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第6章 夢と混沌の祭典

第44話 鍛え上げた技

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『伏宮二刀流 壱の太刀 双頭龍!!』

前方に跳びつつ放たれる2連撃。刀身が纏ってるあのオーラは……龍か?

「【バーストスマッシュ】!!」

スキルをぶつけて攻撃を受ける。連撃とはいえ、このスキル1発でトントンか……凄い火力だ。でも、爆発でハルの態勢が崩れた!ここに……!

「はぁぁぁぁぁッッ!!」

槌をもう一度振り抜くには時間がかかる。でも、炎筒なら!突き出して殴打で1発、直後の火炎放射で2発!!

『ヘッ、かかったな!』

ッ!?今の態勢はブラフか!?僕の攻撃を誘うために!!

『伏宮二刀流 まもりの太刀 落陽!!』

打ち上がった刀の柄を、素早く振り下ろしての殴打攻撃!ダメージは低いが……。

「攻撃モーションが!」

攻撃態勢を崩すスキル!そんなものを持っていたのか!!

『吹っ飛べ!!』

「グッ……!!」

攻撃をキャンセルされてつんのめったところに、すかさずハイキック。こいつ、強い……立ち回りに一切の無駄がない!

『春風、全く隙をみせない!!プレアデスは防戦一方か!?』

「クソッ!【宝石片弾ジェム・ブラスト】!」

受け身をとって着地し、すぐさま宝石を放つ。遠距離攻撃なら……!

『伏宮一刀流 まもりの奥義 凪の鏡域!』

今何が起こった?解析に特化したこの目ですら追えないほどの速さ……だがはっきりしたのは、僕の宝石は全て防がれた。居合の構えから振り抜いた小春に斬られて。

どういうことだ?さっきあのスキルは発動を封じたはず。使えるはずがない。それに、反撃がないということは、少し仕様が違う……?

そして何より意味が分からないのは、さっきから全くマナが動かないことだ。スキルを使うには当然、多少なりともMPを要する。だが、見ている限りそれを消費している様子はない。【狂乱化バーサーク】にしばらく消費MPを0にする、なんてそんな効果はないし。バグではないだろうが、流石に何かおかしい。

それにそういえば、ハルに変化が起きてから使ってきたのはほぼ全て、今まで見たことも聞いたこともないものばかり。この違和感と何か関係があるのか?

『おいおいどうした?まさかそんなもんか?』

「ヘッ、まだまだこれからさ!!」

『機械竜の翼』を起動。エンジンは十分に温まっている!!僕の身体は一瞬にして、再び空中へと飛んだ。

『あっ、飛んだ!?それはズルだろ!?』

ん?何だこの反応。ハルはさっき、小春に乗って空を飛ぶ技術を会得しているはず。こいつ、まさかそれができない……いや、そもそもマナの使い方を知らないのか?

「…………へぇー、なるほどね」

そういうことなら。

「広き宙に展開せよ…………全方位衛星光子砲オールレンジ・フォトンビット!!」

腰部サイドアーマーに取り付けていた1対のカプセルボックスを開き、計32門の超小型浮遊砲台を解き放つ。これこそが僕の新たな特殊装備品、完全非公開だった切り札だ。というのも、これを完成させたのはこの戦いの直前なのだ。

『な、何だこりゃ……!?』

『おーっとプレアデス!ここでまたしても新装備のお披露目だ!!この男は一体、どれほどの見せ場を用意しているのでしょうか!?』

32門の浮遊砲台に使っているのは、ドローン型機動兵の残骸。その飛行ユニットだけを取り出し、蒼粒石1個を組み込み、外付けの極小砲門と繋ぎ合わせただけの、比較的簡素な作りだ。そんなのでもこうして制御できるのは、宝石以外のパーツの質量を極限まで抑えたことで、【宝石制御ジェム・コントロール】による操作が可能になったからだ。

ただ、いくらスキルで制御可能になったとはいえ、素の状態で32門も同時に操るのは不可能に近い。いや、できるかもしれないが、そんなことをしたら脳のキャパシティがそれだけでいっぱいになり、とても戦闘行動なんてとれるはずがない。

