アルケミア・オンライン

メビウス

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第3章 蒼粒石の秘密

第11話 スキル主義者

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「皆!これからレイドボスの討伐に向かいます!各自、準備は済んでいますか?」

バラバラな返事があちこちで上がるが、この中に誰も慌ただしく準備をする人がいないので、大丈夫だろう。そう判断された。

「では、ボス部屋の扉を開けます…この戦い、必ず勝つぞ!」

ボスへの挑戦を前に、雪ダルマさんの声にスイッチが入った。それに呼応するように、討伐隊員の返事にも気合いが入る。やはり十人十色な返事で統一感などまるで感じられないが、僕はこの方が多様性があって良いと思う。

さて、初めてのレイドボス討伐戦…どうなるか。

………

暗闇に全てを覆われた大きな部屋に、一筋の光が差し込んだ。その中から、人、人、人の群勢が雪崩れ込む。全員が入りきった時、大扉はひとりでに、差し込む光を遮断した。

同時に、壁面や天井、その全てが、松明の炎のように妖しく光る。その光はどこからともなく部屋を照らし、さながらそよ風のように、ゆらゆら、ゆらゆらと不気味に揺らめく。

その静けさや不規則な光の変動が、やがて群がる群衆の不安を煽ったとき、それに応えるように何かが蠢いた。

部屋の奥だ。かなり大きい。群勢がそら豆に見える。

「来るぞ!」

先頭に立つ男が身構えつつ叫ぶ。その顔には、勇気。その声と姿勢に、群勢の誰もが勇気付けられ、闘志を昂らせた。

しかし、それはすぐに消え失せた。再び彼らの顔に不安が戻る。迷いが戻る。無理もない。

高層ビルが手足を付けてこちらに歩いて来るのを見れば、誰だってそうなる。

『怠惰の錬金巨人アルケミック・ギガント Lv.30』

オオオォォォォォォォォッッッ……!!

地を揺るがし、光すらも捻じ曲げそうな巨人の咆吼と共に、戦闘が開始された。

………

「な、何だよあれ…」

「勝てるわけねえ…!」

その圧倒的な巨躯を前にした時、討伐隊のあちこちからそんな声が聞こえた。雪ダルマさんの一声を以ってしても、この恐怖は拭えないようだ。実際僕も少し怖い。ハルは…怖がってはいなさそうだが、先程感じていた「嫌な感覚」は更に強くなっているようだった。

「皆落ち着け!とりあえず、上級者の中で出られそうな人は前に!ヤツの攻撃パターンを見極めるんだ!」

雪ダルマさん、完全に攻略モードに入っているな。さっきまでの柔らかな雰囲気とは違って、その声には緊迫感を滾らせている。とりあえず、僕達も行こう。

「行くよ!ハル」

「…うん!ボクたちがしっかりしなきゃね!」

そう言って、気合いを入れるつもりか、パチンと両手で頬を叩く。痛い…と小さくこぼしながら。うんうん、ハルらしくなってきた。

「雪ダルマさん!ボクたちも出ます!」

「来てくれたか!春風さんは隙を伺って遊撃を、プレアデスさんは俺と最前線で耐久を!」

「「了解!」」

他にも、数人の上級者…言わずと知れた有名プレイヤーばかりだ。それでも、本来の人数と比べるとかなり少ない。下手な戦力低下を招くくらいなら、上級者とて残っていてほしいので別に良いが。

「最前線は…僕達だけですか」

「あはは、本当はテラナイトにも来てほしかったんだけどね…残ってる人達の護衛のために残ってるよ」

僕と雪ダルマさんは、今もこちらに向けて悠然と歩みを進める巨人に向かって走っている。彼はさっきのフレンド登録で僕の悲惨なAGIステータスを知っているので、こうして横を走ってくれている。すみません…ホムンクルスは最初SP足りないんです。

~~side ある討伐隊員~~

何だよあの大きさ!雪ダルマさんが組む編成だから楽勝だなんて、そんなわけないじゃんか!いくら雪ダルマさんでも、あれは無理だ…俺は簡単だからって言われて入ったのに、アイツ覚えてろよ…?

それにしても、隣にいるのは誰だ?彼の相棒として有名なテラナイトさんも、今はこっちにいるし…って、よりによってソイツの方に攻撃行ってるじゃんか!彼には悪いが、彼はここで退場だな。いくら雪ダルマさんとはいえ、仲間をキャリーして勝てるほど甘い敵ではないはずだ。

あ、攻撃を受けた。あんな体制なら間違いなく死んで…死んでない!?どうなってるんだ…?

