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岩屋編 被食ディペンデンス
刃の裁き(岩屋編終章)
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私は”道”を一気に駆け抜けた。
壇の上に上がる時に脇の岩面に矢が当たり弾けたけど、神官様の元に飛び込むと例の障壁に阻まれて続く矢は阻まれた。
「し、神官様、あの…」
『時間が無い…アドバ!連中を起こさせるな!』
「…担いの儀式は?」
『中止だ!…お前はあの扉から王を追え!それから岩屋を出たら行きたいところに行っても良いと言うのが王の言葉だ!』
「い…いえ、ちょっと待って…伝えないとならない事が…」
『時間が無いのが分からないのか!』
神官様はそこで初めて私の方を向いて叱る。
ごめんなさい…でも
「お…お願いします!一言なんです!刃の裁き!そう伝えれば分かるって!」
それからの神官様の反応は私の期待していたものと違った。
『刃の裁きだと?誰から聴いた?』
「あ…」
私は口ごもってしまう。
あの声がラーガドルーの物だとは私自身が確信している訳じゃ無いのだ。
さっきの事とか私の中では有り得る話だと思っていたけど人に説明出来る様なものじゃ無かった。
『大方年寄りから聞いたのだろうが…』
「あの!どう言う事でしょうか?」
私を説得するのに必要だと思ったのか神官様はため息を吐いて話をする。
『大昔、担いの儀式を邪魔しようとした帝国軍が神威によって生まれた刃によって滅ぼされたと言う話だ』
「!じゃあ、儀式を再開すれば?」
『いいか、ユールディ。それはただの神話だ。奇跡は魔法の様にこうすればこうなると言うものでは無いのだ。信心深い事はいい事だが信心深すぎるのは愚かな事なのだぞ…』
ただの神話…と言った。
…神官様は信じて居なかった。
…神官様はとても偉くて頭が良かったけどそれ故に神様を本当の意味で信じては居ないように見えてしまった。
…ラーガドルーはこの人の中では人々を導く為の道具でしか無かったのだろうか?
そう言えばなぜラーガドルーは直接神官様に言葉を伝え無かったんだろう?
私が不満たっぷりな事が分かったのか神官様はこう続けた。
『お前は生きろ!我らが民の物事にこれ以上関わる必要は無いのだ!王命だからだけでは無い、お前は死ぬには惜しい者だと私…』
そこまで言って神官様は向こうを振り向いた。
鬼の咆哮に反応したのだ。
向こうを見るとガダンと言われた鬼に突撃してしたゴブリン達が押し戻されていた。
戦況は一刻の予断も許さない局面になっていた。
それでも、神官様は何も分かっていなかった…
…ゴブリンのちんぽ一杯しゃぶったのに。
…レイプされてるのに頑張って発情してアヘ顔晒しまくったのに。
…吐いたゲロ全部啜ってゴキブリまで食べたのに。
私だってさっきまでラーガドルーがいるなんて全然信じていなかったけど…
でも、それで耐えられたのは神官様や王様がラーガドルーとその恵みを信じていてその為にしていると思ったからだった…その恵みとか加護が本当に国を守る為に必要だと思っていると信じたから。
全然信じて居なくてただあのゴブリン達の不満解消の為に私は殺されようとして居たのだろうか?
だったらあの不満分子と同じじゃ無いか!
いや、自分の欲望の為とハッキリしている不満分子達の方が遥かに正直だった。
そうなら新法が始まる時に儀式は全部止めるべきだった。
幾ら苦しみが少なくなるって言っても生け贄は死ぬんだ。
だったら私の前に殺された生け贄の子達は全部無駄死にって事になるじゃ無いか!
逃げろとかあり得なかった…ちょっとオークに攻められたくらいで止めちゃうもんなら最初からやるなよ!死んでも信じた振りしろよ!
『…だから早く行け!』
一発魔法を放った神官様が向こうを向いたまま叱咤する。
「イヤです!私は…ユールディはラーガドルーの元に参ります!」
私は同じくらい強い口調で叫ぶ。
神官様は思わずこちらを振り向いた。
彼は私が今まで見た顔の中で一番驚いた表情をしていた。
『な…』
「だってこのまま行っても勝ち目無いじゃ無いですか?あのガダンとか言うオークの所に攻めってた人達ももう半分も居ないし…何か手があるんですか?神官様」
『わ、私が直接…』
「王様は誰が守るんですか?」
『…』
「刃の裁きを…神官様にはそれを信じる義務が有ると思います」
なんか私カタストロフィ映画の終盤とかに出て来る狂信者そのものだな…でも、刃の裁きなんて言葉をそれまで聞いた事も無かったのにそれが状況にぴったりとハマっているのも事実だ。
神官様は私の事を改めてマジマジと見詰めた。
…うわ、照れる。
『刃の裁き…今ここでか?』
「こ、ここ、ここで、です」
緊張してかなり吃ってしまう。
でも、神官様の立場でそんな神頼みとかしてる場合じゃ無いのも確かだ。
それに幾らラーガドルーの言葉が真実だったとしてそれが本当に一番良い事なのかも分からない。
「…う、やっぱり良く分からないです」
私は間違った事を言った気持ちになってしまい後悔する。
良く考えなくても出しゃばり過ぎだった。
神官様は大きく息を吸うと向こうを向いてしまう。
…い、言う事だけは言ったし!
それから彼は呪文を唱えると杖を岩肌に突き立てた。
どう見ても木なのに岩を穿っていた。
先程までの結界に様々な色が加わりグッと拡がって行く。
『我らが一統よ!これより担いの儀式を再開する!』
ザワッとした雰囲気がゴブリン達の間に広がる。
『神意が降った…ラーガドルーは担い手を切に欲しておられる。それに従うが我が民の義務である!そして…まつろわぬ異邦人には刃の裁きが下るとの預言が担い手を通じてもたらされた!』
神官様がそう宣言するとゴブリン達から怒号に近い様な歓声が上がった。
『この破邪の封には何人たりとも触れさせては成らぬ。お前達は神威が満ちるまでここと玉座を死所と心得て守り切れ!』
モラルが上がったゴブリン達が崩れ掛けた人垣を結び直して行く。
さらに神官様の声を聞き付けてフォモードと黄色帽子に追い掛け回されていたゴブリン援軍が間を縫ってこちらに殺到しだした。
段下は大混乱に陥りつつあった。
『確認の儀を行う』
おお!そう言えばそのステップが有った。
生命素と身体の状態がラーガドルーの元に行くのに相応しい状態になっているか調べてもらう儀式だ。
楽しくレイプされてた時にこの儀の時に間違いが起きて神官様に犯して貰う妄想でバーストさせたのを思い出した…いや、私、リアルなセックス妄想はゴブリンボディとちんぽ使う以外に無いんですよね。それでちゃんとしてくれそうなちんぽで王様以外と言えば神官様しか思い付かなかったのだ。
本当にしてくれるなら吝かで無いけど儀式に無い事を神官様がする訳無いし、なんで私思い出したんだろう?
