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岩屋編 被食ディペンデンス
最初の罰
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そこは森の中だった。
学校の下履きのまま苔むす大きな岩の上に立っていた私は直ぐに酷い胸の圧迫感に息が出来なくなった。
「ブ、ブラ?」
どう言う理屈だろう?
あの女の事務所では平気だったのに…やっぱりあそこは現実世界では無かったのだろうか?
慌ててブラのホックを外そうとするけど焦りで上手く行かない。
情けない恰好で踊っていた私は足を滑らして岩から落ちてしまった。
バチン!
張り詰められていたストラップの片方が無理な圧力が加わったのか千切れる。
「痛った…」
ちょうど絡んでいた親指がヒリヒリする。
ただ幸いな事に下は腐葉土が盛り上がっていた為腰への衝撃はあまりなかった。
ようやく少し楽になって冷静になった私は上着を外すともう片方のストラップを外してブラを付け直す。アンダーはほとんど変わっていなかったからだ。
多分だけど、ブレザーとワイシャツの上をはだけてブラから零れ落ちそうな胸を抱えた姿はすごく扇情的に見えると思う。
私は慌ててきょろきょろと周りを見回す。
男…恐らく人間に近い種族も含めて雄に見つかったら破滅だ。
あの女はそう言っていた。
私の美しさは種族を超えると。
善意で言われたら半信半疑だったろうけどあの女は明確な悪意を持ってそう言ったのだ。
間違い無く私の身体や顔は男を惹きつける。
そして最悪な形で反応を引き出すんだろう…
さすがに普通の動物や植物は大丈夫だと思うけど…私に色々付けたチート?と言って良いのだろうか?能力はどこかファンタジー染みていた。
種族と言うのはそう言った世界のエルフやオークみたいな存在を指すに違いない。いや、そうであって欲しかった。
蟻やゴキブリやネズミが群がって私のあそこに侵入して来たら絶対に気が狂える自信がある。
動くものは取り敢えず発見できなかった。
ほっとすると同時にまた涙が込上げてきた。
学校では孤立気味で標的にされる事も多かった。
何をしても排除される側に回ってしまうのは自分に問題があるからって何度も反省をした。
だから私が何か不利な目に合うのは仕方が無いとは思う。
…でも、これはあんまりだった。
あの女は今の自分に問題があるから地獄に堕ちるとすら言ってくれなかった。
これじゃどう反省すればしょうがないって思えるんだろう?
転生体ってなんなんだ?
しかも後世だ。
前世の祟りって聞いた事あるけど未来の、しかも自分が死んだ後の事までなんで今の私が責任取らなきゃならないんだろう?
おかしすぎるだろ!
頭に来て顔を上げると胸元に空気が入り込んでしまう…肌に当たる風が少しひんやりとした。
それと共にどこからから忍び込むように疑念が頭に流れ込む。
でも…今の私が一番簡単だったのかな?
誰だって何かしようとしたら一番やり易いところから攻める。
何でもしょうがないって諦めて直ぐに自分が悪いって反省する今の私は自分で考えてもチョロかった。勿論ほとんどの場合は本当に自分が悪いんだけど。
本当にしょうがない…
少し納得した。
本当は納得しちゃダメだと思うけど、今の私が一番チョロいって事はこれからの私はもっとしっかりする筈だ。その内何かああ言う神様みたいな連中を困らせるぐらい手が付けられなくなるんだ。
今を何とかやり過ごせばきっと良くなる…
ありったけの都合の良い考えを掻き集めて何とか立ち上がった私はブラのカップがずり落ちない様に調整する。
色々足りない…ウエストのサイズがいきなり小さくなったのはうれしいけどシャツは凹凸が増えて丈が足りなくなっていた。巻き込んだり諦めたりで何とか着込む。
なんか頼りないけどブレザーを着て上から抑えれば移動出来るかも知れない。
とにかく周りに何があるだけでも確認しないと。
そう思って岩陰から出ようとした私は慌てて裂け目の一つに引っ込んだ。
視界の端で何か動いたのだ。
私は捩くれた蔓の葉陰からそちらを覗き見た。
それは最初大きめの人の様に見えた。
しかし茂みから出て油断なく辺りに気を配る人型は人間には見えなかった。
人では有り得ない位に盛り上がった筋肉。
異形の頭部、特に醜く広がって突き出した鼻と犬の様な尖った耳はそれが被り物でなかったら人間とは違う種族に間違いない。
黒の辮髪を後ろに垂らし黒革の鎧と幅広の三日月に見える刀を装備した姿はある種の文化を持っている事を思わせたけどそれが文明的だとはとても思えなかった。
考え込むようにその亜人が顎に手を当て唸りを上げると乱杭歯のような牙が現れた。
背筋が凍る。
あの女が指し示した運命がすぐ近くまで迫っているのを感じて私は息が出来なくなってしまう。
そいつがチラリとこちらを見た気がした。
こっちにこないで!
心の中で叫びをあげた私が出来ることはただ震えることだけだったけど。
運の良い事にそのモンスターは直後に何かに気が付いた様に木々の間を見据えるとそちらに立ち去る。
そいつの姿が消えても数分は身じろぎ一つ出来なかった。
その後は過呼吸を起こした様に岩肌に手を突き空気を補給することしか出来なかった。
オーク?
