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04.第三王子とユエ
しおりを挟む04.第三王子とユエ
ユエ(19)
+++妖精の加護を受ける者+++
Lv.221
属性:加護を受けた妖精による
加護を与えた妖精:
風の精霊・花の精霊・火の精霊・地の精霊・次元の精霊・神聖の精霊・水の精霊・木の精霊・泉の精霊*new
スキル:
付加魔法(∞)
妖精の加護
楽観者
二度目
知る者
癒す者
攻撃力:99999
体力:241/500
魔力:99999/99999
精神力:999/999
精霊加護:∞
****
朝一で依頼を二つ程こなしステータス画面を見る。
今日はノアトルの西にある大きな森の採取依頼を受けた。その際、泉の精霊に加護を受けたが、特に変わりはない。
体力が目に見えて減るのは僕に筋力がないからだろう。
そして、その他に減りは見られない。
これが人生二度目、経験値引継ぎってやつの恩恵か。
体力にさえ気をつけていれば問題なくぼっち冒険者としてやっていける。
体力にしても回復魔法が使えるのでその都度回復していけば全く問題がない。
この人生なめプぶりのチート具合がどうなのって感じだが、前世の僕は命削って頑張ったからこのステータスで満足している。誰にも褒められなかったけど、精霊は見ているんだね。
嬉しくなって思わず山の麓でスキップしそうになって、精霊がいつになく慌てふためいていることに気付いた。
精霊は基本、僕の不利になることはしない。
そんな彼らが僕の袖を引いている。
なにがあったんだ?
山の麓を目を細めてみる。
一つの黒い影があって、それがどんどん此方に近づいてくる。
精霊が僕の周りを飛び回り、何事かを告げるが僕は目の前の人物に気取られてそれ所じゃなかった。
影は近づき、僕にその詳細を伝える。
彼は、彼の国の第三王子殿下だった。
「目を覚ました精霊の姿を追い、ノアトルまでやって来た。お前は…姿こそ違うが、あの召喚の場に居た者か?」
厳かに第三殿下は口を開いた。
前世と違って長かった髪は短いけれど、変わらない橙色の髪が陽を浴び輝いて、王家の血筋のみに引き継がれる金色の瞳はどんな宝石よりも瞬いている。
そして、第三殿下が二度に渡りあの少女を選んだ事を思い出す。
自分ではない。
彼が目に移しているのは、自分なんかではないのだ。
この世界に呼ばれ冒険者としてそれなりの場数を踏んだ僕はあの少女のような可憐さは一切ない。華奢でも、目を見張るような美貌も何一つとして持ち合わせていない。
僕はただのゾンビに過ぎない。
「人間違いでしょう」
どうして第三殿下がここにいるのか判らないが、僕はもう関係ない。
ここで冒険者として生きて、骨を埋める覚悟だ。
どちらの世界共に両親には恵まれなかったけど、人間関係には恵まれていると思っている。
ニッコリと笑い、第三殿下の傍をすり抜け街に向かう道を下る。
今日はさっさとギルドに報告して宿に戻ってしまおう。
足早に道を歩くが、後ろから続く足音に眉根を寄せる。
(付いて来てる)
付いてくるなんて生易しいものじゃない。隣に並び歩き、頭半分は低い俺の顔を覗くために上半身を屈めジロジロと見られる。露骨過ぎる。
「あの時はどうやってあの姿になっていたんだ? 髪も墨色で綺麗だ。瞳はあの時と同じ灰色か。肌の色も透けるように白い。身体が緑色に染まるなど、面妖な」
「むぐっ!」
片手で頬を掴まれ第三殿下の方に強制的に向かされる。
完全な無視という形でいたのに手を出されたら無視なんてできない。
「やめろ!」
顔を掴んでいた手を払い足早にギルドに向かう。けど、後ろの気配はずっと付いてくる。
「お前、私を知らない風ではない。あの時の格好はともかく、お前は何か知っているんだろう? 精霊に加護されているということは、救世主とはお前のこと。どうして逃げるんだ?」
第三殿下から“救世主”という言葉が出てきたところで僕はダッシュをきめた。
風の精霊の加護を使い第三殿下が追ってくることが出来ない速さで街の入り口の門番に身分を証明してそのままギルドへ駆け込んで依頼が達成できたことを伝え、報酬を受け取る。
無駄な寄り道をすることなく宿屋に帰り、夕食の時間まで部屋に閉じこもっておこうと食堂から上に上がる階段に足をかけた所で女将さんに名前を呼ばれた。
「ユエ! あんたの友達を部屋に案内しておいたよ!」
「…は?」
は?!
