アルケミア・オンライン

メビウス

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第3章 蒼粒石の秘密

第15話 血を求む

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あの後、会議は2時間にも及んだ。結局、対人特効の武器を揃えることが最善策ということになった。といっても、実際に対人特効の武器なんて出回ってはいないだろう。そこはどうするつもりなのだろうか?

戦い方に関しては、現在雪ダルマさんを中心とした最前線メンバーが居残りで話し合っている。決まり次第、会議に参加したメンバーにチャットで知らされる手筈だ。その間、僕達は僕達にしかできないことを進める。

「ハル、準備は良い?」

「いつでも!」

ハルの元気な返事が届く。そういえば、ボス戦前に見せていた不安な表情は自然と消えていたな。あれは一体何だったのだろう。まあ、今はどうでもいいか。

「ふっ!」

僕は槌を振るってそこらのMOBを瀕死にしていく。そう、倒しはしない。血を採取するためだ。

「プレア殿!ホワイトラビットの血は集め終わった!」

「オッケー、じゃあエリア2に行こう」

僕達は今、平原のMOBの血を集めている。因みに、トドメは刺すまでもない。《出血》によるダメージで勝手にやられていくからだ。その分、こちらとしてもすぐに採集しないとポリゴンになって消えてしまう。叩く側も集める側も、やってみると意外と難しかった。

そういえば、初めて《出血》をまともに使ったかもしれない。僕の武器には、高確率で《出血》を付与する能力がある。しかし、最近戦ってきた敵のうち、強敵と言えるのはどれも物質系だったからだ。物質系MOBは、そもそも血を持たないため出血しない。そのためか、状態異常としての《出血》自体にも耐性があるのだ。

スロウの場合は、出血はしていたがそもそも僕の攻撃によるものではない。或いは、単に確率的に外しただけの可能性もあるが。まあ何にせよ、こうして武器を活躍させられたのは良かった。

「これで全部かな?」

「……うん、そうみたい。お疲れ様!」

「ありがと。ハルもおつかれ」

1時間足らずで、漸く平原の全MOBの血を集め終えた。因みに、集めるのに使った容器は小瓶。よくポーションなどを入れたりするのに使うやつで、カンナさんが貸してくれたのだ。

さて、では何故僕達はここまで執拗に血を集めていたのだろうか?その種明かしをしよう。

「カンナさん!持ってきました」

「ありがとうございます。これで研究を始められます。気長にお待ち下さい」

カンナさんは、リアルでは生物学者だそうだ。最近、リアルの仕事が少なくなり、こっちの世界で遊びがてら研究をしているのだそう。何でも、昨今のVRMMOの進歩につき、生物的なシステムもかなり現実と近くなっているんだとか。それで、現実では難しい研究をしようとVRに進出する研究者も増えてきているらしい。

カンナさんが行っているのは、出血を止めさせないための薬の作成だ。実は、あの後床や壁に残っていたスロウの血液を、サンプルとしてこっそり回収していたのだ。もし出血を止めずにいられたならば、最悪何もしなくても倒せる。そうでないとしても、大きな戦力になるかもしれない。

僕には高校レベルの知識しかないので詳しくは知らないが、止血には様々な要素が絡んでおり、そのどれか一つでも欠けると止血は起こらなくなる。現実でも血液の研究をする上で、そういった作業は基本中の基本らしい。

しかし、ここはゲーム世界。いくらスロウが半人半ホムンクルスである可能性が高いとはいえ、その止血のシステムも実際の人間と同じとは限らない。そこで、平原の全MOBの血を採取し、止血に関わる要素に共通点があるか探すことにしたそうだ。研究って大変。

因みに、小瓶に入れている限り血液の状態が進行することはない。これは、インベントリ内で保管する上でポーションや食料が腐ったりしないようにするためのシステムだ。この辺は流石ゲームといったところ。研究者達がVRで研究をしたがる理由が垣間見える。

さて、カンナさんに研究は任せ、僕とハルは、対スロウ戦での切り札を作る。といっても、カンナさんの研究が成功することがほぼ大前提となるが。

「じゃあ、小春を借りるよ」

「うん、任せた」

ハルから『機刀:小春』を借りる。今からこの刀には、血を吸う度に攻撃力を上げていく妖刀になってもらう。本当はスキルを作るのでも良いと思ったが、継続的な効果を得たいという側面から、小春にダウンロードする方向で決まったのだ。

