色狂い×真面目×××

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 クルスト国に異世界から落ちてきた少女が聖女として祭り上げられた。
 この世界では珍しい光魔法が使え、その愛くるしい見た目から大看板として言い方は悪いが大売り出しをされた。
 光魔法は貴重な属性ではあるが、それがなくても困ることは無い。しかし、外交が絡めば聖女の威力は大きい。聖女とはそういうものだ。
 明るい色の多いクルスト国で聖女の持つ黒髪に黒い瞳というのはとても珍しいもので、特に貴族子息のウケがよかった。
 つまりは、そう…聖女を崇拝するハーレムが出来上がったわけである。


「きゃ~~~! やだ~~~~~!」

 異世界では高校生という職種についているらしい聖女は、とても陽気で人との距離が近く、あっという間に貴族教育を受けた筈の男たちを篭絡してしまった。
 聖女の周りに居るのは、王太子、公爵家嫡男、侯爵家次男、騎士団長の子息に…確認しているだけで眩暈がしそうだ。
 ザリヴァン王太子殿下の婚約者は今年二十歳になるアシェリ・ゼルカ侯爵家次男である。
 アシェリは次期王配として教育を受けている。あと二年の内には婚姻を結ぶ予定だった。しかし、ここに来て、女性であり聖女が現れた。王太子が彼女にのめり込むのは致し方ないだろう。

 聖女は肩で綺麗に切りそろえられた黒い髪に、大きな漆黒の瞳が特徴的だ。肌の色は白いとは言えないが、華奢な身体はこの国の女性の平均的身長よりも大幅に小さい。
 貴族は表情をあまり浮かべないので、笑顔満面で距離が近く普通に話しかけられるそれが物珍しいのだろう。アシェリが気付いた時には既に遅かった。

 王太子が聖女に惹かれるのは判るが、それならそうと早く言ってほしかった。
 王宮での教育が終わって、少し息抜きに中庭に出ようとした所で王太子と聖女が逢引きをしている場面に出くわしたり、偶然みた窓の外で口付けを交わす二人を目撃したりと二人の行動は此方の目を見張るものばかりだった。
 男が婚約者だというのが不満なのは出会う以前から散々聞かされていたので問題はないが、そのやり方が不味い。
 このまま聖女が国の看板として頑張ってくれればアシェリとの婚約は恙無く白紙撤回され、無事、聖女と婚姻が出来ると言うのに。優秀な癖に妙なところを面倒くさがる王太子らしい。
 王太子の伴侶として彼のしたいことを察して傍らで公務をこなしていたアシェリに察せられないことは無いと思っている。つまりは、内々に全てを終わらせておけという、そういう事だろう。
 王宮内で専ら噂の王太子と聖女の事実確認を陛下と宰相とアシェリの父である侯爵にしてもらい、書類は提出済みである。


「本当に君は可愛らしい。アシェリにもその可愛さがあればよかった」

「も~~~ザリヴァンったら口が上手いのね!」

 イチャイチャとしている、王太子と聖女。
 貴族であればその近さに顔を顰めるだろう近さに、アシェリは「ナイス!」と心の中で一声かけた。
 中庭の四阿で聖女を膝に乗せた王太子と、その二人を中心に拡がっている取り巻きの貴族子息達。取り巻きの数が多すぎて、下位の者は四阿の入り口にまで広がっている。
 どこにいるのかと探す必要は皆無だ。

 アシェリが四阿に向かえば、此方を敵視する視線がバシバシと飛んでくるが気にしない。取り巻きはアシェリが聖女を害成すと思っているらしい。
 挨拶もそこそこに、聖女を膝に乗せた王太子に陛下直々の印がされた手紙を差し出した。
 アシェリに渡された手紙の封蝋を見て、王太子が眉を顰めた。

「いつでもよろしいので、ご確認ください」

 ニッコリと微笑んで大業を済ませた事への褒美を呉れてもいいんだぞ、とアシェリは二度三度頷いて踵を返そうとした所で腕を掴まれた。

「待て、アシェリ! な、何か言うことはないのか」

 いつの間に立ち上がったのか、切羽詰まった表情の王太子がアシェリの腕を掴んでいた。
 いつでもクールで、陛下に似た美しい容貌の王太子が余裕の笑みを崩すのは珍しい。眩いばかりのゆるっとした黄金の髪が揺れ、ミントブルーの瞳が不安そうな色味を醸し出している。
 アシェリはいつも穏やかな笑顔を絶やさないが、こればかりは流石に表情が変わった。キョトンといつもは細く閉じているように見える瞳を大きく見開いた。水色から紫に変わる不思議な瞳がキョロリと何かを考える様に動いた。
 不意に小首を傾げ、その動きに合わせてふわふわの蜂蜜色の髪が揺れた。

