アルケミア・オンライン

メビウス

文字の大きさ
上 下
84 / 202
第4章 焔の中の怪物

第19話 呼び覚ませ

しおりを挟む
~~side スロウ~~

「フフ……ハハハハハハハッ!!」

いいぞ、ぼくの目論見通りだ!まさかプレアデスより先に、あの女が『真影』に触れるとは予想外だったが……これが、感情の成せる力というわけか。

思っていた以上の収穫に、思わず高笑いがこぼれてしまった。誰もいない空間に、ぼくの笑い声が響きわたる。余韻の反響を楽しみながら、ぼくは部屋の奥にある、巨大なカプセルに歩いて行った。表面に触れ、パラメータ画面を表示する。ふむ……エネルギー充填率70%、か。王都を離れた時は2割しか溜まっていなかったので、随分な進歩だ。

一応、完全体にするためのエネルギーはもう揃っている。しかし、これだけではまだ弱い。きっと、あの3人か4人に倒されるのが関の山だろう。だから、ここからは力を蓄える時間だ。そのためには、強大なエネルギーをもたらしてくれる人が必要だ。

「精々、良い養分になってよね?プレアデス、春風。そして……ユノン!」


~~side ユノン~~

「ガガガ!ドウシタ、ソノ程度カ!?」

「くっ……こいつ、見かけによらず速い……!」

今、ウチはグレンの攻撃を躱し続けている。大振りなので回避は出来るが、何しろ手数が多い。そこに、たまに隙の短い突き攻撃なんかが混ざるので、油断できない。そして何より、動きが速い。これだけ大型のゴーレムなので、もっと鈍重な動きをすると思っていたのだが……流石、軍のトップを任されるだけのスペックはある、というわけか。

でもウチだって、ただ避けてるわけではない。相手の攻撃パターンを予測し、より安全性を高める。本来ならタンクがこなすべき仕事だが、生憎今回はウチ1人。序盤に攻め手に欠けるのは仕方ないのだ。

そういえば、さっきから随分と身体が軽い。特にバフがかかってる様子もなく、雪ダルマの言うように、本当に何か身体に変化があったのかもしれないな、と思いながら、相手の袈裟斬りを横跳びに回避。即座に斧を足場に頭上に駆け上がる。跳躍し、空中で宙返りして姿勢を制御。そして撃つ!

「【スパークウェイブ】!」

文字通り、電磁波を飛ばして攻撃するスキル。シンプルで威力は高くないが、その分発生が速く、取り回しが良い。空中からの不意打ちにはピッタリだろう。

「フン、効カンワ」

まあ、ですよね。いくら電気に脆弱なゴーレムとはいえ、素のHPが高ければ耐えられるのも無理はない。でも、そんなことは織り込み済み。むしろ、次が本命だ。ウチは着地してすぐに、二の矢を放つ。

「【ボルテック・スフィア】!」

文字通り電磁波の半球を、グレンを中心に展開させる。あれは半球内にいる敵に電気ダメージを与え続ける、光属性錬金術の1つだ。光属性という割に黒い色が混じっているのは、恐らくさっきのと同じように、闇属性系の1つ、重力がかかっているからだろう。現に、周囲の岩や瓦礫が少しずつ吸い込まれている。

「グオオオオオッ!?」

よし、効いてる効いてる。少し前に分かったことだが、グレンは対陸戦闘力が非常に高い一方で、空からの攻撃への対処が難しいようで、防御してから動き出すまでに少し時間がかかっていた。そこを逃さず撃ったのだ。これで、暫く動けまい。今のうちにMPを回復しておこう。

そう思っていたところ。

「ッ!!?」

背後から急速に接近する敵影あり。ウチの索敵スキルが警鐘を鳴らしていた。咄嗟に振り返る。そこには、半球に囚われているはずのグレンがいた。

(な、どうして……!?)

とにかく逃げなきゃ!そう思ったのも束の間。急に上体を翻したことが災いしたのだろうか、ウチは足を絡ませて尻餅をついてしまった。目の前に、いないはずのグレンが迫る。しかし今度は、斧に首を捧げる気にはなれなかった。今は、倒れるわけにはいかないんだ。

しかし、スキルも間に合わない。立ち上がることも出来ない。仲間2人は他の相手で手一杯。このピンチは1人では何も出来ない。ダメだ……やられる。

(ごめん……フーちゃん)

ギュッと目を瞑る。瞬間、耳を劈くような爆音に驚き、爆風に軽く身体が吹き飛ぶ。一体、何が起こったのか……?見ると、迫っていたグレンの身体が後方に吹き飛んでいた。その身体の各所から黒い煙を立ち上らせて。

「これは……プレアデスの!」

そういえば、彼は王都前の各所に対大型モンスター用の地雷を散布していた。何でも、ウチらプレイヤーやNPCが踏んでも作動することはなく、ゴーレムのように重いモンスターが踏むことで初めて起爆するんだとか。おかげで助かった。

「ガガ……命拾イシタナ……」

目の前のグレンが立ち上がる。と共に、背後から声がする。チラッと振り返ると、グレンが片膝をついていた。なるほど、謎が解けた。よく見れば分かる話だが、脚の本数が半分になっている。グレンの脚は、左右2本の大脚に4本の脚が付いた8本足構造だった。それが今は4本のみ。つまるところは。

