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02.知っている、知らない世界
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突然魔法陣の光に包まれ、あまりの眩しさに目を閉じた。
瞼を閉じても痛烈な光は続いて、足元がぐらつく。まるで掃除機で吸われたような不思議な感覚に陥り、やっと瞼の外の光が落ち着いたのだと判りそっと瞼を開けた。
「…!」
知っているこの光景。
魔法陣をぐるりと囲むように目深に被ったローブを着た魔導師、ほぼ倒れている魔導師を更にぐるりと貴族が囲み、その奥、階段の上に設えられた椅子に座り此方を眺める王族。
そして、僕のすぐ隣に居る…フワフワのピンク色のドレスを着た救世主の少女。
あの時と一緒だ…!
僕が前世と呼んでいるあの時と。
ゾワリと鳥肌が立つ。
そして、脇に控えていた騎士が少女を守る様に周りを固め、僕に抜き身の剣を向ける。
「……?」
ポカンとしていると、見覚えのある騎士が僕に向かって吼えた。
「この、化け物が!!」
「緑色の化け物だ!」
そして納得した。
僕、今、ゾンビのコスプレの真っ最中だった。
僕を速攻排除しようとする騎士に魔導師の総団長は焦ったように声を上げた。
「お待ちください! 精霊の加護を受ける救世主を呼ぶこの場所で殺生などとんてもございません! お考え直し下さい!」
必死の叫びに陛下も何事か考えたのか、見覚えのある第三殿下に指示を下した。
第三殿下は階段を降り、魔法陣を踏み此方にやってきた。
少女を騎士同様背に庇い、僕に向かって口を開いた。
「この場で王都から去ればなにもしない。言葉が通じるのならさっさと去れ」
僕は今、知性を問われているのだろうか。
コクリと頷いてこの広間の扉から出た。ザワザワとざわめきが聞こえる。僕を追うべきだという声も聞こえた。
人払いがしてあったのだろう、長く続く廊下は誰もいない。後ろから追っ手がきそうではあるが、今はない。
「風生来(フアトル)」
久しぶりの詠唱だったが魔法は問題なく作動した。
撫でるような風が吹き、僕の下に精霊がやってきた。
あの時も召喚時には精霊は起きていた。これから眠りにつくのだろうか。
風の精霊が僕に頬ずりするように肩に乗る。
「僕はこれから王都を去り、北のギルドに行くけれど着いてきてくれるかい?」
精霊に尋ねてみる。
親指サイズの精霊は現代で例えるとコロボックルのような見た目で大変癒される。前世ではここまではっきり妖精の姿を視認することはできなかったのに、どういうことだろう。前は色の着いた丸い玉が僕の周りをふよふよ飛んでいた。
風の魔法を使ってやってきたということは、風の精霊なのだろう。
僕が問えば精霊はふわりと愛嬌よく笑い、僕の背に精霊の加護をつけた。表情が判るから、歓迎されているってことが可愛らしい笑顔から確認できる。
「わわっ!」
廊下の窓を指差され、大きなその窓を開けば背に大きな翼が現れグゥンと空に舞う。
翼の動かし方が判らず一旦中庭に足を着けたら、そこにいた精霊が僕の肩にまた乗ってきた。色合い的に花の精霊かな。
降りた反動でもう一度ジャンプすれば問題なく空を飛べた。
空を飛ぶゾンビ…新しい。
北のノアトル地方には世界最大のギルドが存在する。
そして広大な森と難攻不落のダンジョンと、大小様々なダンジョンがあるノアトル地方は今の僕には魅力的だ。
ノアトルはダンジョンや資源豊富な森を所有し王都と並ぶ程の街でもある。領地を経営しているのは王族直系の公爵家だ。しかし、大半が冒険者である荒くれ者なので、街は上品とは言えない。
公爵様もこの土地を上手く御することも出来ないので、ギルドに全てを任せている。
ここが重要だ。
ギルドは国が違えど階級は固定で、身分証明にもなる。
階級が上がれば平民でもそれなりに優遇される。
僕は魔力量が多いし、貴族とは切り離されたこの地ならやり直せる気がした。
ギルドに登録して、それなりに稼いでこの地で落ち着こう。グルグル回る僕が精一杯に弾き出した案だった。
この召喚は一方通行で、あちらの世界に戻れないのは以前魔術師として参加したので知っている。
帰れないのなら、この世界で生きるために全力を尽くさないとまた前世のようになってしまう。それだけはごめんだ。
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