ゲームや小説、アニメで定番の悪役だけど最近はそれをひっくり返したキャラ付けをされる事もあるモンスターにあいつは似ていた。
しかし現実に見た異形の亜人は醜悪でただひたすら恐ろしかった。
ここは私を罰する為の世界なのだ。
それが私(にんげん)に優しい筈が無かった。
私はオークが消えた森の奥を穴があくほど見つめて戻ってくる気配が無いのを確認すると反対側に向かっておっかなびっくりと歩み始めた。
森は春の雰囲気を強く漂わせていた。
下草や木々の葉っぱは若草色に輝いて生命の恵みを振り撒いていたけど私の心は凍り付いたままだった。
ここがファンタジーな世界ならおそらくああ言った亜人の種族が沢山あってその内の何種類かは人間に敵対的なのかも知れなかった。
最悪なのはそう言う亜人に捕まって性奴隷にされる事だろう。
人間については良く分からなかった。
普通、凄い美人になったら絶対に有利で損な事は無いと思う。
でも、あの女はそれが丸で呪いの様に話していた。
私はその話し方に焦って色々心配してるけど本当は如何なのだろう?
美人は良く思われる。
美人は注目される。
美人は良くしてもらえる。
美人の意見の方が通る。
美人は愛される。
美人は欲情される。
まあ、人里離れたところでは気を付けなきゃならないけどそれを補って余りあるメリットだ。別に私は修道女じゃ無いんでちゃんと愛してくれるなら多少乱暴に犯されてもOKだ…と言うか私のはーとのお値段はとってもお安いので多少不幸っぽくても明からさまに虐められ無い限り結構大丈夫。
…あの女は戦略間違った?
いや、違う。あの女は国同士が争う程って言った。
何世紀に一人って程の超絶美人だと話は変わるんだろうか?
世界で一番の美人は世界で一番によく思われる。
世界で一番の美人は世界で一番注目される。
世界で一番の美人は世界で一番良くしてもらえる。
世界で一番の美人の意見は世界で一番通る。
世界で一番の美人は世界で一番愛される。
世界で一番の美人は世界で一番欲情される。
これは…不幸の臭いがし始めた。
いや、成り上がる根性がある奴だったら凄く幸福になるか凄く不幸になるかの二択に持ち込めるだろう。
…でも私なのだ。
世界で一番の美人は世界で一番嫉妬される。
世界で一番の美人は世界で一番好奇の目に晒される。
世界で一番の美人は世界で一番狙われる。
世界で一番の美人は世界で一番権力闘争のターゲットになる。
世界で一番の美人は愛さなかった全ての男と全ての女から憎悪される。
世界で一番の美人は出会う男全てに欲情される。
そう言う負の側面を上手く回避する事とか絶対に無理だ。
それにここが現代社会みたいに社会が発達して人権が保障されてるならまだしも中世レベルだったら争いも暴力的で専制的だろう…権力者=男の都合でとんでもない目に遭ったり、戦争が始まったりし兼ねない。
まんまイーリアスの世界だけど、一番とか付くと男の権勢欲とか征服欲と結び付くから更に酷い事になるだろう。
絶対に無理…
…あの女の戦略は巧妙だった。
私が残念な人間である事は分かっていて位打ち
ムリゲー
みたいな事を仕掛けているのだ。
じゃあ、私が幸福になる可能性はゼロなんだろうか?
あの女は私の容姿は亜人にも魅力的といった。
ただそうは言っても純粋な人間とは区別して話した。
それは亜人に対してはそれほど呪われて作用しないって事では?
だったらエルフやドワーフみたいな中立的でそれでいて社会がある程度進歩しているような亜人の集落に匿って貰えれば…例え犯されてしまうにしろ多少は自由が効く生活が出来るかも?
都合がいい考えだとは思うけど希望が全然ない訳じゃない。
それで言うなら隠遁した魔法使いみたいな孤立して力のある存在にたどり着けば逆に強く愛されて生き延びる事さえ出来るんじゃないだろうか?足元を見られたって一人に奉仕する方が絶対に楽だ。
…と、そこまで考えてそれが馬鹿な事だって気付く。
私が見掛けたのはたった一人の亜人だけなのだ。
それでこの世界の事を分かったように色々考えるとか何様だろう…私はそもそも変わった筈の自分の顔すら確認していないのだ。
私は唾を呑み込んだ。
もしかしたら途轍もなくひどい顔に変えられていてこんな思い込みで考えているのを嘲笑われている可能性だってあるのだ。それは幾ら私でもショックだった。
あの女は何も約束していない…ただ色々と宣告しただけなのだ。
私は罰を受けるためにここに来た。
茂みを一つ掻き分けると審判を受けるのに丁度いい池が目の前に広がった。
当然の様に私は怖気づいてしまった。
木の根が絡まった岸辺に足を踏み込もうとしたものの一歩も前に進めなくなってしまう。
これからの行動を決めるのにも必要だとは思うのだけれども。
池の水面は鏡そのもので対岸の森を映した下には遠くの穏やかに煙を上げる火山と青空が反映していた。
穏やかな光景だった。
小鳥の鳴き声が聴こえてくる。
急にこの世界がリアルなものに感じられ始めた。
ここは何処なのだろう?
どんな国が有ってどんな人々が住んでいるんだろう?
