アルケミア・オンライン

メビウス

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第4章 焔の中の怪物

第9話 キャンプ

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「皆!ここをキャンプ地とする!」

何十年前のネタだっけそれ。少し世代がバレたな、雪ダルマさん。と、それはともかく。

ここはフリーディアから歩いて30~40分の距離にある岩場。丁度、山と街との中間地点のような場所だ。この足場の悪さなら、僕達はともかく、あのゴーレム達はそうそう突破出来ないだろう。周囲は森林に覆われていてあの巨体では通れないので、ここを通るしかないのだ。

ここで心配になるのは、街の近くに突然奴らが召喚されている可能性。スロウの空間転移能力のようなものとゴーレムの召喚能力をもってすれば、不可能ではない。だが、そこは織り込み済み。街に残っている非戦闘員プレイヤー達の協力を得て、彼らに街を覆う結界を張ってもらっている。

加えて、ユノンさんの錬金術の一つで常に監視を置いている。実はユノンさん、最初に選んだ職業はテイマーらしく、その経験と今の『錬金マスター』という錬金術師の上位職の強みを活かして、錬金術で錬成し行動させる『錬金従魔アルケミック・サーヴァント』を独自に開発した凄い人なのだ。

元々、誰でも簡単にホムンクルスやゴーレムなどを出せる召喚キットは存在するし、何なら市販でも売っている。あれは、フラスコや試験管といった実験道具に入っていて、それを壊すことで召喚が出来るというもの。手軽さは魅力だがその分戦闘力は低く、また使い捨てで市販品は高価と、あまり実用的ではなかった。

その点、錬金従魔アルケミック・サーヴァントは素材を消費してその場で錬成するため、生産コストが低く自由度が高い。モンスターを倒して、その素材を使って作ればそのモンスターに近い特徴や能力を持った従魔になるらしい。今は飛行系モンスターの素材で鳥型の従魔を街の周囲に飛ばしている。

だが、ここまでならまだ大差はない。この技術の凄いのは使い回しが出来るということ。通常入れ物から出したMOBは、HPが尽きると残骸を残してその場で朽ちる。しかし、テイマーで獲得したスキルと組み合わせることで、一度召喚した従魔をインベントリに収納できるらしい。そしてクールタイム付きで再召喚が可能と。

素材を消費したり経験を積ませたりすることで、プレイヤー同様育成することも出来るそう。どうしても召喚当初が弱く即戦力ではない分、自分の好きなようにカスタムできるんだ、と嬉々として話していた。今出している鳥型はステルス性とスピードに全振りして、テイマーのスキル【感覚共有】とのコンボで偵察係に愛用しているらしい。

さて、そういうわけで後ろは問題なし。とりあえず手分けしてキャンプを設営する。僕達男子チームはテントや櫓、その他諸々の設置、ハル達女子チームは購入した食材の処理、調理を行う。特に生モノは長持ちしないので、早いうちに加工しなくてはならない。

「ところで、誰かDIYの経験者はいるかな?」

シーン。雪ダルマさんの質問も虚しく、誰も経験者がいなかった。早くも心配になって来たぞ……この流れだと恐らく。

「……じゃあ、プレアデスさん任せた!」

ほら来た!もー生産職が僕しかいないからって。僕だって流石に建築はしたことないよ……普段手掛けてるのはもっと細々としたものだし。でも、そうも言ってられないよな。仕方ない。

「分かりました。僕も経験はないので不安ですが、ご指名とあらば、指揮を執らせて頂きます」

「はははははっ!様になってるじゃねえか!頼んだぜ、カシラ」

誰がカシラじゃい。テラナイトさん、案外ノリが良い性格だった。これでも戦闘のスイッチが入るとあんな冷静になれるんだから、やっぱり最強格は次元が違うなぁ。

「まずはテントですよね。どれくらい必要でしょうか?」

「そうだな……最低でも男女別で2つ、それ以外の分け方なら3~4つといったところか。足りそうか?プレアデス」

「まあ、多分大丈夫ですよ。最悪その辺のMOBから毛皮を拝借すれば良いですし」

「なら安心だな。テント作りは俺がやろう、裁縫はカンナに教えてもらったしな」

そうだったのか。まあそれを言えば僕も『ブディカランド』で修行したし出来るっちゃ出来るんだけど。指揮を任されている以上、ここで作業に没頭するのは良くないか。というか、今このタイミングでセイスさんが抜けたということは……。