「ええと、ご婚約おめでとうございます」

 ニコニコといつもの笑みを浮かべ、稀有な瞳が再度閉じられた。

「ち、違う! 婚約? なにを言っている?」

 沈着冷静な王太子が慌てふためいている。膝から降ろされた聖女も落ち着きなく此方や彼方をキョロキョロと見ているがどうしたというのだろう。
 少し考えて、クルリと周りを見渡した。目当ての人物が確か四阿の入り口に居た筈だ。
 ダークブラウンの髪に、イエローグリーンの瞳を持つ優男とパチリと目があった。

「恙無く私達の婚約の白紙撤回がなされ、聖女様とのご婚約が調いました。詳細は、陛下からのお手紙に記載されてえます」

「なっ?!」

 絶句する王太子の腕の力が抜けたので、腕を払い、四阿の入り口に居た長身の男の元へと足を向ける。

「シュトンハル様って素敵な方ですね。私、一目惚れをしてしまったようです」

 王太子が男との婚姻を嫌がったので、アシェリは出来るだけ美を保ち、男らしさを捨てる様にしていた。いつも控え目に微笑むアシェリは男にしては華奢で、王宮でもその美しさを湛えられる程だ。そして、その瞳の稀有さはこの世界のどこを探しても見つからない。元々は宰相候補として城に上がったのだけれど、いつの間にか王太子の伴侶としての教育が始まっていた。高い知性を誇り、王太子の身の回りの雑用と着々とこなしてきた。
 アシェリが浮かべる表情はほぼ微笑みのみで、なにを考えているのか判らないと伴侶である王太子にまで言われる程、鉄壁であった。王太子の伴侶であるとわかっていながら、アシェリに懸想する人物は男だろうが女だろうが絶えず存在していたが、アプローチをされても決して靡かず、そっと王太子に付き従うその健気さにアシェリの株は更に上がっていた。
 真面目が服を着て歩いていると噂れる程にアシェリはストイックに仕事に邁進していた。

 そんなアシェリが熱を帯びた表情で、ジョセフ・シュトンハル伯爵家次男に寵愛を乞う姿を見て、聖女の取り巻きが思わず悲鳴を上げた。
 自国のみならず、外交を行った他国でもその瞳の美しさは大絶賛されたものだ。勿論、その中性的な美しい容姿も織り込みでの評価なのだが、その誰もを魅了する瞳を潤め、ジョセフを見つめる。
 きっと無意識なのだろう、ジョセフの手がアシェリの白い頬に当てられた。アシェリが熱の籠った瞳をそっと閉じると、期待していた感触が唇に伝わった。


(完璧に整った…)


 あちらこちらから絶叫が聞こえるが、ジョセフが唇を離したタイミングを狙って笑いだしたくなるのを我慢して顔を覆って逃げ出した。好いた人間からの口付けに恥じる姿に映ったのなら僥倖だ。






+++++++++++++



 あの公明正大なアシェリが色狂いのジョセフに恋をしたらしいと、瞬く間に噂が広まった。
 アシェリは王宮内の簡素な部屋で書類を裁きつつ、侍女に淹れてもらったばかりのお茶で喉を潤した。
 この部屋を知っているのは陛下と宰相、そして数人の部下のみだ。
 王太子との婚約が白紙となってから、王太子が気が触れたようにアシェリに執心しだし政務すらまともに行えない状況になってしまい、陛下はアシェリに王宮の迷路になった奥の更に奥にアシェリ専用の執務室を設えてくれた。
 無駄に勘のいい王太子に悟られないように、調度品などはそこにあったものをそのまま使用している。仕事をする机さえあれば問題ないアシェリは快適に仕事をこなしている。お茶だって一人で淹れられるので、まったく不備はない。隣の部屋には仮眠室もあるし、窓から出れば裏門から家に帰れる。むしろ、以前より至れり尽くせりの環境になったのではないか。
 部下に王太子と聖女の様子を探らせ、妃教育の進み具合の停滞を調整ししつつ、仕事を終わらせていく。以前は、王太子と聖女の突撃訪問で仕事が滞っていたりしたが、今はそれがない。

