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第5章 失われたもの、大切なもの
第1話 戦いの爪痕をなぞって
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フリーディアの宿屋で目を覚ます。こっちではまだ早朝か。カーテンから窓の外を覗いても、人通りは少ない。隣にはまだ、ログアウト中で休眠状態のハルがいた。何故か服の前面がはだけているけど、暑かったのかな?少し気恥ずかしいけど、念のため元に戻しておいてあげる。
部屋を出てロビーへ歩く。そこでは、大量の大人達が空の酒瓶片手にそこら中で転がっていた。
「……あ~あ」
額に手を置き、やれやれと首を振る。ここではつい先程まで、戦争への勝利を記念した宴が繰り広げられていた。それで、調子に乗ってお酒を飲みに飲んだ彼らが今こうなっていると。なるほど、ハルはきっとこの熱気にやられたんだな、と勝手に納得して。
「……行くか」
僕は宿屋を出て、閑古鳥の鳴く大通りをワイヤーで移動して勢いを付ける。
「ウィング展開、ブースター起動」
口で呟くと同時に、空中で手早く準備を整える。加速直前でワイヤーの先端部を回収する。両腰の装置でワイヤーをくるくると巻き取りながら、僕はフリーディアを飛び立った。宝石が吸収、変換するマナを動力にしているから、燃料切れの心配が要らないのは良いことだな。マナなんて空気中からでも回収できるし。
「【金属探知】」
スキルを使い、進行方向に敵がいないことを確認する。そういえばこのスキルを使い出したのはごく最近……それこそ、空中移動ができるようになってからだったな。このスキルはかなり序盤で獲得したもので、金属の反応が強いほど音や光でその所在を示してくれるが、今までは使い所が難しすぎて殆ど使っていなかった。
というのもこのスキル、無駄に感度が優秀すぎるせいで、下手に使おうものなら自分の周りのほぼ全てに対して反応してしまう。その時の通知音のうるさいこと。だから、あれは街中はおろか、周囲にプレイヤーがたくさんいる時には殆ど使えない、いわゆる「死にスキル」になりかけていた。
でも、そういうものが何もない場所なら使える。そう、空中というわけだ。まだこの飛行技術を持っているプレイヤーは僕だけなので、ここなら事実上索敵スキルとして優秀な性能を発揮してくれる。
慣れるとかなり便利なものだ。自分とパーティメンバーへの反応は設定でオフにできるし、何よりとにかく感度が優秀すぎる。僕も最初は金属の鉱石とか、武器の素材の金属を探知する程度だろうと思っていた。しかしこうして空中で使ってみると、なんと生物の体内にミリグラム単位で含まれているものですら、微弱ながら反応を示すのだ。そりゃあ街中じゃ使えないわけだ……。
さて、スキル談義はこの辺にして。僕はインベントリを開き、その中でグスターヴさんから貰った本を閲覧する。この世界では、インベントリはプレイヤーの誰もが持っている専用の貯蔵庫という扱いで、それは特別な空間にあるらしい。だからインベントリに入れてあるものは腐ったり、劣化したりしないそうだ。
そしてインベントリの操作は脳波によって行う。VRMMOだからそもそも全部脳波操作だとか言ってはならない。あくまでこっちの身体での話だ。これの何が便利かというと、インベントリ内のアイテムのチェックも脳内で行えるということ。だからこの手の本なんかは、自分が読むことだけ考えればわざわざ出す必要もないのだ。
じゃあ何故普段は出しているのかというと、単純に疲れるから。今の僕の感覚を簡単に説明すると、片目で前方を見てもう片方で本を見ているという感じだ。2つの全く違う情報が同時に、それも独立して入ってくるのだから当然疲れないはずもない。それでも、表に出すと本が風に飛ばされてしまうからこうせざるを得ない。
「うーん……どうしたものかな」
王都まで飛行しながら呟く。風で殆ど耳に届かないが。それはさておき、僕の悩みの種はこの本の内容だ。大半は日記だからゆっくり読み進めているが、巻末の方に書かれていた謎の暗号をどう解こうかと頭を悩ませていた。
どうやらこれは、王立研究所内の、当時彼らがいた場所を示したものらしい。といっても、今の研究所とは別のものらしいが。日記によれば、彼らがホムンクルス化実験を受けた当時の研究棟は現在使われておらず、歴史的建造物の一つとして保存されているそうだ。ただ、そのページ自体が30年以上前に書かれたものだから、今もそれが残されている保証はない。
そして暗号自体もこれまた難しい。建物が残されているとすれば、恐らくそこに辿り着くこと自体は簡単だろう。ただ、そこから先どうするか、だ。聞き込みしようにも、下手に嗅ぎ回っていることがバレたらろくなことにならない。王立研究所の研究データは、王都としては絶対に守りたいだろうからな。このクエストは慎重に進めなくては。
「時間かかるよなぁこれ……帰ったらハルと一緒に王都に帰ろう」
ログイン場所から調査先までは近いに越したことはない。王都のあの宿屋にまた戻れば、移動時間は短縮できるだろう。ただ、この調査はハルを頼らない方が良いかもしれない。信頼できる人に渡すという本の情報ですら暗号化されている状態だ。現状、この厳重さを見るに危険を孕んでいる可能性が高い。
それに、元はといえばこのクエストは、僕の独断で始めたものでもある。王都そのものを敵に回す可能性もある以上、ただアバターを殺されるだけでは済まされないかもしれない。そうなった時に、ハルにまでその影響が及ぶのは、僕としては避けたい。決してハルが頼れないんじゃない。大切だからこそ、巻き込みたくないんだ。
「まあ、実際にそうするかどうかは、始めてみないと分からないよな」
そう言いつつ、エンジンの出力を下げる。王都が見えてきた。徒歩だと道中の戦闘や休憩も含めて2時間はかかる行程がたったの20数分。わざわざ作っておいて良かった。最も、人がそれで移動することを考えなければもっと出力は出せるんだけど。安全面を考慮して、リミッターをかけているのだ。
他のプレイヤーより一足先に、王都に着いた。空間機動ベルトの背面ジェットを噴射して着地の衝撃を和らげられるため、着地には事欠かない。……流石に周囲からの目線が気になるな。大半はNPCで……初心者プレイヤーが2人。まあ彼らには、いずれ自分も飛べるんだと思ってもらうしかない。流石に僕のことは知らないだろうしな。
「あ、あの!」
うわビックリした。中性的な声に呼び止められた。子供のライオンみたいな見た目の耳と八重歯の獣人……これは、さっき僕のことを見ていた初心者プレイヤーの1人だな。急に話しかけてきてどうしたんだろう。早速飛べるコツでも教わりに来たのかな?
「もしかして、プレアデスさんですか!?」
「え!?……あ、はい、そうです」
「うわああ本物だ!おい、マジだったぞ!」
「えぇ!ほんと!?」
あ、あれええぇぇ!?何か速攻でバレてる!おかしいな、僕は三皇の彼らほど目立った活躍はしてないつもりだったんだけど。一体どこから僕のことを知ったんだろう。
「え、ええと……どこで僕のこと知ったのかな?」
「どこからも何もないですよ!あたしたちじゃ辿り着けない街を、巨大なモンスターから守ったんですよね?」
「颯爽と空を切って移動する姿を見て、もしかして!?って思ったんです」
おおう、やっぱりそうか。そりゃそうだよな、空をあの速さで飛んでいるのはインパクト強いもんな。きっと彼らの知り合いがあの生き残りの中にいたんだろう。もしくは、何らかの動画で見たか。
彼らは友人の誘いを受けて数日前に始めたものの、VRMMO自体初めてで、右も左も分からないままずっと王都にいるらしい。とりあえずはギルドのアドバイス通りに、クエストを受けて毎日少しずつ強くなっているようだが……いかんせん戦い慣れしてないし、何より装備が一部だけ漸く初期装備から脱却した程度だった。
恐らく、原因は市場の高騰だろう。今、プレイヤーの多くはフリーディアに集中している。そのため多くの商人もそっちの方へ移っている。こうなると普通は安く売るのが基本なのだが……彼らが売る品物やその素材は殆どがプレイヤーによって齎されている。買い手も素材も少ない以上、利益を得るためには高く売るしかないんだろう。
暫くすればまた王都に戻って来るとは思うが、何にせよこの状況はマズい。この手のストーリーがしっかりしているタイプのゲームは、ある程度進行した時点でサーバーへの新規ログインを停止する調整がなされているが、だからといって数少ない初心者が強くなれない現状を放置するわけにはいかない。