私もよく投稿サイトに異世界ものを書き込んでいたのでそう言う事を想像するのは楽しかった。
現代ものは逆にリアリティが無くなると言うか辛くて進まなくなる事が多かったけど異世界ものは違った。モンスターの棲む森や魔法の都に黄昏の帝国…RPGっぽい世界から陰鬱な世界観のものでも幾らでも書いて遊ぶ事が出来た。
少しずつ書き溜めた短編や断章を読み返したかったけど服以外こっちには持ってこれなかった。
…僅かに湿気を帯びた爽やかな風が水面を揺らすがすぐに収まる。
この辺りの気候は日本に近いみたいだ。
状況が酷くなる前に家族と行った伊豆の風景によく似ていた。
あんな女に突き飛ばされる様に来たんじゃ無ければ…
思いを引き戻された私は改めて水面に目を向けた。
あと数歩前に出れば上半身が映るだろう。
呼び返された怒りが行動力を与えてくれた。
私は二歩進む。
そして先ほどのそよ風の影響が消えゆく水鏡を見詰めると息を呑んだ。
確かに私の面影は有ったけど…
髪や目の色みたいな基本的なところとか目尻のほくろとか。
でも元の私は10人前の印象の薄い顔立ちで表情を作ってもほとんど変わらないと言われていた。
でも今は違った。
ちょっと向きや表情筋を動かすだけで驚くほど印象が変わる。
鋭い表情や優しげな顔つき。
はにかんだ笑顔に開放的な笑顔。
淫蕩と言っても良い表情も浮かべる事も出来た。
高貴な威厳のある印象から少し目の周りを緩めるだけで幼いと言っても良い様な親しみのある表情に変わった。
…そしてそのどれもが目が離せなくなる程美しかった。
私はナルシストの傾向なんて持ち様が無かったけどこの顔はいっぺんで好きになった。
いや、恋をしてしまった。
…この顔なら…姿なら。
確かに国を滅ぼせる。
理性を失って誰かを奪い取るほど夢中になるなんて事現実にあるのかって思ってたけど今はよく分かる。この顔を誰かに渡すとあの女に言われたら私は何でもして阻止しようとするだろう。
性欲が加わる男だったら尚更な筈だ。
この顔を見た男達が相争う姿が簡単に想像出来た。
いや、相争わさせて国を手に入れる事も出来るかも知れない。
色仕掛けをするのもこんなに表情を作れるなら簡単だろう。
あの亜人のオモチャにされる位なら出会った権力者に次々股を開く道を選んだって良いじゃないか?
この姿だったらそう言う物語に出て来る様な悪女になる事だって出来る。
中身が残念だってこれだけチートしたなら女が出来る事は何でも上手く行くんじゃないだろうか?
普通の幸せはあの女は絶対に阻止しようとするだろう。だったらどうやってそれの裏をかくのか考えないと…
私は予想以上に美しくなっていた自分に高揚して注意力が散漫になっていた。
神話
ナルキッソス
そのままに自分の映し絵を見詰めて妄想する事に忙しくて後ろに迫る脅威には露とも気が付かなかったのだ。
その報いを受けるのは伝説より遥かに早かった。
私は何か異様な匂いのするものに口を塞がれ後ろに引き倒される。
何が起こったか全く理解出来なかった私は抵抗する事すら思いつかなかった。
汚らしい緑の腕がいく本も伸ばされ私の身体の自由を奪って行く。
担ぎ上げられる時に其奴らの顔が見えた。
その亜人はさっきのオーク?とは異なり緑でカサカサした肌をしていた。貧相な骨張った体躯にやっぱり貧相な頭が付いていた。だのにその眼だけはギラついて私の身体を舐め回す様に見たりキョロキョロと辺りを見回したりしていた。
こっちはゴブリンって言えば良いんだろうか?
ファンタジーだなーと一瞬危機的な状況にも関わらず思ってしまったのは今迄の事に何処かまだ現実感が無かったからだろうか?
森の奥に引き摺り込まれる様に運ばれ五体の化け物に胴や手足を抑えられて全く身動きが出来なくなっていた。
異様な臭いは彼等自身の体臭だった。
私の口を塞ぐ掌には疥癬やデキモノがまだらに浮かびジクジクと膿みが滲み出て異臭を放っていた。
膿みが口に入りそうになり吐き気に襲われる。
反射的に暴れる私の身体を押さえ込む様に抱え直した腕の一つが妙な動きを始めた。
胸のシャツの隙間に手先を捻り込ませようとするのだ。
暫くの間意味が分からなかった。
ただ、ブラジャーが外れているのが分かるのは困るなと言うちょっとピント外れな想いが浮かんだだけだった。
しかしそこから直ぐに意味が繋がり嫌悪感に総毛立つ事になった。
「や、やめて!」
激しく身を捩りながら拒否しようとする。
…一瞬、そいつらは顔を見合わせた。
もしかして誤解?
