アルケミア・オンライン

メビウス

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第4章 焔の中の怪物

第24話 伝承

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~~side プレアデス~~

「ハックシュン!!」

「プレア殿、風邪引いた?」

「い、いや……そもそもここで風邪引くのかな……?」

多分、誰か僕のことを噂しているんだろう。スロウの仕業かな?まあ誰でも良いけど。せめて悪い噂じゃなければ。

現在、僕達4人はスロウが拠点を構えるという火山『ウルヴァーニ』へと向かっている。というか、もう目の前だ。道中は敵が数体迎撃に来ただけで、とても防衛しようという気を感じられなかった。誘われているのか?とか、ここにはいないんじゃないか?とか心配事が浮かんだが、何にしろここには来ないといけなかったので問題はない。

「それでプレアデスさん、先程言っていた伝承、というのは……?」

「うん……といっても、グスターヴさんの受け売りなんだけど。ずっと昔からフリーディアに伝えられる神話には、放っておけば世界が滅びるレベルの『ウルヴァン』っていう名前の魔獣が登場するんだ」

「神話……?失礼ですが、それは役に立つ情報源なんでしょうか?」

カンナさんの言うことも真っ当だ。特に本職が研究者の彼女にとって、文献が不確定要素の多い神話というのは些か納得がいかないんだろう。まあ、僕が思うにはこういう類のゲームって大体バックボーンとなるシナリオが存在するわけで。その一つとして神話というのはとても題材にしやすいから、あながち信憑性がないわけではないと思うけど。

「まあ、実際それしかリソースがないんだし仕方ないだろ」

「そう……ね。ごめんなさい、続けて」

「大丈夫。それで……ウルヴァーニは、その災害級の魔獣を封印している場所なんだ」

「封印……それって神話に出るくらいならずっと昔から続いてるんだよね?もし戦闘の衝撃を受けでもしたら……」

「うん、最悪封印が解かれかねない。何としてもそれは防がなきゃいけない……」

「……だがプレアデス。その魔獣が目覚めたとしても、すぐに倒せばいいんじゃないのか?いくら強力な魔獣でも、復活してすぐにはまともに動けないだろ」

「そう簡単に倒せればの話だけどね。それに……実は、フリーディアの中心部にはウルヴァンの力を封じ込めた宝玉があるらしい。だから、もしそいつが復活したら、まず間違いなくフリーディアが襲われる」

このイベントの敗北条件……それは、フリーディアの陥落。このウルヴァンという存在がイベントに直接関係していなかったとしても、目覚めてしまえば臨時ボスとしてイベントに組み込まれるかもしれない。

そしてこれはあくまで、ここにスロウがいない場合の話だ。実際、雪ダルマさん達の解析によれば、あのゴーレム達はこの辺りの山から来たと結果が出ている。彼らの解析を過信しているわけではないが、あの規模の軍隊を収容できるだけの広さも考えると、どう考えても一番大きいウルヴァーニが最も可能性が高い。

ウルヴァンへの影響を考えると、スロウにはここにいて欲しくない。彼との戦闘の衝撃が、封印を弱めかねないからだ。グスターヴさんの話では、封印が施されてから相当年経過している。封印の強さに経年劣化の概念が通用するのかは不明だが、ともかく不安要素はない方が良い。解析の結果では間違いなくスロウはいる。だが、もし万が一不在とかなら……。

……しかし、僕の淡い期待は、最悪の形をもって裏切られた。

『やあ、ついにここまで来たね。待っていたよ』

「ッ!スロウ!!」

火山に入ってすぐ、僕達のいる空間に声が響いた。間違いなくスロウだ。反射で叫んでしまう。近くにはいないことは分かっていても。

「やっぱり、ここにいたんですね!」

「スロウ、ここに何があるのか分かっているのか?その上でウルヴァーニに……!?」

『そうだよ、プレアデス。君が聞いたウルヴァンは……ちょうど、ぼくの後ろで眠っている』

「……ッ!?」

最悪だ。よりによって一番厄介な方向に行ってしまうなんて。スロウは、初めからウルヴァンの存在に気づいていたんだ。今、あいつは後ろで眠っていると言った。いくらスロウでも、ウルヴァンを脅威とみなしていれば、そんな所まで近づきはしないだろう。ということはつまり……。

「ウルヴァンを……利用するつもりか!!」

『ご明察。よくさっきのでここまで推理できたねー、褒めてあげよう』

こいつ、完全に舐め腐っているな。いくらスロウへの切り札にしていた【桜花壊塵撃】が露見しているとはいえ、敵に本陣まで攻め込まれているというのに。何故スロウはここまで余裕でいられるんだ……?

