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第4章 焔の中の怪物
第5話 壁の向こう側
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全装備を解除し、ちゃぷんと湯船に浸かる。
「ふぅ……」
肺の中に溜まっていたものを大きく吐き出し、天井を仰ぐ。それと共に、自分の身体に強張っていた何かがスーッと抜けて行くのを感じた。真っ白な天井のキャンバスに思い描くのは、ハルのあの笑顔。
「喜んでもらえて……良かったな」
僕が今回ハルの防具一式を新調した理由。一つは、ハルの専属鍛治としてのプライドのため。それこそ初めて会ったくらいの時、ハルは僕に今後のアイテム強化を任せてくれた。それを専属契約と受け取るかどうかは人次第だろうが、少なくともハルがずっと僕と一緒に行動してくれている限り、あながち間違いではないだろう。
だからこそ、あの時王都で服を買い、それで防具として賄った自分が、どことなく許せなかったのだ。勿論、あのメイド服も彼女は凄く気に入ってくれていた、と思う。でも、自分にそう言い聞かせながらも、やっぱり心のどこかでは、ハンドメイドに拘りたいという、ある種の職業病がずっとそこにあったんだ。
でも、僕は残念ながら服を作ることに詳しくない。いや、他の武器とかも同じく知らないんだけど、服作りの難易度は、武器やアクセサリーの錬成の遥か上を行く。生地選び、型通りの裁断、縫合。そこに刺繍や装飾、防具としての機能性も加えていく。例えベースとなる服を選んだとしても、とても素人に出来ることではない。
僕は、ログイン時間などを調整し、ハルには内緒である人の元を訪れていた。
………
「ごめんください」
扉を開けると呼び鈴がカランと小気味良く響く。僕の入店に先に気づいたのは、レジでダラリとしている妹の方だった。
「……あ、また来たんだ。いらっしゃーい」
「こら、レイア!そんなことを言うんじゃありません!こんにちは、プレアデスさん。またお会いしましたね。本日はどのようなご用件で?」
脱力しきった妹の挨拶を咎め、奥から現れたのは姉、ライア。そう、僕が来たのは数日前服を買いに来たばかりの見た目防具専門店『ブディカランド』だ。店主は双子の姉妹のライアとレイア。
「こんにちは。今日は少しお願いごとをと思いまして」
「お願い?ですか?」
「はい、その……僕に裁縫を教えて下さいませんか?」
突然の申し出に目を見合わせる姉妹。先に口を開けたのは妹の方だった。
「……それ、本気?」
「はい、本気です」
「誰にあげるの?」
なんで分かったんだろう。レイアさんって、時々核心を突いた発言をする。その遠くを見つめるようなジト目で、何を見ているんだろうか。
「えっと……この前一緒に来た狐の」
「ああ、彼女さんねー」
ふっ、と鼻で笑うような素振りで、頬杖を突いて身を乗り出す。お盛んねぇ、なんて煽りと共に。違いますよ!?と否定しつつ困惑していると、またも姉からのお咎めが入る。今度は軽い手刀と共に。
「こらっ」
「あだっ」
「もう、お客さんを困らせるんじゃありません!ごめんなさい、レイアも悪気は無いんです……多分」
「いえいえ、気にしてませんよ。見ていて楽しいですし」
僕には姉はいたが妹はいなかったので、こういう姉妹の絡みというのは実際結構見ていて楽しかったりする。こう、仲が良いからこその容赦のなさというか。僕の姉の場合、ひたすらに僕をいじるだけ。しかもなかなか家にいないので、こちらもそう簡単に反撃しようとも思えないのだ。
「ふふっ、ありがとうございます。それで、裁縫というのは具体的にどの範囲で?」
「生地の仕立てから刺繍に至るまで一通り……ですかね」