「あ、あの…そこはやめて下さい。ブラが壊れてて…」
それから低い嘲笑が広がるとその腕はそのまま伸び私の乳房をぐいっと握った。
「痛い!」
私が痛みに海老反り絶叫すると嘲笑は爆笑に変わった。
…ああ、輪姦(まわ)されるんだ。
私は恐怖感と無力感に襲われそれ以上何も言えなかった。
運ばれながら明からさまな動作で胸や太ももを弄
まさぐ
られる。
そいつらの手や腕が不潔だった為に四肢が物理的に汚されて行く。不快な感覚に私は耐えきれずに泣き叫んでしまいそれが一層彼等の行為を呼び起こしてしまう。
胸は乱暴に弄られて痛いばかりだったし、それよりも下半身を抱えた二匹のターゲットがハッキリと私の内股になっていて困惑してしまう。
膝を必死に閉じようとする私と脚に回された二本の腕の間で間抜けな攻防戦が行われる。
含み笑いが聞こえるが彼奴らに取っては只の遊びでも私に取っては死活問題だった。
その間にも悍ましい会話が彼等の間で交わされる。
それは私には全く理解出来ない言語だったけど何故か意味は理解出来た。
『まったくこんなとこに人間の尼っ子が居るとはよ。しかも魔力持ちみてえだ』
『ぐふ…こいつら白っちくて蛆虫見てえだが具合は良いのよ』
『なあどうすんだ?このまま岩屋の方に運ぶのかよ?』
『バカ言え…先ずは俺たちで味見だ。それでへたる様ならバラしてこっちのメシにしちまえ』その発言は私から見えない頭を抑えている化け物が発した様だった。
その余りの冷酷さに私は固まってしまう。
その隙に一本の腕が私の奥底まで到達する。
パンツ越しに一番敏感な所が捻り上げられて私は思わず下品な悲鳴を上げてしまった。
「ひぎゃあああ…」
余りの痛みに後半は息が出来ずに口をパクパクとさせるだけだ。
下ひた笑い声が広がる。
『…なんだ?この布は』
抓り上げたゴブリン?だけが奇妙なところに疑問を持った様だった。
『あ?…これは下着だな。人間やエルフの身分の高い女が着けるもんだ…へえ…そういや変わった服だが何処の国から来たんだ?』
スカートを捲って中を確かめたのは私の口を抑えた化け物だった。
身体を乗り出した為に上半身が見える。
首の周りに赤い痣が広がる一回り大きな化け物だった。
その為に私は首が変な風に捻られ息が出来なくなる。
運悪く息を吐いた所だったので窒息してしまう。彼らの行動に私に配慮する部分は一欠けらも存在しなかった。
そして私は反射的に手足をバタバタさせてしまう。ただ今のところ私の行動に対する彼奴らの対応法はただ一つ、さらにキツく拘束する事だけだった。
気道の確保がさらに難しくなり頭が痛くなる。
半ば現実逃避的にこのまま意識を失ったら助けが来るかもと考える。
…だってここは逆に言えば私の為に作られた世界なのだ。
私が心理的ダメージを受けない状況になれば全ては無駄って事になる。
不死の設定がどう作用するのかは分からないけどこのまま殺されるって展開にはならない筈だ。だったらこのまま意識を失った方があの女を困らせるんじゃないか?
…それに水面に映った私の姿を見て亜人の性奴隷って事は無いんじゃないかって思ったのだ。あの女の悪意は単純に私を蹂躙して罰を加えると言うよりもっとこの世界全体に対して何かする道具として私を送った様に思えた。
だったら私の処女ももっと有効に使う筈だ。
例えば…
『便器女の分際でふざけるな!』
私のあの女の意図に対する思考は化け物の強烈な腹パンで終わった。
「きゅああああ!ごほごほ…」
私の身体は地面に投げ出され手足が玩具の様に下生えに叩き付けられる。慌てて息を何度も吸い込んで意識を取り戻した。
『俺の質問に答えろ人間』
「へ?…あ?」
何の事か分からなかった私は間抜けな声を上げる。
擡げようとした頭が裸足の足に踏みつけられそのまま躪られる。
足裏から髪に染みた泥水が垂れて目に入りそうで私は慄いた。
『何処から来た?霊通者
ドラーゲ
。話は分かるんだろ?』
「…ど、どこって」
霊通者って今の私みたいな能力か。
”設定”には入って居なかったけど…
別に隠すつもりはないけどまず足をどけてくれないと落ち着いて話せなかった。
「あ、頭から足をどけて…そしたら話すから…」
おどおどとした口調で私は言葉を続ける。
しかしそれはゴブリン様のお気に召さなかったようだった。
足の裏で転がされ顔を小石の転がる地面に押し付けられる。
「ひゃ!ひゃめてえええ!がおだけはひゃめてええ!」
せっかく綺麗になった顔がぐちゃぐちゃにされる恐怖で私は何とか手を顔の下に差し入れようとしたけど他の化け物に阻止され手足を再び抑えられてしまう。
ごりごりと踏みにじられ何か所かが擦り切れて血が噴き出すのが分かった。
それでも暴力はお構いなしに続く。鼻が折れ額が裂けたた気がした。
…も、もうだめだ私の顔。
それからぐいと後ろから髪を引っ張られて赤首の冷酷そうな顔と対面させられた。強く押し付けられた部分が挫傷を起こして急速に腫れ上がってゆくのが分かる。
唾が吐きかけられ私の額を汚す。
『は、人間の中じゃ上玉だったんだろうが…もう、それじゃ誰にも顔見せられねえな。まあちんぽをしゃぶる口さえ動けば用は足りるから安心しろ』
あっさりと私の嵩上げされた自尊心の元は失われ元の底辺の自分が戻って来た。
そしてゴブリンに腹を立てるより水鏡をみてからの自分に対する激しい自己嫌悪が襲う。たった表皮から一センチの造作で”世界に対する道具”とか…男や整形で勘違いする連中と自分が同レベルの底の浅い人間だったと言う事がはっきりと分かってしまい、それに衝撃を受けたのだ。
「…すげーな私…」思わずつぶやくがそれは誰の興味も惹かなかった。
『まあ、どこから来たかは後で聞けばいい。壊れてなかったらだがな…おい、突っ込むから早く股を開け』
喪失感と衝撃で虚ろな表情を浮かべる私に赤首はそう言った。
学校の下履きのまま苔むす大きな岩の上に立っていた私は直ぐに酷い胸の圧迫感に息が出来なくなった。
「ブ、ブラ?」
どう言う理屈だろう?