「分裂って……それはズルくないかなぁ」

この強さのゴーレムが、2体。しかも、身体が半分になったことで軽くなっており、さっきよりも素早い。パワーは若干失われているだろうが、正直1人で2体を相手する方がよっぽど辛い。さっきのラッキーパンチも期待しない方が良いだろうし、ウチの不利に変わりはない、か。

2体のグレンが突撃してきた。やっぱり、さっきより速い。後ろ跳びで回避。電気系のスキルで牽制しつつ、距離をとる。攻撃……の暇はないな。回避。くっ、さっきまで1体牽制すれば動きが止まったのに、これではキリがない。スキルの乱発もできない。クールタイムもあるし、外した時のリスクが大きすぎる。だから、1発が限度なのだ。

その後も、避けては牽制してを繰り返す、苦しい展開が続いた。大技を使わない分MPにはまだ余裕はあるが、問題はスキルだ。色々なスキルを駆使したため、残っているのは発動する暇のない大技と、クールタイムの短い数個のみ。次の次の展開を予測しながら使わないといけないため、ウチの頭は疲労を重ねていた。

「ガラ空キダ!」

「うぁっ……!」

一瞬立ち止まった時、身体の側面からタックルを決められる。斧でないとはいえ、仮にも鋼鉄の巨体による体当たり。無事で済むはずもなかった。さっきの雪ダルマのように身体が吹き飛ばされ、宙を舞う。急な出来事に、身体の制御が追いつかない。それを見逃してくれるグレンではなかった。

「ガガ……【パラライズ・ショック】!」

「あああぁぁあぁぁぁっっ!!」

もう片方のグレンだ。空中で何も出来ずにいるウチに、外すことなく決めてきた。コイツ、そういえばまだスキルを使っていなかった……所詮ウチでは、本気を引き出すことすら出来なかったということか。

受け身を取れずに着地。さっきのスキルで《麻痺》がかかっていて、まともに挙動を取れなかったからだ。加えて、タックルと着地でHPも半分を切った。身体が、悲鳴をあげている。

何とか視線をグレンの方に向ける。ヤツは分裂体と合流すると、優雅に元の状態に戻っていた。その様子がどうにも腹立たしく、そして悔しく思えてならなかった。大きな力を前に、何もできない。フーちゃんが味わったのも、きっとこんな感情だったのだろう。

「ガガガ……シブトイ奴メ。ダガ、コレデ終ワリダナ」

合体を終えたグレンが、のそのそと近づいてくる。やめろ……来るな……。心ではそう思っても、どこかに隠し続けていた恐怖が顔を覗かせたか、まともに声を絞り出すこともできない。勝利を確信したように、敢えて余裕を晒すように……さっきまでの高速戦闘が嘘みたいに、ゆっくりと歩みを進めてくる。

きっと、虚ろな目をしていたんだと思う。恐怖や怒りの感情は、いつしか諦めに変わろうとしていた。ダメだ……勝てない。ネガティブな思考が、にじり寄るようにウチの頭を満たしていく。精一杯、抵抗はした。でも、敵わなかった。届かなかった。だから、もう無理だ……。1人では、何も出来なかった。ウチ1人では……。

暗い海に沈むように、ウチの意識は溶けていった。



………



『痛いよ、怖いよ……助けて……ご主人様!お父さん!』



………



『ぐ、あぁぁぁっ、脚が……だが、私は屈しないぞ。あいつが……ご主人の元に帰るまでは!』



………



「……ッッ!」

まだだ、まだ諦めちゃダメだ!

ゴーレムが進軍する危険地帯を、危険を承知でギリギリの高さまで降りて、ウチらに分かりやすいように飛び続けてくれたホーちゃん。自分の娘を助けるために、命と引き換えにウチの元へ逃がしてくれたフーちゃん。

彼らが感じた恐怖は、もっと大きかった。彼らがその身に受けた痛みは、もっと痛かった!

「心配スルナ……ガガ。オ前モスグニ、アノ鳥ノ元ニ送ッテヤロウ」

ふざけるな。ウチはまだ死ねないんだ。ゲームだろうとなかろうと、生き返ろうとなかろうと関係ない。ただ、グレン……お前を消し炭にして、フーちゃんの仇を討つまでは、死にたくない。死ぬわけにはいかないんだ!

ぐっ……身体が麻痺で動かない。動け、動け、動け!

神でも良い。悪魔でも良い。もう一度立ち上がって、コイツと戦うための力を貸してくれ!

「う……ごけ、動け、動け!!」

ウチの手。ウチの足。ゲームのシステムなんかに負けるな!ウチのためじゃない。ウチの一番大切なもののために!

お願い……誰か、力を貸して。

戦うための……守るための……力を!!



………



ーーー称号《生への渇望》を獲得しました。

ーーー感■■ント■■■シ■テムが■カイ■を突破。称号《生への渇望》は究極称号《真理を超える意志オーバーロード・マインド》に派生進化しました。

ーーー『真影』との交信を確認……条件が揃いました。エクストラスキル群【真影術】を解放します。

ーーースキル【真影術の壱・遷し身】を獲得しました。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

処理中です...