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メビウス

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第2章 その石、危険につき

第11話 火力勝負

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「さ、ギャラリーも漸く静かになったし、さっさと片付けるぞ」

飄々として戻って来たセイスさん。開口一番にそれですか。まだボスのHPは9割以上残っているのだが。まあ、僕達もさっきまで遠慮がちだった所もあったけれど。何しろ、ギャラリーの期待に応えるために全員の見せ場を作らなければならなかったから。

でも、いよいよ何のしがらみも無くなった今、僕達がやることはボスのあのバカ高い体力を削り切ることだ。制限時間こそないものの、あまり長期戦に持ち込み過ぎるとよろしくない。敵のAIに行動パターンを学習されてしまうのだ。

その辺に生息する雑魚MOBですら、種族全体で戦闘データを共有しているらしい。現に、サービス開始当初よりも敵の動きは確実に良くなっている。となれば、ボスクラスになると個別のAIが実装されていても可笑しくはない。できるだけ早く仕留めなくては。

さっきの攻撃で分かったことは2つ。一つは、ダメージ計算でATK2倍が入る【カウンター】によるハルの会心攻撃が最も高火力を出せること。もう一つは、ボスのDEFが280もあるということ。とはいえ、これは物理防御…つまりVITを介した数値であるということ。まだ検証は出来ていないが、錬金術に対する耐性は低いかもしれない。

この手の敵にはよくある話だ。物理防御が高い代わりに魔法への耐性が低いというのは、どのゲームにおいても一定数存在する。大体物質系か鎧に身を包んでおり、体力は高いが動きは鈍重。要するに今回の敵と同じタイプだ。流石に序盤から物理と錬金術両方に強いボスは出てこないだろうという、半ば願いも込もった推測である。ともかく、確かめる必要があるな。

「カンナさん!アイツに【看破】を打って下さい!」

「ステータスですね?やれるだけやってみます…【看破】!」

流石だ。何も説明せずとも、その真意を汲み取ってくれた。ミハイルの目はどうなっているのやら。まあ、今はいいか。大方、先入観が働いたとかだろうし。

「…出ました!流石にスキルは無理ですが、ステータスは殆ど見えます!」

「本当か!?ならあのボス、INTもかなり低いぞ」

前に聞いたことだが【看破】は、使用者のINTと対象のINTを参照するスキルらしい。そして、使用者の方が高い時、ステータスを一部見ることができる。この時、差が大きければ大きいほど得られる情報も多くなるそうだ。となれば、カンナさんのINTが高いだけでなく、ボスのINTが低いことも絡んでいるらしい。

『古の番人ロックギガース Lv.25』
HP:18200/20000
MP:300/300
STR:150
VIT:280
AGI:50
INT:30
RES:50
DEX:0
LUK:0

「何とまあ…典型的な」

思わずそう呟いてしまう。ボスの攻撃を避けながら。ステータスが全てを物語っている。たかがAGIが50程度の攻撃など、送られてきたデータを読みながらでも避けられる。第一、攻撃の予備動作が大きいのだ。僕だって伊達に毎日、殆どノーモーションで放たれる一閃を見ているわけではない。

それはともかく。どうやら僕の思った通りだったみたいだ。これなら錬金術も交えた方が良いだろう。ただし、カンナさんもセイスさんも、錬金術は持っているがあまり火力の出ない妨害系。だから、僕とハルがそれぞれ手に入れた新スキルが頼りだ。

付加エンチャント:陽炎柱ヘイズピラー】消費HP:50×2 クールタイム:60秒
地面から高く火柱を上げて、対象を攻撃する。高確率で《火傷》を付与する。『付加エンチャント』による発動のため、消費HPが2倍になる。

うーん、文面だけでは強いのか分からないな。まあ、スキルで変わるのは攻撃の形状だけで、ダメージ計算は基本的に同じなんだけど。マスクされているダメージ倍率とかもあるかもしれないし過信は出来ないが、とりあえず使ってみよう。

「ハル!隙作って!」

「了解、任され、たッ!」

言いながら【カウンター】で攻撃を弾いてくれる。また1000近く削られて、さっきのように大きく隙が出来ている。チャンスだ。

「ナイス、ハル!【付加エンチャント:陽炎柱ヘイズピラー】!」

僕がスキルを宣言した瞬間。敵のゴーレムの足元から巨大な火柱が噴出した。…え、デカくね?多分敵の大きさに合わせてくれる仕様なんだろうけど。後で普通の敵にも試し撃ちしようっと。それはそうと火力だ。どれだけ稼げただろうか?