「君たち、これも何かの縁だし、せっかくだからフレンド登録しない?」
「え?良いんですか!?」
「やったぁ!!」
男の子の方の周りを、女の子がわーい、とぴょんぴょんと跳ねる。仲良いんだな、この2人。と、彼らを見ていると何となくそう思った。
「はい、これで登録完了ね」
「ありがとうございます!俺、レオンって言います!」
「あたしはハニハニ!」
さっきのライオンの獣人はレオン君というようだ。うん、名前そのままだね。それでこっちのハニハニさんは……あ、蜂らしい。耳とかないから分かりにくいな。名前は多分、既にハニーとかの名前が使われていて文字ったとかそんなのだろう。ていうか、獣人って蜂みたいな虫も行けるんだ。本当に幅広いなぁ。僕はキャラメイクに自信がないから速攻で選択肢から外していたけど。
「それで……僕は元々鍛治職人でね、今も色々作ってるの。だから、君たちの装備を作らせてほしい」
「そこまでして下さるんですか?」
「でも、俺たちにそんなお金は……」
「お金は要らないよ。代わりに、一つお願いがあるんだけど」
というわけで、彼らに僕のことを誰にも話さないよう約束を取り付けることに成功した。いやぁ、何とか上手く行ってよかった。彼らの武器は、僕が王都に拠点を移してから改めて作ることになった。
それにしても……これは本格的に僕1人で行った方が良いかもしれないな。まさかあの戦いで、僕が初心者にも認知されるようになっているとは知らなかった。きっと、元から名前が知られているハルも同じだろう。とすると、隠密行動が求められる場合、2人いるとより目立ってしまうだろう。それは避けたい。
そして何より一番避けるべきなのは、ハルが巻き込まれること。幸い、僕が彼女と一緒に行動しているというのは、プレイヤーか冒険者ギルドくらいしか認知していない。この前の学会を見るに王立研究所とギルドは独立しているようだった。それなら僕が単独で動いて彼女との接点を見せなければ、ハルの安全は保証される。
「……やるしかないか」
大通りのど真ん中を歩きながら、1人決意を固める。そうだ、これは僕が受けたクエスト。責任は僕が果たすんだ。そして絶対に、ハルを危険に晒させはしない。そう心に決めて、僕は研究所のヒントを探しに回った。
部屋を出てロビーへ歩く。そこでは、大量の大人達が空の酒瓶片手にそこら中で転がっていた。
「……あ~あ」
額に手を置き、やれやれと首を振る。ここではつい先程まで、戦争への勝利を記念した宴が繰り広げられていた。それで、調子に乗ってお酒を飲みに飲んだ彼らが今こうなっていると。なるほど、ハルはきっとこの熱気にやられたんだな、と勝手に納得して。
「……行くか」
僕は宿屋を出て、閑古鳥の鳴く大通りをワイヤーで移動して勢いを付ける。
「ウィング展開、ブースター起動」
口で呟くと同時に、空中で手早く準備を整える。加速直前でワイヤーの先端部を回収する。両腰の装置でワイヤーをくるくると巻き取りながら、僕はフリーディアを飛び立った。宝石が吸収、変換するマナを動力にしているから、燃料切れの心配が要らないのは良いことだな。マナなんて空気中からでも回収できるし。
「【金属探知】」
スキルを使い、進行方向に敵がいないことを確認する。そういえばこのスキルを使い出したのはごく最近……それこそ、空中移動ができるようになってからだったな。このスキルはかなり序盤で獲得したもので、金属の反応が強いほど音や光でその所在を示してくれるが、今までは使い所が難しすぎて殆ど使っていなかった。
というのもこのスキル、無駄に感度が優秀すぎるせいで、下手に使おうものなら自分の周りのほぼ全てに対して反応してしまう。その時の通知音のうるさいこと。だから、あれは街中はおろか、周囲にプレイヤーがたくさんいる時には殆ど使えない、いわゆる「死にスキル」になりかけていた。
でも、そういうものが何もない場所なら使える。そう、空中というわけだ。まだこの飛行技術を持っているプレイヤーは僕だけなので、ここなら事実上索敵スキルとして優秀な性能を発揮してくれる。
