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メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第21話 バーサーカーvsジョーカー

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「アクセルスラスター!!」

「フッ……遅い!!」

『開始早々、ミハイル怒涛の攻撃!!しかし、その刃はセイスには全く届かない!!』

俺のステータスはAGI極振り。だから、攻撃が当たることはまずない。相手がフェイントや連続攻撃を仕掛けてきたところで、俺のスピードに慣れているこの目には、まるで止まって見える。

だが、逆に言うと一度でも当たれば致命傷……というか、ワンパンだろう。何せ、HPにもDEFにも、全く振っていないのだから。装備のわずかな上昇分だけで賄えるほど、奴の攻撃は弱くない。この勝負……全ての攻撃を躱さなくては、俺は勝てない!!

「オラオラ!避けてるばっかじゃオレには勝てねえぞ!!」

「そいつはどうかな?【罠操術:大花火】!!」

瞬間、ミハイルの足元から巨大な花火が炸裂し、爆破ダメージと共に綺麗な花火がコロシアムに打ち上がる。

『あーっと!ここでセイスのトラップが命中!予選でも猛威を奮った罠戦法、ミハイルにはどこまで通用するのか!?』

「た~まや~……ってか?」

「テメェ……いつの間に」

「当たり前だろ?逃げ回ってる間にだよ。これで、俺がただ回避しているだけじゃないってことが分かったか?」

「ヘッ、こんにゃろ……ぶっ殺す!!」

そう、俺はAGI極振り。だから当然、腕っぷしもからっきしだ。プレアデスが作ってくれたボウガンが俺のATKのほぼ全てといってもいい。

「【罠操術:竜巻】!」

じゃあ、どうやってダメージを与えるのか?その1つがこれだ。空間を広く使って相手の攻撃を回避しつつ、地面に罠の分子となるアイテムを生成し配置する。罠は使用者の攻撃力と関係なく相手にダメージを与えるからこそ、回避中心の俺の戦闘スタイルとの相性は最高だ。前のイベントでユノンが地面に設置するタイプの錬金術を使ったようだが、あれもベルセリア・ナイツ時代に俺が教えたこのテクニックの応用だ。

「畜生……ちょこまかと!!」

「次行くぞ!【罠操術:電磁網】!」

今度は地面に電気の走る網を出す。足を絡めたミハイルは、電気で《麻痺》状態になる。これで、相手の動きを止めようというわけだ。

「チッ……【エアロスラッシュ】!」

「苦し紛れか?だが当たらん!!」

不意打ちのようにスキルを放ってきた。なかなか速い剣波だったが、俺が避けられないほどではない。

「悪いが、一気に決めさせてもらう!【百鎖の一矢フルバインド・アロー】!!」

麻痺で動けなくなっているところに、更に鎖で縛り上げて追い討ちをかける。これで、しばらく奴は動けない。

「ドタマに風穴ぶち開けるぜ!!【バスターショット】!!」

『セイスの必殺の一撃がクリーンヒット!!これは勝負あったか!?』

ズドン、というライフルのような発砲音と共に、ミハイルに重い一撃が突き刺さる。このスキル、どうやら動けない相手に対して使うと相手の防御を無視するという隠し効果があるらしい。だから、こうやって拘束系スキルの後に使うことで確実にその効果を発揮させることができる。隙が大きいという弱点はあるが、今でも現役レベルの必殺コンボだ。

「ハァ、ハァ……どうだ…………!?」

「…………やるじゃねえか、セイスよぉ!!?」

「ッ!!」

『なんとミハイル、まだまだ余裕で戦えそうだ!凄まじいバイタリティだ!!』

結構一方的にダメージを重ねたはずなんだが……こいつ、思ったよりもタフだな。攻撃力はさることながら、耐久にもかなり振っているんだろう。錬金術は使わなさそうだし。

「お前……強くなってんな、あの時よりも確実に」

効力の切れた鎖を振り払いながら、俺にそう語りかけてくる。

「そりゃあ、もう2度とあいつをあんな目に遭わせないと決めたからな」

「ヘッ、そいつぁ立派な騎士道精神だ……だがよぉ、強くなってんのはお前だけじゃないんだぜ?」

何だ?ミハイルの目の色が変わった。感情的な移ろいではない。明らかな、違和感。こいつ、まだ何か力を隠し持っている……!?

