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今思えば唯一平和だった時期(文化祭編)
喰われるつもりは一切無いが。
しおりを挟む「しかし、器用なもんだなぁ」
「あはは、まぁね…」
無抵抗でオオカミだらけの軽音楽部に行きたくないため、出来ることはなんでもやる。それで負けたら仕方ない。腹を括る。喰われるつもりは一切無いが。
そう決意してから日中は練習、夜は対策を考え実行する毎日だった。
その中で閃いたのが、宗くんの手にあるこれだった。
「しかし、そこまで行く必要はあるのか?街で十分だろう」
「部長、甘いです。この街には既に我が管弦楽部ファンは多いと思います」
「確かに毎年講堂は満席、アンケートは地元民が多いな」
「つまり、そこでは新たな客層は見込めません。直前にこっちもあるよと言うだけで呼び込めると思います」
なら、未開の地での宣伝が手っ取り早い。
特に今回は対決というわかりやすい煽りもある。例え冷やかし目的であろうと、来てしまえばこっちのもんだ。
SNS等が普及してないのが本当に痛い…!
「────面白そうだ、やろう」
そんなやり取りの後、部長はいつの間にか駅前と公園での演奏許可をもぎ取ってきた。仕事早すぎだろ。
対決を煽ったチラシとポスターも数を用意し、置いてもらえる場所、貼ってもらえる場所に渡すつもりだ。
そして私たちは連休最終日にバスと電車で計2時間揺られた、県の中心地へと舞い降りた。
「わぁ、懐かしい…」
「え、姫愛来たことあるのか」
「あ!?うん、昔…」
「そかー、俺こっち全然わからねぇから、あとで案内してくれよ」
「はは、…わかった…」
ああああぶないあぶない。
ここは県や市の行政の中心地だけではなく、港町として発展し、時代の最先端として様々な施設が集まる。観光地としても人気で、国内外から色んな人が訪れるのだ。
作者インタビューや原作ではぼかされていたし、微妙な違いはあれど私が幼い頃から過ごしてきた地元とほぼ一致する。────まぁ、ここ数年で様変わりしてるからあるものがなかったり、ないものがあったりするんだけどさ。
私の大好きなゲームはここの国立ホールでよくイベントをするし(聖地です)、Prave!も今はないけれど、大きめのライブハウスでライブイベントをした事がある。大会を再現したセトリで私は泣いた。DVDで。過去に戻れるなら現地行きたい。何故あの頃お金がなかったバイトしろ!!
「さて、やるか」
思い出に浸ってたらみんな既に準備万端だった。
私も慌てて準備し、吊るされたポスターの近くにチラシをセットして手に取りやすくする。
柊崎先輩のキーボードの音に合わせ、調弦する。
その音に導かれるように、ぽつぽつと足を止める人がいるが、数は少ない。最初から上手くいくとは思ってませんよ。
ひとつ息を吐き、目で合図する。
「みなさん初めまして!聖櫻学院高校管弦楽部アンサンブルチームです!よろしければ1曲聴いてってくださーい!」
「すごいなぁ!本当に高校生か!?」
「カノンって聴きなれていたはずなのに華やかなアレンジに聴き入っちゃった!」
「兄ちゃんたち!もう1回!」
「アンコール!アンコール!」
曲が終わり礼をすると、数人だった観客が、数十人に膨れ上がっていた。初回にしては上々の結果だ。
「この後公園でも演奏します。よろしければ」
「7月の文化祭ではもう何曲か演奏しますよ~。是非来てくださいね」
人がまた人を呼び、用意していたチラシは底を尽きてしまった。
後で増刷しなければ…。
また、ポスター貼ってくれるとの申し出も数件あり、是非にとお願いした。
「とりあえず…こんだけあれば足りる?」
「うん、余れば次回に回してもいいし」
「モノクロになってしまったのが申し訳ないな…」
「仕方ないですよ。まさかあんなに捌けると思ってませんでしたし」
通り道のコンビニでチラシをコピーする。
カラーだとものすごい費用になるので全てモノクロ印刷だ。…いや、部長なら出せそうだが。一応部活でやってるから部費から出してるんですよ…。
目立たせるために濃淡はかなり出したからモノクロでもなんとかわかるデザインだった。ありがとう描いた頃の私。
「持つよ」
「えっいいですよ。私の仕事」
「女の子だろ、こんな重いもん持つなよ」
「…………ハイ…?」
すごい、柊崎先輩がメインキャラみたいなことしてる…。
こんな扱い慣れてなくてちょっとときめいてしまった。好みでないとはいえ、顔がいいのも困りもんだ……。
移動したはいいものの、時間が余ったのでひっそり練習してたら、その練習の音にすら人が集まってしまった。
その後予定通りのカノン、アンコールを断りきれなくて部長のシャコンヌ、私と柊崎先輩のヴァイオリンソナタ第3番、1年トリオでアンサンブル課題でやったチャルダッシュ等、時間オーバーして門限は危うかったが、とても充実した一日を送れたと思う。
……しかし、途中から女の子が多かったな。まぁ、あんだけ顔のいい人達が集まればそうなるよね…。
こうして私たちは、定期的に近隣の大きな街に行き、演奏を繰り返して宣伝していった。
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