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23.世界は廻りはじめる
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「其方には最初から辛い世界だっただろう。本当に済まないと思っている」
四阿に一歩足を踏み入れた瞬間、陛下と王妃に頭を下げられ僕はピシリと固まってしまった。いくら日本育ちと言えど、元はこの世界の人間で王族の人間の立ち位置やマナーや尊厳、尊いものだという知識は持ち得ている。
そんなこの国の重鎮の方々の謝罪に一般市民である僕はどうしたらいいのか。平服した方がいいのかな。
ルウォンに引かれるまま四阿に来てしまったが、一旦この段差を下がり膝を折った方がいいのか。それとも地に着けた方がいいのか。
しゃがもうにもルウォンに引かれた手が邪魔をするし、下がろうにも手は外れない。どうしたものかと当たりを見渡すが、助けとなる人は皆無だ。綺麗に人払いがされている。
「ここは我々と君しかいない。私たちも心づもりをしているから、遠慮は要らないよ」
陛下がそうおっしゃる。
これは遠慮などという簡単なものではないと思うのだけれど、済まなそうにする彼らに前世での傲慢さは感じない。だったらこの際、気になる点をすべて訪ねてスッキリとサッパリとした方が今後の為になるのではないかと悟った。
「ドゥエヴァルディン陛下、並びにガディサリィン王妃陛下、お初に…二度目ではございますが…。その…彼女が成りすましだとどの時点でお気付きになったのですか?」
シシェルが言うには序盤も序盤だった気がする。
僕は前世のこともあって速攻あの忌まわしい場所から逃げたい一心だったけれど、人類の叡智を深めた選ばれし尊い血族である彼らは俯瞰から違うものが見えていたのだろう。これが“二周目”の影響であることは理解はしているが、その詳細が判らない。
「そうさな。ユエ殿はこの世界に召喚されるということをご存じであったかな?」
「いえ、全く」
この世界と離れることができて済々としていたくらいだ。
今世での両親もなかなかの無関心であったが、害はない。
「そう。こちらからお触れを出して、反応が返ってくるものではない。しかし、かの少女はこれでもかとめかしこんでおった。おかしいとは思わんか? この世界のドレスを着、この世界の化粧を施され、嬉々としてこの世界に馴染む」
あー…。
そういえば、あの子は盛大に盛ってあった。ピンク色のフリルたっぷりのドレスに、ガッツリとメイクが施されていた。
「召喚の儀で召喚できるのは一人まで。それは召喚する魔術師の命を削ぐ故だ。なのに、召喚された救世主は二人。この時点で、我々はなにか謀が行われていると考えなければならなかった」
「だから、僕はあの場から離されたわけですか」
「そうだ。少女がユエ殿と一緒になるのは不味い。この召喚の儀の黒幕もその時点で判ってはいたのだがね。如何せんその恰好で召喚されたのならすんなりと事が進んだと思うのだが、これも精霊のお導きなのだろうな」
精霊たちは僕が居心地よく過ごせる為にいろいろと尽力をしてくれたようで、ゾンビの衣装でこの世界にやってきたのも僕が城から出れるようセッティングをしてくれたらしい。精霊は喋らないので雰囲気で察するしかないが、凡そ合っているっぽい。僕より、王族の方々の方が精霊の心を察するのがうまい。
「精霊は本当に貴方のことがお好きなのね。この四阿はお花に囲まれて元々綺麗な場所だったのに、今日は花たちがキラキラと輝いて、例えようがないくらい美しいわ」
この王城のあちらこちらから妖精が挨拶をしにやってくるから、それの効果がでているのだろう。
恐れ多いことに王妃陛下自ら淹れてくれたお茶を手渡され、和やかにそう口にした王妃陛下は目を細めその景色を堪能しているようだった。
両陛下に挟まれるように腰かけ、後ろにはニコニコとルウォンが控えている。
「黒幕がすぐに判ったって…どうしてですか?」
