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第3章 蒼粒石の秘密

第19話 蒼粒石の可能性

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では、エネルギーの変換はどのように行われているのか。確かに周りの影響を受けて自身が変化するのは確認できた。しかし、それだけではエネルギーの変換の証明にはならない。そこで注目すべきなのは、安定化させた蒼粒石だ。

そもそも、今まで僕は何気なく安定化を行なってきたが、その安定化とはどういう原理で成り立っているのだろうか。それは、蒼粒石内外のエネルギーの流れで説明がつく。

蒼粒石はエネルギーの貯蔵を行う、とは言ったものの、あの一粒一粒が貯蔵できるエネルギーはあまり多くなく、精々フックショット一回分にしかならない。そして、エネルギーは何も使おうとしなくても、実は勝手に放散してしまう。すると、蒼粒石の内部にはエネルギーを溜めるための空きが出来る。

そこで、外部からエネルギーを吸収し、内部に貯蔵するのだ。自然界では、この吸収と放散が同時に行われている。それにより、見かけ上エネルギーの移動がないように見える。即ち、平衡状態にある。

貯蔵機能については、これを利用した実験で説明できた。内部のエネルギーを使い切って空にした蒼粒石を、その辺に暫く放置したところ、エネルギーを再び使えたからだ。これも複数の環境で行ったが、どうやらさほど差はないように思えた。精々、屋内より屋外の方が少し効率が良いくらい。

次は輸送の証明。これは簡単だ。前に僕が『機刀:小春』を作った時に使用した電線技術なんかが良い例だ。あれは、蒼粒石から蒼粒石へとエネルギーを輸送しているからこそ、あのようにして伝達が起こっているのだ。これとエネルギーの放散だけでも、十分その機能があると言えるはずだ。

最後に、変換についての証明。調べたところ、どうやら蒼粒石が空気中から吸収しているのは「マナ」という物質らしい。僕達のMPマナポイントを司る物質で、MPの自然回復の原理は、僕達が呼吸で取り込んだマナを、体内でそのまま吸収していることにある。これは、僕達の初ログインより前から解明されていた有名な原理だ。

では、どのように変換をしているのかというと、簡単に言えばマナから電気的なエネルギーへの変換だ。ここでは暫定的に「電力」としよう。僕が作ってきた多くの機構は、当然マナによって動かせるものではない。皆電力によって動く。しかし、蒼粒石自身が仕入れるエネルギーは電力ではなくマナなのだ。

つまり、蒼粒石が何らかの形で、内部でマナから電力にエネルギーを変換していると見るのが一番合理的なのだ。そしてそれが不安定な状態だと、変換に伴って自身も変化してしまうということ。暴発によって及ぼされる影響も、恐らく宝石の種類によって異なるのだろう。

宝石の暴発については、本当はもう一種類考えられる。それは、蒼粒石の方だけが安定化されている時。僕がタリスマンを着けて紅焔石を触った時のように。恐らく、不安定な蒼粒石同様、他の宝石でも何らかの形でキャパオーバーになっているのだと予想できるが、いかんせん実験データが少なすぎたので、今回の学会では発表しなかった。

では、安定化している場合はどうなっているのか。ここで漸く話が元に戻る。ここでの安定化の定義としては、エネルギーの変換にあたって自身の状態が大きく変化しないことだ。王立派の学者達は、安定化した蒼粒石のこの性質に着目して「触媒である」としたのだろう。確かに、その着眼点は間違っていない。しかし、だからといって触媒だと断定するには少し不十分だ。

そもそも触媒とは、化学反応の前後で自身が変化することなく、その反応を促進するものである。確かに、自身の状態を変化させずに他の宝石を活性化させる安定化した蒼粒石は、触媒に近い機能を有していると言って良いだろう。しかし、本当にそうだろうか?

本来触媒が反応を促進させるメカニズムは、化学反応に必要なエネルギー……活性化エネルギーを削減させることにある。しかし、蒼粒石はこれをしていない。蒼粒石はあくまで、エネルギーの輸送を速く行なっている。それで空いたスペースにエネルギーが流れ込む速度が増し、結果的に活性化しているように見えるだけだった。

これは僕も驚いた結果だ。僕も最初は、何らかの形で宝石を活性化させているのだと思っていた。しかし、貯蔵、輸送、変換。これらの三原則に基づいてその過程一つ一つを検証していくと、確かに他者を活性化させるのとは少し違うのだ。とはいえ、結果として促進をしているのは間違いないので、もっと広く定義すれば触媒というのもあながち間違いではなかろう。

