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第4章 焔の中の怪物

第34話 語られる過去

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~~side プレアデス~~

金属の階段をペタペタと下り、正エネルギーの中枢へと向かう。僕はその道中、先導するスロウに真実を問うていた。

「聞いてもいいか?スロウ」

彼は僕に背を向けたまま、黙って頷いた。

「お前は何故……フリーディアを襲ったんだ?」

スロウの身体がピクリと動いたのを、後ろからでも感じた。今までの僕達の会話の内容から、僕がこの質問に込めた意味は文字通りだけではない。ウルヴァンを復活させた目的、それをして彼が何をしたかったのか、そこにフリーディアを襲撃した意味はあったのか。彼もそのことを分かっているはずだ。

「簡単に言えば……上からの命令さ」

「ッ!?」

驚いた。スロウより上がいることにではない。むしろ、それは何となく予想ができた。だって、ラスボスが研究者というのは何となく違和感あるし。問題はそっちではない。

「それ、言って大丈夫なのか?もし見つかったらマズいんじゃ……」

自分で聞いておいて何だよ、とは僕自身思うけれども。だが、こういう組織についての情報漏洩は本来なら重罪、見つかれば即刻処刑とかでもおかしくはない。だからこそ、そんな内容をあっけなく暴露したスロウに衝撃を受けたんだ。

「それは大丈夫だよー。きみたちがコアを破壊してくれたおかげでね」

彼はそう言って、左手を穴の空いた胸に当てて続ける。

「これはエネルギー源としてだけじゃなく、通信とか生存確認とかにも使われていたんだ。今ぼくの身体は余剰エネルギーで動かせるけど、コアが壊れた時点で殆ど死んだようなものだからね。今更何を言ってもバレやしないさ」

そう言って振り向き、クスクスと笑う彼の横顔は、面白い悪戯を思いついた子供のように無邪気なものだった。……そうか、何を聞いても良いのか。それなら、さっきの質問も含めて、ずっと気になっていたことを聞こう。

「じゃあ、質問を変えるね。スロウ……お前の過去を聞かせてほしい。勿論、今回の襲撃に至った経緯も含めて、なるべく詳しく」

「……ぼくは元々、王都で働く普通の研究者だった。研究室で、仲間たちと一緒にこう、白衣を着てさ。遺跡とかから持ち帰ったものを分析して、昔に起こった事件のことなんかを調べていたんだ」

「王都で……もしかして、王立研究所?」

「そうだよ。といっても、民間からの客員研究員としてだけど」

王立と民間……どっちもあの学会に出席していた研究所だ。最も、彼曰く当時は王立の一強で、両者の関係も力関係に従ってバチバチではなかったみたいだが。そして、そこに属しているのは人間だけだったと。どうやら当時は他種族への弾圧が厳しい社会だったらしく、そういった知識層にいられたのは殆ど人間だけだったらしい。

ということは、当然当時のスロウも人間だったことになる。今こうしてホムンクルスになっているのには、何か大きな理由があるはずだ。それについて聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

「王都で働いていたある日、研究所内の実験に参加することになったんだ。カプセルみたいな薬を渡されてね」

所謂、治験というやつだろうか。新薬開発のために、安全性や機能を確かめるために正当化された人体実験だ。勿論、大抵は何事もなく終えられるうえに高額の臨時収入を得られるはずだが、彼が今このタイミングでその話をしたということは……。

「……その夜で、ぼくの記憶は一度途切れている」

「……ッ!!」

彼の話では、彼は客員研究員という理由で半ば強制的に参加させられたらしい。最も、本人は当時そこまで嫌がってはいなかったみたいだが。その実験には他にも、彼の6人の仲間の研究者も参加していたようだ。

なるほど、話が見えてきたぞ。このゲームがあの作品をオマージュしているんだとして、ホムンクルスで「怠惰」と来れば、残り6体も合わせて七つの大罪を冠するホムンクルスがいるはず。そしてその実験に参加した人数も、スロウ含め計7人……。

「つまりその実験で配られたのが、ホムンクルスにする薬だった、と……?」

「いや、少し違うかな。正確には、人の意識を切り離してホムンクルスに移植するために、まず意識を奪うための薬だねー……現に次に目覚めた時、ぼくの身体は既にこれだったし」

意識を奪う薬……そして、それを別のものへ移植するもの。って、それどこかで見たような……。

「あっ……もしかして、スロウがSTEPを作った理由ってまさか!」

「その通り、ぼくたちをホムンクルスにした奴に近づくためだよ。どんな相手か分からない以上、せめてやり方さえ分かっていれば良いと思ってねー。それに、これを使えば元の身体に戻れるかもしれないし」