「えーっと…40ダメージの10回ヒットでちょうど400だね」

ハルが僕の代わりにログを読んでくれる。うーん、そこまで強くないな。恐らくこれは元のダメージを減らしてそれを10回ヒットさせるスキルなのだろう。『付加エンチャント』の基本計算は(ATK+INT)÷2。物質系特効のおかげでATKが3倍になるため225だ。相手のRESが50で40ダメージということは、元の数値は90。なるほど。つまり基本計算値の40%ダメージ×10回というわけか。

うーん、これは思ったより渋いな。これがまとめて一回のダメージで入る分には良いのだが、連続ヒット系はステータスの高い相手にはあまり相性は良くない。参照されるDEFがVITの方じゃなくて助かった。ハルの【付加エンチャント:岩雪崩】も同じく連続ヒット系だったようで、似たようなダメージしか入らない。

結局、ハル頼みか。僕も【脆弱化】と合わせて攻撃しているが、イマイチダメージが入らない。会心攻撃は相手のDEFを無視するので、僕がいくら【脆弱化】をかけてDEFを下げてもハルの支援は出来ない。単体ならまだしも、僕達2人の連携という面では殆ど使い物にならないスキルだ。…何か、僕に出来ることは?

「ゴ、ゴゴゴ…ォォォォッ!!」

突然地響きのような咆吼が耳をつんざく。気づくとHPを半分削れたようだ。そしてこのタイミングで咆吼ということは間違いない、行動パターン変化だ。面倒だが対処するしかない。ハルも事態を察して、即座に後衛の近くまで飛び退いた。

「ッ!違う攻撃、来るよ!」

ボスはここに来て新しい攻撃モーションを仕掛けてきた。両腕を高く掲げている。叩きつけ攻撃か!と思ったのも束の間、振り下ろされた腕を根本に、地面に衝撃波が走った。ちょうど布陣の真ん中…僕達4人を引き裂くように。

「避けて!!」

ハルの一声を合図に横に跳ぶ。危なかった…衝撃波は地面を引き裂き、さっきまで僕達がいた場所は地割れが起きている。全員無傷だったから良かったものの、僕とカンナさん、ハルとセイスさんに分断されてしまった。前衛と後衛で分かれなかっただけマシだが。それでも前衛が分断されたデメリットは大きい。

「ぐっ…!?INT30の割には、賢いな…っ!」

ボスの重い拳が僕を襲う。コイツ、ハルの【カウンター】を受けないようにわざと…!僕だけなら受け流せば良い。でも、今僕の後ろにはカンナさんがいる。【カウンター】もない状態で、STR150の一撃を受け止めるのがこれほど難しかったなんて。

「くっ、マズい…っ!」

「プレア殿!」

向こうから僕を呼ぶ声が上がる。今僕は拳に押されて、少しずつ後ろに下がっている状態だ。これでも現実ならとっくにアキレス腱が千切れる勢いで踏ん張っている。くそっ、数字と質量が違うだけでここまで…。

「【パラライズ】!ごめんなさい、やっぱり効かないです!」

背後ではカンナさんが何度も腕に【パラライズ】をかけてくれているが、耐性でも得ているのか、イマイチ効いている様子はない。

「オォォォォォッッ!!」

追い打ちをかけるように一歩踏み込まれる。かけられる力が増大し、全身が悲鳴を上げている。ハル達はこちらに来ようとしてくれているが、もう片方の腕に牽制され、動こうにも動けない。背後のカンナさんも影に潜りたいところだが、さっきの連続使用でクールタイムが蓄積してしまっている。それに、下手に動けばそっちに攻撃が移るかもしれない。それはもっと大変だ。

だから、僕がここで止めなくちゃ…!ハルはいつも僕に甘えてしまっていると言うが、ハルのその強さに甘えてしまっているのは僕の方だ。もう武器も新調してハルと同じくらいの性能になった。もう、武器のせいにすることは出来ない。僕だって、強くならなきゃいけないんだ。今、僕が出来る最大限の策は…!?

ーーー【ジェットファング】再使用可能。

【ジェットファング】…?そうか!その手があった!力には力を、か。となると、ヤツの力を削がなければ…よし。ぶっつけ本番だけど、アレを試してみよう。行くぞ、ロックギガース。僕の全力を見せてやる!

ボスHP:9880/20000
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