「一通り……それはすぐには会得するのは難しいと思いますが……」
ライアさんはプレイヤーが常にこの世界にいるわけではないことを知っているようだ。誰かお客さんの中に、そういう事情を話した人でもいたのかもしれない。
「その点については大丈夫ですよ。こっちに来る時間を調整すれば、空き時間は十分にできます」
「そういうことでしたら……レイアもそれで大丈夫?」
「問題ない。厳しく行くから覚悟してね」
レイアさんの目の輝きが一層増す。どうやら本気モードのようだった。
………
こうして、服作りに関して素人だった僕は、合間を縫っては『ブディカランド』に通い、裁縫技術の基礎を教わり、服のデザインも相談に乗ってもらった。
研修が終わり、レイドボスも倒した後、僕は学会に間に合うために宝石研究に明けくれていた……というのも実は表向きの話。本当は実験自体はコツコツやっていたおかげで殆ど終わっており、論文としてまとめ、内容の矛盾などをカンナさんに協力してもらいながら検閲しただけだった。
度々ハルに素材集めをお願いし、彼女が出かけている合間に、せっせと作り続けていたのだ。作業場所は部屋の隅なのでバレる心配も少なく、またいざという時はカンナさんに持たせておけば、彼女の趣味として通すことができる……と、カンナさんが言ってたっけ。実際、それで少しアドバイスを貰ったりもした。ありがとうございました。
そして今日、それが漸く完成したのだ。といっても、最後のブーツ以外はほぼ完成していたんだけど。個別に渡すのも良いけど、折角なら一括で渡したい、という僕の願望から、今日まで時間がかかってしまった。
因みに、完成に時間がかかったのは紅焔石が必要だったから。狐火をイメージした『燐火のブーツ』は、靴底に紅焔石のエンジンを仕込むことで、走った時に微弱なブーストがかかり、加速することができる。蒼粒石ではエネルギーを生み出すのが限界なので、エンジンを作るには別個でタービンを作る必要がある。残念ながら靴底にそんなスペースはない。
『燐火のブーツ』☆7 DEF+10 AGI+40 跳躍距離上昇
売価40000G。尾に火を灯した白狐を思わせる様相のブーツ。靴底には紅焔石が内蔵されており、走行や跳躍といった靴底への軽い刺激を受けてエンジンが作動することで、通常よりも速く移動することができる。
このブーツで何気に凄いのが跳躍距離上昇。跳躍というのは当然上方向だけではなく、前や後方向も例外ではない。つまり跳躍斬りや跳躍での撤退が簡単に出来るようになる。ハルの機動力を活かした戦いに貢献してくれるはずだ。
『妖狐の髪飾り』☆7 INT+50
売価50000G。人を惑わし籠絡する妖狐を模した紫色の妖しい髪飾り。装備した者の賢さを上げるだけでなく、攻撃時に相手を低確率で《幻惑》状態にする。
続いては髪飾り。アクセサリーに思えるが実は頭防具という。肝心の能力はINT+50と優秀。《幻惑》状態になると、幻惑をかけた相手に対するダメージが減少する。他の武器などの効果と合わせて《幻惑》付与確率を上げれば、優秀な防御手段となるだろう。
『桜吹雪の振袖』☆7 DEF+50 AGI+10
売価200000G。一流の技術により舞い散る桜の花弁が一つ一つ刺繍された、躍動感のある白い振袖。装備時、スキル【桜花爛漫】を使用可能。
【桜花爛漫】消費MP:300 クールタイム:1時間
無数の桜の花弁を刀身の延長として操り、吹雪のように敵を連続攻撃する。刀系武器を装備時のみ使用可能。
次は振袖。お値段脅威の200000G。まあ、一番拘って作ったからね。彼女のイメージに合わせて、春っぽい仕上がりにしたかった。それで頑張って桜を細かく刺繍していったのが、まさかこんな形で返って来るとは。このスキル、間違いなく強い。僕のゲーマーとしての勘がそう叫んでいる。
