アルケミア・オンライン

メビウス

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第3章 蒼粒石の秘密

第9話 レイドボス

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「…以上が、今回の調査結果です」

「うむ、2人ともご苦労であった」

明くる朝、1時間の強制的な休憩を終えた僕達は、先程の錬成で思いついた実験を終えてその結果をまとめた後、ギルドマスター…ガラムさんの元に出向いていた。受けていたクエストを進めるためだ。

「しかし、たった1日でこの成果とは。やはり、宝石に長けた其方らに任せて正解だったな」

「いえ、恐縮です…」

立派に蓄えられた顎髭をモジャモジャと手で摩りながら、相変わらず威厳たっぷりの声でそんなことを言われても、素直に喜ぶのはなかなか難しい。本人は自分の威厳で周りが恐縮することを気にしているようだったが、本当にそうだろうか?少なくとも、その声だけでも何とかしてほしい。

「実は、近日中に宝石についての学会を開くことになった。其方ら…特に、プレアデス殿には是非参加してもらいたい」

まあ、ですよねぇ。学会という単語が出た時点で察しは付いていた。どうやら、プレイヤー間では話題にすら上らないが、NPC…この国に住む住人の、特に上層部や知識層にとっては、今最もアツい研究テーマになっているんだとか。

何でも、この国のトップ…王族のごく一部が、この宝石についての情報を掌握していることが、最近発覚したらしい。どこから漏れたのか、それが本当なのかは未だ定かではないが、この手のキナ臭い話には食い付いてしまうのが学者の性、とか何とか。研究テーマに飢えている辺り、この世界の学者は暇なのかな?

というわけで、学会に向けて更なる研究を進めてほしいとのことだった。そんな国の上層部ばかりが集まるヒエラルキーの高い学会に、一般人扱いのはずの僕達が出られるのかと聞いたところ、僕達は「訪れ人の代表」として出席できるらしい。……マジか。

僕達プレイヤーは、この世界の住人には「訪れ人」として認識されている。ガラムさんの話では、創造神からのお告げがあった後、突然どこからともなくやって来ては、自分達の知らない数々の技術や知識を齎す存在として、例え上層部であろうと少なくない影響を及ぼしているそうだ。

なので、プレイヤーとの距離が一番近く、またその動向の管理を全任されている冒険者ギルドの、そのトップに代表者として選ばれたという名分だけで、十分参加資格を得られるそうだった。それを自分で言っちゃうガラムさんは、流石大物の器らしい。

とはいえ、その学会までは少なくとも2~3日はかかる。なので、先にやりたいことを済ませることにした。僕達は、プレイヤーにとっての一番アツいイベントに参加するべく、王都南部…僕達プレイヤーが往来する区画の中心地でも、また僕達が最初に降り立つ場所でもある噴水広場に向かった。

「うわっ、人多いね!」

「そうだね、まさかこれだけの人が集まるなんて」

流石に初挑戦というだけあり、皆気合いが入っているらしい。それなりに広いはずのこの広場も、今は各地に人だかりがあり、歩いて通れる空間が限られている状態だった。おっと、見知った顔を見つけたな。

「おーい、カンナさん、セイスさん!」

僕がそう呼ぶと向こうもすぐに気づいたのか、カンナさんがこちらに向けて手を振りながら歩いてきた。その後ろのセイスさんは…僕達を見るや否や変な顔をしている。変顔…というわけではないだろう、多分。

「プレアデスさん、春風さん!やっぱりお二人も参加してらしたんですね!」

「カンナさん達こそ。お二人がいれば心強いです!」

「ありがとうございます!あの調薬セットのおかげで現地でも良質なポーションを作れるようになったんです。お二人の回復は、私に任せて下さい!」

「それは良かった。ああ、そうでした。あれから色々あって宝石の扱いが上がったので、また改良させて下さい」

僕とカンナさんは、久しぶりに会った仕事仲間のような、近況報告を交えた会話を繰り広げる。横では、ハルとセイスさんが会話しているらしい。視界の端で様子を見る限り、またもセイスさんがツッコミに徹しているようだった。

