30 / 33
閑話
北御門悟の初恋
しおりを挟む『ごめん、悟…げほっごほっ(>o<;))((;>o<) ゴホゴホ』
「いや、気にするな。長引かないよう養生しろ」
今日は春休みが終わる2日前。
軽音楽部も入学式翌日に行われる部活紹介に備え、今日から合わせようと計画していた。────いたのだが。
「あらー、ハル先輩大丈夫っすか?」
「心配、です…」
既に準備を終えた双子が俺を見る。
正直に言うと、まずいと思った。
音楽経験値は遥斗が飛び抜けている。当然だ、小学生の頃は神童と呼ばれる程の腕前を持つ天才ピアニストだったんだから。
しかし、それは事故によって失われた。
左手の自由と、免疫力。日常生活には差程影響ないが、こうした季節の変わり目に風邪は引きやすいし、適切にケアしないと長引く。
左手も、複雑な動きが出来なくなっていた。ピアニストにとっては致命傷だった。
それでも音楽を諦めきれてなさそうな遥斗を、俺は軽音楽部に誘った。
尊敬してやまない自慢の兄が立ち上げた、誇り高き軽音楽部。
────今は、色々言われているが、兄の功績を俺が潰す訳にはいかなかった。
なのに、だ。
このバンドの支えであり柱である遥斗がいない。
高校からの初心者な俺たち3人は、遥斗の作る曲と、彼自身の技術に頼りきっていた。もちろん練習はしているが、なかなか上達できないのだ。
その柱を無くしてみろ。崩壊一直線だ。
「来れないなら仕方ないっすよね。とりあえず始めましょ」
────そうだな。声は掠れていた。
合わせてみるも、やはり柱がない俺たちはバラバラだった。
ふたりも噛み合わないことはわかってるのに、どうすればいいかわからない状態だ。
俺に、もっと音楽的知識があれば───。
でも、なにも解決できない。
どうする、最低1人でも入部しなければ仮入部期間でこの部は終わる。
なんとか引き伸ばしてきたリミットは、規約の関係でここが限界だった。
本番、火事場の馬鹿力的なやつで、うまくいくように。
意味もない願掛けを、満月にした。
「わ、本当に会長がこんなチャラついた部にいるのかよ」
「特に大会も実績もないんだろう?なんのためにやっているんだか…」
そんな声が聞こえる。
みんな知らないんだ。バンドサウンドの凄さを。
初めて聴いた時の衝撃を。
でも、俺たちの今の実力じゃ、その衝撃を与えられない。
わかってる。
こんなこと、将来のためになるのか、と。
でも、この部を無くしたら
遥斗は?蒼空は?蒼海は?どうなる?
なにか、なにか言わないと────
そう焦れば焦る程言葉が出ない。口の中が乾いていく。
どうすれば、どうすれば────
「みんな、先輩たちが私たちのために練習してきてくださったんだよ。ちゃんと聴こうよ」
りん、と鈴のような声が響き渡った。
「あっ、ごめんなさい、真宮さん///」
「そっ、そうだよね!ごめんなさい////」
真宮──真宮姫愛。あの少女が。
金色に輝く髪に、ティアラのようなパールのカチューシャ。宝石の様に煌めく瞳の持ち主。
その瞳が、向けられる。
どくんっ
なんだ、なんだこれは。
先程の焦りと違い、どくどくと激しく打ち鳴らす。
熱が集まる。
こんな経験は初めてだ。一体どうしたんだ。
酷いほど跳ねる鼓動をなんとか押さえ付け、俺は声を出した。
あの瞬間、真宮姫愛に恋に落ちた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説



体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる