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メビウス

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第4章 焔の中の怪物

第32話 地獄門に訪れる地獄

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ボクたち防衛隊はフリーディアを離れ、あの前線砦まで戻ってきていた。幸い誰かに荒らされた様子もなく、準備や休息に使うことができた。街の近くで戦うと街に危害が及ぶため、ここまで出てきたのだ。流石に、転移能力は持ち合わせていないだろうと信じて。一応、万が一のことがあっても持ち堪えられるよう多少戦力を街に割いているが、長くはもたない。

今ここに来ているのは、5つある部隊のうちの4つ、攻撃部隊、防御部隊、回復部隊、そして遊撃部隊だ。マグ太郎さん率いる支援部隊は、彼の持つスキルの【結界術】が街からでもギリギリここまで届くことが分かったので、彼らが街に残ることになった。

攻撃部隊と遊撃部隊では何が違うのかというと。攻撃部隊は集団で一斉攻撃する、所謂レイドボス向け編成。一方遊撃部隊は、少人数で連携して攻撃しつつ敵を攪乱するものだ。そういう意味ではユノンさんこそ遊撃の方に相応しいと思ったのだが、実力のある上級プレイヤーをバラけさせるためらしい。ボクがその中の1人に選ばれたのはとても嬉しいけど、やっぱり少し緊張。

「えーっと……皆さん、そろそろ始まりますが準備は良いですか?」

戦闘開始まであとわずか。遊撃部隊の面々に声をかける。皆気合い十分な顔立ち……だが、どこか気の抜けているような?

「おいおい、春風。リーダーになったからにはもっと堂々としとけよー」

外野からヤジが入る。あの人、カンナさんが同じ部隊にいないからって好き放題言うつもりだな……?でも、そうだよね。ボクが皆を引っ張るんだもん。もっとしっかりしなくちゃ。でも、ボクに雪ダルマさんみたいなリーダーシップは発揮できない。だから、プレア殿みたいに……。

「……ゴホン、皆聞いて。ボクたち遊撃部隊の役割は、連携して敵を攪乱すること。ダメージもできれば稼ぎたいけど、ウルヴァンはきっと凄く強い……だから、弱体化できるまでは攪乱を優先。1人でも多く生き残ることを心がけてね」

まあこれ全部、さっきのリーダー会議でプレア殿と雪ダルマさんが考えたんだけどね。因みに、プレア殿はどの部隊にも属していないが、作戦の鍵を握るとしてリーダーの1人に数えられていた。さっきの会議もフリーディアの時と同様、ライブ結晶で通信していた。

彼の想定だと、弱体化にかかる時間は30分くらいらしい。その間ウルヴァンを足止めしつつ、後で攻撃できるメンバーを1人でも多く残すのが今回の作戦の主な流れ。遊撃部隊は人数が少ない分、個々の実力は攻略メンバーの中でも比較的上位に位置するらしい。ボクは全然攻略メンバーの平均レベルを知らないけれど、頼もしい限りだ。

「来るぞ!衝撃に備えろ!!」

雪ダルマさんの声が響く。見ると、ウルヴァーニの火口が赤白く発光していた。間もなく噴火するのだろう。しかし、実際に溶岩が流れることはない。何故なら、全てウルヴァンに吸収されるからだ。

大地が鳴る。けたたましく、とても強く。それは少し前、プレア殿が放ったスキルの比ではなかった。これが本物の、自然の力。大地の力。そしてその力をも取り込んだ、災厄の到来。割れんばかりのドラムロールが響く中、噴き出した炎の中に一つ、巨大な魔獣のシルエットが浮かんでいた。


~~side プレアデス~~

2度に渡るオンライン攻略会議は無事に終了した。近くにはスロウがのびているが、彼曰く「止められるならむしろ見せてほしい」とのことだった。彼にとっては、ウルヴァン自体も実験対象の一つに過ぎないということだろうか。ウルヴァンの復活が完了してしまった今、彼にはもうそれを守ろうとする気概を感じられなかった。

いいよ。お前がその気なら、僕だって本気で止めるまでだ。

「答えろ、スロウ……正のエネルギーはどこだ?」

「ッ!!何故それを……!?」

よほどの衝撃だったんだろう。僕の問いに対し、跳ね起きて返して来た。恐らく、正のエネルギーの存在を知っていること自体に驚いているわけではないはずだ。だって「負の」と来たら普通にその反対も予想できるから。ただ彼が衝撃を受けたのは、僕がそれをウルヴァン討伐の切り札になり得ることを、さも確信しているかのように言ったからだろう。

「お前は封印状態のウルヴァンに負の感情由来のエネルギーだけを取り込ませることで、より凶悪な魔獣として復活させ、確実に街を滅ぼそうとした。だが、当然感情を選別することなんて出来ない。だからエネルギー化した上で選り分けて与えていた……違う?」

僕の推理を纏めてスロウに話す。彼が集めた感情をどのようにしてここまで輸送していたのかは定かではないが、少なくとも感情を集め、それをエネルギー化することは、よく考えてみると自然というか、僕にとっては半ば当然のことでもあった。だからこそ、そこにある手がかりに気づくことができた。最も、一度見落とした原因もそれなんだが。