シシェルもそうだが、王族の人たちは一つから十も百も理解するのだろうか。慧眼を超えた凄まじい力を感じてしまう。
「君には済まないことだが、あの召喚の儀で君は明らかに“異質なモノ”だった。騎士達が君を排除しようとするのは自然の流れでもあった。救世主であると思われる少女になにかあっては折角の召喚が台無しになってしまう。それなのに、ドアモール卿は待ったをかけた。あの焦りようはなにかあると我々に勘づかせる程だった」
それで僕を殺されちゃいけない何かがあるのだと踏んだのだろう。
王族の慧眼と精霊の過保護が混じりに混ざって、あのカオスな空間が出来上がったとなる。精霊の方が一枚上手だったということかな。だって僕はまんまとあの場所から逃げおおせることができたのだから。まさかシシェルが僕を追いかけてくるなんて思わなかったけど。
「すぐに君を保護するよう後を追ったのだが、あと一歩の差だった」
「足が速くてらっしゃるから、ウチでは貴方に追いつける人がいなかったの。あの時のシシェルの項垂れ方は面白いくらいだったのよ」
王妃陛下が口元を抑えてコロコロと鈴のような声で笑う。
直系の王族は橙色の髪と黄金の瞳を持っていることが多い。陛下とシシェル、ルウォンも勿論その色を持っているが王妃陛下は栗色の巻き髪に碧眼だ。こちらはこの国特有の色で、第二殿下が同じ色を持っていた筈だ。
このとんでもない美形の親があって、美形の子供が生まれたのか。そんな美形の項垂れる姿、見てみたかった。
「ユエ殿には今後、精霊達を目覚めさせる為に各地を巡ってほしいのだが、要望等あるだろうか? 出来る限り君の負担にならないよう進めるつもりだが」
「あ、俺ユエの護衛に着いて行きたいです! 兄様ばかりユエと一緒に居てずるいよね!」
「勿論、この旅も俺と行くに決まっているだろう」
「あ、シシェル様」
騎士服姿のシシェルがこちらに凄い速さでやって来た。すぐに用意できる服があれだったのだろう。冒険者の服も正装もとても素敵だが、騎士服もピッシリしていて恰好が良い。
「求婚を受け入れてもらえたのだ。婚前旅行として各地を巡ろうと思っている。ルウォンに邪魔されてたまるものか」
「いつの間に! 本格的に兄様ずるい!!」
「あらあら」
シシェルが現れた辺りからお茶会はとても騒々しいものに変わってしまった。
僕を挟んで王子二人が喧嘩を始め、それを興味深そうに両陛下が観察をするように見ている。
次第にルウォンとの喧嘩がヒートアップして、それに焦れたシシェルが僕の脇に手を差し入れて持ち上げてきた。運ばれ慣れた僕はと言えば、色々ありすぎて疲れてしまったというのが本音だ。彼らと違い、今世での僕は一般庶民である。察しもそこまで良くなければ人の感情に機敏でもない。こればかりはチートが効かなかった。
「ユエ、公爵領を継ぐ前に色々な場所を一緒に巡ろう。お前とならきっと楽しい旅行になるだろうな。旅から帰ったら、婚儀を盛大に行おう!」
重さなんて感じない力強さでクルリと周り、そのまま抱きしめられシシェルにキスをされた。
背後で両陛下がおぉっ! と声を出していて、ルウォンが叫び声を上げているのを聞きながら僕は幸せだなって、思わず嬉しくなってふふ、と笑ってしまった。
僕の感情に釣られたのかあちらこちらから精霊がやってきて、目出度い瞬間であるのを感じ取ったらしい、大盤振る舞いでその力を奮っていた。
この時、空を見上げた人達はこの世界の奇跡だと歓喜したという。
空一面に七色の虹が幾重にも掛かり、花弁が舞い散りその花びらを巻き上げ一陣の風が颯爽と吹いた。
「きれい…」
大好きな人と見ることの出来たその光景を僕は一生忘れないだろう。
今世の僕の物語はまだまだ続いている。
たくさんの幸せを抱えて。
<end>
―――――――++++**
ここまでお付き合いありがとうございます。
物語はあと一話(伏線回収回)で終わりますが、こちらはまだ書き終えていない為、後日載せます。
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