「では、俺たちは防衛施設でも作るとしようか」

僕1人で最強2人を相手しろってことですよねー!!?ちょっと、いきなり緊張が凄いんですが。さては逃げたな?あの男……。やれやれ、と肩を落としてみせた。

~~side 春風~~

「春風さん、これはどうすれば?」

「適当な大きさに切って、塩を揉み込んで下さい」

「は、ハルちゃん!これ失敗してないかな!?」

「見せて下さい……あー、少し焦げてますが、火加減を弱めれば大丈夫ですよ」

参った……。まさか2人とも料理出来ない系だったとは。カンナさんは研究職らしいし、料理ができない、というかやらないのはまだ何となく分かるんだけど。まさかユノンさんまでとはねぇ……。しかも、こっちに至ってはガチの初心者っぽいし。

きっと今頃、プレア殿も苦労してるんだろうなあ。生産職プレア殿以外誰もいないし。まあ、せっかくこうして最強プレイヤー達のパーティに着いて来てるんだから、良いとこ見せなくちゃだよね。

~~side プレアデス~~

「へっくし!!」

「どうした、カシラ?VRで風邪引いたか?」

「いえいえ、きっと誰かが噂していただけですよ。ハルとか」

何やら向こうからくしゃみのような音が聞こえたが気のせいだろう。さて、防衛施設といえばまず必要なのはお堀だろう。どれだけ城や兵士が立派でも、まずはお堀を用意しなくては簡単に落とされてしまう。

幸い、ここは山麓の岩場。わざわざ掘らなくても、天然のお堀がある。拠点選びの時もそれを注視していたので、少なくとも山脈側からはお堀を通らないとここまでは辿り着けない。

では、そのお堀を活かすためには?一つは、僕達の拠点周囲をフェンスで囲むことだ。これがないと、工作兵か何かが橋をかけただけで効果を無くしてしまう。しかし背の高い柵で囲んでおけば、それも容易ではなくなる。橋をかけて、なおかつ柵を壊さなければならない。そんなことをしている前に撃墜されるのが関の山だ。

周囲の視界確保も兼ねて森林を一部伐採、その木材を使って柵を作った。よくある、格子状に組み合わせて頑丈なロープか何かで交差している部分を括ったやつだ。一つ作ってしまえば、あとは僕はレシピ登録して出し続けるだけで良い。手早く量産を済ませて、男手4人でそれらを設置した。

「お疲れ様でした!一旦休憩で大丈夫です」

「お疲れー、差し入れ持ってきたわよ」

柵の設置が終わったので僕が号令をかけると、ユノンさん達が差し入れを持ってきてくれた。向こうも無事に終わったみたいだ。

「プレア殿、お疲れ様」

「ああ、ハルお疲れ……うん、ほんとに疲れてそうね」

「あはは、ほんと普段から料理やっておいて良かったよ……」

そう言って乾いた笑みを浮かべる。皆まで聞かなくても分かる。大方、カンナさんとユノンさんが予想以上に料理が出来なくて、それを教えるのでだったのだろう。僕も似たようなもの……というほどではなかった。実際一つ作れば終わりだったわけだし、特に教える場面はなかったのだ。

「この後はどうするの?」

「そうだなぁ……とりあえず手分けして設備を完成させないとね。それが終わったら雪ダルマさんに相談かな」

「分かった!ボクたちも手伝うよ」

「ありがと、とっても助かるよ」

そう言うとハルは嬉しそうな顔をするので、思わず狐耳の間をわしゃわしゃと撫でるのだった。一瞬、周りから生暖かい視線を感じた。
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