上 下
2 / 24

01.トリックア…し、召喚?!

しおりを挟む



01.トリックア…し、召喚?!





 午前11時40分。
 大学のキャンパス内は色んな仮装をした生徒で盛り上がっている。
 ただ猫耳をつけただけの仮装や頭にお面をつけただけの簡易な生徒が居る中、完璧な衣装で学内を練り歩く生徒が矢張り多い。
 イベントが大好きなこの大学は、ハロウィンのイベントにも勿論寛容で仮装したまま授業を受けてもなにも言われない。寧ろバッチコイ! であり、教授達も仮装をしている。
 近くの商店街もハロウィンイベントをしていて、歩行者天国もあり大学からそのままの仮装で遊びに行っても今日はお咎めがない。
 終始お祭りモードで開いた時間に僕、春波 湯江(はるなみ ゆえ)はサークル顧問である多門(たもん)教授の下に訪れた。多門教授は異色の履歴を持っている人物で、海外で特殊メイクアートを習い国内、国外共に名声を得ているとんでもない人物だ。
 映研である我がサークルで時たま腕を振るってくれるが、いつ見ても鮮やかな出来に感嘆する。魔法がなくったって、この世界は輝いている。
 大学生になって二年目の僕は多門教授に特殊メイクを振舞ってもらうのも二回目だ。去年は初めてということもあって、大人しく魔女っ子(これを推したのは学友)だった。特殊メイクというよりは、普通に詐欺メイクというものをしてもらいどこからどう見ても女の子という出来栄えになった。
 浮かれた学内で詐欺メイクの僕は目立ったようで、あちこちから声をかけられ辟易したので今年はガツンと特殊メイクを施してもらうべく色々と持参した。

「春波君は、ゾンビがいいのかい? 去年の魔女っ子も壮絶な人気だったし、今年は妖精とかいいかなぁって思っていたんだが」

「その衣装は仕舞ってください。僕は今年、ゾンビになるつもりなんで、緑でお願いします」

 多門教授の私物にゾンビのマスクがあった筈。それはハロウィン当日貸し出しされていて、その醜悪なマスクを使う生徒はいなかった。
 ハロウィンはお祭り騒ぎでナンパをするチャンスであって、あまり弄りすぎるものはパスされている。
 僕はそれを借りるつもりで来ていたし、衣装もばっちりだ。
 教授は僕に着せる予定だったのかぴらぴらした虹色のティンカーベルのような透明な羽のついたその衣装をがっかりとした様子で片付けた。今年還暦という多門教授だが、意外に可愛いものが大好きで、僕にそれを着せたがるのが難点だ。
 大学に来る前にシャンプーで落せる染色剤で髪も緑に染めたし、ボロの服もネットでコスプレ衣装として用意した。さぁ、ゾンビになる準備はばっちりだと多門教授に声高に告げた。

「周りがドン引くくらいの仕上げにしてしまうよー」

「寧ろ、それでお願いします」

 上はボロい黄ばんだ色みのシャツと、下は茶色いカーゴズボン。腕は出さない方が良かったかなと思ったが、完ぺき主義の多門教授は手もばっちり同じ皮膚色で作ってくれた。
 目の前の僕がどんどんと違和感のないゾンビの顔になっていくのをワクワクしながら見ていると「出来たよ」の声でこれが完成なのだと感嘆した。
 多門教授は偶にその技術を買われ映画の特殊メイク係りに抜擢される程の腕前だ。今回は一時間とメイクを施した本人から言わせれば入り口に過ぎない軽いものらしいが、実際にこれが自分だと思うと感慨深いものがある。
 緑の髪に、醜い顔の自分。
 肌も緑色で、シャツから覗く首や腕もちゃんと緑色だ。
 でこぼことした顔は異形の言葉がピッタリ来るほどで、灰色の自分の瞳が異様にマッチしている。

「ああっ多門教授っこれはすごいです! 新たな自分を見つけました!」

「その容貌で自分にうっとりとする様はさすがと言うか、君らしいよね」

 テンションがどんどん上がる僕に多門教授は「これを片付けてくるね」とメイク道具を指差し部屋を出て行った。
 マスクはちょっと蒸れるが気候も穏やかになったからあと数時間は行けるだろうと顔にそっと指を当てた瞬間、ブォンと何かの機会が起動するような音が聞こえた。

「え?」

 何の音かと振り向いて、自分の足元が光っていることに気がついた。
 足元には光る円陣が徐々に描かれ始めた。

「なに…?!」

 慌てて円の外に出ようとするが円は僕を点にするように付いて回る。
 逃げられないと悟った瞬間、僕はその円陣が魔法陣であることに気付いた。
 これはあの日、僕の人生が変わったあの日の、魔法陣に酷似していた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

処理中です...