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第1章 錬金術の世界
第13話 サブクエスト
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「俺ぁここで店やらせてもらってる、セルゲイだ!」
そう言ってニッ、と笑ってみせるセルゲイさん。いや、豹の半獣人に歯を見せて笑われると、このまま取って食われるんじゃないかというくらい獰猛な印象なんだけれど。まあ本人にその気はなさそうだし、下手に恐れるのも失礼かな…?よし、じゃあここは冒険者らしく威勢よく…。
「俺の名はプレアデス!あんたの言う通り冒険者さ!」
「……プレア殿、似合わないから無理にやらない方がいいと思う…」
「……恥ずかしいから言わないで」
言ってみたは良いものの、微妙な間と共に恥ずかしさがこみあげてきたところにハルが冷静にツッコむものだから、僕は羞恥心が爆発してそのまま蹲ってしまった。ちーん、と効果音でも鳴りそうな感じで。
「もう、仕方ないなぁ。気を取り直して、ボクは春風。一応言っとくと女の子です。で、ここで動かないのはプレアデス。ボクたちは冒険者で、コンビ組んでるんです」
おお、お手本のような自己紹介…ハルは師範代として育てられたって言ってたし、僕よりもたくさんの人と会ってきたのかもしれない。そして何気にコンビって意識してなかったな…改めて考えるとなんかくすぐったいな。さて、僕はハルに「動かないの」認定されたので暫く固まっとこう。
「ガハハハハハッ!!面白い連中だなぁ?気に入ったぜ!ところでどうだった?」
「はい、とっても美味しかったです!ここじゃなきゃ食べられない料理もいっぱいあって、初めてだったんですがまた来たいです!」
「おう、そりゃ良かった!ありゃあ今朝取ってきたばっかだから新鮮だったのさ。素材さえ入れば毎晩店やってるから、いつでも来ると良い!」
「わぁ、嬉しい!じゃあまた来たい時に来ますね!」
顔を埋めているのでハルの表情は見えないが、恐らくあの、周りにパァっと光が出るような満面の笑みだろう。本当に分かりやすいというか、表情が豊かだから見ていて飽きないんだよな。
「へへ、ありがとよ!ところで…その店に関することなんだが、ちと一つ頼まれてくれねえか?」
「はい、良いですけど…何かボクたちに出来るでしょうか?」
おっと、流れが変わったぞ。これはサブクエスト発生の予感…しっかり聞いておかねば。因みにサブクエストとは、ストーリーに関わるメインクエストやギルドで受けられる冒険者クエストと違い、NPCによって依頼されるものだ。俗に「クエストNPC」なんて言われる彼らは非常にレアな存在だ。そして目の前にいるセルゲイさんもまた、その1人である可能性が出てきたということだ。
「実はな…ここ最近、夜の平原に普通じゃ現れないようなモンスターが出やがるんだ。そいつが夜の間に食い荒らすせいで、朝行っても前ほど数がいなくなっちまった」
「なるほど…素材が不足してしまうのは確かに困りますよね…」
「あぁ全くだ。おかげでこっちは料理の値段を上げなきゃならねえ…ウチのは時価だからな、基本的に」
「そうですか…つまり、ボクたちがその謎のモンスターについて調べて、あわよくば倒してしまえば良いんですよね?」
ハルが先読みして提案をしたか。変な方向に向かうかもと思ってたけど、杞憂だったようだな。
「そりゃあありがたい話だが、お嬢さん方に倒せるかは分からんぞ?」
「大丈夫です、きっとボクたちなら。ね?プレア殿」
「………」
「こら、いつまで置物になってるんだー、起きろー」
「あっもう動いていいの?」
「誰が動くななんて…あぁ、ボクが言ったんだったっけ…」
やれやれ…という風に肩をすくめてみせるハル。と、茶番は置いといて。
「大丈夫です、セルゲイさん。こう見えても僕達、結構強いんで」
とりあえずそうと言っておく。実際はまだエリア3にも行ったことないけど黙っとけばバレない。それに、あれからお互いレベルも上がって新しいスキルも手に入れた。ハルに至ってはサーバー内初の伝説級武器も持った。前回も別にガチ攻略をしようとしなかっただけだし、そういう意味では未知数だよね?