ま、冷凍保存でもされてない限り無理だろうけどねー、と大らかに言われる。そうか……つまりウルヴァンは、スロウやその仲間達を陥れた存在に近づくための……って、ちょっと待てよ。

「それじゃあ、さっき言ってた上ってどういうことだ?僕はてっきり、その上によってホムンクルスにされたものだと……」

「いや、上っていうのはぼくたち7人のリーダーのことだよ」

「その話……詳しく聞いてもいい?」

「勿論。でもその前にまず……きみのやるべきことをやらないと」

そう言われて前を向く。いつの間にか、僕達は地下深くの空間にたどり着いていた。目の前に聳えるのは、タンク。それも、とても巨大な。いつぞやのロックギガースくらいあるんじゃないかな?

「この中に、正エネルギーが……?」

「そう。天井にパイプが見える?あそこからこのタンクに運んでいたんだ」

そのパイプはスロウの部屋に繋がっていたパイプと同じ見た目だった。なるほど、あの部屋でエネルギーを仕分けて、負のエネルギーはウルヴァンのいる火口付近、逆の正エネルギーは地下深くに送り込んでいたのか。

「さてと……どうやって動かすの?これ」

「貸して。ぼくじゃないと動かせないようにしてあるんだ」

そう言って、彼は自らの手で正エネルギーの解除を始める。何か、変な状況だな……敵が復活させた魔獣を、その敵に弱体化して貰っているなんて。いや、今のスロウの態度を見る限りでは、もはやもう敵ではないのかもしれないな。


~~side ユノン~~

「雪ダルマ!ウチが前に出るから、皆に宜しく!」

「ああ、分かった……って、ええ!?」

雪ダルマの素っ頓狂なリアクションを背に、ウチはウルヴァンの正面に躍り出る。影ちゃんが考えた「作戦」を実行するためだ。ウルヴァンの視線がウチを貫くのを感じる。凄いプレッシャーだ。精神干渉とかなしにしても、十分すぎるほどに威圧感がある。でも、ウチだって1人じゃない。無鉄砲に突っ込んでいるわけじゃない!

「行くよ、影ちゃん!」

『ええ、気張ってね』

「『【真影術の弐・二者合一】!』」

瞬間、暗く輝く闇の柱が足元から空へと立ち昇り、ビジュアルイメージで白と黒に色分けされたウチらの身体と精神が一つになる。合体完了!今回は少しだけ自分の外見を見る余裕が出来たけど……うん、カッコいい!筋肉量が増えたとかではないが、全身から白と黒が混ざったようなオーラが出ていて、表面も非実体のバトルスーツみたいなものに覆われて、強そうな印象だ。

「『こっちだ、ウルヴァン!』」

そう言って横に跳躍、ウルヴァンの注意を引きつつ接近していく。影ちゃんの身体能力を取り込んだおかげか、或いは合体の恩恵か、ウチの身体は月面と見間違うほどに高く、長く跳躍できるようになっている。空中制御もお手の物だ。

「危ないぞ、ユノン!」

「精神攻撃が来る!」

後ろであの2人が声を上げるが、ウチは接近を止めない。何より、影ちゃんの力を信じて。さあ来いウルヴァン、精神攻撃をしてみろ!

その想いが届いたのか否か、ウルヴァンの隻眼が妖しく光った。その瞬間、何かが胸の奥にノイズのように入り込んで来る感覚を覚えた。でも、特に異常はない。ステータス欄をチラ見しても、特に状態異常は発症していないようだった。

『上手くいったみたいね!』

「さすが影ちゃん!」

影ちゃんが考えた作戦。それは、精神干渉されても影響が及ばないように、ウチと影ちゃん、2つの精神を1つに纏め、精神干渉を互いに分割して受けるというものだった。実質ウチ専用の戦術というのもポイント高い。そして影ちゃんと合体した今、ウチの物理攻撃も良いダメージが入る!

「『【パワーエッジアタック】!』」

ウチ……というより影ちゃんが今持つスキルの中で、無属性で最も威力の高いスキルだ。うん、手応えバッチリ!流石にウルヴァンはHPも凄く高いと思うけど……このダメージをコンスタントに与えられるなら。

「『今だよ、皆!』」

そして攻撃でウルヴァンが怯んだ隙に、一斉に錬金術や弓の一撃が飛んでくる。ちゃんとウチに当たらないように撃ってくれるのは流石だなぁ。それにバリアの弱点として、本来のダメージが0でない限り、絶対にダメージを0にできないことがある。今のところウルヴァンが自己再生をしてくる気配はないし、もし本当に無ければ足止めを続けられるはずだ。
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