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メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第20話 不器用な男達

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「…………お前ら、いい加減人の前でイチャつくのやめてくれないか」

「僕達は割といつも通りだと思いますけど……」

「それがイチャイチャしてるって言うんだよ!!」

……このやり取りももう何回目だろうか。多分、マグさんの工房に2人で行く度にそう言われている気がする。まあ、今回は観覧車に乗った後だし、多少お互いに浮かれているのもあるかもしれない。

セイスさんの試合まであと30分。僕達は最後に、僕とマグさんで作った作品を見に行った。とはいえ、僕も最終的にどんな作品に仕上がったのかは知らないから、これが実質初対面ということになる。

「あったぞ、これが『ホウオウの樹』だ」

「おぉ、これはまた……」

「大きい……」

マグさんの案内に連れられて作品に辿り着いた僕達は、思わず感嘆の声を漏らした。それもそのはず、展示館の中でも一際大きな広間にでかでかと設置されたそれは、全長10メートルはありそうな巨大作品だったのだ。

「骨組みの時点で確か5メートルくらいだった気がするんですけど……?」

「ああ、あれは真ん中で作品全体を支える柱みたいなもんだ。あれの上に、更に何本もフレームを被せている」

そのフレームというのは、多分この枝のことだろう。なるほど、最初に見たあれは木の幹を表していたのか。そして、広がった枝には宝石でできた無数の花が付いている。

「宝石の桜で宝桜、ですか」

「それだけじゃないぞ、上の方を見てみろ」

「…………あっ、あれはもしかして、鳥?」

ハルが指差す方を見る。作品の天辺、鋼鉄と宝石でできた桜の樹の上、よく見ると大きな鳥のようなものが立派な翼を広げている。あぁ、そういうことか。

「鳥の鳳凰とのダブルミーニングってことですか……」

「正解!さすがはプレアデスだな」

「そりゃ共同制作者ですからね……それに、この作品のモチーフも僕達でしょう?」

「お?そこまで言った覚えはないんだが……」

と言うが、マグさんのその顔は怪訝ではなく、子供が嘘をつく時のような、白々しい表情。恐らく、僕が見破ることも想定内だったんだろう。

「どういうこと?プレ君」

「宝石の桜は言うまでもなく僕達のチェインスキルなんだけど……この作品のフレーム、実は鉄をめちゃくちゃ精錬した素材が使われてるんだよ」

「精錬しまくった鉄……って、玉鋼?」

「そう、つまり小春と同じ素材なんだ。しかも、この木の形のモデルはアルバノの木で、おまけに木の表面には蒼粒石……もう分かるでしょ?」

そういえば、初めて2人で工房に行った時、やたら色々質問されたのを思い出す。僕達がゲーム内で初めて会った場所とか、スキルとか武器の素材だとか、作品に関係なさそうな質問ばかりされたが、今思うと、その時の情報が全て反映されている。雪ダルマさんも言っていたけど……なるほど、これは彼が天才と言われるのも納得だ。

「じゃ、あの鳳凰のモチーフは分かるか?」

「あ、それは分かる!ユノンさんのフーちゃんでしょ?」

「ああ……確かに、それっぽい」

言われてみれば確かにそう見える。フリーディアでのイベントの中で、ユノンさんの相棒、フーちゃんは死んだ。だが彼女は、最期に黄金の翼を広げて天へと飛び立って行く巨大なフーちゃんを見たと言っていた。イフリート曰く、それは死んだ者との強い結び付きが周囲のマナに呼応し、死者の魂と共鳴して出現する精霊体のようなものだと言う。現実世界じゃただのオカルトだが、マナが存在するこの世界ではあり得る話だ。