あの女の事務所では平気だったのに…やっぱりあそこは現実世界では無かったのだろうか?
慌ててブラのホックを外そうとするけど焦りで上手く行かない。
情けない恰好で踊っていた私は足を滑らして岩から落ちてしまった。
バチン!
張り詰められていたストラップの片方が無理な圧力が加わったのか千切れる。
「痛った…」
ちょうど絡んでいた親指がヒリヒリする。
ただ幸いな事に下は腐葉土が盛り上がっていた為腰への衝撃はあまりなかった。
ようやく少し楽になって冷静になった私は上着を外すともう片方のストラップを外してブラを付け直す。アンダーはほとんど変わっていなかったからだ。
多分だけど、ブレザーとワイシャツの上をはだけてブラから零れ落ちそうな胸を抱えた姿はすごく扇情的に見えると思う。
私は慌ててきょろきょろと周りを見回す。
男…恐らく人間に近い種族も含めて雄に見つかったら破滅だ。
あの女はそう言っていた。
私の美しさは種族を超えると。
善意で言われたら半信半疑だったろうけどあの女は明確な悪意を持ってそう言ったのだ。
間違い無く私の身体や顔は男を惹きつける。
そして最悪な形で反応を引き出すんだろう…
さすがに普通の動物や植物は大丈夫だと思うけど…私に色々付けたチート?と言って良いのだろうか?能力はどこかファンタジー染みていた。
種族と言うのはそう言った世界のエルフやオークみたいな存在を指すに違いない。いや、そうであって欲しかった。
蟻やゴキブリやネズミが群がって私のあそこに侵入して来たら絶対に気が狂える自信がある。
動くものは取り敢えず発見できなかった。
ほっとすると同時にまた涙が込上げてきた。
学校では孤立気味で標的にされる事も多かった。
何をしても排除される側に回ってしまうのは自分に問題があるからって何度も反省をした。
だから私が何か不利な目に合うのは仕方が無いとは思う。
…でも、これはあんまりだった。
あの女は今の自分に問題があるから地獄に堕ちるとすら言ってくれなかった。
これじゃどう反省すればしょうがないって思えるんだろう?
転生体ってなんなんだ?
しかも後世だ。
前世の祟りって聞いた事あるけど未来の、しかも自分が死んだ後の事までなんで今の私が責任取らなきゃならないんだろう?
おかしすぎるだろ!
頭に来て顔を上げると胸元に空気が入り込んでしまう…肌に当たる風が少しひんやりとした。
それと共にどこからから忍び込むように疑念が頭に流れ込む。
でも…今の私が一番簡単だったのかな?
誰だって何かしようとしたら一番やり易いところから攻める。
何でもしょうがないって諦めて直ぐに自分が悪いって反省する今の私は自分で考えてもチョロかった。勿論ほとんどの場合は本当に自分が悪いんだけど。
本当にしょうがない…
少し納得した。
本当は納得しちゃダメだと思うけど、今の私が一番チョロいって事はこれからの私はもっとしっかりする筈だ。その内何かああ言う神様みたいな連中を困らせるぐらい手が付けられなくなるんだ。
今を何とかやり過ごせばきっと良くなる…
ありったけの都合の良い考えを掻き集めて何とか立ち上がった私はブラのカップがずり落ちない様に調整する。
色々足りない…ウエストのサイズがいきなり小さくなったのはうれしいけどシャツは凹凸が増えて丈が足りなくなっていた。巻き込んだり諦めたりで何とか着込む。
なんか頼りないけどブレザーを着て上から抑えれば移動出来るかも知れない。
とにかく周りに何があるだけでも確認しないと。
そう思って岩陰から出ようとした私は慌てて裂け目の一つに引っ込んだ。
視界の端で何か動いたのだ。
私は捩くれた蔓の葉陰からそちらを覗き見た。
それは最初大きめの人の様に見えた。
しかし茂みから出て油断なく辺りに気を配る人型は人間には見えなかった。
人では有り得ない位に盛り上がった筋肉。
異形の頭部、特に醜く広がって突き出した鼻と犬の様な尖った耳はそれが被り物でなかったら人間とは違う種族に間違いない。
黒の辮髪を後ろに垂らし黒革の鎧と幅広の三日月に見える刀を装備した姿はある種の文化を持っている事を思わせたけどそれが文明的だとはとても思えなかった。
考え込むようにその亜人が顎に手を当て唸りを上げると乱杭歯のような牙が現れた。
背筋が凍る。
あの女が指し示した運命がすぐ近くまで迫っているのを感じて私は息が出来なくなってしまう。
そいつがチラリとこちらを見た気がした。
こっちにこないで!
心の中で叫びをあげた私が出来ることはただ震えることだけだったけど。
運の良い事にそのモンスターは直後に何かに気が付いた様に木々の間を見据えるとそちらに立ち去る。
そいつの姿が消えても数分は身じろぎ一つ出来なかった。
その後は過呼吸を起こした様に岩肌に手を突き空気を補給することしか出来なかった。
オーク?