「……そうか、そうか。きみは既に、お見通しだったか」

また床に仰向けになり、どこか吹っ切れたような声をして、彼はそう言った。

「STEPについても、きみは知っていたんだろう?」

「いや、それ自体は初めて知ったよ。でも、似たようなものを前に作ってた」

そう言って僕は、インベントリから『機刀』のレプリカを取り出す。これは小春を作るにあたって、コアの動作実験のために作っていた試作品だ。要は、今ハルが持っているもののプロトタイプ。刃は適当に作ったため武器としての性能はあまりないが、それでも十分に思念波による制御が出来たんだ。

「思念波を蒼粒石に傍受させて、エネルギーに変換する……それがSTEPの本質なんだよね?」

「そうだよ。それにしても驚いたよ……まさかきみが、ぼくと同じ蒼粒石の研究をしていたなんて」

あれ、僕この前学会出てたんだけどな。あの時スロウの手下はそこにいなかったのか。てっきりとっくにバレているものだと思っていた。少し肩透かしを食らった気分だな。しかし、やっぱり蒼粒石か。まさか敵側も研究するような代物だったなんて。本当に見つけて良かった。

「……わかった。きみの頼みを聞いてあげるよ」

「ッ!?いいの?自分で言うのもなんだけど、僕はお前の敵なんだけど……」

「その敵に頼み込んだきみにだけは言われたくないね……正エネルギーは漏れ出さないように、地下深くの洞窟に封じてあるよ。あそこの階段から行ける」

そう言って、彼は奥の方にある下り階段の入り口を指し示した。僕達がさっき通ったのとは別の方向だった。

それにしても、何故僕に教えてくれたんだろう。僕が彼と同じ、蒼粒石の研究をしていたから?だとしても普通、自分の計画を止めるのを助けることはしないはずだ。それとも、彼の目的はウルヴァン復活の時点で既に完了していたというのか?でも、それなら何故フリーディアを襲う必要があったんだ?

……ダメだな。考えても分からない。でも、それを聞こうとずっとここで話しているわけにもいかない。僕の援護を待っている仲間達が、今ウルヴァンと対峙しているんだ。それなら……。

「……ありがとう。じゃあ、行こうか」

「行こうって……ぼくも?」

「お前にはまだまだ、聞きたいことが山ほどあるからな……その代わり、僕も蒼粒石について今知っていることを教えよう」

「なるほど、情報の等価交換ということか……仕方ないな」

そう言って立ち上がる彼の口角は、どこか吊り上がっているようにも見えたのは、気のせいだろうか。



ーーー称号《昨日の敵は今日の友》を獲得しました。

ーーースキル【交渉術】を獲得しました。

《昨日の敵は今日の友》
戦闘後、会話可能な敵との親密度が一定以上になることで取得。勝利した敵が稀に仲間になるようになる。

【交渉術】消費MP:なし クールタイム:なし
会話による意思疎通と値引きの成功率を向上する。装備しているだけで効果を発揮する。



プレアデス Lv.37
種族:ホムンクルス/職業:宝石技師Lv.26
HP:550(+250)
MP:170(+360)
STR:90(+50)
VIT:50(+50)
AGI:0(+30)
INT:50(+120)
RES:0
DEX:30
LUK:30

SP:0

頭…なし
胸…バトラースーツ
右手…噴炎する竜骨牙の戦槌ブーストファング・ドラゴハンマー
左手…-
脚…バトラートラウザーズ
足…執事の革靴
特殊…蒼穹のタリスマン
特殊…レイジ・オブ・イフリート
特殊…空間機動ベルト

所持金:78300G

満腹度:40%

装備効果:物質特効(200%) 《出血》付与(高) 【吸血】攻撃(低) 付加エンチャント(火炎) 《火傷》付与(高) HP回復(5/秒) MP回復(1/秒) 《火傷》耐性

称号:《試行錯誤》《伝説を導く者》《読書好き》《宝石採集者ジェム・コレクター》《伝説を錬成する者》《岩砕き》《破壊者》《無慈悲なる一撃》《石工職人見習い》《木工職人の一番弟子》《宝石技師》《禁忌の扉》《炎纏いし者》《運命の赤い糸》《昨日の敵は今日の友》

生産スキルセット(10/12)(装備中)
【統合強化】【金属探知】【分解】【精錬】【拡大鏡】【簡易調整】【宝石融合ジェム・ボンド】【宝石分解ジェム・スクラップ】【宝石変換ジェム・コンバージョン】【交渉術】

戦闘スキルセット(9/12)
【硬化】【宝石片弾ジェム・ブラスト】【ジェットファングⅡ】【付加エンチャント:陽炎柱ヘイズピラー】【脆弱化】【ジェノサイド】【精霊喚起】【付加エンチャント:炎獄ブレイズプリズン】【ドラゴンフレイム】

チェインスキル:【連鎖爆破】【バーストスマッシュ】【桜花壊塵撃】【ヴォルカニック・ゲイザー】
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