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メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第25話 運命の指輪

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~~side 第1サーバー代表・早瀬~~

「じゃあ、私はこれで。三原君、何かあったらいつでも呼んでくれ」

「ああ、ありがとよ」

そう言葉を交わし、彼の部屋を出る。さて、そろそろメンテナンス作業に戻らなくては……。

「あれ、早瀬さんじゃないですか」

背後からかけられた声に振り返る。第2サーバー代表の山本が、壁に背中をもたれかかっている。

「山本……会議以外でこうして顔を合わせるのは、久しぶりだな」

「本当ですよ。第1サーバーが忙しいばかりに、俺とは随分出勤時間が違うようですから」

相変わらず鼻につく物言いだが……間違ったことは言っていない。事実、こちらは連日終電まで残業してメンテナンスを続行している一方で、山本達はスピーディーに調整を終わらせ定時過ぎには大多数が帰宅。とても同じ会社とは思えない違いだ。

「それより良いんですか?こんな所で油を売っていて。今はメンテナンス作業中のはずでは?」

「事情が事情でな。専属のテストプレイヤーのケアに向かっていた」

「ケア……ですか。相変わらず早瀬さんはお人好しですねぇ。あんなバグを放ったらかしにしているのも、そのせいですか?」

「あれはバグではない。あの世界のAIが描く、別のストーリーそのものだ」

「それをバグというんじゃないですか。わざわざ俺達が設定したシナリオから逸脱して、どこへ行くかも解らない勝手な筋書を作る管理AI……そんな使えない存在は、さっさと修正すべきです」

そういえば、こいつは昔からこんなやつだったな。AIを、単なる人間の道具だと考えている。そういう山本のような人間は、世間にも山ほどいる、どころか、それが大多数を占める。私や博士のように、AIに人間のような思考力を期待する人の方が今や少数派だ。

「AI如きに今更何を期待しているのか知りませんが……そんな考え方はもう古いんですよ。結局、AIは人間を超えることも、人間に追いつくこともできなかった。それはもう、いくつもの研究が明らかにしているんですから」

「そんなことはない。今だって、我が社のテストプレイヤー達はゆりかごに乗っている。あのビッグデータを使えば、いずれは博士が目指すAIも……」

「仮にそれができたとして、果たしてそれは本当にAIが持つ感情なんですか?」

「どういうことだ……?」

「今言いましたよね?データを使えば、と。つまり、仮にAIが人間の感情を理解できたとしても、それはAIが自発的に生み出したものではなく、あくまで人間の模倣……オリジナルじゃないんですよ」

「それは当然だろう。AIは学習によって様々なことを実行できるようになっていくんだから」

「ですが感情というものは複雑です……大脳で考えることだけではない、生物として備わっている本能、無意識下で考える事象などなど……果たして非生物であるAIにそれを再現させることは可能でしょうか?それをあたかもオリジナルのように振る舞うことが、本当にできると思いますか?」

「それは……難しいかも、しれない」

絞り出すように零すと、山本は勝ち誇ったような顔を見せた。

「そういうことですよ。良いですか?運営は神様なんです。お人好しなのは早瀬さんの長所でもあるとは思いますが……時には、心を鬼にして対処するのも大切ですよ。そうすれば、少しはも減らせるんじゃないですかね」

そう言って、山本は去っていった。何も言い返すことはできなかった。実際、AIが人間のような感情を得るのは極めて難しい……いや、不可能ではないかとすら思うのは、私とて例外ではない。山本の理屈は最もだ。頭ではそう理解できる。だが……。

「だとしたら、あのAIは何だったんだ?」


~~side プレアデス~~

「その指輪は…………!!」

「その通りよ。これは貴方の両親の婚約指輪……の、レプリカね」

何故?現実世界の産物がここに?というか、どうして煌がその指輪の存在を、デザインを知っているんだ??結婚指輪なんて、そう不特定多数に見せびらかすようなものではない。それこそ、デザインまで知っているのなんて僕と家族くらいしか……。