因みに、振袖といっても特徴的なのは殆ど袖だけで、実際のように生地が重いわけでも、丈が長いわけでもなく、普通に服として着られる。本当に着物として作るならそれで良かったのだが、流石にそれでは前線で満足に戦えないだろう。生地はなるべく軽くて丈夫なものを選んだ。
『朧月夜の袴』☆7 DEF+80
売価120000G。朧月の装飾により、一層深く染み渡るような夜闇を表現した袴。夜間での行動時、ATKとAGIに中補正。
最後は袴。袴といっても剣道のように脚の間に仕切りのあるものではなく、所謂ロングスカート型。これも動きやすいように、丈は脛くらいに留めた。流石にこれ以上短くすると袴の感じが壊れるし、ハルに何て言われるか分からないし……。
夜間での行動というのは、どうやら実際に夜である必要はないらしい。というのも、セイスさん曰くこのゲームには明るさ指数というものがあり、それが一定ラインを下回ると夜と同等の暗さとしてみなされる。逆に外が夜でも、灯りの点いた中で行動したら補正はかからない。流石に隠密系といえば彼は詳しい。
というわけで、これら4点セットをハルにプレゼントした。随分待たせてしまったが、喜んでくれて本当によかった。
「はぁ……」
湯船に身をもたれ、僕はふとあの笑顔を、装備を変えた瞬間のあの表情を思い出す。僕は今までハル以外にも、ああやって物を作ってはプレゼントしたりしてきた。しかし、やっぱり彼女のあの笑顔が、僕を一番突き動かしてくれるような気がするんだ。
そして僕はそんな彼女の姿を見て、つい「可愛い」と言ってしまった。僕の女子に対する耐性が薄いから?アバター越しだから?確かにそうかもしれない。しかし、僕はあの見た目、あの笑顔だけでなく、もっと奥……心の純粋さ、その輝きが見えた気がした。今まで経験したことのない感覚。きっとこれは、普通の感情ではない。
浴槽から身を脱し、バスタオルで水気を取る。鏡の中に、ホムンクルスらしからぬ赤らみを見て、その動きが止まる。
「ハル……僕は……」
アバターという、ゲームのシステムに守られた厚い壁の、その向こう側にいる本当の彼女。ダメだと分かっていながらも、僕はその領域に触れたくなってしまった。この感情がこの世界でだけのものなのか、それとも現実に起こり得るものなのか、それを確かめるために。
装備を付けて出ると、既にハルはログアウトしていた。抜け殻になったアバターが、布団に包まって気持ち良さそうに寝ている。僕は人差し指で頬を2、3回突いてみると、そのまま隣のベッドでログアウトした。
プレアデス Lv.25
種族:ホムンクルス/職業:宝石技師Lv.21
HP:500(+250)
MP:170(+360)
STR:50(+50)
VIT:40(+50)
AGI:0(+30)
INT:50(+120)
RES:0
DEX:30
LUK:30
SP:0
頭…なし
胸…バトラースーツ
右手…噴炎する恐牙の戦槌
左手…-
脚…バトラートラウザーズ
足…執事の革靴
特殊…蒼穹のタリスマン
特殊…レイジ・オブ・イフリート
所持金:9200G
満腹度:40%
装備効果:物質特効(200%) 《出血》付与(高) 【吸血】攻撃(低) 付加(火炎) 《火傷》付与(高) HP回復(5/秒) MP回復(1/秒) 《火傷》耐性
称号:《試行錯誤》《伝説を導く者》《読書好き》《宝石採集者》《伝説を錬成する者》《岩砕き》《破壊者》《無慈悲なる一撃》《石工職人見習い》《木工職人の一番弟子》《宝石技師》《禁忌の扉》《炎纏いし者》
生産スキルセット(7/12)(装備中)
【統合強化】【金属探知】【分解】【精錬】【拡大鏡】【簡易調整】【宝石融合】
戦闘スキルセット(7/12)