神官様は私の頭から撫でる様に身体の様子を調べて行った。
それは丁寧で確信に満ちていた。
お医者の触診の様でイヤらしさはまるで無かったけどそれは神官様の側だけだった。
私はこの手の接触にはよほど辛い状態じゃ無いと即発情してしまう。
きっと美人だったらお医者の方もそれなりに反応して気不味い経験をして抑制されて行くんだろうけど…私の場合は優しく職業的に流してくれるので安心して反応させていたのだ。でも顔見知りになると恥ずかしいので触診を経験するたびお医者を変えていた…私は元の世界から充分ビッチだった。
そして今…私は何故だか安心し切ってしまいあんあん声を出していた。
神官様はちょっと困った様子だったが首を振ると何事も無かった様に調べを続けた。きっと私の辛い経験を慮ってこんなになってしまったのも仕方ないって思ったに違い無かった…そう言う事にする。
肩の矢傷の様子を調べ痛みを聞かれる。
「はあん…だあいじょうぶでぇす…あん!」
…神官様本当にごめんなさい!
ユールディは色々あっておバカでビッチな女の子に成り下がってしまいました…違います嘘吐きました元からです。
お願いですから躾けて下さい!
『確かに傷口に治癒の跡がある…やはりラーガドルーの恩寵なのか?』
真剣に考える神官様に私の心の声は届いて居ないようだった…悲つい。
そう言えば矢はどこで外れたんだろう?
胸は軽く流されてしまった。
亜人だって大きな胸は好きな癖に…段下のゴブリン達に揉まれたり舐め回された記憶が蘇り余計辛くなってしまった。
…そうだ、次だ!
そう言えば私が集めた生命素は規定に少し足りなかった。
足りないとなればどうなるのだろう?…補充?
そうか…補充か…補充しかないよね。
『ふむ…これだけ有ればラーガドルーもお気を悪くする事も有るまい』
ピリッと魔力の様なものが走り神官様は私の胃の辺りに当ていた手を離した。
「…」
『どうした?辛いところとか有るのか?』
主にお腹の奥の辺りが!
更に全身に転移して治療不能になりつつ有ります!
「…いえ、大丈夫です」
『最後は女性器だな』
はい…私は透明な笑顔で答えた。
私は燃え尽きていた。
まだ妙な記憶から燃え広がった欲情は身体の中を荒れ狂っていたし、アソコは生理的に洪水となっていたけどちゃんと諦めた。クールで実際的な神官様は私のあんあん攻撃にはまるで屈せず…と言うか一顧だにしなかった。
下を触れば瞭然だろうけどそれも充分予期してるし流されるだけだろう。
でもまあちょっとはアソコ触って貰える訳だ。
そうすれば神官様が微妙なところに触る時の感じのデータが取れる。
…そうすれば!
さすれば!
その最後の1ピースが手に入れば後はこの鍛え上げた妄想力で壮大な絵巻を書き上げる所存!
拙者その絵巻を携えて霊旅の無聊を慰める侍とならん!
『ふむ…心配したが全く問題ない様だ。女どもを連れて来れなかったので支障が有れば困ったところであったが』
胃と同じ様に私の下腹部から手を離した神官様が笑う。
『これにて…』
「あ…アソコはいいのですか?」
思わず口に出てしまう。
ほぼ同じニュアンスで私は二度ほど神官様にアソコって言った事になる。
『もう調べたが?』
「そ!そうですよね!いやー良く分かんなくてすみません!…いや、ちょっと実際に触らないと分かんないのかなー?なんて思い違いしてて…恥ずかしい奴ですよね!」
『ああ、女の側に抵抗のある部分だからな…触らずとも探知魔法の走査で出来る様にした』
抵抗の有る部分を触って欲しいのだった。
そして神官様はやっぱり紳士だった。
『走査感は全体に感じた筈だが…』
え?…確かに感じたけどここで感じてないって言ったら触ってくれるかも?
…どうしよう?
「た、確かに…う」
正直に言ったら涙が出て来た…私ちっちゃ過ぎるだろ!
『お、おい?』
見ると両手で神官様の手を掴んでいた。
「あの、あ!その…いや、急がないと大変だし!次に進まないとアレだけど…ちょ、ちょっとと言うか…何言ってんだ私!」
ため息が聞こえた。
そして『これも神意か…』と神官様は言った。
『そうだな…陰部の状態はラーガドルーにお仕えするのにとても重要な部位。念を入れて調べぬとな』
紳士な神官様に破戒坊主みたいな事言わせてしまった罪悪感で私は俯いてしまった。
でも、なんでそれして欲しいってあんなグダグダなセリフで分かったんだろう?
神官様は手を伸ばして私のアソコを触診で調べてくれた。
そのやり方は手慣れていて全然厭らしくなかった。
もしかしたら古法の手順があるのかも知れなかった。
対する私は声を上げない様に必死で我慢するだけで精一杯だった。
べとべとしたものが止め処も無く神官様の指を穢してゆき、申し訳なくも耐えられなくて神官様の親指をクリに導いて刺激して貰う事になった。
「…そ、その爪で弾いてく…くーーーーーーー!」
小声でお願いた後、その刺激でイってしまいガクガクと腰が震えて立てなくなりヘタリ込む。
そしてちらっと見ると神父様の飾りに隠れた場所は何の反応も示していなかった。
顔はもう見れない。
はは…死にたい。
…いや、すぐ死ねるから大丈夫!
火鉢に飛び込んで丸焼きになるモチベーションが最大にアップした瞬間だった。
…でも、データは取れた。神官様はどんな時でもクール!最高です。
そうしてそれは私の恥多き人生のトリを飾るに相応しいイベントとなった。
惨めで居心地のいい快感の名残りが続く中、神官様が立ち上がるのが分かった。
『ラーガドルーよ!全ての死者の主にして、平安なる死の守護者よ!黄泉の支配者にして闇の生命の創造者よ!…』
奉納文の最初のラーガドルーへの呼び掛けが始まる。
えーと、私の手順としてはこれが終わったら火鉢についてる梯子を上って縁でみんなに姿が見えるようにすればいいんだっけ?