「…………まさか。煌、君は……」

数少ない、僕のリアルを知っている人。つまり……。

「……ストーカーか?」

「違うわよ!!誰がそんなこと!!」

ムキーっと怒った煌が僕目がけて上段回し蹴り。ハンマーを構えてそれを受け止める。

「ははっ、今のツッコミで確信が持てたよ……姉さんだろ?」

「……ふん、気づくのが遅いのよ、昴」

一応、個人情報なので2人にしか聞こえない声量で話す。てか、本当に姉さんだったのか。なるほど、光だから煌か。僕の名前よりはカモフラージュが効いてる。

「あれ、姉さんってこのゲーム持ってないんじゃなかったっけ?何でここに……?」

「話すと色々長くなるから後でね。それより今は……」

振り上げた脚を戻し距離をとる。これは……来るか。

「決着をつけましょう。姉より優れる弟などいないってこと、思い知らせてやるわ!」

「そっちこそ、久しぶりのVRで身体鈍ってるんじゃないの?練習に付き合ってあげようか?」

「ん何をぉぅ!!見てなさい、これがあたしの力よ!!【星導アストラル・ドミネーション】!」

『出たぁ!!煌の切り札【星導アストラル・ドミネーション】だぁ!!前回の第1回戦では、このスキルで瞬殺していました!!』

その瞬間、自動回転を続けていた星の動きが変化し、何かに操られるように、不規則な運動を始める。これが煌の戦闘領域、スターフィールドの真の力。この状態では、自分のスキルに加えて、星を操作して揃えることで自動的に発動するスキルを何度も発動できるらしい。

つまり煌は、MPが切れるまで理論上無限に攻撃を繰り返すことができる。その分、星の操作は難しいんだろうが……中身が姉さんだと分かった以上、操作ミスはまず期待できないだろう。ああは言ったが、彼女はゲームでも天才なのだ。

「【コンジャンクション】!」

身体が重い!?これは、重力のスキル!これで回避不能にして極大攻撃で仕留める。それがさっきの煌の勝ちパターンだった。

「どれくらい効くかしら?【オポジション】」

刹那、僕の右腕を細いレーザーが貫く。速いな、まるで見えなかった。ダメージ的にはそんなに痛くはないが……塵も積もれば何とやら、だ。ぶっつけ本番だが、念には念を置く。

「…………コマンド入力。実行せよ、魔素防御変換マナ・トゥ・ガード!!」

音声司令に反応し、コアが輝く。早速、こいつの機能を試す時が来た。MPの再生に消費していた分を、防御に加算する。コアから伸びる青白い光の筋が、装甲の合間を満たし、茨のように全身を覆っていく。

「【オポジション】……あら?もしかして全然効いてない?」

よし、狙い通りだ。この程度の攻撃なら、マナの消費ゼロでも無力化できる!今のが主力攻撃だった煌にとって、これはかなりの痛手になったはずだ。

「今だ!【ジェットファングⅡ】!!」

「させないわ!【グランド・コンジャンクション】!!」

「ぐっ……!?」

『おっと!プレアデスの動きが止まったぞ!!これは煌の得意技、重力スキルだ!!』

攻撃動作を止められた!?さっきよりも強い重力、進化系のスキルか!!

「消えなさい!!【グランド・クロス】!!」

これは……!ハニハニを追い詰めた極大攻撃!【暴食グラトニー】を使うなら、ここしかない!

「【暴食グラトニー】!!…………あれ?」

何故だ?スキルが発動しない!?何回も発動しようと念じるが、まるで反応しない。

「貴方が何か対策を講じることは分かっていたわ!だから、こちらも対策させてもらったわ!」

「それは、どういう……!?」

「この【グランド・コンジャンクション】は、ただ敵を捕らえて逃さないだけじゃない……その強力な作用で、いかなるスキルの使用すら封じるのよ!!」

何だって!?スキルの封印?それじゃ、攻撃を防ぎようがない……!

「そこで大人しく、食らっておきなさい!」

マズい、来るッ!!!
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