魔素攻撃変換マナ・トゥ・アタック…………よし、段階掃射開始!!」

そこで登場するのが【宝珠の炯眼ジェム・ストリーム・インサイト】である。このスキルの影響下なら、宝石内のマナの制御も簡単になり、同時制御による負担がグッと低下する。さらに、加速思考によって引き延ばされた時間で、並列処理により僕の並列思考回路に細かな制御を委ねることで、僕は大まかな方針を指示するだけでよくなる。

『攻撃が、途切れない…………!?』

「どうだ、回避するだけで手一杯だろ?」

有効射程圏内まで近づいたビット達が、8門ずつ、4段階に分けてレーザー射撃を行う。これでクールダウンによる攻撃の中断を回避する。さらに、ただ闇雲に全てのビットが対象を一点狙いするわけではない。並列思考回路もなかなか賢いようで、対象の回避先をある程度読んで置き射撃をしてくれる。

「さらに……【宝石爆裂弾ジェム・バースト】!」

爆風とのコンボで一気に追い込む!!

『あーっとプレアデス、一切の容赦なし!!ここぞとばかりに遠距離攻撃で春風を追い詰める!!』

『クッ…………!!』

「よし、命中!一斉射撃だ!!」

2~3本のレーザーを受けて動きが止まった!ここで決めきる!!僕もトドメを刺すべく、ハンマーを振り上げてハルに猛進する。

残りのビットが砲門をハルに向け、蹲ったその身体に次々と光線を撃ち込む!これで…………!!

『………………フッ、なんてな』

「えっ?」

そう声を溢した次の瞬間、眼前からハルが消える。ラストアタックが当たった手応えもない。むしろ、これは…………。

「グハッ…………!!!」

あまりの痛みに、その場に膝をつく。今、何をされた?斬られた、のか?そう後ろに顔を向けると、彼女は小春をゆっくりと納刀していた。

痛みと衝撃から砲台の展開が解け、ボックスに戻っていく。ここまでか…………と【宝珠の炯眼ジェム・ストリーム・インサイト】を解除する。この拍子に一度頭を休めなければ。

『今、何が起きたのでしょうか!?プレアデスのトドメの一撃が不発に終わったその直後、攻撃を受けたように倒れ込んだぁ!!あまりにも速すぎて、私の目には追えませんでした!』

通常は危険察知に使う並列領域をオールレンジ攻撃の制御にのみ集中させたことで、僕の反射神経が反応できなかった……ということか?

『何故、って顔をしているな?』

「…………ああ、今確かに、攻撃を当てたはずだと、さっきまでそう思ってたけど」

『伏宮居合流 壱の太刀 刹那…………まぁ、要はただめちゃくちゃ速く通り抜けて斬るってだけの技なんだけどな。クハハハッ……悪ぃな、抜刀剣はオレの得意分野なんだよ』

「せ、刹那、だと…………!?」

やはり間違いない。さっきの凪の鏡域といい、この世界のスキルと同名の技を使えるんだ!でも、こんなに威力が高かった覚えはない…………となると恐らく、彼女が使えているのはただの偶然?

……いや、彼女はハルの中でしばらくハルの戦闘を見ていた。いくつも選べる剣技の中から、わざわざ名前が被っているやつを選ぶか?それも2つも。わざとやっているか、或いは何らかの由縁がないとこうはならないだろう。

ここは…………誘い出してみるか。

「驚いたなぁ、まさかスキルを一つも使わずに僕を追い詰めるなんてね」

『ッ!へぇ、分かるのか。の割には、見た目が随分派手でオレも困惑してるんだがな…………何で分かったんだ?』

確かに、その見た目はスキル顔負けのエフェクト付き。そのせいで、僕はさっき見破ることができなかったのだ。恐らくこのエフェクトは、彼女が持つ剣技への強いイメージが、未完成のチェインスキルのように擬似的なスキルとしてAIが再現する過程で生まれたものなんだろう。

というか、やっぱこっちのハルも相当おしゃべりだな……もう一押し、いけるか?