で、主文の朗読が終わったら飛び込むと…
ともかく苦しいのは意識のある数十秒…そこを乗り切れば私は美味しい人間蛆の丸焼きになれる訳だ。
胃とか誰が食べるんだろう?
私は絶対にいやだけど…いや、私はどこも食べられない。
ぼーっと考え事をしている内に外でどよめきが聞こえて来た。
私が目を向けるとラーガドルーのシンボルの周りに煙の様なものが渦巻き始めた。
結界の内部から外は良く見える。
外からはボチボチだ。
鬼の隊長が叫ぶ。
『あんなものはコケオドシだ!怯むな!』
ふ…試して見るかね?
ゴブリン達の勢いが増し、オーク達の腰が引けて来た気がした。
呼び掛けが終了するまでにもその煙は濃さと大きさを増していった。
私が頃合いだと思って立ち上がり火鉢の方に向かおうとすると詠唱を終えた神官様がこちらを向いた。
「…もしかして上手く行ってます?」
やっぱり目を合わせられない…微妙にキョドりつつ明後日の方向を向いて話をする。失礼をお許し下さい神官様!
『ああ…あの陰気渦も説話文の通りだ。何とか途中で撤退してくれれば良いが…あ、ユールディ殿、火鉢の上に登る必要は無いぞ』
「え?でも教えて頂いた手順では…」
『構わん、そこは本質では無い。万一、結界が破れたら良い的になってしまう。何があってもそこから動くな。それから…火鉢、火輪門を潜るのは私の合図に従え。いいか?主文の終了と共にでは無いぞ…今回は何が起こるか分からないからな。左手を頭より上に掲げたらそれが合図だ。間違うなよ』
「は…はい!」
早口で指示を与えると主文の詠唱を始める神官様。
えーと、指示が有るまでここを動いちゃダメで、左手を頭より上に上げたら火鉢に飛び込むと…
そういや、皮とか血と精液塗れだけど良いのかな?本当ならラード塗り直して貰える筈なんだけど…皮が一番美味しいところなのに。
ラーガドルーへの霊旅にはまるで想像が行かず私がゴブリンの食卓に上がった時に問題が起きないかばかり心配になっていた…その時意識が残っててもそこには絶対に居ないと思うんだ…なんてったって霊旅だし。
ゴブリン達に私の皮を吐き捨てられて食えたもんじゃねえ!とか文句言われるのがそんなに嫌なのか私。
…それと自分を鶏と勘違いしていた。
神官様が陰気渦と呼んだ煙の塊はドンドン大きくなっていった。
『結界の前のカマキリどもをどかすんだ!』
鬼がそういいながら何度目かの突撃をかましてくるがその度にゴブリンの槍衾に阻まれる。
ただ、やっぱり被害は圧倒的にゴブリンが多くここを守る防御は徐々に薄くなっていった。
一方オーク達は負傷者をうまく入れ替えて常に一番状態の良い戦士達が一番弱った場所に当たる様に調整していた。
鬼の隊長は口ぶりとは反対に決して焦っていなかった。
刃の裁きを信じて居ないのだろうか?
でも、オーク隊長はその傲慢の報いを受ける事になった。
…そしてそれは私も同じだった。
一本の黒色の線が煙の合間から伸びて大広間の床に突き立っていた。
それは確かに巨大な鋼の刃に見えた…岩の床を穿ち礫を付近に跳ね飛ばし運の悪いオークの数人を撃ち倒していた。
ゴブリン達から低い響めきが上がり、オーク達が沈黙する。
そしてそれはギギギギャギャと目障りな音を立てながら床を一直線に切り裂いて行った。
途上にある全てのものを両断しながら。
…オークも、そしてゴブリンも。
広間の真ん中で戦っていた双方の戦士を血煙を上げて切り刻みながらそれは壁際で停止した。
それからもう一本が床に突き立つ。
『ガダン!引け!間も無くここは剣で埋まる…出入りが出来る内に引け!』
『貴様らも同じではないか!下らない手管はやめにするがいい!』
ゴブリン語とオーク語の応酬が両軍の指揮官の間で交わされた。
『この王国の民はこの広間のみにおるのでは無い!復讐を成す前に全滅するつもりか?』
『面白い!崖踊りか?乗ろうではないか!』
『く…』
そして鬼は傲慢さを悔いもしなかったが私は呆然としていた。
無差別だったのか!
ゴブリン達はその事を知っていたのか被害者が出た事より刃が実際に出現した事に狂喜乱舞していた。
確かにこれでゴブリンと同じくらいオークも死ぬ。だから一方的に全滅するより遥かに事態は改善したのだろうけど…
それにオークに嘲笑われながら殺されるより死なば諸共って神様に殺される方が納得出来るって分かりみ深い…けど。
「…なんでよ」
それでも私は自分の引き起こした事態の非情さにびびっていた。
…何もみんな私みたいになんなくたっていいじゃん。
この場でその事に痛ましさを感じているのは同じくそれを引き起こした神官様だけだろう…だから退いてくれればとさっき言っていたのだ…
口を開けてる訳じゃないのに舌が乾いて仕方が無かった。
二本目の刃が地を走った。
それと同時に一本目も再び動く。
けたたましい騒音と共に血煙が再び其処彼処から上がり…三本目が正面の入り口を覆う様に降臨した。
三回目に鉄刃が大広間を斬り裂いた時、フォモードと呼ばれた巨漢オークの右手が断たれた。
大刀を持った腕が宙を舞い、広間中に絶叫が響きわたる。
ゴブリン達は沸き上がり、オーク達は怒り狂った。
誰もがそちらに注目していたけど…居た堪れ無くなった私は耳を塞いでしゃがみ込んでしまった。
だから玉座の裏の例の扉が開け放たれたのに気付いたのは広間では私だけだった。
一人の護衛ゴブリンがよろよろと出て来て倒れた。
その胸には禍々しい形状のナイフが突き立っていた。
それから続いて数人のゴブリンが現れた時に私は驚いてしまった。
その中に王様が含まれて居たから…
「お、王様!」
私が思わず叫びを上げて初めて神官様も気付いた。
『王よ!その怪我は!』
神官様は私より的確に状況を把握していた。
私が良く見ると王様の右足に酷い斬り傷が有ってほかの護衛ゴブリンに支えられるように広間に入って来ていたのだった。
