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メビウス

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第5章 失われたもの、大切なもの

第18話 突破口

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どうしたものか。僕の体力は既に限界を超えているし、向こうの攻撃が何回か身体を掠めている。そのせいで、HPも3割近く削られている。あの拳本体に当たったら、もう生きていられるか怪しいレベルだ。

(どう、すれば……!?)

頭の中で攻略法を考え続ける。走り続けて奪われた体力も相まって、だんだんと頭が回らなくなってきているのを感じる。それに焦り、さらに視野が狭くなる。頭では分かっていても全く抜け出すことができない、負の連鎖。僕は既に、その中に飲み込まれ始めていた。

そして、無理に頭を動かしていると、身体の方に意識が回らなくなるというもの。

「うぁッ!?」

恐らく、足が回り切らなかったんだろう。一歩前へ踏み出そうとした足が、あろうことか反対の足に触れ、僅かに絡まった。するとどうなるか。地上数センチのところで足が絡まり、再び地面に足を着くことができなくなったら?答えは明白だ。

(し、しまった……!!)

すぐに立ちあがろうとする。だが、その一瞬の隙を、向こうは見逃してくれなかった。

「ぐああああぁぁっっ!!」

僕の身体が無慈悲にも突き飛ばされる。HPはそんなに減っていない。幸運にも、スパイクには直撃しなかったようだ。だが……。

(うっ……く、お、起き上がれない……!)

身を起こすのがやっとだった。体力が限界をとっくに超えていたのもあるし、それを無理に動かしていた最中、唐突に止められた衝撃もある。そして、背中を殴られて吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた痛みも。

背後を振り返る。さっき僕のことを突き飛ばした機動兵が、空いた距離を取り戻しに来ている。早く、逃げなければ……!何とかして身体を動かし、2本の足で再び立つ。だが、そんな僕の努力を打ち砕く瞬間が、次に訪れる。

「う、嘘だろ……」

思わず、茫然としてしまう。僕がどうにかして足を動かし、逃げようとしていた時。目の前の曲がり角から姿を現したのは、もう1体の機動兵。後にも先にも、抜け道はない。ダクトもなかった。完全に、袋のネズミだ。

(どうする!?一か八か、フックショットで正面の機動兵の頭上を通り抜けるか?)

……いや、ダメだな。狭すぎる。2体とも身体が大きく、ちょうどこの通路を塞いでしまっている。だから、一度挟まれたら物理的に抜け出すことはできないのだ。とすると、今フックショットは使えない。急いでもう一つの装飾品、闇霊のローブに切り替える。だが、ここで僕は重大なことに気づいてしまう。

(くそっ!【潜影】さえ使えたら……!)

僕があのスキルを使えない理由は、二つだ。一つは、アイテムを変化させたことでスキルの仕様が変わってしまったこと。元々は、影でさえあればどこにだって潜ることができた。ただし、その影があまりにも速く動くと振り解かれて、潜伏状態が解除される。

一方、僕が使える方は、影のあるところで自分の身体を霧散させる。物理攻撃しか防げず、錬金術にはヒットしてしまうようだが、空間が暗ければ事実上無制限で姿を消すことができるのだ。ただ、そのためには広さが必要で、自分の影にだけ潜るということができなくなってしまった。

そして理由二つ目。この機動兵達が現れる直前、この研究所内全体に電灯が灯った。それも、抜け目なくビッシリと。これのせいで、僕の『潜影』を使える条件を満たせなくなってしまった。それが偶然なのか、あの男が狙ってやったことなのかは分からないが。

暗いところでは、僕が使える性質の方が強いのは確かだ。影に潜るという予備動作がない分、より早く潜伏することができるから。でも、今だけは、自分の影に潜りたい。そこにしか、逃げ場がないから。こんなことなら、いっそ装備を変えない方がよかった。

そうだ、登録したレシピから元の装備をもう一つ取り出して装備するのは……?いやダメだ、もう2体との距離が近い!これでは衝突までに間に合わない!万事休すか……!?


────────


と、そう思った時。

(……ん?これは……影!?)

恐らく、わき目も振らずに逃げているうちには気づかなかっただろう。考えてみれば簡単なことだ。あの機動兵は、れっきとした物体。質量を持ったオブジェクトなんだ。何が言いたいかというと、彼らにも光を当てれば、当然影が生じる。今までは距離が離れていたり、別の照明が当たったりで目立たなかったんだろう。

でも、2体が近づいた今。彼らの足元にはくっきりとした影がある。影を打ち消していた光が、別の機体の身体によって遮られたのだ。その結果、ビルの谷間に日光が入りにくいのと同じように、照明が影を打ち消すことがなくなったんだ。

(近づく毎に……影が大きくなる!僕のスキルで潜れるほどの大きさの、影が!突破口は……ここしかないッ!!)

落ち着け……一度外すと後がない。不発でもクールタイムに入ってしまう。タイミングは、一瞬。彼らが僕に触れる直前、空間全体が暗くなった時が、発動の合図だ。

逸る気持ちを、深呼吸で落ち着かせる。2体が腕を伸ばしてくる様子はない。仲間討ちを避けるためだ。となると、このまま僕を身体で押し潰すつもりなんだろう。それなら、その一瞬にだけ集中していれば……!

耳に機動兵達の駆動音が響く。音は壁やもう一方に跳ね返り、その音量を増していく。まだだ。空間にはまだ、光がある。この明るさでは、まだ潜れない。

空間に闇が満ちていく。地面の光が消え、機動兵の影で……満ちていく。ここだッ!

「『潜影』ッ!!」

頬に金属の壁が触れる。僅かに圧力を感じ、骨に響く。次の瞬間、僕の身体は暗闇の中に消えた。


ガアアアァァァァンンッッ!!


金属と金属が激突する轟音が、誰もいない廊下にこだまする。やまびこのように一拍ずつ遅れながら、遠くへ遠くへと伝播していった。

(み、耳が痛い……!頭が、クラクラする……ッ!!)

歯を食いしばって苦痛に耐える。心の平静を保つ。集中が切れると潜影が解除されるのだ。安全が確保されるまでは、耐え忍ぶしかない。そうこうしているうちに、漸く騒音の共鳴が収まってきた。

さて、と霧散したまま思案する。この状態はいつになったら解除すれば良いのか?今更そんなことを考える。思えば、こうして衝突寸前に影に飛び込んだとて、それで何の支障もなく切り抜けられる保証は全くない。なかなか早計だった……。

(ど、どうする……?このままでは埒が明かない。イチかバチか、解除してみるべきか?)

と、思った時。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


突然、霧散した僕の周りの空気が振動し始めた。かなり大きいぞ……!?それに、この感覚は前に味わったことがある。あれは確か、蒼粒石の実験で負荷をかけすぎて暴発寸前になった時だった。つまり、この振動は……。

(爆発の合図だッ!!)

「『潜影』解除!」

迷っている暇はない。急かされるように慌ててスキルを解除し、横の空間……機動兵の背後に転がり込む。直後、爆発の熱が肌を焼き、僕の身体は大きく吹き飛ばされた。

「グッ…………ッッ!!!」

壁に打ち付けられ、声にならない悲鳴が漏れる。全身が激しく痙攣する。身体中の細胞が拒否反応を起こしているような感覚。痛い。痛い。あちこちが焼けるように熱い。呼吸が、上手くできない。頭が、まともに回らない……!!



僕の意識は、彷徨うように、どこか遠くへ飛び去ってしまった。
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