「こんにちは。こんばんわかな? こんなとこに居らしたんですね」

「?」

 カチャリとノックもなしに廊下に繋がる扉が開かれた。
 扉を開けたのは、既に存在を忘れつつあった色狂いと呼ばれているジョセフだった。

「おや? どうしてここが判ったんですか?」

 ニコニコと穏やかに微笑むジョセフが断りもなく部屋に入ってきて、仕事机の前に立った。

「女の子って、とっても口が軽いんですよ。知ってました?」

 つまりは限られた部下がジョセフに篭絡されたということだろう。

「君がここを突き止めてやってくるとは思っていなかったからね。気を付けるよ」

 まさか、ジョセフがアシェリの居場所を突き止めてくるとは思わなかったので、普通に侍女二人に場所を告げていた。そこを狙ったらしい。

「それで、私を探した理由はなにかな」

「話が早くて助かりますよ。今の噂を勿論ご存じですよね?」

「うん。勿論、知ってる」

 アシェリがジョセフに恋をした。
 ただ、恋をするだけならそこまで周りも騒がないのだが、ネームバリューがすごすぎて王宮内は日々その噂話で持ちきりだ。

 ジョセフは伯爵家の次男で、文官として城で仕事をしているのだが、とんでもなく顔面がいい。王太子と並んでツートップと言われる程の美形だ。王太子はクール系で、ジョセフは優男系。色狂いと呼ばれていて、彼が口説けない女は居ないと言われている。城に仕えている侍女は全てが彼のお手付きだなんて言われていたりする。
 毎日口説く相手が違い、王宮のあちらこちらで隠れて侍女やら夫人と如何わしい行為に耽っていると専ら噂だ。噂だと言ってはいるが、アシェリには色んな報告がやってくるので、それが黒であることを知っている。
 だからこそ、あの場で一番いい“一目惚れの相手”になりえた。他はヘタを打つと厄介な童貞が多かったのでジョセフ一択だった。

「その噂を、両想いに変える気ありません?」

 ニッコニコとジョセフが笑っている。
 アシェリが小首を傾げると、机に両肘をついてジョセフが顔を近づけてきた。

「君と私のメリットはどんなものかな?」

「貴方は王太子殿下からのアプローチを避けられる。僕は面倒な婚姻から逃れられる。とってもお得だと思うんですよ。男は初めてですが、任せてください。あっち方面では天国みせられます」

「でも、君は私以外と遊びにくくなってしまうよ?」

「若い時は口説く段階も楽しかったんですが、知ってます? セックスって飽きるんですよ。口説いて足開いてもらって、腰降って。最近はだすくらいなら右手使った方が早い気もしてきたんです」

 確かジョセフは二十五歳だった気がする。それでセックスが飽きるって、どんだけの数をこなしてきたのか。
 色々と思うところはあるが、今の段階ではアシェリのメリットも大きそうだ。それほどに王太子の執着が酷いのだ。
 目の前にある秀麗な男に顔を向けて、そっと瞼を閉じればやってくる唇の感触は嫌いじゃない。




 気付いたらぐっちょんぐっちょんにされていた。
 深いキスを何度もされて、舌を吸われて気づいたら仮眠室のベッドに転がっていた。
 貴族特有の釦と装飾だらけの脱ぐのに面倒な服を器用に脱がされ、どこに隠し持っていたのかピンク色のオイルを身体に垂らされた。
 初めてなのにあんあん啼かされて、最初は痛いと聞いていたのに特大の快感がきたと思ったらズッポリとアシェリの後孔にジョセフの剛直が突き刺さっていた。

「ああぁぁっ…」

 正面から大きく足を広げられ、グリグリと奥を狙うように突かれた。
 さんざん慣らされた後孔からひっきりなしにぬちゅにちゅと音がして、段々と激しくなる水音に更に興奮してしまう。