『さて、真実を解き明かした名探偵には報酬をあげなくちゃね。きみと……そうだね、春風。2人をぼくの部屋に招待してあげよう』

「何っ!?」

「敵であるボクたちをわざわざ……?」

そう僕達が言っている間に、足元に青白い魔法陣のようなものが展開された。そうか、スロウの空間転移能力。僕達にも使えるということか。

「おい、待てスロウ!俺達もそこに連れて行け!」

『きみはセイス……だったかな?あの時はよくもやってくれたねー?本当は今すぐにでも借りを返してやりたいところだったんだけど……予定が変わった。だから、きみにもう用はないよ』

「おい!勝手に決めるな……痛ッ!」

セイスさんが僕達に近づこうとする。しかしその瞬間、足元の刻印が強く発光し、僕達と彼らの間にバリアを展開してしまった。これでは近づけない。

『もしそんなにぼくに会いたいなら……自分たちの力で探し当てることだね。ぼくは、逃げも隠れもしないから』

楽しみにしているよ、とでも言いたげな声色でそう言い残すと、スロウはあっという間に僕達を引き離してしまった。一瞬視界が真っ白になると、次に僕達が立っていたのは、数々のメカメカしい機械やパイプラインが壁や天井に埋め込まれた、マグマ染み出す広い空間だった。

「ここが……スロウの部屋」

「機械だらけだね……ねえ、あのモニター。あれでボクたちを監視してたのかな?」

ハルが指し示した先にあったのは、巨大なモニター。いくつかの場所が映っているが、今真ん中にデカデカと映っているのは……そう、ちょうど僕達がさっき通ってきた道だ。スロウは僕達の行動をずっと見ていたんだ。だから僕達がここに来るタイミングも分かっていたんだ。そりゃあ余裕もあるわけだ。

「ん?待って……あの右下に映ってるの、もしかして」

「……!ほんとだ、あれボクたちの前線基地の近くだ!」

なるほど……どうやら、僕達がこの前フリーディア前で迎撃したあの日以降の僕達の行動は、全てスロウに見られていたと思った方が良いかもしれないな。つまり、僕達がここまでに使ってきたスキルや攻撃も、全て彼に知られている……と。

「……やられたな。対策をしていたのは、ボクたちだけじゃなかったってことか」

ハルがため息混じりにぽつりとこぼす。確かに、僕達は彼の攻撃やスキルを殆ど知らないのに対し、向こうはこっちの手札を殆ど知っている。情報アドバンテージの差が尋常じゃない。そしてそれは、そのまま戦闘での有利不利に関わってくる。特に、誤魔化しの効かない少人数同士の戦いでは。

セイス:すまない……俺とカンナが辿り着くまで、どうにか持ち堪えてくれ。

セイスさんから連絡が入った。本当は「僕達は大丈夫だ」とか送るのが頼もしく見えるんだろうが、今回は状況が状況だ。僕達の手の内が大体読まれている以上、未だ見せていないカンナさんの止血防止剤と《出血》を組み合わせた流血コンボ……それが、この戦いに勝利するために必要不可欠だ。

プレアデス:ありがとう。僕達がいるのはどうやらマップ中央の深い所らしい。入り口はちゃんと付いているから、見つかれば必ず合流できるよ。

セイス:助かる。お互い頑張ろう。

セイスさんからの連絡が途絶えた。僕達のいる場所を探しに行ったようだ。さて、僕達も準備しなくちゃ……そう思ってインベントリを操作していると。

「仲間との相談はもう終わったのかい?」

声のした方に反射的に振り返る。僕達の視線の先にいたのは、以前の研究者の着るような白衣を羽織った中に、全身をピッタリと覆うバトルスーツを装備したスロウだった。

「スロウ……」

「ふふふ……ようこそ、ぼくの部屋へ。ゆっくりしていくと良いさ……」

乾いた笑みを浮かべるスロウ。その瞳の奥は、黒く濁っているように見えた。
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