アルケミア・オンライン

メビウス

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第3章 蒼粒石の秘密

第5話 1秒

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「ふぅ、あと少しだったんだけどなぁ」

「あはは、今回はボクの勝ちだね。でも、結構ボクも危なかったな」

「うう、あとHP100あれば勝ってたのに!」

先程デュエルを終え、何気なく街の大通りを散歩している僕達は、反省会やタネ明かし、課題点などを共有していた。ハルは僕が与えてしまった10秒間で、頭で考えて、僕がどんな予測をしてくるかを見切った上で行動するように意識を変えたらしい。そこで1発で読みを当てるところも、流石の戦闘勘というか。

「まあ、お役に立てたみたいで良かったよ」

「うん、本当にありがとう!今回のデュエルで、自分に足りないものが改めて分かった気がする」

「ほうほう、それは?」

するとハルは、一息ためてサムズアップ。目をキラつかせて「STRだよ!」なんて言うのだ。……やっぱり脳筋じゃん。

「今、脳筋じゃんとか考えてたでしょ」

「な、何のことかな?」

「もう!誤魔化してもバレバレだからー!」

やれやれ、鋭いな。今のは何の勘だ?もしかすると、これが女の子の勘ってやつなのかもな。よく知らないけど。

「それもあるけど、あとは手札の数じゃないかな?多分、僕もハルも、あのデュエルで半分以上は見せちゃったでしょ」

「うん…確かに、スキルってあり余るように見えて、いざ戦ってみると全然足りなかったね」

「まあ、僕達のはバフ系が多いからなあ。僕に至っては生産系スキルだってあるし」

バフ系、デバフ系というのは要するに能力変化。自分のステータスを上げたり、逆に相手のを下げたり。しかし、それだけで事足りるのは対MOBの場合のみ。対人戦となると、相手が何を考え、どう行動してくるか?の読み合いになる。

そうなると、やっぱり攻撃手段というのは多い方が有利なのだ。今回のだって、僕がハルの動きを知っていなければもっと早く負けていたに違いない。それは、何も戦闘センスやPSの違いだけではなく、手札の数に関しても若干不有利なのだ。最も、戦闘職と生産職を比べること自体がそもそもおかしいのだがそれは置いといて。

別に対人戦のためというわけではないが、どちらかというと単に好奇心が働いた結果、以前僕が自然とやっていた『チェインスキル』を作ってみようということになった。場所は他のプレイヤーに見られないよう、蒼粒石の眠る『アルバノの古洞窟』で。

因みに、洞窟崩壊の危険性はない。古い洞窟とはいえ、元は生活に不可欠な『蒼龍石』のエネルギーを運ぶための坑道。思いの外洞窟の中は広く、よく見ると所々に補強の跡が見られた。これも宝石調査の結果報告に追加だな。

というわけで、お互いのスキル一覧を睨めっこ。あ、因みにこの前僕のスキルが上限の10個に到達したが、やはり『チェインスキル』はその数に含まないようだった。いつ獲得しても良いように、お互い2つほどスロットを増やしておいた。

スキルスロットの追加にも、スキルの強化にも、必要になってくるのが『スキル玉』。これがまた貴重で、なかなか強化を行えない。というのも、これは絶対強化すべき!というスキルがどれか、まだ決めきれていないのだ。その結果、どれも強化できずにいる。所謂ラストエリクサー症候群だ。

ただ、調べてみたところどうやら、スロットに入りきらないスキルは消えたり忘れたりするのではなく、セット可能スキルとして保存されるようだ。そして、スキルを入れ替えることができる。また、お気に入りのセットを登録することもできるようだ。必要な時にパッと交換できるのは魅力的だ。

とはいえ、流石に10個というのは少なすぎるので増やす。まあ、増やすとしても15個が目処かな。それ以降は強化の方に使って良いと思う。さて、話を戻そう。

「んー、この中だと【燕返し】と【電光石火】かな?こう、すれ違いざまに斬るみたいな」

「ああ、それは前ボクも試してみたんだけど上手く行かなかったんだよね」

「やっぱりタイミングが難しいの?」

「ううん、というよりはイメージが足りないんだと思う」

そういえば、前にボス戦の後の打ち上げでチェインスキルの話題になった時、ハルがカンナさんにそんなことを言ってたっけ。強いイメージを持って実践した結果、それがスキルとして昇華するんじゃないか、とか何とか。

確かに、僕が初めて【連鎖誘爆】に成功したあの時も、スキルの組み合わせやタイミング、その結果何が起き得るかのビジョンはかなり明確だったと思う。それは特別僕のイメージ力が強いとかではなく、あの組み合わせを前に思いついてから、それを頭の中で練りに練っていたからだ。