「あ、これが…アシェリ様の子宮なんですね。すごい、吸い付いてくる」

「あぁっ…あんっ…そこ、奥、だめっ…♡ あ♡ あぁぁぁっーーーーーー!!!」

 じゅぼじゅぼとジョセフの肉棒が狭い肉壁を擦り上げ、男でありながら王太子の伴侶になれた理由である“子宮”への刺激をしつこく繰り返す。
 一際強く子宮を叩かれ、アシェリが精を放った瞬間、その内部の締め付けにジョセフも中に射精をしていた。

「はっ…気持ちいい…アシェリ様のナカ、キュウキュウと締め付けてくるっ…」

「あぁぁっ、あっ、あっ、とまって、わたし、いまイってる、からぁぁっ、あっ♡」

 精子を出し切るまで腰を振り続けるジョセフに何とか止まるように懇願するが、稀有な瞳を切なげに歪め蕩けきった表情で言っても余計にジョセフの熱を上げるだけだ。
 抜かずの二発目が決められ、くたくたに骨抜きにされたアシェリが抵抗しないのをいいことにジョセフは三度目の中出しを済ませた。

 アシェリが起きた時、身体は勿論ベッドも清潔に保たれていた。アシェリが起きたのに気づいたのか、執務室に居たジョセフが用意していた軽食を仮眠室へと運んできた。
 意外に甲斐甲斐しいジョセフの対応に、これは良い選択だったとアシェリは己の審美眼を褒め称えた。




 それから城内で仲睦まじく散歩をするアシェリとジョセフが目撃されるようになり、王宮内は大いに荒れた。
 王太子との婚約を白紙にしたアシェリを狙っていた人間と、ジョセフを狙っていた女性陣が悲しみに明け暮れ、二人がいつ破局するかというトトカルチョも始まっていた。
 そして、アシェリに嫉妬してほしかった王太子と、ジョセフの気を引きたかった聖女が二人の仲を裂こうと結託したりしなかったり。

 幸せそうなアシェリとジョセフだったが、メリットを追い求めた双方がギクシャクしだした。

(ジョセフに奥を突いてほしくてジンジンする…。でも、セックスに飽きたって言っていた彼にセックスを強いたら嫌われてしまうかもしれない)


(プロポーズって、どうやったらいいんだ? アシェリ様に触りたい、キスしたい、セックスしたい。今まで、どうやって誘っていた?)


 真面目で奥手なアシェリと、初恋童貞なジョセフがすったもんだの末に周りを巻き込み結婚するのはもうちょっと先の話。



++++++++++


 ザリヴァン・クルスト王太子殿下が婚約者を持ったのは十歳の頃だった。
 父である国王から、とても優秀な婚約者であると伝えられ、色々と聞いていく内にザリヴァンは小首を傾げた。

(今、男と…)

 アシェリ・ゼルカ、今年十五になったばかりの文官で、その審美眼と仕事ぶりが鬼宰相に認められて宰相補佐として育て上げる予定であったが、彼が魔力持ちで更に子宮持ちであったが為に、王家へ嫁ぐことが決定した。
 女性より多くの魔力を持つ男が孕めば、その子供の力は更に大きくなる。しかも仕事が出来て、見た目も柔和で美しい。これならきっと多感な年頃のザリヴァンとて気に入ると、国王は大満足だった。

 十歳のザリヴァンが思い浮かべる十五歳の男は乳母オリスの所の長男だ。彼は筋肉に心酔している。口癖は「筋肉がないものは死ぬ」だ。
 彼ひとりだったら、変わった人間もいるものだと思うだけだったが、彼の周りは揃いも揃って筋肉狂であった。アカデミーが終わったら、鍛錬場に籠り鋼のような筋肉を育てていく。その光景をチラリと見たことがあったが、鍛錬場が彼らの熱気でじっとりと湿り、軽く霧が立ち込めていた。
 十歳のザリヴァンにも「殿下もあと数年したら、男のロマンが判るようになります。筋肉に憧れない男などおりませんから」なんて言うものだから、脳内に浮かんだ婚約者も筋肉ムキムキの暑苦しい男がやってくるものだと思っていた。
 だから、ザリヴァンは男は嫌だとなりふり構わず駄々を捏ねた。
 国王である父や母が会ってみれば判るからと婚約を進める方向でいることも、大いにザリヴァンの癇に障った。