慣れるとかなり便利なものだ。自分とパーティメンバーへの反応は設定でオフにできるし、何よりとにかく感度が優秀すぎる。僕も最初は金属の鉱石とか、武器の素材の金属を探知する程度だろうと思っていた。しかしこうして空中で使ってみると、なんと生物の体内にミリグラム単位で含まれているものですら、微弱ながら反応を示すのだ。そりゃあ街中じゃ使えないわけだ……。
さて、スキル談義はこの辺にして。僕はインベントリを開き、その中でグスターヴさんから貰った本を閲覧する。この世界では、インベントリはプレイヤーの誰もが持っている専用の貯蔵庫という扱いで、それは特別な空間にあるらしい。だからインベントリに入れてあるものは腐ったり、劣化したりしないそうだ。
そしてインベントリの操作は脳波によって行う。VRMMOだからそもそも全部脳波操作だとか言ってはならない。あくまでこっちの身体での話だ。これの何が便利かというと、インベントリ内のアイテムのチェックも脳内で行えるということ。だからこの手の本なんかは、自分が読むことだけ考えればわざわざ出す必要もないのだ。
じゃあ何故普段は出しているのかというと、単純に疲れるから。今の僕の感覚を簡単に説明すると、片目で前方を見てもう片方で本を見ているという感じだ。2つの全く違う情報が同時に、それも独立して入ってくるのだから当然疲れないはずもない。それでも、表に出すと本が風に飛ばされてしまうからこうせざるを得ない。
「うーん……どうしたものかな」
王都まで飛行しながら呟く。風で殆ど耳に届かないが。それはさておき、僕の悩みの種はこの本の内容だ。大半は日記だからゆっくり読み進めているが、巻末の方に書かれていた謎の暗号をどう解こうかと頭を悩ませていた。
どうやらこれは、王立研究所内の、当時彼らがいた場所を示したものらしい。といっても、今の研究所とは別のものらしいが。日記によれば、彼らがホムンクルス化実験を受けた当時の研究棟は現在使われておらず、歴史的建造物の一つとして保存されているそうだ。ただ、そのページ自体が30年以上前に書かれたものだから、今もそれが残されている保証はない。
そして暗号自体もこれまた難しい。建物が残されているとすれば、恐らくそこに辿り着くこと自体は簡単だろう。ただ、そこから先どうするか、だ。聞き込みしようにも、下手に嗅ぎ回っていることがバレたらろくなことにならない。王立研究所の研究データは、王都としては絶対に守りたいだろうからな。このクエストは慎重に進めなくては。
「時間かかるよなぁこれ……帰ったらハルと一緒に王都に帰ろう」
ログイン場所から調査先までは近いに越したことはない。王都のあの宿屋にまた戻れば、移動時間は短縮できるだろう。ただ、この調査はハルを頼らない方が良いかもしれない。信頼できる人に渡すという本の情報ですら暗号化されている状態だ。現状、この厳重さを見るに危険を孕んでいる可能性が高い。
それに、元はといえばこのクエストは、僕の独断で始めたものでもある。王都そのものを敵に回す可能性もある以上、ただアバターを殺されるだけでは済まされないかもしれない。そうなった時に、ハルにまでその影響が及ぶのは、僕としては避けたい。決してハルが頼れないんじゃない。大切だからこそ、巻き込みたくないんだ。
「まあ、実際にそうするかどうかは、始めてみないと分からないよな」
そう言いつつ、エンジンの出力を下げる。王都が見えてきた。徒歩だと道中の戦闘や休憩も含めて2時間はかかる行程がたったの20数分。わざわざ作っておいて良かった。最も、人がそれで移動することを考えなければもっと出力は出せるんだけど。安全面を考慮して、リミッターをかけているのだ。
他のプレイヤーより一足先に、王都に着いた。空間機動ベルトの背面ジェットを噴射して着地の衝撃を和らげられるため、着地には事欠かない。……流石に周囲からの目線が気になるな。大半はNPCで……初心者プレイヤーが2人。まあ彼らには、いずれ自分も飛べるんだと思ってもらうしかない。流石に僕のことは知らないだろうしな。
「あ、あの!」
うわビックリした。中性的な声に呼び止められた。子供のライオンみたいな見た目の耳と八重歯の獣人……これは、さっき僕のことを見ていた初心者プレイヤーの1人だな。急に話しかけてきてどうしたんだろう。早速飛べるコツでも教わりに来たのかな?