【硬化】【宝石片弾】【ジェットファング】【付加:陽炎柱】【脆弱化】【ジェノサイド】【精霊喚起】
チェインスキル:【連鎖爆破】【バーストスマッシュ】
「ふぅ……」
肺の中に溜まっていたものを大きく吐き出し、天井を仰ぐ。それと共に、自分の身体に強張っていた何かがスーッと抜けて行くのを感じた。真っ白な天井のキャンバスに思い描くのは、ハルのあの笑顔。
「喜んでもらえて……良かったな」
僕が今回ハルの防具一式を新調した理由。一つは、ハルの専属鍛治としてのプライドのため。それこそ初めて会ったくらいの時、ハルは僕に今後のアイテム強化を任せてくれた。それを専属契約と受け取るかどうかは人次第だろうが、少なくともハルがずっと僕と一緒に行動してくれている限り、あながち間違いではないだろう。
だからこそ、あの時王都で服を買い、それで防具として賄った自分が、どことなく許せなかったのだ。勿論、あのメイド服も彼女は凄く気に入ってくれていた、と思う。でも、自分にそう言い聞かせながらも、やっぱり心のどこかでは、ハンドメイドに拘りたいという、ある種の職業病がずっとそこにあったんだ。
でも、僕は残念ながら服を作ることに詳しくない。いや、他の武器とかも同じく知らないんだけど、服作りの難易度は、武器やアクセサリーの錬成の遥か上を行く。生地選び、型通りの裁断、縫合。そこに刺繍や装飾、防具としての機能性も加えていく。例えベースとなる服を選んだとしても、とても素人に出来ることではない。
僕は、ログイン時間などを調整し、ハルには内緒である人の元を訪れていた。
………
「ごめんください」
扉を開けると呼び鈴がカランと小気味良く響く。僕の入店に先に気づいたのは、レジでダラリとしている妹の方だった。
「……あ、また来たんだ。いらっしゃーい」
「こら、レイア!そんなことを言うんじゃありません!こんにちは、プレアデスさん。またお会いしましたね。本日はどのようなご用件で?」
脱力しきった妹の挨拶を咎め、奥から現れたのは姉、ライア。そう、僕が来たのは数日前服を買いに来たばかりの見た目防具専門店『ブディカランド』だ。店主は双子の姉妹のライアとレイア。
「こんにちは。今日は少しお願いごとをと思いまして」
「お願い?ですか?」
「はい、その……僕に裁縫を教えて下さいませんか?」
突然の申し出に目を見合わせる姉妹。先に口を開けたのは妹の方だった。
「……それ、本気?」
「はい、本気です」
「誰にあげるの?」
なんで分かったんだろう。レイアさんって、時々核心を突いた発言をする。その遠くを見つめるようなジト目で、何を見ているんだろうか。
「えっと……この前一緒に来た狐の」
「ああ、彼女さんねー」
ふっ、と鼻で笑うような素振りで、頬杖を突いて身を乗り出す。お盛んねぇ、なんて煽りと共に。違いますよ!?と否定しつつ困惑していると、またも姉からのお咎めが入る。今度は軽い手刀と共に。
「こらっ」
「あだっ」
「もう、お客さんを困らせるんじゃありません!ごめんなさい、レイアも悪気は無いんです……多分」
「いえいえ、気にしてませんよ。見ていて楽しいですし」
僕には姉はいたが妹はいなかったので、こういう姉妹の絡みというのは実際結構見ていて楽しかったりする。こう、仲が良いからこその容赦のなさというか。僕の姉の場合、ひたすらに僕をいじるだけ。しかもなかなか家にいないので、こちらもそう簡単に反撃しようとも思えないのだ。
「ふふっ、ありがとうございます。それで、裁縫というのは具体的にどの範囲で?」
「生地の仕立てから刺繍に至るまで一通り……ですかね」
「一通り……それはすぐには会得するのは難しいと思いますが……」
ライアさんはプレイヤーが常にこの世界にいるわけではないことを知っているようだ。誰かお客さんの中に、そういう事情を話した人でもいたのかもしれない。