扉の向こうを凝視するその目は恐怖を浮かべていたと思う。
私達の呼び掛けにこちらを向くとハッと気が付いた様に目を見開いた。
そしてハッキリと私の方を向くと悲しそうな表情で首を振る。
次の瞬間に王様の胸に先ほど見た禍々しいナイフが突き立った。
『裏洞窟から敵襲!王を守れ!』と叫んだ神官様の命令はその後だった。
私は王様の脇に立つ影に注意が集中していたのでその命令がどの様な騒ぎを起こしたのかは見ていなかった。
影はあのオークだった。
最初に森で見掛けた黒い辮髪、と言うより全身が黒の醜い化け物。
その時には既に王に付き従って来た護衛は全て倒れていた。
王の首に手を当て…もしかしたら呼吸を確かめていたのかも知れない…ナイフを逆手で引き抜いたそいつはこちらを向いた。
あの時感じた恐怖が蘇り、そしてそれが予想以上に危険な存在だった事に気付いて更に恐怖が募る。
そいつはこちらを見て驚いた様に目を開けると…しかし直ぐに段下から突っ込んで来るゴブリンの方に向き直った。
そのオークがこちらを見ている間は息も出来なかったので慌てて私は息を継ぐ。
王様…目を閉じて上げたいけど…私の中の生命力みたいなものが流れ出し手足が凍えてくる。
そしてそれはゴブリン達も同様に思えた。
刃の出現時に沸き上がった意気は消し飛び、オーク達に移って行った。
『一統の子らよ!ラーガドルーが照覧されているぞ!神助を無下にするつもりか!担いの儀と王の弔いが終わるまでは我らは此処を引けぬ!オークの賊どもの首をはね、一統ここに有りと示さねば我らに生きる途はないぞ!』
一瞬麻痺状態に陥ったゴブリン達の気持ちを掻き立てる神官様の言葉はすごかったけど私には響かなかった。
…早く火輪の門を潜りたい。
私は大火鉢を見やった。
黒いオークは死そのものだった。
壇上に駆け上がって来た数人のゴブリンをあっという間に片付けてしまう。
その戦い方は広間で散々見た他のオークとは全然違っていた。
先頭の一人の一人の一撃を身を低くしてやり過ごすとそのまま足を蹴って転ばす。同時に突き出された二撃目三撃目を二撃目の懐に入り込んで躱すと手に持つ刀で首に斬りつけ倒すと同時に放り投げる様に放ったナイフが三撃目の喉に入って倒れる。
起き上がろうとする一撃目は背中から刀を心臓に突き立てられて絶命した。それからまわり込もうとした四撃目を…
素早く急所を一撃して最小限の労力で死を量産する。
野蛮な外見と異なる邪悪な知性とでも言うものを感じさせたのだ。
主文の詠唱が終わった。
最初の手順では終わったら自分で飛び込む事になっていたので終わりの句を覚えさせられたのだ。
でも神官様の詠唱は別の聖句の様なものを引き継いで続いた。
一瞬不満に思ったものの刃の裁きが唯一ゴブリンがオークに対抗出来る手段である以上仕方がなかった。
私だけ先に飛び込むって出来ないかな?
お肉の焼ける香ばしい匂いがして来たらゴブリン達の士気も上がるよ?
また耳障りな轟音を響かせて刃達が動く。
数が増えるので時間を追う毎に双方の犠牲が多くなって行く。
全滅するまでこの虚しい戦いは続くのか?
…そう思った直後に全ては唐突に終わる事になった。
ギャギャグガガガガガギギギギャギャギギギギ…それから凄まじい音がして裁きの刃が結界のすぐ脇の石段を斬り裂いた。
人垣のゴブリンと攻め寄せるオーク達の身体の破片が宙を舞いぶち当たった結界を血と臓物で汚した。
神官様の注意がそちらに向かう。
その時黒いオークの周りに誰も居なくなった一瞬が生じた。
王の仇をゴブリン達も討ちたいのは山々なのだけどオーク達がその付近の攻囲を重点的にしていたので黒オークに向かえる戦士が枯渇してしまったのだ。
『半オーク破れ!』
鬼の声が響く。
神官様も気付くけど出来たのはそれだけだった。
その声を聴くとそのオークは跳躍する様にこちらに向かって来た。
私は思わず腰が引けて火鉢の梯子に手を掛けてしまう。
厳しい顔をした神官様が杖を握り直し呪文を追加する。
それは先程までの知性を感じさせる様子とはまるで異なって見えた。
両目が燠火の様に輝き大きく頭を振りかぶると結界に頭突きを食らわしたのだ。
結界の魔法と反応したのかそいつの額が焼け焦げる様に煙を上げた。
結界の様子に変化は無いように私には思えたが神官様は驚いた様に呟いた。
『…な!なんだこの抗魔力は…ハイオークだとしても…』
ビビった私は神官様には申し訳ないけどいつでも逃げられる様に火鉢のハシゴに足を掛けてしまっていた。と言うか抱きついていた。
再びその恐ろしい頭突きを食らった時、結界は砕け散った。
煙が晴れる様に結界が消え去る。
浮き足立った私は無意識の内にハシゴを登り始めていた。
黒オークに向き直り杖を構えた神官様は魔法で対応しようと呪文を唱え始めた。
しかし直後に飛来した何本かの矢に身体を貫かれてしまう。
「し、神官様!」
悲鳴に振り向く彼は私の必死の顔を見て左手を途中まで上げ…そこで手は止まってしまった。
…どっちなの?
でも、そのまま神官様は倒れてしまった。
私はその手の意味がどちらを指すのか、そもそも指示に従うべきか考えてしまった。
そして全ての考えを振り払ってハシゴの最期の数段を登った時にそいつがこちらに迫っている事に気がついた。
こ、殺される!
「いやー!来ないで!!」
悲鳴を上げて燃え盛る炭火の中に逃げ込もうとする私をそいつは捕らえ様として失敗する。私に触れようとした時に電気の様なものが走って反発し合ったのだ。
縁に足を着いた私を熱気が私を包む。
神官様死んじゃったし…もう誰も私取り出せない。
中で炭かな?
…ちょっと悲しかった。
せめて美味しく食べて欲しかったのに…
食べるべき人は全て居なくなってしまった。
そして口を大きく開けて両手を伸ばして飛び出した私の胴に再び奴の腕が回される。
くそ!なんで邪魔すんだよ!
