婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135

文字の大きさ
上 下
17 / 24

16.忙しいシシェル

しおりを挟む


*16.忙しいシシェル



 他の王族に比べればシシェルの離宮は二階建ての館という言葉がピッタリくる規模で、エントランスが大きくて、シンメトリーになっている。
 一階は食堂と使用人の部屋があって、広間が一つある。風呂場も一階に設置されている。
 二階はシシェルの部屋と執務室、そして僕が寝泊りしている客間があって洗面所があるくらいでとても簡素な造りになっている。
 シシェル自身、この離宮にやってくることも最近は少なくなっていて、管理のみなので使用人の人数もごらんの通りといった具合だ。
 僕は自分の世話くらい出来るので問題がないのだけど、シシェルがあれこれと世話をやいてくるから困りものだ。
 朝からシシェル自ら僕に給仕という名の給餌を始め、身支度を整えられる。どこに行くわけではないのに、シシェルが用意した衣装に身を包む。
 変わったのは、靴くらいだろうか。
 ここにやってきてから、ブーツを履いていた僕の足は布製の柔らかい室内履きに変えられた。履き心地は軽くてとても気に入っているけど、これは外に出るなってことなのかな。

 一日目は僕に付きっ切りだったシシェルだったが、二日目から朝と晩にここにやってくるが昼から夕方にかけてお城に用事があるらしく出掛けて、少し疲れた雰囲気で夕方を少ししてから戻ってくる。
 シェトリーズにさり気なく聞いてはみたが、上手くかわされ答えが聞けなかった。
 忙しいのなら、僕の世話を焼かずにゆっくりと過ごせばいいのに、シシェルの歓待振りは日に日に増している。
 初日に交わした約束を律儀に守っているのかな。それが申し訳なくて、シシェルが帰ってくる前にエントランスで出迎えをするようになった。

「おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

 今日はシシェルの書斎に篭って本を読んでいたらついつい熱中してしまい、お迎えの時間を忘れてしまって、シェトリーズに呼ばれ慌てて階下に下りてきた所にシシェルが帰ってきてしまった。
 パタパタと階段を下りて、シシェルのところまで小走りで向かうと両手を広げたシシェルがいて、これはあれか、ハグ待ちなのかな? と理解して、その広い胸板に誘われるようこちらからも両手を広げたら存外強い力で抱きしめられた。

「本当にかわいいな」

 ぎゅっぎゅっと抱きしめられて、頬に幾つかキスをされて漸く開放された。
 開放されたといっても抱きしめる手はそのままで、食堂に運ばれる。ひょいっと持たれ、食堂の椅子におろされる。
 夕食もシシェルの手によって食べさせられる。拒否しても給餌する手は止まらず疲労が溜まるだけなので、シシェルの好きにしている。僕の手はナイフもフォークも持たず、パンを千切っているだけだ。

「ユエ、まだ食べられるか?」

「…もうちょっとなら」

 自分も食べながら、僕の胃袋に配慮して食べさせてくれる。
 お返しにパンを千切ってシシェルの口元に持っていけば、普通に口を開いて食べてくれる。それが嬉しいことに気づいた。だからシシェルも僕に食べさせてくれるのかな。

 今日も一人で風呂に入って、出てくる頃にはもう一つある簡易のシャワー室でささっと汗を流してきたシシェルに持ち運ばれる。

「今日からマッサージはいいって! 貴方も疲れてるでしょ?」

「これは私の息抜きというよりは、一日のご褒美だ。さぁ、横になれ」

「ちょっと…服脱がさないでっ…待てって…!」

 シシェルの力は強く、僕なんて彼の行動一つまともに止めることが出来ない。
 今日は断固としてマッサージを止めてもらい、シシェルにゆっくりと寝てほしいのに中々言うことを聞いてくれない。

「こんなのがご褒美になるわけないって…って、力強いなぁ!」

 ベッドの上で覆いかぶさられ、服を脱がされる。知らない人が見たらギョッとするに違いない。
 嫌だと拒絶しているのに、シシェルの表情は嬉々としており、彼がこの状況を楽しんでいるのは明白だ。

 このやろ…。

 僕だってシシェルに対抗する術があるってことを忘れているんだろうな。
 服を死守していた両手を離し、シシェルの首に腕をかけてぐいっと引っ張ると、油断をしていたシシェルが此方に倒れてくる。

「しまっ…」

 僕が以前やったのを思い出したのだろう、珍しく焦ったシシェルの声が聞こえたがここで逡巡したら逃げられてしまう。
 シシェルの額にキスをして、たっぷりと加護を与えた。
 僕の上に乗っていたシシェルがそのまま落ちてきて、その重さにベッドの上でのた打ち回ったが眠りに付いた彼が起きることはなかった。
 乱れた服を整えて、シシェルの隣に寝転ぶ。
 宿屋では一緒の寝室で寝ていたし、野宿では至近距離に寝袋を敷いていたのでこれも構やしないだろうと思い、かけ布団を被って僕も寝た。
 
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...