そのセリフに僕はポカンとマヌケな顔を晒し、我に返り、二階にある借りている部屋へと一目散に駆けた。
階段を上がり一番奥の東側の部屋が僕の部屋だ。
二階は一人部屋が5つあり、共同のバス・トイレと洗面所が西側に置かれている。三階は二人部屋が三部屋あって、そこは各部屋ごとにバス・トイレ、洗面台が設置されている。
この国の建物は基本、石造りだがこの街では木も見目良く使われている。窓の縁だったり、バルコニーだったりデザインはカントリー系でとても可愛い。女将さんの趣向がこれというほど建物に現れている。
アンティークドアばりの使い込まれた扉を開けて、八畳程の小部屋に置かれたベッド脇の椅子に腰掛ける第三殿下を確認して気の遠くなる思いがした。
「なんで、ここに居るんですか!」
「なに。門番に聞いたところ、お前がここに宿泊していると聞いて、待ち伏せしてみた」
数ヶ月ここで冒険者として顔も知られている。直前に門を通ったから僕のことを聞くのも容易かっただろう。
ふふんとしてやったりの第三殿下のイケメンが憎い。
「お引取り願えますか」
扉の外を指差し、出て行けとジェスチャーで示すが第三殿下はまったく意に介した様子はない。
「私はシシェル・ラル・アーバルハイツ。この国の王族の者だ。この世界の精霊がいつから眠りについているのか判らないが、わが国、そしてこの世界は徐々に終焉に向かっている。それを解決するため、精霊の愛し子を異世界から召喚した」
「…え?」
「召喚の儀の際に精霊が目を覚ましたと神殿側から話があり、確認した所、精霊は確かに目を覚ましていた。召喚の儀でやってきた少女がその奇跡を与えてくれたと思ったが、違った。少女が永らく眠りに付いた精霊を目覚めさせる事はなく、精霊が起きたと報告を受けるのは城の外、しかも王都からこのノアトルの地まで、延々と」
「精霊が眠りに?」
第三殿下…シシェルが言うには精霊が眠りに付いてどれだけ経ったか判らないらしい。
「私は精霊を見ることが出来る。それを追ってこの地にやってきた。そして、精霊の加護を色濃く受けるお前を見つけた。お前がただそこに在るだけで精霊は目を覚ます。お前が本当の精霊の愛し子だろう?」
「それが僕のことなのか判りませんが、もしそうだとして…僕にどうしろと?」
「王都に帰ってきてほしい。城を追い出し、都合のいいことを言っていると思うが、お前の要求は出来る限り呑むつもりだ」
「一緒に召喚された子はどうするんです?」
「彼女は精霊の加護を受けていないが、先見の目を持っている。自身こそが救世主だと言ってはいるのだが。我々も勝手に呼び出した手前、彼女を優遇しなくてはならない」
「ふふ、僕のことは追い出したのに」
一度目で捨てられ、二度目で追い出された。
名前を聞いたところ、彼で間違いはない。
自嘲気味に笑えばいつの間にか目の前にやってきていたシシェルに頬を撫でられた。
「…!」
「私が愚かであったばかりにお前に辛酸を舐めさせてしまった。申し訳ない」
驚いた。
僕が知っている第三殿下は自信家で、王族の人間ならでわの性格で謝るなんてことはしない。その彼が、しかも頭まできっちりと下げてこの世界では平民の僕に詫びている。
クルクル跳ねている橙色の前髪が眼前で揺れる。
ジワリと気分が悪くなるのは前世の僕が第三殿下に完璧に屈服させられていたからだろうか。
「僕、今ここでBランクに上がるために依頼を受けているんです。王都になんて行きません」
Bランクの冒険者になる採取と討伐依頼をこなすことが必要だけど、依頼の間が半年以上開くとまた一からスタートになる。採取がクリアになっているし討伐だって半分まで終わっている。ここで王都に行くのは痛い。
王政は今ごちゃごちゃしているだろう。そんな場所で半年なんてあっという間に過ぎてしまう。現代日本とは違い、この世界の政務は非常にのんびりしている。役所のようにあちこち書類が回りに回り、回答が得られるのはずっと先だ。
僕と召喚された少女の処遇についてのあれこれが色んな所にたらいまわしにされて、ちゃんと動けるようになるのに数ヶ月は軟禁されるだろう。
「僕がギルドの依頼を受けるついでにあちこち巡って精霊を起こすっていうのはどうです?」
「それは…そうした方がきっといいのだろう。しかし、救世主とされている少女が城に居るのに精霊が目覚め始めたら問題があってな」
「ああ、なるほど。僕を影で動かしてその子を精霊の愛し子に仕立てたいわけですね」
「…っ!」
この世界はどうしても僕に辛く当たる。
良い方向に考えてはいけない。
僕を王都で軟禁して、少女が精霊を起こす旅に出るときに僕もそっとその巡行に連れていかれるんだろうな。城の人間は僕がハロウィンし様の化け物だって知っているし、それなら見目の良い方を本物として表に出した方が不安はない。
あの少女を救世主と言ってしまった手前、違いました…なんて訂正ができないのが王族ならびに貴族だ。しかし、自分から望んで黒子になりたいなんて言う奴もいないだろう。
「何の面白のみのない冒険者崩れの平凡な男を表に出したくないのは判るけど。それで僕がほいほい着いていくと?」
「城のものはお前のことを知らない。私と一緒に王都に行けば誤解も解ける。ランクを上げるための依頼も定期的にギルドに寄れるよう尽力しよう」
この世界というか、前世と違い第三殿下がとても成長して見える。髪も短いし、性格も小ざっぱりとしている。
この人は、あの人と違うのだろうか。
第三殿下の顔をジーっと見て、小首を傾げて思案する。違うような気がする。
僕がなにも言わなかったからか、シシェルが真顔になって顔を近づけてきたから思いっきりその美麗な顔に手を当てて突っぱねた。しかし身長差のせいであまり遠くはならなかった。
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