抗おうとした私はしかし、先ほど感じた電流が全身を走り気を失ってしまった。
--岩屋編終了
壇の上に上がる時に脇の岩面に矢が当たり弾けたけど、神官様の元に飛び込むと例の障壁に阻まれて続く矢は阻まれた。
「し、神官様、あの…」
『時間が無い…アドバ!連中を起こさせるな!』
「…担いの儀式は?」
『中止だ!…お前はあの扉から王を追え!それから岩屋を出たら行きたいところに行っても良いと言うのが王の言葉だ!』
「い…いえ、ちょっと待って…伝えないとならない事が…」
『時間が無いのが分からないのか!』
神官様はそこで初めて私の方を向いて叱る。
ごめんなさい…でも
「お…お願いします!一言なんです!刃の裁き!そう伝えれば分かるって!」
それからの神官様の反応は私の期待していたものと違った。
『刃の裁きだと?誰から聴いた?』
「あ…」
私は口ごもってしまう。
あの声がラーガドルーの物だとは私自身が確信している訳じゃ無いのだ。
さっきの事とか私の中では有り得る話だと思っていたけど人に説明出来る様なものじゃ無かった。
『大方年寄りから聞いたのだろうが…』
「あの!どう言う事でしょうか?」
私を説得するのに必要だと思ったのか神官様はため息を吐いて話をする。
『大昔、担いの儀式を邪魔しようとした帝国軍が神威によって生まれた刃によって滅ぼされたと言う話だ』
「!じゃあ、儀式を再開すれば?」
『いいか、ユールディ。それはただの神話だ。奇跡は魔法の様にこうすればこうなると言うものでは無いのだ。信心深い事はいい事だが信心深すぎるのは愚かな事なのだぞ…』
ただの神話…と言った。
…神官様は信じて居なかった。
…神官様はとても偉くて頭が良かったけどそれ故に神様を本当の意味で信じては居ないように見えてしまった。
…ラーガドルーはこの人の中では人々を導く為の道具でしか無かったのだろうか?
そう言えばなぜラーガドルーは直接神官様に言葉を伝え無かったんだろう?
私が不満たっぷりな事が分かったのか神官様はこう続けた。
『お前は生きろ!我らが民の物事にこれ以上関わる必要は無いのだ!王命だからだけでは無い、お前は死ぬには惜しい者だと私…』
そこまで言って神官様は向こうを振り向いた。
鬼の咆哮に反応したのだ。
向こうを見るとガダンと言われた鬼に突撃してしたゴブリン達が押し戻されていた。
戦況は一刻の予断も許さない局面になっていた。
それでも、神官様は何も分かっていなかった…
…ゴブリンのちんぽ一杯しゃぶったのに。
…レイプされてるのに頑張って発情してアヘ顔晒しまくったのに。
…吐いたゲロ全部啜ってゴキブリまで食べたのに。
私だってさっきまでラーガドルーがいるなんて全然信じていなかったけど…
でも、それで耐えられたのは神官様や王様がラーガドルーとその恵みを信じていてその為にしていると思ったからだった…その恵みとか加護が本当に国を守る為に必要だと思っていると信じたから。
全然信じて居なくてただあのゴブリン達の不満解消の為に私は殺されようとして居たのだろうか?
だったらあの不満分子と同じじゃ無いか!
いや、自分の欲望の為とハッキリしている不満分子達の方が遥かに正直だった。
そうなら新法が始まる時に儀式は全部止めるべきだった。
幾ら苦しみが少なくなるって言っても生け贄は死ぬんだ。
だったら私の前に殺された生け贄の子達は全部無駄死にって事になるじゃ無いか!
逃げろとかあり得なかった…ちょっとオークに攻められたくらいで止めちゃうもんなら最初からやるなよ!死んでも信じた振りしろよ!
『…だから早く行け!』
一発魔法を放った神官様が向こうを向いたまま叱咤する。
「イヤです!私は…ユールディはラーガドルーの元に参ります!」
私は同じくらい強い口調で叫ぶ。
神官様は思わずこちらを振り向いた。
彼は私が今まで見た顔の中で一番驚いた表情をしていた。
『な…』
「だってこのまま行っても勝ち目無いじゃ無いですか?あのガダンとか言うオークの所に攻めってた人達ももう半分も居ないし…何か手があるんですか?神官様」
『わ、私が直接…』
「王様は誰が守るんですか?」
『…』
「刃の裁きを…神官様にはそれを信じる義務が有ると思います」
なんか私カタストロフィ映画の終盤とかに出て来る狂信者そのものだな…でも、刃の裁きなんて言葉をそれまで聞いた事も無かったのにそれが状況にぴったりとハマっているのも事実だ。
神官様は私の事を改めてマジマジと見詰めた。
…うわ、照れる。
『刃の裁き…今ここでか?』
「こ、ここ、ここで、です」
緊張してかなり吃ってしまう。
でも、神官様の立場でそんな神頼みとかしてる場合じゃ無いのも確かだ。
それに幾らラーガドルーの言葉が真実だったとしてそれが本当に一番良い事なのかも分からない。
「…う、やっぱり良く分からないです」
私は間違った事を言った気持ちになってしまい後悔する。
良く考えなくても出しゃばり過ぎだった。
神官様は大きく息を吸うと向こうを向いてしまう。
…い、言う事だけは言ったし!
それから彼は呪文を唱えると杖を岩肌に突き立てた。
どう見ても木なのに岩を穿っていた。
先程までの結界に様々な色が加わりグッと拡がって行く。
『我らが一統よ!これより担いの儀式を再開する!』
ザワッとした雰囲気がゴブリン達の間に広がる。
『神意が降った…ラーガドルーは担い手を切に欲しておられる。それに従うが我が民の義務である!そして…まつろわぬ異邦人には刃の裁きが下るとの預言が担い手を通じてもたらされた!』
神官様がそう宣言するとゴブリン達から怒号に近い様な歓声が上がった。
『この破邪の封には何人たりとも触れさせては成らぬ。お前達は神威が満ちるまでここと玉座を死所と心得て守り切れ!』
モラルが上がったゴブリン達が崩れ掛けた人垣を結び直して行く。
さらに神官様の声を聞き付けてフォモードと黄色帽子に追い掛け回されていたゴブリン援軍が間を縫ってこちらに殺到しだした。
段下は大混乱に陥りつつあった。
『確認の儀を行う』
おお!そう言えばそのステップが有った。
生命素と身体の状態がラーガドルーの元に行くのに相応しい状態になっているか調べてもらう儀式だ。
楽しくレイプされてた時にこの儀の時に間違いが起きて神官様に犯して貰う妄想でバーストさせたのを思い出した…いや、私、リアルなセックス妄想はゴブリンボディとちんぽ使う以外に無いんですよね。それでちゃんとしてくれそうなちんぽで王様以外と言えば神官様しか思い付かなかったのだ。
本当にしてくれるなら吝かで無いけど儀式に無い事を神官様がする訳無いし、なんで私思い出したんだろう?