「……まあ、お前さん方以外に頼れるヤツもいねえからな。ここんとこヤケにヒョロっちぃ腑抜けばっか来やがるが…その点、そちらのお嬢さんからは並々ならぬオーラを感じる。それにお前さんも…いや、これ以上はやめよう」
何か低い声でブツブツと呟くセルゲイさん。ハルが強く見えるのは実際強いから、歴戦の戦士であろう彼には分かるんだろう。でも、僕には何かあるんだろうか?最後誤魔化された辺り、やっぱり無かったなんてこともありそうだし分からないけど。
「よし、じゃあ任せたぞ。もちろん報酬は弾む。食い荒らされた痕を見るに、ヤツは恐らく夜の平原のど真ん中に出る。俺はいつも南門から平原に向かうから参考にしてくれ」
セルゲイさんは僕達と同じ南門から出るらしい。良かった、これがもし違う門だったらぐるっと回り道しなければならないところだったので手間が省けた。
「ありがとうございます!ちょうど今夜出発する予定だったのでお任せ下さい!」
ーーーサブクエスト『謎の捕食者を追え』を受注しました。進捗状況や報酬などの情報はマップ下のウィンドウより確認できます。
僕がそう返すと、システムメッセージが流れた。やっぱりクエストNPCだったか。これは覚えておかないと。夜の平原に出現する謎のモンスターか…討伐できるかは分からないけど、とりあえず確認だけでもしておきたい。
「よし、じゃあ一旦宿に帰って、準備したら行…」
「こら!セルゲイ!!またこんなとこで仕事サボって!」
隣にいるハルに振り返ってそう切り出した途端、突然響いた怒号に3人とも驚きで震え上がった。ドカドカという足音と共に現れたのは…またしても豹の半獣人だった。
「げっ、お袋!?なんでここに…」
「あんたの従業員から聞いたよ。お客さんが増えて忙しい時に店長が見えないって、さっき見たけどありゃあ大変だったよ!」
どうやらこの人…?半獣人はセルゲイさんのお母さんだったようだ。それにしても恐っ…セルゲイさんもそれなりに年は行ってるように見えたが、そのお母さんがセルゲイさん以上に筋骨隆々で若く見えるなんて…一体この親子は何者なんだろうか。
「ウチのバカ息子がすまないねぇ。こんなサボり癖のある店長だけど、一応情熱込めてやってるみたいだし、良かったら今後とも宜しくしてやっておくれよ」
「い、いえ、バカ息子だなんてとんでもない…セルゲイさんの料理はとても美味しかったです。これからも通わせて頂きますね」
ハルが何とか応対するも、その声は確かに震えている…厳しい鍛錬を重ねた彼女が声を震わすのだから相当怖いのだ、このお母さんは。母は強し…って、使い方間違ってたっけ?まあいいや。
「あらー嬉しい!ありがとうね。じゃ、そろそろこのバカを厨房に戻さないと。ほら、いつまでそこで突っ立ってんだい!早く行くよ!」
そういうとセルゲイさんのお母さんは、彼の耳を引っ張ってズルズルと引き摺っていった。あれ…引き千切れたりしないかな?あの腕っぷしならあり得ると思うんだけど。
「いだだだだだっ!ちょ、お袋!自分で歩くから耳引っ張んなっ!ちょいだだだっ!!」
「この程度で泣き言言ってんじゃないよ!全く…」
そうしてセルゲイさんは、お母さんに連行されていきましたとさ。合掌。
「……なんか、凄かったね」
「ホント。あんな怖いオーラを放ってたのは師範以来かも」
「へぇ、そんなに怖かったんだ?」
「まあね、軽くトラウマだよ…このゲームに来たのも、半分くらいは逃げるためだし」
「あはは…色々苦労してるんだね。さ、とりあえず僕達も行こうか」
ハルの置かれた師範代という境遇…彼女が自分の親の持つ道場について、どう思っているのかは分からない。でも、そういう思いでこのゲームに来てるのだとしたら…せめて色々なことをして、楽しんでほしいなと。そんなお節介な気持ちを抱きながら、僕達は店を後にし、宿へと帰るのだった。
そう言ってニッ、と笑ってみせるセルゲイさん。いや、豹の半獣人に歯を見せて笑われると、このまま取って食われるんじゃないかというくらい獰猛な印象なんだけれど。まあ本人にその気はなさそうだし、下手に恐れるのも失礼かな…?よし、じゃあここは冒険者らしく威勢よく…。
「俺の名はプレアデス!あんたの言う通り冒険者さ!」
「……プレア殿、似合わないから無理にやらない方がいいと思う…」