「…あーの、一ついいか?」

「はい、何でしょう?」

「…何その格好」

ハルは少し逡巡し、そしてそれが身に付けている防具のことであると理解した。

「ああ、これですね?セイスさんが以前、何でも良いから代わりを身に付けておけ、と忠告して下さったので…」

「いや、だからってそんな格好しろとは言ってねえよ!?」

「え、そうなんですか!」

「そうだよ!カモフラージュのために着けてって言ったのに、それじゃむしろ目立つだろーがっ」

うん、楽しそうにやってるみたいだしほっといて大丈夫かな。ていうか、何の気なしに執事ときたら…って感じでメイド服選んだけど、確かにあれ…目立つな。かなり。執事服なんて少しお洒落なスーツ程度で収まるから良いが、メイド服はメイド服だもんな。早いとこハルの防具だけでも作ってあげるか。

「はーい!時間になったので、そろそろ始めたいと思いまーす!」

パンパン、と手を叩く乾いた音と共に発せられた声に、皆が会話をやめその声の主を見る。いた。広場の真ん中、噴水の縁の上に立っている人だ。この人だかりでも見えるということは、それなりに長身だな。

「皆、今日はこの募集に集まってくれてありがとう!俺が今回、この攻略パーティのリーダーを勤めさせて頂く、雪ダルマです!」

爽やか風のイケメンが発した、もはやネタでしかないプレイヤーネームに笑う人は、恐らく誰もいない。それどころか、何人かの女性プレイヤーからは黄色い歓声も上がっている。それくらいの有名人なので仕方ない。

雪ダルマ。彼こそがこの『アルケミア・オンライン』に鉄を流通させた張本人にして、常に最前線で活躍を続ける最強プレイヤーの一角だ。鉄の一件から分かる通り相当な人格者で、外面も内面も、男女問わず人気を博している。そんな彼と一緒に攻略できるということで、尚更多くの人が集まったのだろう。

「今回のレイドボスだけど、残念ながらまだ情報が殆ど手に入っていない。そこで、単独行動は極力避け、4人ずつのパーティに分かれてほしい。そして、願わくば各パーティに1人以上、転職済み…または、転職可能なレベルに達している戦闘職が入るようにしてほしい」

うん、妥当な判断だ。情報もままならない以上、下手な犠牲を出して戦力が削られるよりはよっぽど良い。パーティ行動という若干の縛りが設けられるものの、安全性を取った方が確実に勝利できるからな。

そして、転職済みか職業レベル20以上の戦闘職。現在のゲームの攻略状況においては、職業レベルが20に達しているかどうかが、上級者と呼べるかどうかの指標になっている。つまり、僕もハルも上級者扱いになっているらしい。カンナさんとセイスさんはギリギリ到達していないらしいが、その実力の高さはよく知っている。

というわけで、僕達4人は変わらずパーティを組むことに。それが知れ渡った時、周りから一瞬どよめきが上がった気がしたが、まあ気のせいだろう。いくら上級者扱いを受けているとはいえ、最前線のメンバーと比べるとまだまだ下なのだから。因みに、雪ダルマさんレベルでは、既に転職を2回終えている。流石だ。

「では、各パーティが出揃ったようなので、これからダンジョンへと向かいます!道中、作戦会議などをして親睦を深めて下さい!」

最後のは、初対面の人と組んだパーティに向けた気遣いだ。パーティ行動が条件となる以上、パーティ内のトラブルや連携ミスは避けなくてはならない。そのため、敢えてワープアイテムを使わず、少し戦闘を挟むことで、パーティメンバーの動き方や連携の練習などを行えるようになっている。

「ほんと、どこかの腐れ勇者とは大違いだよなあ…」

背後でボソッと呟くセイスさん。まあ、性格がここまで違えば仕方ないことだ。因みに、一応ミハイルも上級者…どころか、転職を2回済ませている側のプレイヤーだ。しかし、そのために仲間を使い潰したり犠牲にしたりしているのではないか…と専らの噂なのだ。この前の言動を見る限りでは、多分真実だろう。

今回の攻略メンバーの中にはいないようだった。まあ、あの性格なら雪ダルマさんのスピーチに口を挟むだろうし、正直連携の邪魔なのでいてほしくはないが。なんてことをパーティ内で呟き合いながら、僕達は大挙して王都を出発するのだった。
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