るようになるわ。今、貴女は成長期だからコルセットはしなくていいけど、あれは本当に拷問なんだから。
 だがそんな本音はおくびにも出さず、私は話を逸らした。

「あら、私はそのドレス、貴方にすごく似合っていて素敵だと思うけど。この前のお茶会でも、似たような形のドレスを着ていた時、皆様とても褒めて下さったじゃないの」

「……うん。それはそうなんだけど。それにね、おじい様、私にはピンクの色がよく似合うって。だから今日のドレスはこれにしたの」

 どうやら機嫌がなおったようだ。

 そんな風に和やかに妹と会話を楽しんでいると、馬車がガタンと停止した。ようやく目的の地に着いたらしい。
 お父様が手にしていた書類を片付け、先に馬車から降りていく。続いて私達姉妹も、お父様に手を貸してもらい外に出た。

「おじい様にお会いするの、久しぶり。お元気かしら」

 並んで歩きながらカトレアが呟く。出迎えに来た馴染みの執事に導かれ、館の応接室に案内された。

「あ!」

 開けられた扉の先に白髪の老紳士を見つけ、カトレアは子犬のように駆け寄った。

「おじい様ー、お会いしたかった!」

 その人こそ、先のラッセル国王、私たち姉妹の大叔父だった。
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