ゲームや小説、アニメで定番の悪役だけど最近はそれをひっくり返したキャラ付けをされる事もあるモンスターにあいつは似ていた。
しかし現実に見た異形の亜人は醜悪でただひたすら恐ろしかった。
ここは私を罰する為の世界なのだ。
それが私(にんげん)に優しい筈が無かった。
私はオークが消えた森の奥を穴があくほど見つめて戻ってくる気配が無いのを確認すると反対側に向かっておっかなびっくりと歩み始めた。
森は春の雰囲気を強く漂わせていた。
下草や木々の葉っぱは若草色に輝いて生命の恵みを振り撒いていたけど私の心は凍り付いたままだった。
ここがファンタジーな世界ならおそらくああ言った亜人の種族が沢山あってその内の何種類かは人間に敵対的なのかも知れなかった。
最悪なのはそう言う亜人に捕まって性奴隷にされる事だろう。
人間については良く分からなかった。
普通、凄い美人になったら絶対に有利で損な事は無いと思う。
でも、あの女はそれが丸で呪いの様に話していた。
私はその話し方に焦って色々心配してるけど本当は如何なのだろう?
美人は良く思われる。
美人は注目される。
美人は良くしてもらえる。
美人の意見の方が通る。
美人は愛される。
美人は欲情される。
まあ、人里離れたところでは気を付けなきゃならないけどそれを補って余りあるメリットだ。別に私は修道女じゃ無いんでちゃんと愛してくれるなら多少乱暴に犯されてもOKだ…と言うか私のはーとのお値段はとってもお安いので多少不幸っぽくても明からさまに虐められ無い限り結構大丈夫。
…あの女は戦略間違った?
いや、違う。あの女は国同士が争う程って言った。
何世紀に一人って程の超絶美人だと話は変わるんだろうか?
世界で一番の美人は世界で一番によく思われる。
世界で一番の美人は世界で一番注目される。
世界で一番の美人は世界で一番良くしてもらえる。
世界で一番の美人の意見は世界で一番通る。
世界で一番の美人は世界で一番愛される。
世界で一番の美人は世界で一番欲情される。
これは…不幸の臭いがし始めた。
いや、成り上がる根性がある奴だったら凄く幸福になるか凄く不幸になるかの二択に持ち込めるだろう。
…でも私なのだ。
世界で一番の美人は世界で一番嫉妬される。
世界で一番の美人は世界で一番好奇の目に晒される。
世界で一番の美人は世界で一番狙われる。
世界で一番の美人は世界で一番権力闘争のターゲットになる。
世界で一番の美人は愛さなかった全ての男と全ての女から憎悪される。
世界で一番の美人は出会う男全てに欲情される。
そう言う負の側面を上手く回避する事とか絶対に無理だ。
それにここが現代社会みたいに社会が発達して人権が保障されてるならまだしも中世レベルだったら争いも暴力的で専制的だろう…権力者=男の都合でとんでもない目に遭ったり、戦争が始まったりし兼ねない。
まんまイーリアスの世界だけど、一番とか付くと男の権勢欲とか征服欲と結び付くから更に酷い事になるだろう。
絶対に無理…
…あの女の戦略は巧妙だった。
私が残念な人間である事は分かっていて位打ち
ムリゲー
みたいな事を仕掛けているのだ。
じゃあ、私が幸福になる可能性はゼロなんだろうか?
あの女は私の容姿は亜人にも魅力的といった。
ただそうは言っても純粋な人間とは区別して話した。
それは亜人に対してはそれほど呪われて作用しないって事では?
だったらエルフやドワーフみたいな中立的でそれでいて社会がある程度進歩しているような亜人の集落に匿って貰えれば…例え犯されてしまうにしろ多少は自由が効く生活が出来るかも?
都合がいい考えだとは思うけど希望が全然ない訳じゃない。
それで言うなら隠遁した魔法使いみたいな孤立して力のある存在にたどり着けば逆に強く愛されて生き延びる事さえ出来るんじゃないだろうか?足元を見られたって一人に奉仕する方が絶対に楽だ。
…と、そこまで考えてそれが馬鹿な事だって気付く。
私が見掛けたのはたった一人の亜人だけなのだ。
それでこの世界の事を分かったように色々考えるとか何様だろう…私はそもそも変わった筈の自分の顔すら確認していないのだ。
私は唾を呑み込んだ。
もしかしたら途轍もなくひどい顔に変えられていてこんな思い込みで考えているのを嘲笑われている可能性だってあるのだ。それは幾ら私でもショックだった。
あの女は何も約束していない…ただ色々と宣告しただけなのだ。
私は罰を受けるためにここに来た。
茂みを一つ掻き分けると審判を受けるのに丁度いい池が目の前に広がった。
当然の様に私は怖気づいてしまった。
木の根が絡まった岸辺に足を踏み込もうとしたものの一歩も前に進めなくなってしまう。
これからの行動を決めるのにも必要だとは思うのだけれども。
池の水面は鏡そのもので対岸の森を映した下には遠くの穏やかに煙を上げる火山と青空が反映していた。
穏やかな光景だった。
小鳥の鳴き声が聴こえてくる。
急にこの世界がリアルなものに感じられ始めた。
ここは何処なのだろう?
どんな国が有ってどんな人々が住んでいるんだろう?