「もしかして、プレアデスさんですか!?」
「え!?……あ、はい、そうです」
「うわああ本物だ!おい、マジだったぞ!」
「えぇ!ほんと!?」
あ、あれええぇぇ!?何か速攻でバレてる!おかしいな、僕は三皇の彼らほど目立った活躍はしてないつもりだったんだけど。一体どこから僕のことを知ったんだろう。
「え、ええと……どこで僕のこと知ったのかな?」
「どこからも何もないですよ!あたしたちじゃ辿り着けない街を、巨大なモンスターから守ったんですよね?」
「颯爽と空を切って移動する姿を見て、もしかして!?って思ったんです」
おおう、やっぱりそうか。そりゃそうだよな、空をあの速さで飛んでいるのはインパクト強いもんな。きっと彼らの知り合いがあの生き残りの中にいたんだろう。もしくは、何らかの動画で見たか。
彼らは友人の誘いを受けて数日前に始めたものの、VRMMO自体初めてで、右も左も分からないままずっと王都にいるらしい。とりあえずはギルドのアドバイス通りに、クエストを受けて毎日少しずつ強くなっているようだが……いかんせん戦い慣れしてないし、何より装備が一部だけ漸く初期装備から脱却した程度だった。
恐らく、原因は市場の高騰だろう。今、プレイヤーの多くはフリーディアに集中している。そのため多くの商人もそっちの方へ移っている。こうなると普通は安く売るのが基本なのだが……彼らが売る品物やその素材は殆どがプレイヤーによって齎されている。買い手も素材も少ない以上、利益を得るためには高く売るしかないんだろう。
暫くすればまた王都に戻って来るとは思うが、何にせよこの状況はマズい。この手のストーリーがしっかりしているタイプのゲームは、ある程度進行した時点でサーバーへの新規ログインを停止する調整がなされているが、だからといって数少ない初心者が強くなれない現状を放置するわけにはいかない。
「君たち、これも何かの縁だし、せっかくだからフレンド登録しない?」
「え?良いんですか!?」
「やったぁ!!」
男の子の方の周りを、女の子がわーい、とぴょんぴょんと跳ねる。仲良いんだな、この2人。と、彼らを見ていると何となくそう思った。
「はい、これで登録完了ね」
「ありがとうございます!俺、レオンって言います!」
「あたしはハニハニ!」
さっきのライオンの獣人はレオン君というようだ。うん、名前そのままだね。それでこっちのハニハニさんは……あ、蜂らしい。耳とかないから分かりにくいな。名前は多分、既にハニーとかの名前が使われていて文字ったとかそんなのだろう。ていうか、獣人って蜂みたいな虫も行けるんだ。本当に幅広いなぁ。僕はキャラメイクに自信がないから速攻で選択肢から外していたけど。
「それで……僕は元々鍛治職人でね、今も色々作ってるの。だから、君たちの装備を作らせてほしい」
「そこまでして下さるんですか?」
「でも、俺たちにそんなお金は……」
「お金は要らないよ。代わりに、一つお願いがあるんだけど」
というわけで、彼らに僕のことを誰にも話さないよう約束を取り付けることに成功した。いやぁ、何とか上手く行ってよかった。彼らの武器は、僕が王都に拠点を移してから改めて作ることになった。
それにしても……これは本格的に僕1人で行った方が良いかもしれないな。まさかあの戦いで、僕が初心者にも認知されるようになっているとは知らなかった。きっと、元から名前が知られているハルも同じだろう。とすると、隠密行動が求められる場合、2人いるとより目立ってしまうだろう。それは避けたい。
そして何より一番避けるべきなのは、ハルが巻き込まれること。幸い、僕が彼女と一緒に行動しているというのは、プレイヤーか冒険者ギルドくらいしか認知していない。この前の学会を見るに王立研究所とギルドは独立しているようだった。それなら僕が単独で動いて彼女との接点を見せなければ、ハルの安全は保証される。
「……やるしかないか」
大通りのど真ん中を歩きながら、1人決意を固める。そうだ、これは僕が受けたクエスト。責任は僕が果たすんだ。そして絶対に、ハルを危険に晒させはしない。そう心に決めて、僕は研究所のヒントを探しに回った。
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