しかし、蒼粒石は触媒だけには留まらない。ここから民営派の言う、エネルギーの永久機関的な要素が絡んでくる。僕の作品にも、その例がいくつかある。蒼粒石のコアと『蒼穹のタリスマン』だ。どちらも、半永久的にその効果を齎してくれる。永久機関というのはこのような性質から来ているのだろう。

ただし、永久機関というのはあくまで、自らが独立して産み出したエネルギーでなくてはならない。実際はエネルギーを変換し輸送するだけなので、厳密には永久機関とは言えない。どちらかと言えば「変電所」だ。資源となるマナが不足すれば、当然蒼粒石の齎すエネルギーも落ちる。そのことも貯蔵機能を確かめる実験で立証済みだ。

そしてこのタリスマンだが、実はこれが変換の例外にして、変換機能を更に具体的に定義することを可能にする。

そもそも、何故タリスマンでMPを回復できるのか。通常蒼粒石は、空気中のマナを吸収し電力に変換する。しかし、僕達がMPを自然回復させるメカニズムは、前述した通りマナによる回復だ。つまり、本来なら回復を促進するどころか、かえって阻害してしまうと見ても何ら不思議はない。

ここで、蒼粒石の更なる特徴が表出する。それは、安定化の方法によって蒼粒石が担う働きが異なる、ということだ。実は、安定化には現在2通りの方法が存在する。一つは、コアのように蒼粒石同士を凝集させる方法。そしてもう一つは、タリスマンのように蒼粒石の土台としてエネルギーを含まないものを使用する方法だ。

前者では、蒼粒石の間でエネルギーの変換を分業することで、キャパシティと効率を大幅に増やしている。具体的には、ある蒼粒石が外からマナを吸収し、それを他の色々な蒼粒石に輸送しながらエネルギーを変換させ、電力として排出する。因みに、蒼粒石間には微弱ながら互いに引き合う力があり、接着剤なしで簡単に凝集する。

コアの弱点として、コアの構成に使われている蒼粒石の個数に対し、表面積が圧倒的に少ないということだ。このせいで、外気に自然に漂っているマナでは、コアを動かすエネルギーを賄い切れない。そのため、誰かが直接マナを流し込む必要があるのだ。そう、MPを消費するという形で。

といっても、そんなにたくさん吸い取られるわけではないが。要は、電気でいうところでは、不足しているのは電流ではなく電圧。量的には空気中のでも十分に賄えるのだが、吸収する能力が下がっているために、ゼロ距離から流し込まないと起動にかなり時間がかかってしまう、ということだ。

では、タリスマンはどうか?あれは、輝晶石というエネルギーを持たない石を台座にして、その上に蒼粒石を散りばめたものだ。その状態を、三原則に従って分析をしてみる。結論からすると、タリスマンでは変換の能力を殆ど失っている。

蒼粒石の輸送の性質として、外気以外でエネルギーを輸送できる物に接している場合、全てのエネルギーをそちらに輸送するという性質があった。これは電線技術の時点で大方予想はついたが。その中でも特に、エネルギーの濃度が薄い方向へと輸送する。現に、タリスマンでは蒼粒石同士での輸送は起きていない。実験でも同様の結果を示した。

そして輝晶石は、一切のエネルギーを持たない。つまり、蒼粒石が内部でマナを貯蔵したり変換したりするよりも早く、吸収した全てのマナが輝晶石の方に流れ込むのだ。蒼粒石自身は、内部に貯蔵が出来ないため吸収速度を落とさない。これにより、凄まじいスピードで外気からマナを吸収するシステムが完成した。

輝晶石に流れ込んだマナは、そのまま通過して外に出る。なので、これを装備しておけば、輝晶石から排出されるマナを享受することが出来るというわけだ。HPの自動回復については未だ謎だが、MPの回復についてはこれで解明が出来た。

まとめると、まず蒼粒石は変換、貯蔵、輸送の三原則に基づく。そして、安定化のさせ方に応じて、その能力の強さがそれぞれ変化する。触媒や永久機関というよりは、変電所のような機能を担い、様々な技術に応用できる可能性を秘めている、ということだ。

「……このように、蒼粒石は三原則に従って加工をすることで、様々な機能に派生する可能性を持っています。今回の僕の研究が、今後の宝石研究や技術水準の向上に良い影響を与えることを、切に願っています。これで、僕の発表を終わります。ご静聴ありがとうございました」
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