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メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第34話 重りを外す時

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~~side 春風~~

第4試合が始まった。初撃はセイスさんが先制したが、その後ホーちゃんの召喚によって、逆にユノンさんが有利に勝負を進めている。

一方、ボクたちは……。

「カンナさん、そっちはどうでしたか?」

「ダメですね……見当たらないです」

「困りましたね…………フレンドマップにも反応ないですし」

フレンドになったプレイヤーは、マップ上のどこにいるかを互いに共有できる。普通なら、例えばスタジアムのどの辺の客席にいるのか、とか、ショップエリアのどの店の近くにいるのか、のように。

でも、困ったことにプレ君のアイコンはそのマップのどこにもないのだ。そのせいで、今彼がどこにいるのかをボクたちは確認できない。

「まさか、通信障害でしょうか?それで落ちてしまっている、とか」

「いえ、その可能性も考えたんですが。ちゃんと現在進行形でログインはしているみたいなんですよ」

「てことは、このマップのどこかには必ずいるはず、ですよね……?」

と話し合いながらスタジアムを出ると、見たことのある面々を見つけた。

「あっ、テラナイトさん!ノルキアくんまで」

「何だか珍しい組み合わせですね」

「おう、お嬢さん方……」

そう言うテラナイトさんは、どこか元気が無さそうだった。やっぱり、あの試合が後を引いているんだろうか。無理もない。テラナイトさんも間違いなく健闘していたし、何度も追い込んでいた。でも、あんな負け方をしたら。

「その…………さっきの試合、凄かったですね!特に、最後の猛攻とか!」

「そ、そうですよ!【リベンジ・バースト】、でしたっけ?あんな強力なスキル、私も初めて見ました!」

「……おっと、気を使わせちまったか。その…………ありがとな。でも良いんだ。アイツには、今まで1度も勝ったことないしな」

まあ、それでも今回ばかりは勝ちたかったが、と拳を握りしめている。ボクはそこに、かつて絶対に負けられない大会でまさかの敗北を喫した時の自分を重ね合わせる。勝ちたいと強く願った試合ほど、負けた時のストレスは重くのしかかり、尾を引くものだ。きっと彼も今、同じ状態なんだろう。

「あの、春風さん。プレアデスさんのこと、聞かなくていいんですか?」

カンナさんから耳打ちされ、我に返る。確かに、会場の外に出たならここのエントランスから出た可能性は高い。もし2人がしばらくここにいたなら、見た可能性だって高いわけだ。

「ところで……プレ君を見てませんか?探しているんですが、どこにも見つからなくて……」

「プレアデス?見てないな」

「ああ、俺もだ……てか、フレンドマップ見りゃ分かるんじゃないのか?」

「それが、何故か位置情報が分からなくなっていて……ログインしているのは確かなんですが」

それを聞いて、2人ははたと顔を見合わせる。何か、心当たりがあるんだろうか?

「あー、実は…………おれたちも今探しているんだ、マグと雪ダルマさんを」

「聞く限り、カシラもアイツらと同じ状態みてえだな」

「えっ…………?」

ボクは耳を疑った。3人同時に、それも上位プレイヤーばかりが同じような状態になっているなんて。そんなもの、明らかに偶然の産物じゃないだろう。とすると、誰かが目的を持って3人の居場所を隠蔽した?いやでも、何のために?

「…………とりあえず、私達と協力して外を探しましょう。お2人とも、スタジアムの中には見当たりませんでしたし」

「悪ぃな、手をかけさせちまって」

「とりあえず、ショップエリアで聴き込みしてみよう!」

こうして、行方不明になった3人のプレイヤーの臨時捜索チームが結成された。これで、何か手がかりが掴めれば良いけど。


~~side セイス~~

「ホーちゃん、【ウインド・クラッシュ】!」

「…………チッ!動きを封じるつもりか!」

風の渦に呑まれる。下手に動いたらダメージを受けるということか。だが、また影に潜れば……!

「【潜影】!」

「そこっ!【エレキネット】!!」

「何ィッ……!?」

もう見切ったってのかよ。まだ2回目だぞ。だが、その辺は流石『鷹の目』と言わざるを得ない。

『ユノン、セイスの回避を完璧に読み切って二重の攻撃を決めた!!セイスは麻痺が入って自慢のスピードが封じられた!』

《麻痺》か、厄介だな。身体を自由に動かせない……!ユノンの狙いは初めから、俺の動きを完全に止めることだったのか。

「さあ、決めるわよホーちゃん!!」

咆哮ののち、光を纏ってホロウファルコンがこっちに突っ込んでくる。と同時に、ユノンが雷の錬金術を頭上に準備する。まさか……。

「チェインスキル【ゴッドバード・アタック】!!」

やはり、従魔とのチェインスキルか。雷の力を受けてさらに強大になったホロウファルコンが、怒涛の勢いで突進してくる。麻痺で動けないから回避もできない。耐久に全く割いてないから受けきれない。これは…………予定より大分早くなってしまったな。

