結婚相談所♡Honey Marriage

STEP1 ハジメマシテ

side A

「はぁっ、はる、かさん……っ」


名前を呼ぶだけで、声を、姿を思い出すだけで、心臓がどきどきする。







「アキラさん」


今はもう、その名前で呼ぶのは父しかいない。

彼女の口から紡ぎ出されるだけで、媚薬のように甘く響く。


先日行った、愛性診断を思い出す。
ただ、相手はスタッフさんじゃなくて、ハルカさんで。
たったそれだけで、熱を持ち、息が上がる。
いつか、このまま進めば、ハルカさんとセックスすることになるかもしれない。

その事実だけで、想像するだけで、何度目かわからない吐精をする。
最低だ、初対面の女性を、好ましいと想ってる女性を、オカズにするなんて。
でも、妄想も、手も止まらない。

ハルカさん、ハルカさん。

俺は、貴女がすきです。


会ったことある女優さんに負けないくらい可愛くて、
顔だけで判断しないでくれて、
拙い演技だったデビュー作を泣くほど褒めてくれて、
親との話を馬鹿にしないで聞いてくれて、
そんな貴女だから恋に落ちたんだ。





10年前、この仕事を続けるか悩んでいた時に、貰った宝物のファンレターを見る。
何度も見てるからもうしわくちゃで色褪せてるけど、捨てることなんて出来ない。

当時叩かれることがほとんどで、この舞台が終わったら地元に帰ろうと考えていた。
その中で届いた、たった一通の手紙。
真晴くんのファンという一文に体が固まった。一瞬、読むのを止めようかと思った。
でも、こうしてわざわざ書いてきてくれたものを、読まないわけにはいかなかった。どんな言葉も受け止める。覚悟を決めるため、深呼吸をした。

息が、止まった。
生で観ることが出来なかったことを酷く後悔した。
見た目が、声が、仕草が、呼吸が。自分が想像していた椎葉真晴だったと。
椎葉真晴を演じてくれてありがとうと。

「ハルカ」さんからの手紙は心に染み渡り、凍えていた心が、ほんのり暖まる気がした。

まだ、頑張ろう。
また、「ハルカ」さんに見て貰えるように。

名前は偶然だと思う。ありがちな名前だから。でも、同じ人だったら嬉しいな。
俺の初恋は名前しか知らない彼女だから。

いつかお礼を言いたい。
貴女のおかげでここまで来れたと。
この10年、貴女を支えにしてきたんだと。
手紙はこれっきり。だから、無理なのは承知の上だが────。






トリップ仕掛けていた思考を、プライベート用のスマホが引き戻す。
見ると、ハルカさんとSTEP2に進めるという通知が来た。
嬉しい、ほんとうに会えるんだ。

暫くは地方公演があるから会うのは難しいけれど、でも、確実に会える。
その事実が嬉しくて、俺はまた吐精した。


次のデートはどうしようか。
せっかくなら喜んで貰いたい。


「ね、ハルカさん。すき……」


画面の向こうなら言えるのに。

会えるまで何度も何度も見たプロフィール写真に、キスをした。
いつか、本物に出来る日が来ると信じて。