「つまり、この作品は僕だけじゃなく、ハルとユノンさんも関わっていると」

「そういうこと!この前のイベントで、特に輝いている3人だったからねぇ。その話をノルキアに聞いた時から、インスピレーションが止まらなくなって」

そう声を上擦らせて興奮気味に話す彼の姿は少々怖かった。……根っからの芸術家というものは、皆ああいう感じなんだろうか。


~~side マグ太郎~~

「じゃ、ボクたちは先にコロシアムに行きますね」

「マグさんも、遅れないように来て下さいね」

「おう、それじゃあな」

一通り作品を鑑賞し終えた彼らの背中を見送る。……やっぱり距離近いじゃねえか、あれは。

「ったく、イチャイチャしやがって」

「嫉妬でもしてるのかい?マグ」

「なッ!!?ノルキア、いつからそこにいた!?」

「ずっといたわ!ったく、相変わらず警戒心がないな、おまえは……」

「来る者拒まずのスタイルだからな、俺は!」

「バカなこと言ってないで、さっさと準備しろっ!もうすぐ最後の試合が始まるんだぞ」

その言葉とともに、俺の腹に重い一撃。あ、これは割と本気の腹パンだ。

「痛ってぇな……!!分かったよ、すぐ行くからちょっと待ってろ」

「早くしてくれよ?……それはそうと、マグはあの2人のこと、どう思う?」

「あの2人って……春風とプレアデスのことか?」

「そう。ちょっと前まで離れ離れだったらしいのに、今はああだもの」

そういうノルキアの目線の先には、手を繋いで歩く2人の姿。……あいつら、俺から離れた瞬間あれかよ。

「ありゃあ、下手したらもうデキてるな」

「だねぇ。ゲーム内恋愛か……全然あり得ない話じゃないけど、あの2人はここで初めて会ったんでしょ?なんか、夢小説みたいだよね」

「ああ、そうだな……お前は、誰かいないのか?そういう、気になる人とか」

茶化すつもりで言ったその一言。だが、その反応は少し意外だった。

「……いるよ。ちゃんといる、この世界に」

そう言うノルキアの目は、どこか寂しげだった。

「……ほら、早くしないと置いてくぞー!」

「お、おう、今行くよ!!」


~~side セイス~~

『さぁ、激闘が続く1回戦も残すところあと1試合となりました!!それでは、本日の最後を締めくくる2人のプレイヤーをご紹介致しましょう!』

会場が熱狂する。これが今日最後の試合。パークエリアに行っていた人達も戻って来ていて、さっきまでの雪ダルマ達の戦いでボルテージが最高潮に達している。この肌にひり付くような緊張感……たまらない。仕事柄、こういった緊張にはとっくに慣れているが、ここは仕事場ではない。

それに、今日はイベント、お祭りだ。こういう時くらいは、羽目を外して楽しんでもバチは当たらないだろう。

『まずは、予選Aブロックにて、春風との見事なコンビネーションで猛攻を生き抜いたバーサーカー!剛剣の使い手、ミハイルだ!!』

…………いつの間にこんなアナウンス追加されたんだ?さっきまでは無かったよな?まぁ、これはこれで気分上がるから良いけどよ。てか、お前もお前でノリノリで手振ってんじゃねえよ……ちょっとジワるじゃねえか。

『対するは、予選Hブロックで誰も寄せ付けない圧倒的なスピードを披露し、ぶっちぎりの成績で勝ち上がったその姿は、まさにジョーカー!その名は……セイス!!』

なら俺も、少しは魅せてやらねえとな。

「【瞬歩】」

テレポートのように、瞬間的にフィールドに姿を現す。と同時に、観客からのどよめきが起こる。……これ、結構楽しくなるやつだ。

「……お互いもう、言葉は要らねえよな。さあ、始めようぜ」

いつになく据わっている目だ。さっきの会話で、お互い胸の内は明かした。あとは、それぞれが信じるものと、プライドを賭けてぶつかるだけだ。

「ああ、そうだな……ろうか」

ミハイル……俺の旧友にして、仇敵。7年越しの因縁を、今ここで、終わらせる!

『1回戦第8試合、ミハイルvsセイス!レディ……!』

始まる。意識を、狩猟本能を、極限まで集中させろ。

『バトル、スタートォ!!』
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