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メビウス

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第3章 蒼粒石の秘密

第6話 宝石技師の実力

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限界ログイン時間が差し迫っていたので、互いに一度ログアウトし、昼食を食べてから再集合した。さっきのログインではハルの強化に専念していたが、ここからは僕のターンだ。え、宝石調査?これもその一環。

昨日、ハルが戦士から侍に転職したのと同様に、僕もまた鍛治職人から宝石技師へと転職したのだ。より宝石の扱いが向上した今なら、もっと良い物が作れるかもしれない。そして、ガラムさんから受けたレガシークエストの進展にも繋がる。

クエストでは、蒼粒石の原産地…『アルバノの古洞窟』周辺の調査に加え、蒼粒石を使用したアイテムの錬成も求められている。といっても、こっちは僕が宝石技師だったことで追加されたものだが。本来なら腕の良い鍛冶屋に頼み込んで作ってもらうそうだ。

というわけで、試しに何か作ることに。まあ、とりあえず一番作り慣れた武器で良いだろう。今のところ誰にも売る気はない。ハルに何か案があるか聞いてみたところ、もし差し支えなければ2本目の刀が欲しいとのこと。曰く、確定会心攻撃を活かせない場面のため、純粋にATKの高い刀があると嬉しいらしい。

それなら、前から思いついていたアレを試すとしよう。と、とりあえず鞘の準備だ。冒険者カードのメニューを開き、レシピ一覧から『堅木の鞘』を取り出す。これが、上位職になったことで解放された新機能。因みに鍛治系共通の機能らしい。あれ、宝石技師って鍛治系なの?まあ、前職がそれだからってことでいいか。

鞘は一旦出したまま置いといて、いよいよ刀を作っていく。まずは素材、これは今回初めての金属で作ろうと思う。とはいえ、金属鉱石どころか金属加工用の工具すら揃っていない。早く集めろって話だけどね。

なので、市販の刀を拝借する。先程のログイン中に、ある最前線パーティが巨大なダンジョンを発見した。彼らの推測では、どうやらそこにレイドボス…第2の街を解放するために必要な強力なモンスターが眠っているんだとか。

そこで、そのダンジョンの攻略の人手を集めるために、止まっていた鉄製武器の流通を開放したのだ。といっても、攻略メンバーの中にも独占派と流通派で分かれていたそうだが。因みに、ミハイルは独占派。まあ、当然か。クズ勇者だし。

そんなわけで、少し値が張るが『鉄の刀』を購入した。今回はこれを使っていく。ただ、当然このままだと弱すぎるので、素材から手を加える。

「【分解】」

僕がそう宣言すると、作業台上の鉄刀はいとも容易く刃と柄に分離した。本当に使い勝手良いよなぁこれ。柄に少し埋まり込んだ部分の金属まで分離できるのが非常にポイントが高い。作る武器と同系統ならば、わざわざ分離したパーツの形まで変えなくて良いのも素晴らしいね。

「【精錬】」

続けて、鉄の刃に対してスキルを使う。すると刃全体が真っ赤に発光する。溶鉱炉で熱した鉄のような色だ。当然、実際に熱を持っているわけではないので叩いたところで変形したりはしない。暫くこのまま放置していれば、あの鉄はより純度の高い素材…鋼に生まれ変わるはずだ。

確か、酸素に触れた方が良いんだっけ?じゃあ、風でも送るか。ということでハルの出番だ。因みに、以前『ロックギガースの装甲』を空気に触れさせるべくブンブン振ってもらったところ、ハルは《筋トレ好き》という称号を獲得したそう。

ネーミングにこそ難があるものの、効果はSTR+10という意外とありがたいもの。そこで自称STRが足りないという彼女は、この称号に続きがあると踏んで力仕事を積極的に任せてほしいと言ってきたのだ。僕としては少し申し訳ない気持ちになるのだが、本人がそう言うので仕方ない。

脳筋…ゲフンゲフン、ハルが金属に送風している間に、僕は柄の加工をしていく。今回作る武器のイメージは、ズバリ「機刀」だ。機械の刀とあるように、状況に応じて様々な機能を切り替えたりできるマルチタスクな刀…そんな感じだ。勿論、機械ならではの上質な金属で武器そのものの切れ味も抜群になるだろう。

そして搭載する機能だが、これはまだあまり決めていない。というのも、今の環境だけで完成させるよりも、もっと良い素材や技術が手に入った時に、導入したかった機能や必要になった機能を追加する方が、結果的に強力なものに仕上がる可能性が高いからだ。

というわけで、今から作るのはその基盤となるコア…そして、今の時点で入れられる最低限の機能。それらを実現するための機構を宝石で作っていく。はてさて、宝石技師になったことで、どれだけのことが出来るようになったかな?

柄は機能を司るコア、もとい制御装置である。そこで、同様にレシピ一覧から蒼粒石で作ったコアを取り出す。どうやら、正式にアイテム化されていないものでも、製法が確立している場合は登録できるようだ。逆に、偶然の産物は登録できない。これ、地味に暴発させないように固めるの大変な作業だったから、この機能は本当にありがたい。

柄の一部…刃の根元に接する近くを小さく削り、コアを綺麗にはめる。おっ、心なしか転職前より細かい作業がやりやすい気がする。今も、コアの大きさをイメージして削ったところ、殆どピッタリはまる窪みを彫れた。

そして、今までならこれで終わっていたところだが、今回は違う。ここから更にカスタムを重ねていく。

これまで僕が使ってきた蒼粒石のコアはどれも、一つの機能のオンオフや、その発動時間や効果の強さしか調節できなかった。しかし、今回作る武器では、複数の機能を搭載する。その制御を同時に一つのコアで行う必要がある。

とはいえ、コアを操作することで機能を制御するのはNG。戦いの最中に、そんな手元を見て弄るようなことがあってはならない。つまり、人の思念…その強いイメージによる操作が求められる。例えば「硬くなれ」と心の中で念ずることで、実際に刀身が硬くなるみたいな。

そんな超技術を実現するのに何をすれば良いか。それが何となく頭に浮かぶのが、この宝石技師の能力らしい。恐らくそれも、レベルを上げるほど鮮明になっていくタイプだろう。

今浮かんでいるイメージを言語化すると、使用者の思念と同調させて操作を可能にしていくやり方だ。使えば使うほど自分に馴染み、どんどん使いやすくなっていく武器、と言える。

そして、その思念を受容し効果を発現させるための仕組みを、今組み上げているところだ。やってみて分かったがこれ、めちゃくちゃ疲れる。ただでさえ蒼粒石は小さく、コア状に固めても精々ビー玉程度しかない。それに更に細かい加工を加えていくのだから、目への負担が凄い。現実の身体には影響は殆どないだろうが、少し心配になるくらいだ。

「ふー…これ、ルーペあった方がいいな」

背伸びをしつつ、自分に言い聞かせるようにボヤく。今度、市場で見てみるか。そう思いつつ、何気なくハルの方を振り返ると。

「ねえ、プレア殿…これ、もしかしてとんでもない素材になったんじゃ…」

ハルの少し恐々とした顔を見て、そんな大袈裟な、と内心思いながら、ハルの視線の先…手元の素材を一瞥する。そしてすぐに、ハルの言った意味が分かった。うん、これはヤバイ。明らかにレベルが違うものだ、素人が見ても一目で分かる。

そこにあったのは、先程までの鈍色にびいろに暗く輝く鉄などとは似ても似つかない、白銀色に煌めく、太陽の光を宿したような刃だった。
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