アルケミア・オンライン

メビウス

文字の大きさ
上 下
53 / 202
第3章 蒼粒石の秘密

第10話 雪ダルマ

しおりを挟む
ダンジョンに進む道中。流石に50人を超える人数が列に並んで移動すると動きにくいので、ある程度タイミングを合わせた上で、パーティ毎にダンジョンを目指している。連携を確認するために先行して戦闘を行っているパーティ、戦闘を避け、後方で雑談に勤しむパーティと、その動向は異なる。

僕達はというと、先日のロックギガース戦で互いの動きは確認できているので、敵のヘイトを横取りしないように最後尾辺りを歩いている。因みに、この隊列の殿しんがりは雪ダルマさん。先頭で隊列がバラバラにならないように管理しているのは、彼の信頼する仲間の1人、テラナイトさんだ。

「やあ、君たちが噂のパーティだね?」

雑談もひと段落し、ただ歩いていると、不意に後ろから話しかけられた。分かってはいたが念のため、正体を確認するように振り向く。やっぱり。リーダーの雪ダルマさんだ。

「雪ダルマさん!今日は宜しくお願いします」

「うん、頼りにしてるよ。春風さん」

そう言われて、少し…いやかなり口角が上がっているハル。やっぱり、イケメンに言われるだけで嬉しくなるものなのかな。どうもすみませんね、フツメンで。と、それはさておき。

「宜しくお願いします。あの、噂って…?」

「ん、知らないのかい?君たちのことだろう?あのロックギガースをたった4人で倒したパーティとは」

なるほど、どうやら予想以上に反響を呼んでいたらしい。雪ダルマさんに至ってはテラナイトさんとの2人だけで攻略していたくらいだし、あんまり大したことはないかと思っていたのだが。

「僕達のこと、噂になっていたんですね。雪ダルマさんにも知って頂けて光栄です」

「そんな謙遜しないでくれ。俺だって今は最強なんて呼ばれているけれど、所詮君たちと同じ、1人のプレイヤーに過ぎないのだから」

ああ本当、こういう人だからこそ「最強」なんだろうなあ。と、雪ダルマさんと接していると思わされる。気さくで話しやすいし、何より、自分が最強と呼ばれていること、それだけの実力を持っていることに付け上がらないのが本当に好感度が高い。どこかの誰かさんにも見習ってほしいものだ。

「そうだ。お互いの連携のため、よかったらフレンド登録でもしないかい?」

まさかの提案。勿論フレンド登録自体凄いことなのだが、今彼は、お互いの連携のため、と言った。つまり、雪ダルマさんと一緒に討伐が出来るということだ。…そんな実力はないと思うのだが。正直この討伐隊の中にも、僕達よりも強い人は5人はいる。

「僕達なんかで良いんですか!?」

「ああ。君たちが良い」

が、の部分を強調する辺り確定だ。なんと…これは今回、予想以上に頑張る必要が出てきたな。

「…はいっ!宜しくお願いします!」

「雪ダルマさんのご期待に添えるよう、ボクたちも頑張ります!」

「ははっ、こちらこそ。お互い頑張ろう!」

そう言いつつ、ウィンドウを操作する。間も無く僕達4人の目の前に、雪ダルマさんからのフレンド申請が来た。全員、爆速で承認を押す。これで雪ダルマさんは僕達のフレンドとなり、同時に僕達も、彼のフレンドとしてシステムに認められたのだ。僕にとって4人目のフレンドは、このゲームきっての最強プレイヤーなのでした。

フレンド登録をすると、そもそもどんな機能が得られるのか?というと。まず一つ、離れていてもフレンドチャットで連絡を取れること。アイテムの授受もここで行える。因みに、ガラムさんはフレンドチャットに入っているが、例外的にフレンドではない。まあ、NPCだからね。

そして二つ、お互いのステータスが大まかに見られるということ。彼が言っていた「連携のため」とはこういうことだ。流石にスキルや称号、所持金とかまでは見られないが、レベルやステータスは公開される。まあ、それくらいなら問題も起きないもんね。それに、お互いの強みや職業が分かるだけでも、連携の取りやすさは全く違うのだ。

「うん。侍、薬師、ハンター…宝石技師?これは聞いたことがないな。差し支えなければ、前の職業は何だったかな?」

「鍛治職人です」

「鍛治職人か!やっぱりそうか。それなら、前線での耐久をお願いしたい」

鍛治職人は戦士系には劣るものの、前線での耐久…つまりタンクとしての役割が求められる。それはステータスというよりは、鍛治系の持つ武器、槌が攻撃型のタンクとして相応しいからである。

