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年下にあやされて、その不甲斐なさに頭を下げたら「お相子」だと笑われた。そんなルウォンに救われ、僕は調子が悪いと与えられた自室に戻った。これで暫くは放っておいてくれるだろう。
靴はそのままに、今度は部屋の窓から魔法を使い屋根に登った。勿論、存在は消して。
屋根に上がれば、東の方角に一際立派なお城が見える。あそこが王城で間違いないだろう。
「風生来(フアトル)」
ふわりと身体が浮き、跳躍をつけて空を飛ぶ。
僕が移動すると精霊は目を覚ますが、仕方ない。一応、救世主と呼ばれる少女が居るのだから問題はないだろう。この世界に来た時も王城だったから、あそこの妖精は目を覚ましている。
そして王城に辿りついて、あることに気付いた。
一箇所だけ、精霊が存在しない場所があった。
空からみて漸く判る程度の違和感だ。
精霊は世界中のあちこちに存在していて、至る所で眠りについている。自然と一体化しているので当たり前だ。目覚めた精霊はその土地に加護を与えるので、その場所はキラキラと輝いている。なのに、その一角だけ淀んでいる。
「なんだ?」
陽の辺りが悪いというわけじゃない。そこにだけ、精霊が寄り付いていないのだ。
そっと外からその窓を見れば、中に見知った顔を見つけた。
シシェルだ…。
ソワリと心がざわついたが、なんとか落ち着かせ様子を窺っていると部屋にはもう一人居たようで声が聞こえてきた。
「ルウォンはどこに行ったの? アタシ、ルウォンとご飯食べるって言ったでしょ?」
感情むき出しの高い声が部屋に響く。
「ルウォンは公務に出掛けており、王城にはいません」
「まぁ! アタシとの約束を破るなんて! この国がどうなってもいいっていうの?」
「その代わり、私が昼夜お供する予定です」
シシェルの平たんな声がそう口にする。
…夜も?
そんな事は聞いていない。
だって、夜はずっと一緒に食事をしていたし…。そう考えて、自分の思考が今まさに壁を一つ隔てた少女と同じことに気付いた。
「あら、だったらいいわ! シシェルがアタシに付いてくれるのね!」
ご機嫌な声が聞こえる。窓から見える後姿からもそれが窺い知れる。
僕はもうそこに居られなくて、慌ててシシェルの離宮に戻った。
僕は、あの子と一緒だ。
シシェルに頼りきりで、傲慢になってしまっている。
それが当たり前だと、いつでも手の届くものだと、錯覚をしていた。
その自分の感情にゾッとして、気分が悪くなりそのままベッドに入った。
ここに居ちゃいけない。
僕は平民で、彼は王族の人間だ。半年の期限でここにいるけど、それが終わったら僕はノアトルに戻り、シシェルから離れる人間だ。
目の前がグルグルと回り、冷や汗が額に浮かぶ。
僕の周りで妖精が動き回ってなにか伝えてくるが、僕にはそれを汲み取ることが出来ない。
すると、ノックの音が聞こえて小さく返事をしたら見覚えのない侍女が入ってきた。今日入った人だろう。
「ご気分が優れないとのことでしたので、ハーブティーをお持ちいたしました」
「ありがとうございます」
軽くお礼をいい、一口それをもらった所で意識が途切れてしまった。
とても気分が悪く、世界がグルグルと回っている。
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