アルケミア・オンライン

メビウス

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第5章 失われたもの、大切なもの

第25話 力の代償

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~~side プレアデス~~

あれから十数分。僕は機動兵の大軍相手に、孤軍奮闘を続けていた。近距離型には接近して攻撃し、遠距離型には火球を当てる。先に遠距離型を落としておいた分、さっきまでよりはだいぶ戦いやすくなっている。

何より、タリスマンによる再生効果が得られたのが大きい。これのおかげで、多少攻撃が掠めても大丈夫になった。とはいえ、向こうの火力も相当高い。一瞬たりとも気が抜けないのは間違いないんだが。

でもそれ以上に問題なのは、僕の腕のことだ。さっきから付け根が痛んで仕方ない。早くも代償が出始めているらしい。いや或いは、無理やり繋いだことによる拒絶反応のようなものかもしれない。イフリートの炎の熱でやられているのかもしれない。だがとにかく、いずれにせよこれ以上時間をかけるわけにはいかない。

(素早く使えて、広範囲に攻撃できるスキル……よし、あれを試してみよう)

単体攻撃ではペースが遅すぎる。しかし、僕の範囲攻撃は殆どが大技、発動には時間がかかる。こんな時にこそ輝くのが、以前手に入れた新しい宝石の力だ。

「くらえ、【宝石爆烈弾ジェム・バースト】!」

僕の右手から蒼粒石の塊を1つ生成し、群がりに向けて射ち出す。射出した弾は5秒後に爆発するんだけど……。

(あまり、引き付けられていないな)

爆発にたくさん巻き込むためには、それだけ多くの敵を引き寄せなくてはならない。しかし、この感じでは恐らく、爆発のタイミングで近くにいる機動兵を倒せるくらいだろう。爆発の範囲を、広げてみるか。

「【連鎖爆破】!!」

さっきのが爆発する直前に、周囲にさらに蒼粒石をばら撒く。風か何かで引き寄せることができないなら、反対に広く爆破してしまえばいい。

「起爆ッ!」

中央の爆弾が弾ける。爆発の衝撃が円状に広がり、周囲の蒼粒石のエネルギーを溢れさせ、次々に誘爆する。爆音と光があちこちから湧き上がり、爆竹のようだ。

「…………」

煙が立ち込める。先の方はよく見えないが、さっきまでのうるさい駆動音は静まりかえっている。かなりの数を巻き込めたはずだ。

「……フフフッ、流石に手強いですね。これだけの大部隊を前にして善戦するとは」

仮面の男の声だ。あの大きな機体の中から声を発しているからだろうか、その声はくぐもっている。

「ですが、その代償は大きいはず……今頃、貴方の身体にもその影響が出ているでしょう?」

「くっ……」

否定できない。確かに、発動直後ほどではないものの、僕の身体は再び痛みに支配され始めている。長時間戦うほど、その代償は大きくなるのだ。まだ戦意を喪失するほどではないが、じわりじわりと蝕まれる中、敵の戦力が残り続けているというのは、正直精神的に来る。

「段々と、良い顔になってきましたね。その戦意がどこまで続くか……さあ見せてみなさい!」

その声を合図に、煙の奥から続々と機動兵が湧いて出てくる。クソッ、本当に無尽蔵だな……!こうなったら、あのデカブツを倒すしかない。だが、大群が行手を阻んでいて、迂闊に近づけない。

「……うおおぉぉっ!!」

深く考えるより先に身体を動かす。MP節約も兼ねて、通常攻撃で数を減らす。手応えは十分だ。だが、決して彼らの性能が下がっているわけではない。

ここまでの戦いで、僕は機動兵の弱点を割り出していた。それは、胸部装甲の節目を狙うこと。どうやらこの内側が機体のスケルトン構造らしく、物質系特効も相まって、上手く狙えば一発で落とせる。

「ッ!!」

その時、狙われているという直感が迸る。頭で考えるより先に身体が動いた。ワイヤーを天井に向けて放ち、空中に躍り出る。すると、さっきまで僕がいた場所に弾丸の雨が降り注いでいた。

ビンゴ。そう思いながら素早く敵の位置を割り出す。ドローン型は小さく見つけづらいが、弾丸の軌跡がそれを教えているようなものだ。

《イフリート!》

思念波で合図を送り、力を借りる。こうすれば、火球を複数個同時に錬成できる。つまり、この一連の流れで目視した砲撃型は全て沈めた。順調だ。あとはこのまま近接型を倒せば……。

《プレアデス、避けろ!!》

「……ッ!?」

脳内に警鐘が鳴る。ジェットを起動し、言われるままにその場を離れる。次の瞬間、僕の頬を何かが掠めた。地面に降り立ち、天井を見上げる。

《……今のは?》

《恐らく対空砲のようなものだろう。全く、油断をするな》

マジか、そんなものまであるのか。危なかったな……天井に砲弾が突き刺さっている。あんなものを食らえば、ひとたまりもない。

だが対空砲ということは、空中に出なければいい。実際さっきので砲撃型は殲滅しているから、怖くはない。それより今は、少しでも多く倒すことに専念しなくては。僕の身体は、着実に限界に近づいているのだから。


~~side セイス~~

春風が意識を失ってから3分が経過した。俺達は春風の身体を守りながら、何とか取り巻きを防いでいるところだ。その間、ボスは小春が単独で動いて攻撃をいなし続けている。

小春がどういう原理で動いているのかはまるで検討もつかないが……以前プレアデスが機械の刀だと紹介していたことから考えると、恐らく使用者本人がいなくても少しの間は残存エネルギー的なもので動けるんだろう。だが、だとしても限界はある。いつ小春が機能停止しても、おかしくはない。

そう思っていると、予感とは嫌に的中するもので。

カタン……という硬い音が地面に響く。反射で振り返ると、小春が地に落ちていた。マズい、エネルギー切れか!?

キシャアアアアア……!!

ボス蜘蛛の咆哮が轟く。今までずっと動く刀に攻撃を防がれ続け、鬱憤でも溜まっているのだろうか。

「セイス!!」

カンナの声が響く。そこで初めて、自分が置かれている危機的状況に気がついた。取り巻きのうちの一体が、背後に迫っていたのだ。

「グッ……!」

気づいた時には既に遅く、抵抗できないまま組み倒されてしまった。視界の奥では、ボスの巨大な鎌状の前脚が振り上げられていた。このまま、取り巻きごと貫く気か!何とか振り解こうと手足をジタバタさせるが、先端を他の蜘蛛に押さえられているのか、全くビクともしない。

(ヤバ、これ、やられる……!)

俺は自分の不注意を呪った。そして、仕方なく諦め、その瞬間を待った。



『させねえよ』

視界が明転する。覆い被さっていた蜘蛛が弾け飛び、頭上に迫った鎌も弾かれた。俺は突然の出来事に呆然とする。そして同時に、今の不思議な声の響きにハッとするのだった。

『待たせたな……あとは、オレに任せろ!』
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