 いつも大人しく勉学やマナー教育を学ぶザリヴァンがこれほどまでに嫌がるなんて思わなかった国王は、アシェリに宰相補佐としての仕事も回した。アシェリのような優秀な人間を手放すことは王家にとって最も悪手になる。王太子との婚約がなかったことになっても、重要なポストに置いておくことが肝心だった。
 一番の痛手は、アシェリを他国に奪われることだから。


 ザリヴァンとアシェリのお見合い当日、不貞腐れた様子を隠すこともせず会場にやってきたザリヴァンにアシェリはニッコリと微笑んで会釈をしてきた。
 ゴツゴツのゴリラを想像していたザリヴァンは、柔和な笑顔の美少女もかくやという美貌に開いた口が塞がらなくなった。
 十歳のザリヴァンより大きいが、ほっそりと肩幅も華奢なおかげかそこまで気にならない。
 蜂蜜色のふわふわした髪が風に揺れ、水色から紫に変わる不思議な色味の瞳は大きく潤んでいて、そこまで鼻は高くないがぷっくりとした桃色の唇とのバランスがとても可愛らしかった。

 結果的にザリヴァンはアシェリに一目惚れをした。
 けれど、お見合い前の自身の身の振り方にバツが悪くなり、アシェリへの対応はそっけないものになってしまった。
 何度、己の行動を改めようと思っても無理だった。どんなに雑な態度をとってもアシェリはニッコリと微笑んで、ザリヴァンの隣に居てくれる。その内に、そのアシェリの平等な態度もいけないと思い始めてしまった。
 そんな時だ、異世界からやってきた聖女と利害が合致した。
 ザリヴァンはアシェリに焼きもちという特別な感情を向けてほしい。
 聖女はジョセフの気を引きたい。
 ジョセフは遊び人らしく、処女には見向きもしない。そこら辺は詳しくは聞かなかったが、聖女はジョセフを落とす気満々だった。

 お互いに目的があっての行動だったのだが、嫉妬をさせる筈が婚約をなかったことにされてしまった。しかも、聖女とザリヴァンとの婚約が調い、いくら誤解だと叫んだとて国王が決めた事だ。どうにもならない。
 ならばアシェリに会い、誤解を解いた方が早い。
 何度かアシェリに会いに行ったが、仕事中だと追い返され、いつの間にかアシェリの執務室が移動していた。
 会えない日が続き、ザリヴァンがイライラしていると、王城の中庭に恋い焦がれた細身の後ろ姿を見つけた。
 慌てて中庭に向かい、庭園の花を眺めていたアシェリに声を掛けた。

「アシェリ! 会いたかった!」

 両手を広げ、アシェリを掻き抱こうと思ったら避けられた。

「アシェリ…?」

 アシェリは困ったように微笑み、小首を傾げていた。
 いつものアシェリと寸分違わないというのに、なにかがいつもと違っていた。
 その美しい容貌が艶やかな雰囲気を纏い、明らかな拒絶をザリヴァンに向けていた。

「ごめんなさい。殿下と一緒にいるとジョセフに勘違いされて、嫌われてしまうかもしれないから、距離を置いていただけると嬉しいです」

 ニッコリと微笑み、アシェリがザリヴァンから少し離れる。

「あ」

 アシェリがザリヴァンの向こう側になにかを見つけたらしく、表情が一気に変わった。白磁の頬を染め、瞳を潤ませ、いつもの微笑みとは違う満面の笑みを浮かべ、ザリヴァンの横を通り抜けた。

「ジョセフ」

 鈴が転がるような、軽やかな声音がザリヴァン以外の男の名を呼んだ。
 ザリヴァンが居たからだろう、ジョセフは二人からかなり離れた所で様子を伺っていた。アシェリが足早に掛けて彼の元へ向かえば、当たり前のようにスルリと腕を伸ばしアシェリの腰を抱いた。
 その光景を絶望的な気持ちで見送った。





++++++++++



「アシェリー、殿下となにをしてたんですか?」

 アシェリの執務室に二人そろって向かい、仮眠室でその細い肢体を押し倒した。
 抱かれるのに慣れた身体は悠々とジョセフの剛直を咥え込む。
 仰向けになったアシェリの足を大きく広げ、遠慮なく腰を振るう。ジョセフのガン突きに腰を浮かせ、背中を撓らせ快感によがる。

