アルケミア・オンライン

メビウス

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第2章 その石、危険につき

第4話 即死?

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「へぇ、ここのお店良いですね…!」

「あぁ、とても美味しい…ここでしか食べられない料理ばかりなのも、魅力的だな」

2人もこのお店を気に入ってくれたようだ。もっと早く知りたかった…と言っているが、まあギルドの食堂に通い詰めていると、なかなか他のお店に目が行かないから、知らなかったのも無理はない。

「そういえば、お二人はどうして教会に?失礼ですが、お二人ほどの強さなら、そうそう死ぬことなんてないと思うんですが…」

「おい、カンナ!」

「いや、大丈夫ですよ。僕達も気になっていたところですし」

満腹度も回復し、食後の紅茶を嗜んでいるところで、僕達が遂げた謎の死についての意見交換が始まった。改めて思うけど、自分の遂げた死について友達と和気藹々と話せるのってゲームならではだよね。そしてその死因というのも現実じゃあり得ないことも多いわけで。

「まず、ボクたちは洞窟に行っていたんです」

「あれ、平原に洞窟なんてあったっけか?」

「私も知らない…そんなところがあったんですね」

「はい。話を戻すと、そこの奥に行った瞬間、ボクたちは教会に転送されていました」

そう。僕達はなにもモンスターに襲われて死に戻ったわけではない。というか、あそこの敵自体は大して強くはない。ハルの攻撃なら当然一撃だし、僕の【宝石片弾ジェム・ブラスト】でも楽々処理できる。実際どれくらいの強さのスキルなのかはまだ分からないが、要するになのだ。

「モンスターに襲われたわけではない、と…そうなると何故死んでしまったのでしょう?」

「謎の死、か…プレアデスさん、罠にハマったという可能性はないか?」

「罠、ですか。あまりそういう実感はなかったけれど…目に見えないタイプなのかもしれませんね」

セイスさんの言う通り、その線はあり得る。何しろ今でも宝石が残っている洞窟で、その奥は昔『蒼龍石』のある場所へと繋がっていた坑道だ。国民全員の生活を賄うエネルギー源なのだから当然、最高レベルの警戒態勢が敷かれていてもおかしくはない。それが今でも残っているのか、と言われると疑問だが。

「ねえプレア殿。ボクたちって元々どういう死に方だったっけ?ボクの記憶が正しければ、廃坑に入った瞬間即死したように見えたんだけど」

「即死!?そんなシステムまであるんですか?」

「分からないです。けど、僕もハルと同じ記憶だったのでほぼ確定かと」

具体的に言うと、僕達はまず洞窟の奥に予想通り廃坑の入り口を見つけた。そして、入り口が封鎖されていたのでそれをどかした。因みに、この時はまだ何も異常はなかった。そして入り口を開け、一歩中に足を踏み入れた途端…というわけだ。

「なるほどな…となると、罠だとすればその、入り口を開けたことが発動の条件だった可能性はある」

「その通りですね、セイスさん」

「あと、もう一つあるとすれば…バグによる即死か、未実装エリアに踏み入ったことで、死に戻りという名目で強制転移させられたか、でしょうか?」

ハルが一つといいながら二つ提示してきたことには敢えて突っ込まないとして…なるほど。そもそもシステム的な問題ということか。しかし…。

「どうだろうな。このゲームに限ってバグはないだろうし。未実装エリアというのも俺は何か違う気がする」

「そうね…でも、イベントに関わる重要エリアで、まだプレイヤーが入れないように、一時的に即死効果をかけているんだとしたら?」

「ッ!カンナ、それかもしれない」

カンナさんの意見を要約すると、ゲームにはよく、重要イベントに関わるエリアや人物がいて、場合によってはイベントのフラグが立つ頃まで立ち入りできない仕様になっていることが多い。特に、こういうメインストーリーが存在するゲームに。

実際、この『王都エルメニア』の外壁の6つある門のうち、プレイヤーが通行できるのはまだ一つだけだ。前に無理矢理通ろうとしたプレイヤーがいたそうだが、その時はNPCの衛兵に発見され1時間ほど拘束されたようだった。それに、開かずの門の向こう側には行けることは行けるが、敵も殆どおらず旨味は全くなかったらしい。

つまり、このゲームにおいては、プレイヤーの行動範囲をある程度運営が制御している可能性が高いのだ。だから、さっきのカンナさんの意見も整合性が高い。そして、仮にそれが合っていたとしたら。あの坑道は恐らく、メインストーリーに大きく関わる重要エリアである可能性がある。

図書館で調べても宝石についての本が数えるほどしかなかったのも、『アルバノの古洞窟』の存在自体が広まっていなかったのも、運営…ひいては王国側による情報操作がなされているのかもしれないな。このゲーム、思った以上に縛りのあるゲームなのかもそれない。

「……面白いじゃん」

思わず不敵な笑みを零してしまう。いいね、燃えてきた。プレイヤーの攻略目的は、ストーリーのクリアだけじゃなく、このゲーム自体の解放ということか。そういうことなら僕は運営の敵になろう。勿論、問題行動を起こすとかじゃないよ?ただ、重要因子の可能性がある宝石…周りからの情報がなくとも、自力で集めてモノにしてやろう。と確信しただけだ。なら、早速攻略に踏み切らないとな!

「よし、時間も時間だしそろそろお暇しましょうか。お二人とも、この後お時間空いていますか?」

「あぁ、俺もカンナも特に問題ない。何か、やりたいことでもあるのか?」

察しがいいな。そして、確認するまでもなくカンナさんが予定が空いていることを知っているということはやはり…?と、この辺にしておこう。

「はい。もし良かったらこの後、ダンジョン攻略でも行きませんか?」

「ダンジョンか…」

「珍しいね。プレア殿が自ら戦闘のお誘いなんて」

「そういえば誘ったことはなかったっけ…まあ単に、このゲームを本気で攻略してみたいって思っただけだよ」

「ははっ、何それ…まあ、そう思ったのはボクも同じだけどね。一応ボクは時間大丈夫って伝えとく。お二人はどうですか?」

ハルも、僕と同じ意見を持ってくれていたようだ。僕の考え方は完全にゲーマーのそれなので、これに共感できるということは、もしかしたらハルも結構なゲーマーなのかもしれない。師範の大目玉を喰らうからあまりできないのかと思ったけど意外だな。まあ思い返してみれば結構限界までログインしているし、その辺は緩いのかもしれない。

「俺もカンナも問題はない。リアルでもゲーム内でもな。ただ…朝からログインしていたから、攻略中に限界時間が来るかもしれない」

「ああ、そういえばもうこんな時間だったんですね…」

ゲーム内時間は既に19:00を超えている。僕がログインした時はこっちは9:00くらいだったので、もう2時間しか残っていない。ダンジョンまで転移できるわけではない以上、準備は勿論、移動にも時間がかかる。それに今は夜で平原の敵も凶暴だ。確かに、今から行くというのはあまり現実的ではない。

「じゃあとりあえず準備だけして、お互い一旦リアルで昼食摂ってから再集合、でどうでしょうか?」

「良いですねカンナさん。ハルとセイスさんもそれで大丈夫です?」

「あぁ、大丈夫だ」

「ボクもそれでいいよー」

「決まりだね。じゃあゲーム内朝の7時、集合場所は南門で!」

段取りが粗方決まったので、各コンビは攻略に向けて行動を始めた。それにしても、朝出かけるためとはいえ、結構間が空いてしまったな。ログアウト時間はリアル11:20、再集合するまで3時間以上か。
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