結婚相談所♡Honey Marriage

STEP0 Honey Marriage

きっかけは言葉という名の鋭利な刃物

「いつになったら出てくの？」


高校生になり、一人部屋が欲しいと言っていた一回り下の妹の言葉のナイフは、私の心臓を的確に突き刺した。










「ここがHoney Marriageハニー　マリッジ、通称ハニマリ…」


先日28を迎え、刻々と30へのカウントダウンが始まったある日。
仕事帰りに私は、ついに、結婚への最終手段となる相談所へと来ていた。

先日の妹の言葉もそうだが、前々から焦りはあった。
親や妹から子供(孫)の催促、長年共にいた幼なじみを皮切りに、同級生たちの結婚、職場のおばちゃんたちの心配そうな声…。
私は小さくなることしか出来なかった。
未成年の頃、1度だけ趣味繋がりでお付き合いはしたことあるが、遠距離な事もあり、結局自然消滅したのだ。以来そういった人はいない。純潔も守っている。

正直今の自分のままじゃ出会いは期待できない。なら、こういうのをしっかり使わないと！

まぁ、ここに来ることは躊躇いがあったけど、相席茶屋は正直怖いしタイミング次第だし、街コンはサクラや既婚者も参加してる上微妙って話を聞いた。それにシフト制だと土日開催がほとんどなため、参加自体も難しい…。
アプリはメッセのやり取りだけでとんでもない金額飛ぶみたいだし、プロフィール詐称も普通にあるんだとか。
そうなると、安心尚且つ確実に探すにはここしかない。
入会は対面のみだし、本人確認だけでなく独身証明書や収入証明の提出が義務付けられているし、写真もしっかり対面したスタッフが確認。
更には性格面などのプロフィールはスタッフが客観的に書いてくれるので、ギャップが少ない。
ちなみにこれは他の結婚相談所の無料相談で聞いた話である。
そこは初期費用が私の給料2ヶ月分飛ぶ上に、月会費も10万、お相手が見つかって卒業となると成婚料と言って各5万もとるんだとか。無理。


そこで見つけたのがこの結婚相談所「Honey Marriage」である。

入会金は3万、月会費も1万5000円とお高めに感じるが、他の結婚相談所と比べると格段に安い。安すぎる。
ちなみにこれ以外の費用は基本かからない。
大丈夫なのか本当に。
更にはこの相談所のみのサービス"愛性診断"なるものがあるらしい。
詳しくは載ってなかったが、なんでも異性目線で見た、自分の魅力なんかを見つけてくれ、その上愛性ピッタリの男性を紹介してくれるらしい。

そのお陰か、他所と比べると成婚率は少し劣るものの、その後の離婚率は圧倒的に低い。
短期間で知り合い、結婚してもすれ違いやギャップが少なく、長く続くという証拠だ。
できれば結婚は1回がいい。死別とかで再婚とかはあるかもだが、なるべくなら1回だけにしたい。
なら、ここがいいんじゃないかと考え、私はハニマリの門を叩いた。






「担当コンシェルジュの結城衣莉ゆうきいまりと申します」


「あ、久水遥歌ひさみはるかです、よろしくお願いします…」


出された名刺を受け取る。
見れば同い年くらいの可愛らしい女性だ。
担当コンシェルジュと言っていた。今後もこの人なのだろうか…。


「無料相談にお越しくださり、ありがとうございます。当社のサービスについてはご存知ですか？」


「あ、はい。サイトでさらっと読んだ程度ですが…」


「ありがとうございます。では、おさらいがてら説明しますね！」


ミニパンフを開き、登録したらの流れを聞く。この辺はサイトで見たな。


登録完了したら、月に1度担当コンシェルジュから双方の条件が合う、尚且つ愛性のいい男性を6名紹介される。
その中で会いたいと思ったらコンタクトを、お断りする場合はスルーを選択する。
互いにコンタクトを選べば、自動スケジューリングシステムで顔合わせ日程を確定させる。

また、紹介以外にも検索システムで条件・愛性が合う人がいれば私からアプローチ出来るし、逆もある。
この検索システムはハニマリ登録者だけでなく、提携先の他の相談所の会員も閲覧出来るが、独自サービスである愛性や、その他細かい条件に関してはわからないことを承知してくださいとのことだった。
つまり、あんなたっかい会員費を払わなくても、その相談所の登録者を選ぶことが出来るのだ。
だったら益々ここでええやん。


互いにコンタクトを選び、顔合わせの日程が決まったらSTEP1へ進む。

STEP1は、カフェやレストランでお茶をしながら雑談をし、互いの理解を深めるのがこのステップの目的だ。
画面越しでの情報だけでなく、実際に会ってみての印象や話し方なんかを見て、次に進むかを決める。
もちろんイメージと合わなければお断りも可能だ。

STEP2では、半日ないしは1日デートをすることにより、互いの仲を深める目的がある。
この段階では恋人ではなく友人としてのお付き合いとなるので、過度な接触は禁止、友人として扱うようにと注意があった。

そして、だいたい4回目あたりでSTEP3である愛性確認に入る。
お互いに結婚を前提にお付き合いをしたいとなったら進むステップ。
愛性診断はあくまで数値上の話。いくらこちらが数字が良くても、実際に合わせてみなきゃ本当に良いのかわからない。
ので、このステップで本当に愛性良いのか確かめるのだ。
他所登録の方も、数値化はされてないが、愛性確認は双方の同意があればした方がいいとのこと。確かにそうだわね。どうするかはわからんけど。