「その点については大丈夫ですよ。こっちに来る時間を調整すれば、空き時間は十分にできます」
「そういうことでしたら……レイアもそれで大丈夫?」
「問題ない。厳しく行くから覚悟してね」
レイアさんの目の輝きが一層増す。どうやら本気モードのようだった。
………
こうして、服作りに関して素人だった僕は、合間を縫っては『ブディカランド』に通い、裁縫技術の基礎を教わり、服のデザインも相談に乗ってもらった。
研修が終わり、レイドボスも倒した後、僕は学会に間に合うために宝石研究に明けくれていた……というのも実は表向きの話。本当は実験自体はコツコツやっていたおかげで殆ど終わっており、論文としてまとめ、内容の矛盾などをカンナさんに協力してもらいながら検閲しただけだった。
度々ハルに素材集めをお願いし、彼女が出かけている合間に、せっせと作り続けていたのだ。作業場所は部屋の隅なのでバレる心配も少なく、またいざという時はカンナさんに持たせておけば、彼女の趣味として通すことができる……と、カンナさんが言ってたっけ。実際、それで少しアドバイスを貰ったりもした。ありがとうございました。
そして今日、それが漸く完成したのだ。といっても、最後のブーツ以外はほぼ完成していたんだけど。個別に渡すのも良いけど、折角なら一括で渡したい、という僕の願望から、今日まで時間がかかってしまった。
因みに、完成に時間がかかったのは紅焔石が必要だったから。狐火をイメージした『燐火のブーツ』は、靴底に紅焔石のエンジンを仕込むことで、走った時に微弱なブーストがかかり、加速することができる。蒼粒石ではエネルギーを生み出すのが限界なので、エンジンを作るには別個でタービンを作る必要がある。残念ながら靴底にそんなスペースはない。
『燐火のブーツ』☆7 DEF+10 AGI+40 跳躍距離上昇
売価40000G。尾に火を灯した白狐を思わせる様相のブーツ。靴底には紅焔石が内蔵されており、走行や跳躍といった靴底への軽い刺激を受けてエンジンが作動することで、通常よりも速く移動することができる。
このブーツで何気に凄いのが跳躍距離上昇。跳躍というのは当然上方向だけではなく、前や後方向も例外ではない。つまり跳躍斬りや跳躍での撤退が簡単に出来るようになる。ハルの機動力を活かした戦いに貢献してくれるはずだ。
『妖狐の髪飾り』☆7 INT+50
売価50000G。人を惑わし籠絡する妖狐を模した紫色の妖しい髪飾り。装備した者の賢さを上げるだけでなく、攻撃時に相手を低確率で《幻惑》状態にする。
続いては髪飾り。アクセサリーに思えるが実は頭防具という。肝心の能力はINT+50と優秀。《幻惑》状態になると、幻惑をかけた相手に対するダメージが減少する。他の武器などの効果と合わせて《幻惑》付与確率を上げれば、優秀な防御手段となるだろう。
『桜吹雪の振袖』☆7 DEF+50 AGI+10
売価200000G。一流の技術により舞い散る桜の花弁が一つ一つ刺繍された、躍動感のある白い振袖。装備時、スキル【桜花爛漫】を使用可能。
【桜花爛漫】消費MP:300 クールタイム:1時間
無数の桜の花弁を刀身の延長として操り、吹雪のように敵を連続攻撃する。刀系武器を装備時のみ使用可能。
次は振袖。お値段脅威の200000G。まあ、一番拘って作ったからね。彼女のイメージに合わせて、春っぽい仕上がりにしたかった。それで頑張って桜を細かく刺繍していったのが、まさかこんな形で返って来るとは。このスキル、間違いなく強い。僕のゲーマーとしての勘がそう叫んでいる。
因みに、振袖といっても特徴的なのは殆ど袖だけで、実際のように生地が重いわけでも、丈が長いわけでもなく、普通に服として着られる。本当に着物として作るならそれで良かったのだが、流石にそれでは前線で満足に戦えないだろう。生地はなるべく軽くて丈夫なものを選んだ。
