アルケミア・オンライン

メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第5話 祭りの始まり

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「さあ、プレイヤーの皆さんお待たせしました!只今より、全プレイヤーが集う夢の祭典『アルケミオス』を開催致しまぁす!!」

2050年8月15日。『アルケミア・オンライン』サービス開始から半月。サーバー内の全プレイヤーが専用のコロシアムに集められたこの日、大歓声に包まれて第1回公式イベント『アルケミオス』が開催が宣言された。イベントはゲーム内で3日、つまり、リアル1日かけて行われる。

それに伴い、通常リアルで4時間がログイン限界なのに対し、今回のイベント中は、試験的に時間制限を撤廃するそうだ。とはいえ、参加者の現実でのバイタリティが危険に晒された場合は、その限りではないようだが。戦闘中のログアウトは通信不良などのやむを得ない場合を除き、原則敗退扱いになる、と注意事項に書かれていた。

「いよいよだね、プレ君!」

「そうだね……!」

なるべく気丈に振る舞ってみせるが、内心相当疲れている。自分で自分を忙しくしすぎたのが悪いのだが、結果的にあまり寝ることなくこの日を迎えることになった。作品作りは勿論のこと、自分の装備にも随分とこだわったせいで、作業時間が物凄く延びてしまったのだ。まあその分、ちゃんと良い物ができたが。

というわけで、今日の予選は体力を使うことなく、なるべく早く終わらせたい。勝てば結果的に手の内を見せずに決勝に上がることができるし、肩慣らしにはちょうど良いだろう。PSは決して高くないけれど、僕だって四星と呼ばれるプレイヤーの1人だ。予選程度で負ける気はさらさらない。

「それでは、予選大会のルールを説明させて頂きます!」

長くなるので、聞いた内容を大まかにまとめるとこうだ。まず、今回の大会では予選で100余人ずつ、A~Hの8ブロックに分けられ、専用のフィールドでバトルロワイヤルを行う。そして、段々と縮小していくフィールドの中で、最後に生き残っていた2が決勝トーナメントに駒を進める。

まあよくある一般的なバトロワのルールだが、この2人、というのがミソだ。つまり最後の1人になるまで戦う必要がないので、2人で手を組むも、裏切るも自由なのだ。とはいえ知り合いに出くわすとも限らないので、基本的には普通に戦い、生き残るのが良い。ただし、必ず2キル以上はしないといけないらしい。生き残った人でその基準を満たしていない場合は、失格となり次に基準を満たした高順位のプレイヤーが決勝へ進む。

それと、同時キルなどにより1人勝ちし、2位が存在しない、もしくは判定できない場合。この場合は例外的に、決勝トーナメント1回戦はそのプレイヤーは不戦勝扱いになる。要するに、シード権を得られるということだ。せっかくだから、余裕があればこれも狙ってみようと思う。対大人数戦での秘策も用意して置いたのだ。

その他は、戦闘中の装備切り替えは自由、持ち込めるアイテム数の制限や、消費アイテムは元に戻らず消費されること、キルした相手からアイテムを奪うことはできないなど、細かい補足である。またフィールドは平原や森林、市街地などがあり、どこにスポーンするかはランダムで決まるとのことだ。

「では、予選のグループ分けの発表を行います!皆さん、お手元のミニスクリーンに注目して下さい!」

そのアナウンスと同時に、僕達の手元に小さな画面が現れた。そこには、アルファベットが1文字だけ……Dと大きく表示されている。つまり、僕はDブロックということだ。隣のハルの画面も見てみる。彼女はAブロックだ。ということは、順当に決勝トーナメントに行けば、相対するのは準決勝か、決勝ということになる。そこに至るまでは、せめて誰にも負けないようにしたい。2人で顔を見合わせて、小さく頷いた。

「頑張ろうね、ハル」

「うん!絶対勝ち残ろうね!」

どうやら、誰がどのブロックになったかは発表されないようだ。戦ってみるまで分からない……ってことか。良いじゃん。その方がやりがいがあって面白い。

「では間もなく、Aブロックの試合を開始します!出場プレイヤーの皆さんは、その場で準備のほどをお願いします!!」

なるほど。どこかに集合というわけではなく、客席から直接フィールドに転送されるというシステムか。まあコロシアムのはとても100人が戦うには狭すぎるからな。その方が良いんだろう。

「ハル、装備の準備は大丈夫?」

「ばっちり!プレ君のおかげだよ」

昨日、僕の装備も含め最終調整を行ったのだ。ハルの刀は、先日蠱惑の森で手に入れた『橙原石』によって大幅な強化を果たした。地属性錬金術の錬成陣を施したガイアに、抜刀時に起動するコアとして取り付けたのだ。結果的に、威力と発動速度、純粋な刀の攻撃力などが向上したのである。名前も新たに『地霊刀ガイアオリジン』へと変化した。……遂に原型であるアルバノの銘が消えたことだけは少し残念だが。

「じゃ、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。思い切り暴れておいで!」

「それでは、予選Aブロック……バトル、スタートォ!!」

一際大きな歓声が上がる。いよいよ、ハルの戦いが始まった。



~~side ハル~~

さて……ボクのスタート地点は、と。周りをゆっくりと見渡して景色を見る。建物と木があり、畑もある……村だ。確か村は、かなりマップの端の方だったはず。こういうのは最終的に、真ん中の方に縮小していくって聞いたことがあるし、移動した方が良いよね。

方向を定め、タタタッ……と駆け出す。そういえば、予選がバトルロワイヤルになるって情報が公開された時、プレ君が広いマップの可能性があるって言ってたから、体力作りも兼ねて毎日走り込みをしていたんだ。そしたら、この前《駿馬の如く》という称号を手に入れた。効果は単純で、AGIアップに加えて疲れにくくなる。長距離を走るうえではこれ以上ない贈り物だ。

「ッ!」

殺気を感じる。村から離れた平原、周囲に人影はない。ということは、どこかに隠れている。潜伏スキルを使っているのか、それとも物陰に隠れているのかのどっちかだろうが、ボクにはこれがある。

「【気配察知】」


【気配察知】消費MP:任意 クールタイム:5分
1分間、自身の周囲にいる敵対者の気配をキャッチする。効果範囲は、消費したMPによって変動する。


MPを50ほど消費する。これは例の目隠し修行を続けるうちにいつの間にか手に入れていたスキルで、検証の結果、消費MPの10分の1メートルを半径とする球体が効果範囲となることが分かった。そしてこのスキルは、【潜影】のような潜伏スキルをも貫通する。

「見つけた」

木の上だ。敵は1人。弓から矢が放たれるのが視界の隅で映った。この軌道だと多分、頭に当たるな。良い狙いだけど……少し撃つのが遅かったね。

「【閃刀:刹那】」

矢が当たる寸前で、スキルを発動し狙撃手へ肉迫する。向こうからすれば標的が瞬間移動してきたような感覚だろう。すれ違いざまに、脚に一撃加えて逃げ足を封じる。

「な、何っ……!?」

「残念。ボクの勝ち」

フッ、と軽く小春を振り抜く。次の瞬間、名も知らぬ狙撃手の首が宙で一回転して地面に落ちていった。

「これで1人……」

順調な滑り出しだ。このまま見つけた敵を倒しつつ、中央を目指そう!ボクは地面に着地すると、再び同じ方向へと走り出した。



Aブロック予選 92/101人
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