ちなみにここまでは複数人と同時進行が可能だ。月1のコンシェルジュからの紹介も継続される。


そして、デートも良い、愛性も良い。結婚を前提にお付き合いする！となったら、真剣交際へと進むSTEP4だ。
たった1人、一途にお付き合いをし、互いに愛を深める期間。
ここからは本格的に当人同士にお任せし、最低限必要なフォロー以外はコンシェルジュらは関わらない段階。
もちろん恋人となったことでイメージと違うからと断ることも出来るし、STEP3の段階でもうこの人しかいない！となればそのまま卒業も出来る。

そして、もうフォローもいらない。2人で頑張れる、となった時に卒業となるSTEP5へと進む。
ハニマリは結婚式関連の事業や、結婚後のフォローもやってるので、そのままお世話になることが多いそう。保険相談は助かる…。



その他、規約関係なんかも簡単に説明され、ふむふむと納得し、諸々の手続きへと移った。
てきぱきと準備されていくのを見て、ついに入会してしまった…とどこか他人事のように思ってしまった。

その他、役所で取ってくる独身証明書等用意する書類の説明と、提出する日程、プロフィール用の写真撮影、そして同じ日に行う愛性診断についての簡単な説明が終わったところで雑談タイムへと入る。
ここへ来た経緯なんかはわかりみが深い…！と涙ながらに頷いてくれた。


「ちなみに、条件どうします？」


「条件、そうですね…」


ううむ、と頭を悩ませる。正直、よりどりみどりなんて出来る顔でも歳でもない。あまり高望みせず、隣でにっこりとしてくれる人がいいなぁ…。


「まずは…年齢はどうでしょうか」


「あんまり上すぎるとアレですよね…上限38で！」


「お、結構上ですねぇ。何故です？」


「年上、好きなんです」


「ほほぉ？それは長女故の甘えたい欲求ですか？」


「さすが結城さん、よくお分かりで。それもなんですが、ゲームとかで好きになるキャラ、大抵年上なんですよ」


順番で言えばだいたい3番か4番目あたり。
1番はメインの俺様か王子様系、2番は1番のライバルでクール系が多い乙女ゲー界。
そうなると、だいたい3番に年上の裏リーダーというか、まとめ役というか、そういうタイプが来ることが多い。
ちなみに4番は年下の甘えたがりショタ系、5番はミステリアスなり不思議ちゃんなりが来て、6番は隠しキャラで重い過去を背負ってたりするのが定石だと思う。もちろん全てが当てはまる訳では無い。


「ものすごくなるほどと頷いてしまいました…私は4番目のイメカラピンクが良いですね…」


「ショタ系、お好きなのですね…最近良さがわかるようになりました…私の場合イメカラは大抵緑、オレンジ、紫です」


私の場合、イメカラは女の子にも当てはまる。
例えば某スクールアイドルだと、お米大好きな子や、和菓子屋の娘、シャイニー☆な理事長なんかがそうだ。わかりやすいな！
ちなみに男性だと某アイドルでは2とか3とか5の正に成人組(他グループだと8と100と巳が好き)だったり、明るい性格の先輩トランペッターだったり、地の白虎だったりがいい例だと思う。


「ほうほう、他には」


「あとは────メガネ」


「メガネ！！いいですね！！フチなし？黒縁？」


「伊っ達メガネーズ！じゃなくて。こう、限定的な場面でのメガネにときめくんですよ」


「限定的な場面…？例えば」


「普段はコンタクトだけど、オフの時だけメガネとか、普段は裸眼だけど、本を読む時だけメガネとか」


「ま、マニアック～！でも理解できます」


「結城さん大好きです」


思わずがっしり握手してしまった。
やばいやばいと慌てて2人で消毒する。
一応感染はしてないはずだが、万一があっては困るからね…。


「外見は良いとして…内面はどうです？年上以外で」


「やっぱり価値観じゃないですかね？一緒に生活するならば絶対条件だと思います」


「あー、金銭感覚とかそうですよねぇ。わかります」


「あと、趣味に理解を示してくれる──可能なら付き合ってくれると嬉しいです」


私の趣味である野球や漫画、アニメなどは今でこそ広く受け入れてもらえているが、昔はなかなか受け入れてくれなかった。
女の子が野球なんておかしい。アニメや漫画みたいな子供向けのやつ、未だにやってるの？
大好きなのに、それが恥ずかしいことみたく言われるのが嫌で、一時は隠していたこともある。
そういう人は稀だと思うが、いないことはない。


「久水さん…。わかりました、気を付けます。他にはどうですか？年収とか」


「私より稼げてたらなんの文句も言いませんよ！倍あったら満足です！」


「欲がないっ！久水さんと同年代男性の平均は400万程と言われてるので、そのくらいにしときますね！」


「くっ…！」


でもそれくらい稼げる人なら生活に困らないかもしれない。
ありがとう結城さん。
他、タバコは絶対NGなこと、初婚であること、子供いない人であることなどを絶対条件とし、相手の話から私の話へと切り替わった。


長女、という話から次々と広がっていき、私でも初めて気付くような自分が現れたりした。
言われてみれば、相談とかあまりしないな、とかね。自分で決めたら周りに何言われてもやり遂げちゃったり。
長女で、押し込めること、他者を優先させることが多くて、それが正しいんだと思い込んでる。言われなければ自分じゃわからなかった部分だ。今度なんか機会あったら使ってみよ。


夕方頃から話し始めたはずなのに、あまりにも盛り上がってしまい本来2時間程度の席が倍近い3時間半もかかってしまっていた。
もうすっかり空が暗い。

貰った資料を読みながら、素敵なお相手に恵まれたらいいな、なんてちょっと乙女チックな願いを星に馳せたのだった。