神官様は私の頭から撫でる様に身体の様子を調べて行った。
それは丁寧で確信に満ちていた。
お医者の触診の様でイヤらしさはまるで無かったけどそれは神官様の側だけだった。
私はこの手の接触にはよほど辛い状態じゃ無いと即発情してしまう。
きっと美人だったらお医者の方もそれなりに反応して気不味い経験をして抑制されて行くんだろうけど…私の場合は優しく職業的に流してくれるので安心して反応させていたのだ。でも顔見知りになると恥ずかしいので触診を経験するたびお医者を変えていた…私は元の世界から充分ビッチだった。
そして今…私は何故だか安心し切ってしまいあんあん声を出していた。
神官様はちょっと困った様子だったが首を振ると何事も無かった様に調べを続けた。きっと私の辛い経験を慮ってこんなになってしまったのも仕方ないって思ったに違い無かった…そう言う事にする。
肩の矢傷の様子を調べ痛みを聞かれる。
「はあん…だあいじょうぶでぇす…あん!」
…神官様本当にごめんなさい!
ユールディは色々あっておバカでビッチな女の子に成り下がってしまいました…違います嘘吐きました元からです。
お願いですから躾けて下さい!
『確かに傷口に治癒の跡がある…やはりラーガドルーの恩寵なのか?』
真剣に考える神官様に私の心の声は届いて居ないようだった…悲つい。
そう言えば矢はどこで外れたんだろう?
胸は軽く流されてしまった。
亜人だって大きな胸は好きな癖に…段下のゴブリン達に揉まれたり舐め回された記憶が蘇り余計辛くなってしまった。
…そうだ、次だ!
そう言えば私が集めた生命素は規定に少し足りなかった。
足りないとなればどうなるのだろう?…補充?
そうか…補充か…補充しかないよね。
『ふむ…これだけ有ればラーガドルーもお気を悪くする事も有るまい』
ピリッと魔力の様なものが走り神官様は私の胃の辺りに当ていた手を離した。
「…」
『どうした?辛いところとか有るのか?』
主にお腹の奥の辺りが!
更に全身に転移して治療不能になりつつ有ります!
「…いえ、大丈夫です」
『最後は女性器だな』
はい…私は透明な笑顔で答えた。
私は燃え尽きていた。
まだ妙な記憶から燃え広がった欲情は身体の中を荒れ狂っていたし、アソコは生理的に洪水となっていたけどちゃんと諦めた。クールで実際的な神官様は私のあんあん攻撃にはまるで屈せず…と言うか一顧だにしなかった。
下を触れば瞭然だろうけどそれも充分予期してるし流されるだけだろう。
でもまあちょっとはアソコ触って貰える訳だ。
そうすれば神官様が微妙なところに触る時の感じのデータが取れる。
…そうすれば!
さすれば!
その最後の1ピースが手に入れば後はこの鍛え上げた妄想力で壮大な絵巻を書き上げる所存!
拙者その絵巻を携えて霊旅の無聊を慰める侍とならん!
『ふむ…心配したが全く問題ない様だ。女どもを連れて来れなかったので支障が有れば困ったところであったが』
胃と同じ様に私の下腹部から手を離した神官様が笑う。
『これにて…』
「あ…アソコはいいのですか?」
思わず口に出てしまう。
ほぼ同じニュアンスで私は二度ほど神官様にアソコって言った事になる。
『もう調べたが?』
「そ!そうですよね!いやー良く分かんなくてすみません!…いや、ちょっと実際に触らないと分かんないのかなー?なんて思い違いしてて…恥ずかしい奴ですよね!」
『ああ、女の側に抵抗のある部分だからな…触らずとも探知魔法の走査で出来る様にした』
抵抗の有る部分を触って欲しいのだった。
そして神官様はやっぱり紳士だった。
『走査感は全体に感じた筈だが…』
え?…確かに感じたけどここで感じてないって言ったら触ってくれるかも?
…どうしよう?
「た、確かに…う」
正直に言ったら涙が出て来た…私ちっちゃ過ぎるだろ!
『お、おい?』
見ると両手で神官様の手を掴んでいた。
「あの、あ!その…いや、急がないと大変だし!次に進まないとアレだけど…ちょ、ちょっとと言うか…何言ってんだ私!」
ため息が聞こえた。
そして『これも神意か…』と神官様は言った。
『そうだな…陰部の状態はラーガドルーにお仕えするのにとても重要な部位。念を入れて調べぬとな』
紳士な神官様に破戒坊主みたいな事言わせてしまった罪悪感で私は俯いてしまった。
でも、なんでそれして欲しいってあんなグダグダなセリフで分かったんだろう?
神官様は手を伸ばして私のアソコを触診で調べてくれた。
そのやり方は手慣れていて全然厭らしくなかった。
もしかしたら古法の手順があるのかも知れなかった。
対する私は声を上げない様に必死で我慢するだけで精一杯だった。
べとべとしたものが止め処も無く神官様の指を穢してゆき、申し訳なくも耐えられなくて神官様の親指をクリに導いて刺激して貰う事になった。
「…そ、その爪で弾いてく…くーーーーーーー!」
小声でお願いた後、その刺激でイってしまいガクガクと腰が震えて立てなくなりヘタリ込む。
そしてちらっと見ると神父様の飾りに隠れた場所は何の反応も示していなかった。
顔はもう見れない。
はは…死にたい。
…いや、すぐ死ねるから大丈夫!
火鉢に飛び込んで丸焼きになるモチベーションが最大にアップした瞬間だった。
…でも、データは取れた。神官様はどんな時でもクール!最高です。
そうしてそれは私の恥多き人生のトリを飾るに相応しいイベントとなった。
惨めで居心地のいい快感の名残りが続く中、神官様が立ち上がるのが分かった。
『ラーガドルーよ!全ての死者の主にして、平安なる死の守護者よ!黄泉の支配者にして闇の生命の創造者よ!…』
奉納文の最初のラーガドルーへの呼び掛けが始まる。
えーと、私の手順としてはこれが終わったら火鉢についてる梯子を上って縁でみんなに姿が見えるようにすればいいんだっけ?