少し前、僕達は小春に覚えさせたスキル達を「アプリ」と呼ぶことにした。ほら、なんか機械っぽいでしょ?現在小春にダウンロードされているアプリは『硬化』と『再生』だ。こんな感じで、持続的で受動的な効果をアプリ化していくつもりだ。

話を戻すと、そんなわけで血を吸って切れ味を増していくような、そんなアプリを作ることにした。方法は例の如くかなりアバウト。サンプル用の他に、余分に採っていた血液をごちゃ混ぜにして、そこに小春の刃を浸す。

普通なら血が付いた刃は切れ味を落としてしまう。そこでアプリの『硬化』とハルの【レイジ】を同時に流し込む。こうすることで、血に塗れることで攻撃力を上げているのだと小春に錯覚させる。さて、上手く行くだろうか。

小春の状態はハルに見てもらい、その間僕は僕で武器を改良していく。最近、人の装備品ばかり強化していたので、今回は僕のを。今の僕に足りないのは機動力だ。勿論、AGIにステータスを振れば良いだけなのだが、生憎SPがまだ足りない以上、今から上げても中途半端になってしまう。

なので、方法は2つ。一つは、より強力な飛び道具を作ること。現在僕が持っている飛び道具はスキルによるものだけだ。そして、どれも消費が激しいか威力不足かのどちらかだ。威力が足りないにしても、せめて消費がより少ないやつがあれば取り回しが良いだろう。武器の機能なら、クールタイムを気にする必要もないしね。

考えているのは、槌にパイルバンカーを搭載すること。この大きな牙を武器に付けた時から、これを弾丸として飛ばせたらとずっと考えていた。しかし、飛ばすとなると要するに銃のように、火薬が必要になる。多分、槌の紅焔石だけでは賄いきれないだろう。それに、開発するのにも必要だろうし。

一応、打開策もある。それは、以前セイスさんの武器を作った時に使ったフックショット技術だ。余りにも作るのが難しかったため、真っ先にレシピ登録をしたアレ。槌にフックショットを内蔵し、牙を射出したあとワイヤーで回収できれば間違いなく強い。と思ったのだが。

残念ながら、あのフックショットは引き寄せる機構がほぼ全てで、射出する能力自体は殆どない。勿論、そのまま使える程度には発射できるものの、武器として活用するにはあまりにも火力が足りない。

もう一つ、牙と繋げたワイヤーを切断された場合、あの槌自体が相当弱体化してしまうのも大きい。【ジェットファング】なんて牙を活用した専用スキルもある手前、牙を失った状態で戦うのはかなりリスキーだ。当然、その点でワイヤーなしで射出させるのも厳しい。

紅焔石と替え牙の確保、そしてより頑丈なワイヤーの作成。これらが揃えば実現は出来そうだが、少なくとも紅焔石はこの辺では採れない。セルゲイさんにもお願いしてみたが、最近魔物が凶暴化して危ないからと拒否されてしまった。いずれ火山地帯に行くまでは、この件は保留にする。

そこで、とりあえずもう一つの案を実行する。それは、フックショットを使用した移動装置の開発だ。この前、リアルで姉が持って帰ってきた日本の昔の漫画を読んでピンと来たのだ。そこでは、腰からワイヤーを壁や敵の身体に射出して、縦横無尽に高速移動していた。これなら攻撃力が要らないため、今ある素材だけで作れる。

因みに、海外では今、日本の漫画やアニメが再ブレイクをしている。特に、今では「アニメの宝物庫」なんて言われている2010年代、20年代のアニメやその原作漫画は、一部の国では社会現象を起こすほど。姉が留学している国でも、件の機動装置が登場する作品が大流行している。

その影響か、今日本でも昔のアニメが再放送されたり、絶版になった漫画が再版されたりと、逆輸入する形で動きを見せている。数十年前「アニオタ」と言われていた世代……僕の親の世代が、再放送や再版のための資金を協力して集めたりしているのだ。僕の母親もその1人。正確にはその妹の方が主力だが。
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