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第6章 夢と混沌の祭典

第39話 伯仲の戦い

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「ッ!!」

開始早々、先に動き出したのはハルだ。距離を詰めながら居合の構え。まずは左下!その次は…………上だ!!

ギンッ!!という音と共に、互いの武器が激しく衝突する。

よし、大丈夫だ。攻撃は見えている!

「【 付加エンチャント:岩雪崩】!」

上空からの攻撃、これは後ろ跳びで回避しつつ、武器を構えてハルの追撃に備え……!?

「動いていない……!?」

しまった、読み違えたか!だが、この状況で追って来ないということは……!

《【螺旋衝Ⅱ】!!》

やっぱり、小春を向かわせていたか!背後からの攻撃……でも、会心効果の乗っていない連続攻撃スキルなら!

「コマンド入力、魔素防御変換マナ・トゥ・ガード!」

次の瞬間、小春のスキルがヒットする。だが、そのダメージはほぼ0に抑えられている。コマンド入力が間に合った!

『プレアデスに初撃が命中!しかし、まるで効いていないようだぁ!!』

連続攻撃スキルは、一撃ごとのダメージ量が比較的少ない。ハルが直接使用して確定会心攻撃にされれば話は別だが、そうでなければ防御を上げるだけでダメージ総量をかなり落とせるのだ。最も、会心攻撃も発売当初のダメージ計算方法だったらもっとヤバかったんだが。

「やっぱり、プレ君相手だと小春単体じゃ厳しいか…………戻れ、小春!!」

そう言って、小春がハルの左手に収まる。ふう、正直助かった。小春が別行動をするというだけで、考えることが倍増してやってられないのだ。普通の二刀流になるのなら、まだ戦いやすいかもしれない。

ただ、だからといって全く楽になったわけではない。この状態だとスキルの二重発動が可能になり、効力が大幅に上昇する。加えて、ハルに装備されていれば小春による攻撃にも会心に当たりやすくなる合法チートが適用される。全くもって、油断ならない状況だ。

「二重発動……《【閃刀:朧車】!!》」

「【バーストスマッシュ】!」

だが、それ以上に厄介なのは……と戦いながら考える。チェインスキルでギリギリ受けきれるレベルとは、なんという火力だ。二重発動も思ったより恐ろしいかもしれない。

で、その1番厄介なのは、ハルが持つ豊富な反撃スキルだ。僕の知る限り、彼女が今使える反撃手段は【カウンター】、【閃刀:風薙】、【凪の鏡域】の3種類。このうち【カウンター】は近接攻撃にしか対応できないが、残りの2つは遠距離攻撃にも反応する優れものだ。特に後者の反撃は速すぎてほぼ防御できない。

仮に二重発動をしないとしたら、小春と合わせて最低でも計6回の反撃スキルを掻い潜って攻撃しないといけない。加えて、ハルのスキルは全体的にクールタイムが短いものが多いから、長期戦になると更に何回も反撃の機会を与えてしまう。一応、対抗策は用意できているが……上手くいくだろうか。

「さーて……そろそろ仕掛けちゃおうかな!?」

そう言って鍔迫り合いを解き、ハルは地面を蹴った。距離を離しただと……?何をするつもりだ?

「二重発動……《【付加エンチャント:迷宮壁ラビリンス・ウォール】!!》」

「これは……新しい錬金術!?」

『おっと、突如地面から高い壁が出現!!これは一体!?』

なるほど……壁を生成することで逃げ道を減らし、一直線上での戦闘を増やす狙いか。現実で居合を極めているハルにとっては、こういう平面的な戦場の方がやりやすいんだろう。

結果論だが、闇霊のローブを外したのは失敗だったか。でも今はもう戦闘が始まった後、今更装備の変更はできない。【幻影化ファントマイム】なしでこの局面を切り抜けるしかない。

「【電光石火Ⅲ】!!」

速い!!もう懐に潜り込まれた!間に合え……!

「【五月雨斬り】!」

攻撃防御変換アタック・トゥ・ガード!!」

ギリギリでコマンドを入力し、攻撃を受け切る。今は守りのターン、攻撃力を犠牲に防御を固める!

「やっぱり固い……でも!!」

ッ、しまった。小春はどこだ……!?