で、主文の朗読が終わったら飛び込むと…
ともかく苦しいのは意識のある数十秒…そこを乗り切れば私は美味しい人間蛆の丸焼きになれる訳だ。
胃とか誰が食べるんだろう?
私は絶対にいやだけど…いや、私はどこも食べられない。
ぼーっと考え事をしている内に外でどよめきが聞こえて来た。
私が目を向けるとラーガドルーのシンボルの周りに煙の様なものが渦巻き始めた。
結界の内部から外は良く見える。
外からはボチボチだ。
鬼の隊長が叫ぶ。
『あんなものはコケオドシだ!怯むな!』
ふ…試して見るかね?
ゴブリン達の勢いが増し、オーク達の腰が引けて来た気がした。
呼び掛けが終了するまでにもその煙は濃さと大きさを増していった。
私が頃合いだと思って立ち上がり火鉢の方に向かおうとすると詠唱を終えた神官様がこちらを向いた。
「…もしかして上手く行ってます?」
やっぱり目を合わせられない…微妙にキョドりつつ明後日の方向を向いて話をする。失礼をお許し下さい神官様!
『ああ…あの陰気渦も説話文の通りだ。何とか途中で撤退してくれれば良いが…あ、ユールディ殿、火鉢の上に登る必要は無いぞ』
「え?でも教えて頂いた手順では…」
『構わん、そこは本質では無い。万一、結界が破れたら良い的になってしまう。何があってもそこから動くな。それから…火鉢、火輪門を潜るのは私の合図に従え。いいか?主文の終了と共にでは無いぞ…今回は何が起こるか分からないからな。左手を頭より上に掲げたらそれが合図だ。間違うなよ』
「は…はい!」
早口で指示を与えると主文の詠唱を始める神官様。
えーと、指示が有るまでここを動いちゃダメで、左手を頭より上に上げたら火鉢に飛び込むと…
そういや、皮とか血と精液塗れだけど良いのかな?本当ならラード塗り直して貰える筈なんだけど…皮が一番美味しいところなのに。
ラーガドルーへの霊旅にはまるで想像が行かず私がゴブリンの食卓に上がった時に問題が起きないかばかり心配になっていた…その時意識が残っててもそこには絶対に居ないと思うんだ…なんてったって霊旅だし。
ゴブリン達に私の皮を吐き捨てられて食えたもんじゃねえ!とか文句言われるのがそんなに嫌なのか私。
…それと自分を鶏と勘違いしていた。
神官様が陰気渦と呼んだ煙の塊はドンドン大きくなっていった。
『結界の前のカマキリどもをどかすんだ!』
鬼がそういいながら何度目かの突撃をかましてくるがその度にゴブリンの槍衾に阻まれる。
ただ、やっぱり被害は圧倒的にゴブリンが多くここを守る防御は徐々に薄くなっていった。
一方オーク達は負傷者をうまく入れ替えて常に一番状態の良い戦士達が一番弱った場所に当たる様に調整していた。
鬼の隊長は口ぶりとは反対に決して焦っていなかった。
刃の裁きを信じて居ないのだろうか?
でも、オーク隊長はその傲慢の報いを受ける事になった。
…そしてそれは私も同じだった。
一本の黒色の線が煙の合間から伸びて大広間の床に突き立っていた。
それは確かに巨大な鋼の刃に見えた…岩の床を穿ち礫を付近に跳ね飛ばし運の悪いオークの数人を撃ち倒していた。
ゴブリン達から低い響めきが上がり、オーク達が沈黙する。
そしてそれはギギギギャギャと目障りな音を立てながら床を一直線に切り裂いて行った。
途上にある全てのものを両断しながら。
…オークも、そしてゴブリンも。
広間の真ん中で戦っていた双方の戦士を血煙を上げて切り刻みながらそれは壁際で停止した。
それからもう一本が床に突き立つ。
『ガダン!引け!間も無くここは剣で埋まる…出入りが出来る内に引け!』
『貴様らも同じではないか!下らない手管はやめにするがいい!』
ゴブリン語とオーク語の応酬が両軍の指揮官の間で交わされた。
『この王国の民はこの広間のみにおるのでは無い!復讐を成す前に全滅するつもりか?』
『面白い!崖踊りか?乗ろうではないか!』
『く…』
そして鬼は傲慢さを悔いもしなかったが私は呆然としていた。
無差別だったのか!
ゴブリン達はその事を知っていたのか被害者が出た事より刃が実際に出現した事に狂喜乱舞していた。
確かにこれでゴブリンと同じくらいオークも死ぬ。だから一方的に全滅するより遥かに事態は改善したのだろうけど…
それにオークに嘲笑われながら殺されるより死なば諸共って神様に殺される方が納得出来るって分かりみ深い…けど。
「…なんでよ」
それでも私は自分の引き起こした事態の非情さにびびっていた。
…何もみんな私みたいになんなくたっていいじゃん。
この場でその事に痛ましさを感じているのは同じくそれを引き起こした神官様だけだろう…だから退いてくれればとさっき言っていたのだ…
口を開けてる訳じゃないのに舌が乾いて仕方が無かった。
二本目の刃が地を走った。
それと同時に一本目も再び動く。
けたたましい騒音と共に血煙が再び其処彼処から上がり…三本目が正面の入り口を覆う様に降臨した。
三回目に鉄刃が大広間を斬り裂いた時、フォモードと呼ばれた巨漢オークの右手が断たれた。
大刀を持った腕が宙を舞い、広間中に絶叫が響きわたる。
ゴブリン達は沸き上がり、オーク達は怒り狂った。
誰もがそちらに注目していたけど…居た堪れ無くなった私は耳を塞いでしゃがみ込んでしまった。
だから玉座の裏の例の扉が開け放たれたのに気付いたのは広間では私だけだった。
一人の護衛ゴブリンがよろよろと出て来て倒れた。
その胸には禍々しい形状のナイフが突き立っていた。
それから続いて数人のゴブリンが現れた時に私は驚いてしまった。
その中に王様が含まれて居たから…
「お、王様!」
私が思わず叫びを上げて初めて神官様も気付いた。
『王よ!その怪我は!』
神官様は私より的確に状況を把握していた。
私が良く見ると王様の右足に酷い斬り傷が有ってほかの護衛ゴブリンに支えられるように広間に入って来ていたのだった。
扉の向こうを凝視するその目は恐怖を浮かべていたと思う。
私達の呼び掛けにこちらを向くとハッと気が付いた様に目を見開いた。