私もよく投稿サイトに異世界ものを書き込んでいたのでそう言う事を想像するのは楽しかった。
現代ものは逆にリアリティが無くなると言うか辛くて進まなくなる事が多かったけど異世界ものは違った。モンスターの棲む森や魔法の都に黄昏の帝国…RPGっぽい世界から陰鬱な世界観のものでも幾らでも書いて遊ぶ事が出来た。
少しずつ書き溜めた短編や断章を読み返したかったけど服以外こっちには持ってこれなかった。
…僅かに湿気を帯びた爽やかな風が水面を揺らすがすぐに収まる。
この辺りの気候は日本に近いみたいだ。
状況が酷くなる前に家族と行った伊豆の風景によく似ていた。
あんな女に突き飛ばされる様に来たんじゃ無ければ…
思いを引き戻された私は改めて水面に目を向けた。
あと数歩前に出れば上半身が映るだろう。
呼び返された怒りが行動力を与えてくれた。
私は二歩進む。
そして先ほどのそよ風の影響が消えゆく水鏡を見詰めると息を呑んだ。
確かに私の面影は有ったけど…
髪や目の色みたいな基本的なところとか目尻のほくろとか。
でも元の私は10人前の印象の薄い顔立ちで表情を作ってもほとんど変わらないと言われていた。
でも今は違った。
ちょっと向きや表情筋を動かすだけで驚くほど印象が変わる。
鋭い表情や優しげな顔つき。
はにかんだ笑顔に開放的な笑顔。
淫蕩と言っても良い表情も浮かべる事も出来た。
高貴な威厳のある印象から少し目の周りを緩めるだけで幼いと言っても良い様な親しみのある表情に変わった。
…そしてそのどれもが目が離せなくなる程美しかった。
私はナルシストの傾向なんて持ち様が無かったけどこの顔はいっぺんで好きになった。
いや、恋をしてしまった。
…この顔なら…姿なら。
確かに国を滅ぼせる。
理性を失って誰かを奪い取るほど夢中になるなんて事現実にあるのかって思ってたけど今はよく分かる。この顔を誰かに渡すとあの女に言われたら私は何でもして阻止しようとするだろう。
性欲が加わる男だったら尚更な筈だ。
この顔を見た男達が相争う姿が簡単に想像出来た。
いや、相争わさせて国を手に入れる事も出来るかも知れない。
色仕掛けをするのもこんなに表情を作れるなら簡単だろう。
あの亜人のオモチャにされる位なら出会った権力者に次々股を開く道を選んだって良いじゃないか?
この姿だったらそう言う物語に出て来る様な悪女になる事だって出来る。
中身が残念だってこれだけチートしたなら女が出来る事は何でも上手く行くんじゃないだろうか?
普通の幸せはあの女は絶対に阻止しようとするだろう。だったらどうやってそれの裏をかくのか考えないと…
私は予想以上に美しくなっていた自分に高揚して注意力が散漫になっていた。
神話
ナルキッソス
そのままに自分の映し絵を見詰めて妄想する事に忙しくて後ろに迫る脅威には露とも気が付かなかったのだ。
その報いを受けるのは伝説より遥かに早かった。
私は何か異様な匂いのするものに口を塞がれ後ろに引き倒される。
何が起こったか全く理解出来なかった私は抵抗する事すら思いつかなかった。
汚らしい緑の腕がいく本も伸ばされ私の身体の自由を奪って行く。
担ぎ上げられる時に其奴らの顔が見えた。
その亜人はさっきのオーク?とは異なり緑でカサカサした肌をしていた。貧相な骨張った体躯にやっぱり貧相な頭が付いていた。だのにその眼だけはギラついて私の身体を舐め回す様に見たりキョロキョロと辺りを見回したりしていた。
こっちはゴブリンって言えば良いんだろうか?
ファンタジーだなーと一瞬危機的な状況にも関わらず思ってしまったのは今迄の事に何処かまだ現実感が無かったからだろうか?
森の奥に引き摺り込まれる様に運ばれ五体の化け物に胴や手足を抑えられて全く身動きが出来なくなっていた。
異様な臭いは彼等自身の体臭だった。
私の口を塞ぐ掌には疥癬やデキモノがまだらに浮かびジクジクと膿みが滲み出て異臭を放っていた。
膿みが口に入りそうになり吐き気に襲われる。
反射的に暴れる私の身体を押さえ込む様に抱え直した腕の一つが妙な動きを始めた。
胸のシャツの隙間に手先を捻り込ませようとするのだ。
暫くの間意味が分からなかった。
ただ、ブラジャーが外れているのが分かるのは困るなと言うちょっとピント外れな想いが浮かんだだけだった。
しかしそこから直ぐに意味が繋がり嫌悪感に総毛立つ事になった。
「や、やめて!」
激しく身を捩りながら拒否しようとする。
…一瞬、そいつらは顔を見合わせた。
もしかして誤解?