「教えてやるよ。オレはこれまでずっと、強えヤツとの戦いを強いられてきた。自分より格上との戦いが殆どだ……そんな環境に身を置いている中で、オレはやがて自ら戦いを求める、戦闘狂になっていった」

「……何が言いたい?」

「つまりな……オレは、お前がオレより強くなるその時を、ずっと待ち望んでいたんだよ!!そんなお前との戦いで、お前をこの手で倒し、オレ自身がもっともっと強くなるために!!」

瞬間、彼の周りに突風が吹き荒れる。何か来る!!俺は急いで後ろに跳び、警戒を強める。

「キヒヒッ、行くぜぇ……!【魂の刻印ソウルコード:狂戦士バーサーカー】!!」


~~side 春風~~

「ッ、これは……!?」

何だ、今のスキル。ボクの【狂乱化バーサーク】にどことなく似ている……?あのデュエルの最終盤、力比べにもつれ込んだ時に感じたプレッシャー。それに似た何かを、あれからは感じる。

「【グラッジスラッシュ】!!」

あれは、ミハイルの持つ遠距離攻撃スキル。さしずめ、距離を離したセイスさんを攻撃するために使ったんだろうけど……セイスさんのスピードなら、まず当たらないはず……。

「えっ!?」

その光景は、ボク含め、その場にいた全員を驚かせた。ミハイルの放った重い剣波が、セイスさんが回避した先に向かって行ったのだ。つまり、追尾機能……!?でもそんなの、この前の戦いではなかったはずだ。

それだけじゃない。ミハイルの動きが、格段に良くなっている。ただのバフだとか、そういう次元で説明できるものなんかじゃない。極振りしていて誰にも負けないはずのセイスさんのスピードに、食らいついているのだから。

「…………まさか、意志の力?」

「ッ!?」

ポロッと溢れたその言葉に誰よりも速く反応を示したのは、やはりプレ君だった。

「ハル、どこでそれを……?」

「この前のミハイルとのデュエルの中で、彼の攻撃が急激に強くなったことがあって……その時、小春がもしかしたらそうなんじゃないかって」

「まあ、ハルなら話してもいいか…………僕も初めて知った時は驚いたよ。この世界には、不可能を可能に……空想を現実にする力が渦巻いているらしい」

強いイメージが、現実となって現れる現象。言われてみれば、そういうものはこのゲーム内で何回も見てきた。プレ君の原点【付与強化】に始まり、十人十色のチェインスキル、ユノンさんの真影……ボクと小春の関係性だってそうだ。思えば全部、元は頭の中で描いた空想上の事象。でもそれは今、こうしてこの世界に具現化している。

「何で、そんなことができるんだろう?」

「恐らく、この世界の管理システムそのものに、特殊なAIが搭載されているんだろう。僕達の思考を読み取り、それに見合った結果を様々な形で還元している、とか。考え過ぎかもしれないけど…………」

「……なんか、ちょっと怖い話だよね」

「まあ、不気味だとは思うよ……でも、これを上手く使いこなすことができれば、誰でも最強の力を手にする可能性がある。少なくとも僕は……その可能性に賭けたい」

そう言った彼の目は、どこか遠くを見ていた。きっと誰も見ていない新しい世界を、彼は見ているんだろう。ボクはそのことに一抹の不安を感じたのだった。また何か、大きなことに巻き込まれるのではないか、そんな予感と共に。


~~side 第1サーバー代表・早瀬~~

「X05、ミハイルのバイタルに異常発生!!」

「心拍、呼吸共に急上昇しています!」

それは、突然の事態だった。メインサーバーのメンテナンス作業の最中、イベントサーバー担当者からの通信が入った。プレイヤーの身体を守るため、リアルの身体に何か異常が起こると、身につけているハードがそれを検知し、ログインしているゲームソフトを通してプレイヤーに通知や警報、場合によっては強制ログアウトが施される仕組みとなっている。

では、何故彼の異常をピンポイントで私達が見つけられるのか。それは、彼がX01……プレアデスと同じ「特別指定プレイヤー」の1人だからだ。最も、どういう法則で2人が同じ括りに入っているのかは私達は誰も知らないが。

「早瀬君。私はメンテナンス作業で手が離せない。君が彼の様子を見て来てくれ」

「分かりました!」

だが、少なくとも彼が特別指定プレイヤーとしてナンバリングされている理由は分かる。それは、彼が我が社のテストプレイヤーだからだ。私は、彼らテストプレイヤーがログインするポッドルームへと急いだ。
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