~~side 終了~~

「なるほど、やるね!」

「うあぁぁっ、言ってないで助けて下さい…!」

「了解だ、【シールドバッシュ】!」

瞬間、左手に装備した大きめの盾に体重をかけ、雪ダルマさんが横から体当たりを入れた。いくら巨人のパワーの乗った腕とはいえ、この当たり方なら流石に効く。僕を正面から圧倒していた腕は、ガコンと横に逸れていった。

いやー危なかった。最初僕の正面に腕が振りかざされた時は【硬化】だけで普通に受け止めようとしていたが、咄嗟の勘で【連鎖爆破】を使い、敵のパワーを削ぎ落としたのだ。結果的にそれでもかなり必死だったので、使ってなかったら恐らく逝っていただろう。

「っ!次来ます!」

さっき横に飛ばした腕が、振り子のような動きで再び襲いかかろうとしている。ていうか、コイツ腕長いな。ロックギガースとは違い、ムチのようにしならせて攻撃してくるのでどうにも慣れないというか。

「今度は俺に任せて」

そう言って雪ダルマさんが前に出る。流石、頼もしいな。しかし、あの腕は尋常でなく重い。正直、雪ダルマさんですらまともに受けられるかは不安だ。まあ、彼なら何とかするだろう。何故なら彼は…

「【ショックシールド】【剛剣】!」

そう、僕と同じくスキルで何とかするタイプだから。このゲームにおいて、ステータスなど大した影響ではない、スキルこそが戦局を大きく左右するのだ…というのが、彼の考え方だ。そして、そのスキルの組み合わせ次第で、戦略パターンはいくらでも広げられる…と。

その終着点とも言えるのが、チェインスキル。最も、これは流石にIG社の情報操作によって明らかにはされていないが。さっき僕が【連鎖誘爆】を使った時、僕にしか聞こえない声で「まさか…チェインスキルか!」と言っていたから間違いないだろう。

雪ダルマさんの盾が巨人の腕とぶつかった瞬間、淡い光を帯びた衝撃波が弾ける。その衝撃で軽く吹っ飛ぶ。最も、これだけの大質量の腕を吹き飛ばすには全く足りないが、これだけでは終わらない。

「はっ!」

掛け声と共に、雪ダルマさんの右手に持つ剣が腕を打つ。スキル【剛剣】の効果でより大きく、重く、頑強になったその剣は、鞭のような遠心力のかかった巨人の攻撃を、完全に止めた。だが、まだ足りない。このままでは押し切られる。

「援護します!ブースター起動…出力40%!」

だから、僕も一緒に押す。【ジェットファング】ではないが、ブースターを使った攻撃の威力は、通常のそれの比ではない。確かにステータス上、数値上では大した差にはならないだろう。だが、この力比べの局面において、大事なのはSTRの大きさなどではない。勢いだ。

ブースターによる継続的な加圧は、あっという間にこの押し合いの主導権を僕達に握らせた。少しだけ出力を上げる。すると、程なくしてあの巨大な腕を吹っ飛ばすことにし成功した。

「よしっ!」

出力を抑えたので、消費もそれほど激しくはない。上手くいって良かった。宝石技師になって以降、今まで何となくでしか出来なかった操作の一部が、より精密に出来るようになったお陰だ。この出力調節も、今は10%刻みが限界だが、いずれは1%刻みでも出来るようになるのかもしれない。

「今だ!撃てえっ!!」

そして、今の吹き飛ばしで大きな隙が出来た巨人の身体に、数々の錬金術が飛んで行く。合図を出したのは、攻略隊の錬金術師団を指揮するユノンさん…ではなく、代理でテラナイトさん。ユノンさん自身は途轍もないほどの人見知り。初対面の隊員相手に大声で合図を上げるなど不可能だという。

とはいえ、一旦慣れればかなり接しやすい性格らしく、雪ダルマさんやテラナイトさんと話している時はごく普通だった。その辺を分かっているからこその、代理テラナイトさんなんだろう。

そして実力のほどだが、流石に最強2人と行動を共にしているだけあり、ユノンさんもまた、相当な強さを持っている。確かにログを確認してみれば、1人だけスキル名が全然違うし、ダメージも2倍くらい与えている。流石に格が違った。
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