そしてハッキリと私の方を向くと悲しそうな表情で首を振る。
次の瞬間に王様の胸に先ほど見た禍々しいナイフが突き立った。
『裏洞窟から敵襲!王を守れ!』と叫んだ神官様の命令はその後だった。
私は王様の脇に立つ影に注意が集中していたのでその命令がどの様な騒ぎを起こしたのかは見ていなかった。
影はあのオークだった。
最初に森で見掛けた黒い辮髪、と言うより全身が黒の醜い化け物。
その時には既に王に付き従って来た護衛は全て倒れていた。
王の首に手を当て…もしかしたら呼吸を確かめていたのかも知れない…ナイフを逆手で引き抜いたそいつはこちらを向いた。
あの時感じた恐怖が蘇り、そしてそれが予想以上に危険な存在だった事に気付いて更に恐怖が募る。
そいつはこちらを見て驚いた様に目を開けると…しかし直ぐに段下から突っ込んで来るゴブリンの方に向き直った。
そのオークがこちらを見ている間は息も出来なかったので慌てて私は息を継ぐ。
王様…目を閉じて上げたいけど…私の中の生命力みたいなものが流れ出し手足が凍えてくる。
そしてそれはゴブリン達も同様に思えた。
刃の出現時に沸き上がった意気は消し飛び、オーク達に移って行った。
『一統の子らよ!ラーガドルーが照覧されているぞ!神助を無下にするつもりか!担いの儀と王の弔いが終わるまでは我らは此処を引けぬ!オークの賊どもの首をはね、一統ここに有りと示さねば我らに生きる途はないぞ!』
一瞬麻痺状態に陥ったゴブリン達の気持ちを掻き立てる神官様の言葉はすごかったけど私には響かなかった。
…早く火輪の門を潜りたい。
私は大火鉢を見やった。
黒いオークは死そのものだった。
壇上に駆け上がって来た数人のゴブリンをあっという間に片付けてしまう。
その戦い方は広間で散々見た他のオークとは全然違っていた。
先頭の一人の一人の一撃を身を低くしてやり過ごすとそのまま足を蹴って転ばす。同時に突き出された二撃目三撃目を二撃目の懐に入り込んで躱すと手に持つ刀で首に斬りつけ倒すと同時に放り投げる様に放ったナイフが三撃目の喉に入って倒れる。
起き上がろうとする一撃目は背中から刀を心臓に突き立てられて絶命した。それからまわり込もうとした四撃目を…
素早く急所を一撃して最小限の労力で死を量産する。
野蛮な外見と異なる邪悪な知性とでも言うものを感じさせたのだ。
主文の詠唱が終わった。
最初の手順では終わったら自分で飛び込む事になっていたので終わりの句を覚えさせられたのだ。
でも神官様の詠唱は別の聖句の様なものを引き継いで続いた。
一瞬不満に思ったものの刃の裁きが唯一ゴブリンがオークに対抗出来る手段である以上仕方がなかった。
私だけ先に飛び込むって出来ないかな?
お肉の焼ける香ばしい匂いがして来たらゴブリン達の士気も上がるよ?
また耳障りな轟音を響かせて刃達が動く。
数が増えるので時間を追う毎に双方の犠牲が多くなって行く。
全滅するまでこの虚しい戦いは続くのか?
…そう思った直後に全ては唐突に終わる事になった。
ギャギャグガガガガガギギギギャギャギギギギ…それから凄まじい音がして裁きの刃が結界のすぐ脇の石段を斬り裂いた。
人垣のゴブリンと攻め寄せるオーク達の身体の破片が宙を舞いぶち当たった結界を血と臓物で汚した。
神官様の注意がそちらに向かう。
その時黒いオークの周りに誰も居なくなった一瞬が生じた。
王の仇をゴブリン達も討ちたいのは山々なのだけどオーク達がその付近の攻囲を重点的にしていたので黒オークに向かえる戦士が枯渇してしまったのだ。
『半オーク破れ!』
鬼の声が響く。
神官様も気付くけど出来たのはそれだけだった。
その声を聴くとそのオークは跳躍する様にこちらに向かって来た。
私は思わず腰が引けて火鉢の梯子に手を掛けてしまう。
厳しい顔をした神官様が杖を握り直し呪文を追加する。
それは先程までの知性を感じさせる様子とはまるで異なって見えた。
両目が燠火の様に輝き大きく頭を振りかぶると結界に頭突きを食らわしたのだ。
結界の魔法と反応したのかそいつの額が焼け焦げる様に煙を上げた。
結界の様子に変化は無いように私には思えたが神官様は驚いた様に呟いた。
『…な!なんだこの抗魔力は…ハイオークだとしても…』
ビビった私は神官様には申し訳ないけどいつでも逃げられる様に火鉢のハシゴに足を掛けてしまっていた。と言うか抱きついていた。
再びその恐ろしい頭突きを食らった時、結界は砕け散った。
煙が晴れる様に結界が消え去る。
浮き足立った私は無意識の内にハシゴを登り始めていた。
黒オークに向き直り杖を構えた神官様は魔法で対応しようと呪文を唱え始めた。
しかし直後に飛来した何本かの矢に身体を貫かれてしまう。
「し、神官様!」
悲鳴に振り向く彼は私の必死の顔を見て左手を途中まで上げ…そこで手は止まってしまった。
…どっちなの?
でも、そのまま神官様は倒れてしまった。
私はその手の意味がどちらを指すのか、そもそも指示に従うべきか考えてしまった。
そして全ての考えを振り払ってハシゴの最期の数段を登った時にそいつがこちらに迫っている事に気がついた。
こ、殺される!
「いやー!来ないで!!」
悲鳴を上げて燃え盛る炭火の中に逃げ込もうとする私をそいつは捕らえ様として失敗する。私に触れようとした時に電気の様なものが走って反発し合ったのだ。
縁に足を着いた私を熱気が私を包む。
神官様死んじゃったし…もう誰も私取り出せない。
中で炭かな?
…ちょっと悲しかった。
せめて美味しく食べて欲しかったのに…
食べるべき人は全て居なくなってしまった。
そして口を大きく開けて両手を伸ばして飛び出した私の胴に再び奴の腕が回される。
くそ!なんで邪魔すんだよ!
抗おうとした私はしかし、先ほど感じた電流が全身を走り気を失ってしまった。
--岩屋編終了
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