戦士系は、片手剣や両手剣、刀に槍、短剣と、槌以外にも多くの武器を装備することができる。中には一切武器を持たない拳スタイルの人もいる。そういうわけで、両手が塞がり、かつ両手剣以上に攻撃が当たりにくい槌は、戦士系の中では人気が低い武器となっている。

一方鍛治職人は、槌しか装備ができない。宝石技師は一応鍛治職人の系列なので、その傾向が変わらない。商人系の可能性もあったのに、ステータスの振り方だけで推測が出来ている辺り、流石の眼の持ち主だ。

…それにしても、雪ダルマさんすら宝石技師を知らないとは。どうやら、宝石というのは本当に知られざるアイテムらしい。

「雪ダルマさんは…言うまでもないですね」

「あはは、まあ皆知ってることだからねー」

雪ダルマさんの職業は、勇者。これは雪ダルマさんしかなっていない職業なのだが、彼の知名度のおかげで余りにも有名である。

勇者は、戦士から何でも一回転職したあと、更に転職をすることでなれる職業だ。しかもその際、転職アイテムとして『勇者の証』が必要になる。これは『力と勇気の試練』という専用クエストの達成報酬なのだが、これがまた激ムズなのだ。今のところ、クリア者は雪ダルマさんを除いて誰もいない。クリアした本人も、

「あれは多分もっと後になってから攻略されるクエストなんじゃないかな?俺はたまたまクリアできたから良かったけど」

と。本人の謙遜もあるだろうが、実際それくらい難しいクエストというわけだ。とまあ、そういうわけで勇者を目指して、戦士になるプレイヤーが後を絶たないのだ。中には、一度生産職になったものの、途中で戦士に鞍替えした人もいるらしい。そのせいで、槌不足…もとい鍛治職人不足が始まっているんだとか。

生産職が少ないのは、このゲームのシステム上仕方ないことなので、何となく予想は出来ていた。というのも、生産職は戦闘職と違って、戦闘をしても職業レベルは上がらない。一応、生産職の方が全体的にレベルが上がりやすい傾向にあるのは確認済みだが、それでもプレイ時間を考えると、なかなか難しいものがある。

とはいえ、薬師や商人はある程度需要があるため一定数存在する。特に薬師に関しては1パーティに1人は必要なほどなので、生産職の中でもダントツに人気が高い。

では、鍛治職人はというと、装備可能武器という観点で戦士の下位互換、さらにNPCの鍛治職人の方が序盤は良い武器を作ってくれるということで、まだ攻略がサーバー全体で見ても殆ど進んでいない今、鍛治職人を続けている人はそう多くはない。

「そういうこと。だから、君のような鍛治系の上級者というのは珍しいんだ」

…という、雪ダルマさんによる生産職不足の講義でした。

宝石技師が珍しいのかと思いきや、そもそも鍛治職人自体が珍しいという始末。これは、自己紹介の時に鍛治職人だと明かした瞬間一番驚かれる理由がようやく分かった。最も、今でこそ職業の名前を言っても誰もピンと来ないんだろうが。

と、そんなことを考えているうちに。僕達討伐隊の一行は、大きな広場…その目の前に聳える巨大な扉の前にいた。

「着いたね…」

「うん。ここにレイドボスがいるんだね」

そう言うハルの声色が、心なしか緊張しているように見える。雪ダルマさんは皆をまとめるために先頭に戻ったし…うん、やっぱりハルの心のケアは、僕の役目だよね?

「大丈夫だよハル。いつも通りに行けばいい」

「…うん」

「今回は雪ダルマさん達もいるんだし、きっと大丈夫だよ」

「…だと、良いんだけどね」

ハルの顔色が晴れない。どうかしたのだろうか?

「大丈夫?顔色少し悪いけど…」

「プレア殿は感じない?」

「不吉な予感、とか?」

「というよりは、変な感覚…かな?上手く説明は出来ないんだけど…」

変な感覚、か。一緒にプレイしているからこそ分かる。ハルはこの手の感覚に鋭い。霊感とは違うのだが、そういう言葉では説明できない第六感。…もしかすると今回のボス、何か重要な秘密を握っているのかもしれない。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

処理中です...