「時間が解決するとは限らないだろうけど、組み合わせとタイミング、それと結果どうなるか…とかを細かく頭の中で想定できれば行ける、と思う」

「なるほどね…じゃあ、プレア殿が一緒に考えてくれたら行けるかも!」

「うん、勿論協力するよ!」

その後、チェインスキル作成に向けた試行錯誤が始まった。そもそも【燕返し】は抜刀攻撃をすることで自動的に発動するスキルだ。そのため、普通に【電光石火】しつつ任意のタイミングで【燕返し】を使うことは不可能。通常攻撃を挟むとしても、高速移動で敵を通り抜け背後に行ってしまうため、いくら必中攻撃といえど、有効範囲外として発動しなくなってしまう。

そこで、考え方を変えることにした。元々は【燕返し】というスキルで攻撃を当てることに専念していたが、逆に当てない考え方で行ってみる。どういうことかというと、要は離れていても必中攻撃が入るようになれば良い。そして、高速移動しながらすれ違いざまに斬る、という当初のイメージはそのまま維持。

最もイメージしやすかったのは、昔からよくあるアニメやゲームの演出として、侍が敵を斬り、その刀を鞘に納めた瞬間、敵が倒れるといったアレ。刀を鞘に納めた瞬間、燕返しという刀の動きは行わず、あくまで【燕返し】というスキルのダメージだけを与えられたら。

だが、残念ながらどうしても実際にダメージを与えることは出来なかった。だから、最後の手段…半ばチートじみた裏技を試すことにした。それは、見掛け倒し作戦。

すれ違いざまに斬った時のダメージが判定される前に納刀する。その時【燕返し】を発動しているというイメージを強く持つことで、擬似的に「【燕返し】で敵を倒した」ように見せかけるのだ。

このゲームでのスキルの獲得や作成は、AIによって制御されているらしい。つまり、そのAIが錯覚するほどの精度でこれを行えば、実際にスキルとして発現する可能性が高い。

当然、物凄く難しいし、物理的には殆ど不可能だ。しかし、ここはゲーム世界。それも、人の脳をフルに活用し、その発想力を実際の力に変えることができるVRMMOの世界。その傾向が顕著に表れているこの『アルケミア・オンライン』なら、決して不可能ではないはずだ。

…そして、何度目だろうか。洞窟の入り口から差し込む光は、既に茜色に変わり始めていた。

「よし…行くよ!」

「うん!」

いつもより気合いの入った声と共に、ハルはクラウチングのような姿勢をとる。左手に鞘、そして右手に柄を握りしめて。集中と緊張からか、時の流れがゆっくりになったような感覚を覚える。狙いは、数メートル先の『ホワイトラビット』。

一瞬にも永遠にも感じられる時間の末、その時は突然やってきた。

「【電光石火】!」

刹那、ハルの姿が消える。このチェインスキル作成を経て、ハルのロケットスタートは格段に上達していた。瞬きする間もなく、彼女の刀は小さな獣の身体を捉える。そして、ここからだ。

(【燕返し】!)

さっきの攻撃のダメージが、実際に数値として表れるタイミングにぴったり合わせ、その木刀を鞘に納める。その刀身全てが…根元まで入ると同時に、既に後方まで遠ざかった哀れな兎も、漸く斬られたことを自覚したかの如く倒れ、ポリゴンと化した。

その間、わずか1秒。

「今の行ったんじゃない!?」

「ほんと?」

「うん、今までで一番自然な流れだった!確認してみて」

そう言うと、ハルは恐る恐るログを見る。成功ならばそろそろ、システムメッセージが来る頃だ。僕も同じログを、そしてそれを見つめるハルを、固唾を呑んで見守る。

「「………」」

ーーー『チェインスキル』の発動に成功しました。新たに『チェインスキル』のスロットを追加しました。

ーーーチェインスキル【閃刀:刹那】を獲得しました。

「…っ!」

「やった!出来たー!」

「おめでとう!凄いよハル!」

「ありがと!ほんとに、プレア殿のおかげだよ!」

試行と修正を重ねること数時間。ついにその努力が結実した。運営が、スキル作成AIが、春風という剣士を認めた瞬間だった。

【閃刀:刹那】消費MP:50 クールタイム:2分
光のような速さで、敵1体をすれ違いざまに斬る。鞘がある場合素早く納刀すると、自身のAGIの2倍の追加ダメージを与える。
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