「マナ…………あぁ、MPが全く減ってないようだったからな。それにログを見てもそんな名前のスキルが発動された形跡は残っていなかった。だが……それにしては君が披露してくれた剣技は、どれも完成度が高すぎる」

『ヘヘッ、やめろよ急にそんなこと…………少し照れるじゃねえか』

グッ、ボクっ娘からオレっ娘に変わってツンの部分が大幅に増したハルの、デレだと…………ッ!?尋常ならざる破壊力……戦闘中じゃなかったらヤバかった!!

「あいや、別に褒め言葉無償提供というわけではなく」

この間、実に0.86秒。

「君は……そう、根っからの剣士だ。VRゲーマーである前に、ハルには確かな剣の経験がある。努力を重ねた蓄積がある」

『………………』

「つまり、僕が言いたいのは………………その技、全部練習してるものなんじゃないのか?」

よし、これで餌は全部投げ込んだ。さぁ、どうだ……?

『へぇ…………』

この反応は…………どっちだ!!?

『…………凄えな、プレアデス。よく分かったな…………オレがこの技達を、リアルで磨いてるってこと』

…………かかった!!!餌にガッチリ……喉奥まで喰らいついたッ!!

『コイツらは、オレの師匠が教えてくれた技なんだよ。まだまだ、師匠のはこんなもんじゃねえけどな…………やっと、一通り再現できるようになってきたとこだ』

「ッ、そうか、やっぱりリアルで使ってる技だったか!凄いな、ハル…………」

『…………ま、それほどでもな

「僕一言も、リアルのことなんて言ってないけどね」

その瞬間、僕達の間に暫しの静寂が訪れる。冬でもないのに、から風がぴゅうっと吹いたようだ。

『…………テメッ、カマかけやがったな!!?』

「さぁ?何のことでしょう?」

まんまと引っかかった恥ずかしさからか、顔を赤らめて僕の方を指差して怒るハルを、僕はわざとらしく突き放す。こう見ると、人格が変化してもハルはハルだな。

『…………フン、だがそれが分かったところでどうするってんだ?あの遠距離攻撃をオレに見切られた時点で、どのみちテメェの劣勢には変わりないだろ?』

「……いいや、そうでもないさ。ひとつ、分かったことがある」

そう、僕が知りたかった重要な情報は、彼女の繰り出す剣技が全て、現実世界での修練に則したものであるということ。ここまでの戦いでそれらしか使っていないのを見るに、恐らく彼女はこっちのスキルを…………いや、それどころか小春の機能を引き出すことすらできない。何故なら、マナという概念はあの世界には存在しないのだから。

『何だってんだ、それはよぉ!?』

物凄い速度で斬りかかってくる。だが、もう動きは読める。ビット攻撃を終了した時点で、僕の反射速度は回復している!

「簡単なことだ!現実世界で鍛え上げた技ということなら……」

『伏宮二刀流 肆の太刀 戒天龍!!』

二刀流での高速回転攻撃…………これは上体を屈めて回避、その後左手をボディに叩き込む!!

『グッ………………何ッ!?』

「その剣技が為せる動きは、現実の肉体で再現可能な範疇に過ぎない!!【付加エンチャント:陽炎柱ヘイズピラー】!!」

左手の筒から炎が噴き出し、ハルの身体を大きく吹き飛ばす!

『ここでプレアデス、強力なカウンターが炸裂!!勝負はまだ終わらないッ!!』

『アァァッッ………!!!ふ、フハハハッ…………やるなぁ。だが、それだったらどうするってんだ?』

まだ立ち上がるか。できればここで終わってほしかったんだけど。今のが【ドラゴンフレイム】なら倒せてただろう。生憎あのスキルはクールタイムが長すぎて、もうこの試合中は使えないだろうが。

…………仕方ない、覚悟決めるか。

「なぁに、そう複雑なことじゃない。そっちが人間の限界の力を使ってくるなら…………」

左腕に手を当てる。マナを流し、そこに眠る者に呼びかける。

「僕が、ヒトを超えれば良い」
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