「あ、あの…そこはやめて下さい。ブラが壊れてて…」
それから低い嘲笑が広がるとその腕はそのまま伸び私の乳房をぐいっと握った。
「痛い!」
私が痛みに海老反り絶叫すると嘲笑は爆笑に変わった。
…ああ、輪姦(まわ)されるんだ。
私は恐怖感と無力感に襲われそれ以上何も言えなかった。
運ばれながら明からさまな動作で胸や太ももを弄
まさぐ
られる。
そいつらの手や腕が不潔だった為に四肢が物理的に汚されて行く。不快な感覚に私は耐えきれずに泣き叫んでしまいそれが一層彼等の行為を呼び起こしてしまう。
胸は乱暴に弄られて痛いばかりだったし、それよりも下半身を抱えた二匹のターゲットがハッキリと私の内股になっていて困惑してしまう。
膝を必死に閉じようとする私と脚に回された二本の腕の間で間抜けな攻防戦が行われる。
含み笑いが聞こえるが彼奴らに取っては只の遊びでも私に取っては死活問題だった。
その間にも悍ましい会話が彼等の間で交わされる。
それは私には全く理解出来ない言語だったけど何故か意味は理解出来た。
『まったくこんなとこに人間の尼っ子が居るとはよ。しかも魔力持ちみてえだ』
『ぐふ…こいつら白っちくて蛆虫見てえだが具合は良いのよ』
『なあどうすんだ?このまま岩屋の方に運ぶのかよ?』
『バカ言え…先ずは俺たちで味見だ。それでへたる様ならバラしてこっちのメシにしちまえ』その発言は私から見えない頭を抑えている化け物が発した様だった。
その余りの冷酷さに私は固まってしまう。
その隙に一本の腕が私の奥底まで到達する。
パンツ越しに一番敏感な所が捻り上げられて私は思わず下品な悲鳴を上げてしまった。
「ひぎゃあああ…」
余りの痛みに後半は息が出来ずに口をパクパクとさせるだけだ。
下ひた笑い声が広がる。
『…なんだ?この布は』
抓り上げたゴブリン?だけが奇妙なところに疑問を持った様だった。
『あ?…これは下着だな。人間やエルフの身分の高い女が着けるもんだ…へえ…そういや変わった服だが何処の国から来たんだ?』
スカートを捲って中を確かめたのは私の口を抑えた化け物だった。
身体を乗り出した為に上半身が見える。
首の周りに赤い痣が広がる一回り大きな化け物だった。
その為に私は首が変な風に捻られ息が出来なくなる。
運悪く息を吐いた所だったので窒息してしまう。彼らの行動に私に配慮する部分は一欠けらも存在しなかった。
そして私は反射的に手足をバタバタさせてしまう。ただ今のところ私の行動に対する彼奴らの対応法はただ一つ、さらにキツく拘束する事だけだった。
気道の確保がさらに難しくなり頭が痛くなる。
半ば現実逃避的にこのまま意識を失ったら助けが来るかもと考える。
…だってここは逆に言えば私の為に作られた世界なのだ。
私が心理的ダメージを受けない状況になれば全ては無駄って事になる。
不死の設定がどう作用するのかは分からないけどこのまま殺されるって展開にはならない筈だ。だったらこのまま意識を失った方があの女を困らせるんじゃないか?
…それに水面に映った私の姿を見て亜人の性奴隷って事は無いんじゃないかって思ったのだ。あの女の悪意は単純に私を蹂躙して罰を加えると言うよりもっとこの世界全体に対して何かする道具として私を送った様に思えた。
だったら私の処女ももっと有効に使う筈だ。
例えば…
『便器女の分際でふざけるな!』
私のあの女の意図に対する思考は化け物の強烈な腹パンで終わった。
「きゅああああ!ごほごほ…」
私の身体は地面に投げ出され手足が玩具の様に下生えに叩き付けられる。慌てて息を何度も吸い込んで意識を取り戻した。
『俺の質問に答えろ人間』
「へ?…あ?」
何の事か分からなかった私は間抜けな声を上げる。
擡げようとした頭が裸足の足に踏みつけられそのまま躪られる。
足裏から髪に染みた泥水が垂れて目に入りそうで私は慄いた。
『何処から来た?霊通者
ドラーゲ
。話は分かるんだろ?』
「…ど、どこって」
霊通者って今の私みたいな能力か。
”設定”には入って居なかったけど…
別に隠すつもりはないけどまず足をどけてくれないと落ち着いて話せなかった。
「あ、頭から足をどけて…そしたら話すから…」
おどおどとした口調で私は言葉を続ける。
しかしそれはゴブリン様のお気に召さなかったようだった。
足の裏で転がされ顔を小石の転がる地面に押し付けられる。
「ひゃ!ひゃめてえええ!がおだけはひゃめてええ!」
せっかく綺麗になった顔がぐちゃぐちゃにされる恐怖で私は何とか手を顔の下に差し入れようとしたけど他の化け物に阻止され手足を再び抑えられてしまう。
ごりごりと踏みにじられ何か所かが擦り切れて血が噴き出すのが分かった。
それでも暴力はお構いなしに続く。鼻が折れ額が裂けたた気がした。
…も、もうだめだ私の顔。
それからぐいと後ろから髪を引っ張られて赤首の冷酷そうな顔と対面させられた。強く押し付けられた部分が挫傷を起こして急速に腫れ上がってゆくのが分かる。
唾が吐きかけられ私の額を汚す。
『は、人間の中じゃ上玉だったんだろうが…もう、それじゃ誰にも顔見せられねえな。まあちんぽをしゃぶる口さえ動けば用は足りるから安心しろ』
あっさりと私の嵩上げされた自尊心の元は失われ元の底辺の自分が戻って来た。
そしてゴブリンに腹を立てるより水鏡をみてからの自分に対する激しい自己嫌悪が襲う。たった表皮から一センチの造作で”世界に対する道具”とか…男や整形で勘違いする連中と自分が同レベルの底の浅い人間だったと言う事がはっきりと分かってしまい、それに衝撃を受けたのだ。
「…すげーな私…」思わずつぶやくがそれは誰の興味も惹かなかった。
『まあ、どこから来たかは後で聞けばいい。壊れてなかったらだがな…おい、突っ込むから早く股を開け』
喪失感と衝撃で虚ろな表情を浮かべる私に赤首はそう言った。
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