「あっ、あっ、はげし、あぁっ、ジョセフ、つよいぃっ」

 パンパンと腰が激しくぶつかり、時たま奥を強く穿たれる。奥で先端をごりごりと動かされるとアシェリのナカがジョセフの性器を絞り上げ精子を奥に精子をあびたくてキュンキュンと動き出す。

「言って、アシェリー。殿下と、よりを戻す気ですか?」

「あっ、あぁぁっ…はぁっ♡ でん、か? あぁぁん♡ あっ…、より? も、戻さないっあ、まって、奥つかないでっ」

 快楽に呑まれたアシェリにはジョセフが言っていることがあまり理解できないが、きちんと話を聞こうと思ってもガンガンにジョセフが腰を振るうから思考がとっちらかってしまう。

「ジョセフが、すきだから、あぁっ! あぁぁっ、まって、だから、まってっあぁぁぁっあぁっ♡」

 自分がなにを言ったか判らないが、突然ジョセフの動きが奥をえぐる律動に変わり、アシェリはその毒にも思える快楽に見悶えた。

「あぁっ、イく…、じょせふ、すき、すき♡」

 アシェリがジョセフに口付けを強請り、差し込まれたジョセフの舌に一生懸命吸い付くその様にジョセフはこみ上げるなにかに突き動かされるように奥を穿つ。
 ブチュンと奥にぶつけ、そこに精子をぶちまけた。

「っ~~~~~~~~~~~♡」

 ブルブルと震えるアシェリに構わず、最後の一滴まで奥に出し切るために数度アシェリの子宮に擦りつけた。




 ジョセフは早熟な子供で、同じ年の子供より身長がスラリと高く、美形両親のいいとこどりと言われたジョセフは十二で童貞を捨てた。
 気持ちいいことがなによりも大好きで、気づけば色狂いと呼ばれるようになっていた。経験則から、処女は相手にしないようにしている。ビッチのふりをした処女を見分ける方法も、なんとなく判るようになった。
 その経験から、アシェリは処女だとピンときた。確信をもっていたが、手を出してしまった。
 あの四阿での婚約解消のどさくさで一目惚れだと瞳を潤ませ告白されたが、自分に熱を上げる女性陣と同じ熱量はそこになかった。とりあえずそこに一番利用しやすいジョセフが居たからロックオンしてきたのだろう。
 ジョセフ自身も、そろそろ女遊びにも昔のような情熱を乗せることも出来ず、伯爵である父からは結婚はまだかとせっつかれる。女性を一人に絞る気はなく、それでも二十四となったジョセフとの結婚を狙う肉食獣の戦いが王宮内で頻繁に起こるようになり、上級文官として仕事は出来るが私生活をどうにかしないと破滅をすると上官に説教を受けた。
 相手を探すこともせず、異世界からやってきた聖女の周りに侍ることで煩い雑音を無視することが出来た。聖女は特別な存在で、見た目もいい。どこまで躱せるか判らないが、暫くはこのままでいいかと思っていた。

 そこで現れたのが男だが子宮持ちで結婚が出来る、稀有な瞳を持った美貌の次期王配であるアシェリだ。
 四阿では婚約が白紙に戻されたと言っていた。けれど、ザリヴァン王太子がアシェリに執心していることは一目瞭然だ。
 王太子と聖女との婚姻が整ったということは、アシェリは一番の独身優良株になる。侯爵家の次男で、次期王配は白紙になったがきっと国王陛下は彼を宰相補佐として置くだろう。だったら自分の上官になるし、その美貌はそこいらの令嬢よりも上だ。男は相手にしたことはなかったが、アシェリならいける。
 彼を選べば結婚結婚と煩い囀りも止むだろう。
 ジョセフは口角を上げ、アシェリ付きだった侍女に彼の居場所を難なく聞き出した。

 そして、いつの間にか損得で付き合っていたのにアシェリに惚れ込み、息を吸うように女性を口説いていた口がアシェリ限定でどうにも上手く言葉を紡いでくれない。
 ザリヴァン王太子には不敬ではあるが、アシェリへの想いを拗らせてから回っているなと鼻で笑っていたのに、まさか自分がそうなるとは思ってもみなかった。

 激しく抱いた後、気絶するように眠ってしまったアシェリの身体を清め、はちみつ色のふわふわした髪に唇を落とした。

「きちんとプロポーズするんで、もう少し待っててください」

 
 
 
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