《【付加エンチャント:地縛アースバインドⅡ】!》

周囲の壁から無数のツタが生成され、あっという間に僕の身体を呑み込んでしまった。そうか、地属性錬金術で土の壁を作ったから、今はそこら中にツタのリソースがあるんだ!だから同じMP消費でも今回はこれだけの効力になったのか。そういえば、地下マップで使った時もこうなってたな。

「いくら防御を上げても、流石にこれは防げないでしょ!二重発動……《【紫電一閃】ッ!!》」

辛うじて確保した視界に突如、凄まじい雷の力を纏った刀を突き出すハルが映る。これは1回戦でノルキアを葬った、【五月雨斬り】とのコンボ攻撃!しかも今回は二重発動、その威力は当時のとは比較にならない!!

これは、確かに防御を強化しても無理そうだな……それじゃ隠し玉その1、解放しますか!

「【結晶化クリスタライズ】!!」

その瞬間、周囲のツタが鉱石のような結晶に変化する。

「ッ、これは!?」

『プレアデス、またしても機転が働いた!!春風が生み出したツタを上手く利用して、致命傷たり得る攻撃を防いでいるッ!』

紫電を纏った刀が結晶に突き刺さり、カタカタと石が削れる音が聞こえる。マジか、これ相当硬いはずなんだけど。ただ、このペースなら……!

「あっスキルの効力が……完全に防がれちゃった、凄いガードだね」

「高密度にツタを出してくれたおかげだね。上手いこと利用させてもらったよ」

スキルを解除しながら会話する。【結晶化クリスタライズ】は、僕の新たな防具『機動兵装:輝晶式戦闘骨格タイプ・グロスタリウム』に付いてきた装備スキルだ。とあるクエストの報酬で大量に輝晶石が手に入り、思い切って防具の素材に使いまくったところ、このスキルが手に入ったのだ。

防具は、研究所で腐るほど手に入った機動兵の残骸とクエスト報酬の輝晶石を組み合わせて作った。スキルの方は至ってシンプルで、本当に任意の物質を同質量の結晶体に変化させるだけである。流石に生物やプレイヤーの持ち物まで変化させることはできないが、所持者未登録のアイテムや錬金術くらいなら問題なく変化させられる。

ただ、シンプルすぎるが故に色々な使い方が思いつく。今のように自身の周囲を覆う強力な盾として使うもよし、飛ばして攻撃に転用するのもよしだ。一時的に足場などの耐久性を高める目的でも使用できそうだ。

「コマンド入力、能力変換解除ニュートラル…………さて」

と、どうするか。ひとまずこのターンは凌ぎきったが、次はこうはいかない。ワイヤーを引っかけて壁の上に登るか?いや、この狭い空間じゃすぐに追いつかれて斬られるのが関の山だ。もっと上へ……二重発動の【飛燕斬】でも届かない高さまで!

「両翼、展開ッ!」

『機械竜の翼』で垂直に登る。真上ならハルも追って来れない。飛行するには少し狭い空間だが、この場合は致し方ない。

『プレアデス、飛び立ったぁ!!春風の迷宮を脱したぞ!』

そして、それだけじゃない!ハルが生成したその狭い空間、利用させてもらう!

「【付加エンチャント:炎獄ブレイズプリズン】!【ドラゴンフレイム】!!」

ハルを炎の檻に閉じ込め、さらに聖炎筒から龍のように渦巻く炎を発射し壁の間に走らせる。これで彼女は動けないまま【ドラゴンフレイム】の直撃を受けるしかなくなった。

「さあ、どう出てくるかな……?」


『機動兵装:輝晶式戦闘骨格コンバット・ギアフレーム=タイプ・グロスタリウム』☆7 DEF+100 RES+100 AGI-20
売価500000G。古代兵器の戦闘骨格を基に作られた全身装着型の装甲。輝晶石の基本骨格と複合金属コーティングにより、驚異的なマナ伝導性と錬金術耐性の両立を実現している。装備時、スキル【結晶化クリスタライズ】を使用可能。

結晶化クリスタライズ】消費MP:60 クールタイム:14分
自身の周囲の任意の物質を輝晶石の結晶体に変化させる。結晶体は非常に頑強で、スキル解除と同時に破壊される。
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