『朧月夜の袴』☆7 DEF+80
売価120000G。朧月の装飾により、一層深く染み渡るような夜闇を表現した袴。夜間での行動時、ATKとAGIに中補正。
最後は袴。袴といっても剣道のように脚の間に仕切りのあるものではなく、所謂ロングスカート型。これも動きやすいように、丈は脛くらいに留めた。流石にこれ以上短くすると袴の感じが壊れるし、ハルに何て言われるか分からないし……。
夜間での行動というのは、どうやら実際に夜である必要はないらしい。というのも、セイスさん曰くこのゲームには明るさ指数というものがあり、それが一定ラインを下回ると夜と同等の暗さとしてみなされる。逆に外が夜でも、灯りの点いた中で行動したら補正はかからない。流石に隠密系といえば彼は詳しい。
というわけで、これら4点セットをハルにプレゼントした。随分待たせてしまったが、喜んでくれて本当によかった。
「はぁ……」
湯船に身をもたれ、僕はふとあの笑顔を、装備を変えた瞬間のあの表情を思い出す。僕は今までハル以外にも、ああやって物を作ってはプレゼントしたりしてきた。しかし、やっぱり彼女のあの笑顔が、僕を一番突き動かしてくれるような気がするんだ。
そして僕はそんな彼女の姿を見て、つい「可愛い」と言ってしまった。僕の女子に対する耐性が薄いから?アバター越しだから?確かにそうかもしれない。しかし、僕はあの見た目、あの笑顔だけでなく、もっと奥……心の純粋さ、その輝きが見えた気がした。今まで経験したことのない感覚。きっとこれは、普通の感情ではない。
浴槽から身を脱し、バスタオルで水気を取る。鏡の中に、ホムンクルスらしからぬ赤らみを見て、その動きが止まる。
「ハル……僕は……」
アバターという、ゲームのシステムに守られた厚い壁の、その向こう側にいる本当の彼女。ダメだと分かっていながらも、僕はその領域に触れたくなってしまった。この感情がこの世界でだけのものなのか、それとも現実に起こり得るものなのか、それを確かめるために。
装備を付けて出ると、既にハルはログアウトしていた。抜け殻になったアバターが、布団に包まって気持ち良さそうに寝ている。僕は人差し指で頬を2、3回突いてみると、そのまま隣のベッドでログアウトした。
プレアデス Lv.25
種族:ホムンクルス/職業:宝石技師Lv.21
HP:500(+250)
MP:170(+360)
STR:50(+50)
VIT:40(+50)
AGI:0(+30)
INT:50(+120)
RES:0
DEX:30
LUK:30
SP:0
頭…なし
胸…バトラースーツ
右手…噴炎する恐牙の戦槌
左手…-
脚…バトラートラウザーズ
足…執事の革靴
特殊…蒼穹のタリスマン
特殊…レイジ・オブ・イフリート
所持金:9200G
満腹度:40%
装備効果:物質特効(200%) 《出血》付与(高) 【吸血】攻撃(低) 付加(火炎) 《火傷》付与(高) HP回復(5/秒) MP回復(1/秒) 《火傷》耐性
称号:《試行錯誤》《伝説を導く者》《読書好き》《宝石採集者》《伝説を錬成する者》《岩砕き》《破壊者》《無慈悲なる一撃》《石工職人見習い》《木工職人の一番弟子》《宝石技師》《禁忌の扉》《炎纏いし者》
生産スキルセット(7/12)(装備中)
【統合強化】【金属探知】【分解】【精錬】【拡大鏡】【簡易調整】【宝石融合】
戦闘スキルセット(7/12)
【硬化】【宝石片弾】【ジェットファング】【付加:陽炎柱】【脆弱化】【ジェノサイド】【精霊喚起】
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