「ま、何とかなるか」

言い終わる前に、俺の身体に攻撃が衝突する。

『ユノンの狙い通り、強力なチェインスキルがセイスにクリーンヒット!!…………いや、これは!?』

「…………やっぱり、使ってきたか」

「ああ、あのまま受けたらやられていたからな」

【呪いの骸】。1日に1度だけ使用できる、緊急回避用スキル。自身を半径5m以内の任意の場所にワープし、代わりに身代わりの人形を残す。そして攻撃を受けて壊れた人形は、事前にセットしたスキルを攻撃した対象に必中させる。テイマーの持つ【身代わり人形スケープ・ゴート】の上位互換スキルだ。

昨日の1回戦でミハイルに使ったのは、彼の精神を蝕んだあのバフスキルを解除するための【スペルブレイク】だった。だが、今回はセオリー通り……。

「ッ、ホーちゃん!!」

鎖に囚われたホロウファルコンが、飛行を続けられずに地面に落ちる。【百鎖の一矢フルバインド・アロー】の効果で拘束したのだ。これで当分は動けないだろうが……せっかく地面に落ちてくれたことだし、念には念を入れておこう。

「【罠操術:底無沼】」

『セイスの切り札、身代わり作戦が今回も炸裂!!ユノンの錬金従魔アルケミック・サーヴァントを封じてみせた!!』

鎖で動けないまま、地面に呑まれていく。これで鎖を断ち切ることも、効果が切れたとしても今度は沼から脱出することも難しくなっただろう。あれは特にダメージを与えることもないし、ちょうど良い。

「安心しろ。ホーちゃんを殺しはしねえよ」

実際、俺もユノンに影響されたのか、今はそれなりに動物は好きな方だ。攻撃せずに無力化できるなら、それに越したことはない。

「さて…………これでタイマンに戻したぜ。もう他に従魔は用意してないだろ?」

「フン…………まあ良いわ。ウチもアンタの身代わり人形を使わせたし。どうせ、あれは1回しか使えないとかそんなところでしょう?」

「フッ、よく分かるなぁ?鷹の目には何でもお見通しってか」

「これに関しては誰でも分かるわよ。スキル1つでできることが多すぎるもの。でも、これでアンタの切り札はもう使えない……ホーちゃんもやられてしまったし、いよいよこれを使う時が来たようね」

そう言って懐から白黒に彩られた腕輪を取り出し、左腕に嵌める。あれは……確かフリーディアのイベントの後、ユノンがプレアデスに作らせていた特殊装備。そしてその効果は……真影術の解放と制御。

「来るか……あの化け物が」

「おいで、影ちゃん!!」

人の形をした黒い影が、どこからともなく現れてユノンに覆い被さる。それと共に、物凄い力が集まっているのを感じる。肌がヒリつくこの感覚……!

「『【真影術の弍・二者合一】!!』」

『来たーっ!!ユノンの最強の切り札、真影術だぁぁっ!!』

「今回は、いきなり合体するんだな」

「『あはっ、アンタを本気で葬るためには、最初から全力じゃないとね!!』」

そう言って俺の懐に潜り込んで来る。これは……!あの従魔以上の速さだと!?

「『【パワーエッジアタック】!』」

「グッ…………今のは危なかった」

全力で横に跳び回避したが、脇腹に短剣が掠めた。俺のスピードで避けきれないとは……。

『身体が軽い……!』

「プレアデスに作ってもらった、この腕輪のおかげね!!」

「おい、誰が喋ってるか分からなくなるからやめてくれ」

にしても、やはりあの腕輪……ちゃっかりスキルの性能そのものも向上させている。ったく、毎度のことだが、アイツはどんだけ強いアイテムを作れば気が済むんだ?いくら何でも、この世界のAIに愛され過ぎている。

……だがまあ、アイツのアイテムに助けられているのは俺も同じか。

「『避けられちゃったけど……次は外さないわ。大人しくやられなさい!!』」

「フッ…………お前は1つ、勘違いをしているな」

「『勘違い……?』」

「俺の切り札はあの人形だけじゃねえ。スピード極振りの真の力、見せてやるよ」

真上に向けて1発、矢を放つ。スキルを込めたその矢は、空中で弾け俺達が立つフィールド全体にパーティクルをばら撒く。

「『これは…………世界系のスキル?』」

世界系スキル。自身の周辺の世界そのものに影響を与えるものだ。煌の【星導アストラル・ドミネーション】やプレアデスの【燦煌たる宙の星ダイソン・スフィア】がその例である。

そして俺の場合は……スピードが支配する世界。普段は身体制御を簡単にするため、自身に速度制限をかけている。このスキルが作るのはその制限を外し、限界までスピードを出せる世界。そして、より速く動けるほど力を得られる世界。まさに…………俺のための世界だ!

「展開しろ……【無制限の速度領域アウトバーン】!!」
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