「……恥ずかしいから言わないで」
言ってみたは良いものの、微妙な間と共に恥ずかしさがこみあげてきたところにハルが冷静にツッコむものだから、僕は羞恥心が爆発してそのまま蹲ってしまった。ちーん、と効果音でも鳴りそうな感じで。
「もう、仕方ないなぁ。気を取り直して、ボクは春風。一応言っとくと女の子です。で、ここで動かないのはプレアデス。ボクたちは冒険者で、コンビ組んでるんです」
おお、お手本のような自己紹介…ハルは師範代として育てられたって言ってたし、僕よりもたくさんの人と会ってきたのかもしれない。そして何気にコンビって意識してなかったな…改めて考えるとなんかくすぐったいな。さて、僕はハルに「動かないの」認定されたので暫く固まっとこう。
「ガハハハハハッ!!面白い連中だなぁ?気に入ったぜ!ところでどうだった?」
「はい、とっても美味しかったです!ここじゃなきゃ食べられない料理もいっぱいあって、初めてだったんですがまた来たいです!」
「おう、そりゃ良かった!ありゃあ今朝取ってきたばっかだから新鮮だったのさ。素材さえ入れば毎晩店やってるから、いつでも来ると良い!」
「わぁ、嬉しい!じゃあまた来たい時に来ますね!」
顔を埋めているのでハルの表情は見えないが、恐らくあの、周りにパァっと光が出るような満面の笑みだろう。本当に分かりやすいというか、表情が豊かだから見ていて飽きないんだよな。
「へへ、ありがとよ!ところで…その店に関することなんだが、ちと一つ頼まれてくれねえか?」
「はい、良いですけど…何かボクたちに出来るでしょうか?」
おっと、流れが変わったぞ。これはサブクエスト発生の予感…しっかり聞いておかねば。因みにサブクエストとは、ストーリーに関わるメインクエストやギルドで受けられる冒険者クエストと違い、NPCによって依頼されるものだ。俗に「クエストNPC」なんて言われる彼らは非常にレアな存在だ。そして目の前にいるセルゲイさんもまた、その1人である可能性が出てきたということだ。
「実はな…ここ最近、夜の平原に普通じゃ現れないようなモンスターが出やがるんだ。そいつが夜の間に食い荒らすせいで、朝行っても前ほど数がいなくなっちまった」
「なるほど…素材が不足してしまうのは確かに困りますよね…」
「あぁ全くだ。おかげでこっちは料理の値段を上げなきゃならねえ…ウチのは時価だからな、基本的に」
「そうですか…つまり、ボクたちがその謎のモンスターについて調べて、あわよくば倒してしまえば良いんですよね?」
ハルが先読みして提案をしたか。変な方向に向かうかもと思ってたけど、杞憂だったようだな。
「そりゃあありがたい話だが、お嬢さん方に倒せるかは分からんぞ?」
「大丈夫です、きっとボクたちなら。ね?プレア殿」
「………」
「こら、いつまで置物になってるんだー、起きろー」
「あっもう動いていいの?」
「誰が動くななんて…あぁ、ボクが言ったんだったっけ…」
やれやれ…という風に肩をすくめてみせるハル。と、茶番は置いといて。
「大丈夫です、セルゲイさん。こう見えても僕達、結構強いんで」
とりあえずそうと言っておく。実際はまだエリア3にも行ったことないけど黙っとけばバレない。それに、あれからお互いレベルも上がって新しいスキルも手に入れた。ハルに至ってはサーバー内初の伝説級武器も持った。前回も別にガチ攻略をしようとしなかっただけだし、そういう意味では未知数だよね?
「……まあ、お前さん方以外に頼れるヤツもいねえからな。ここんとこヤケにヒョロっちぃ腑抜けばっか来やがるが…その点、そちらのお嬢さんからは並々ならぬオーラを感じる。それにお前さんも…いや、これ以上はやめよう」
何か低い声でブツブツと呟くセルゲイさん。ハルが強く見えるのは実際強いから、歴戦の戦士であろう彼には分かるんだろう。でも、僕には何かあるんだろうか?最後誤魔化された辺り、やっぱり無かったなんてこともありそうだし分からないけど。
「よし、じゃあ任せたぞ。もちろん報酬は弾む。食い荒らされた痕を見るに、ヤツは恐らく夜の平原のど真ん中に出る。俺はいつも南門から平原に向かうから参考にしてくれ」
セルゲイさんは僕達と同じ南門から出るらしい。良かった、これがもし違う門だったらぐるっと回り道しなければならないところだったので手間が省けた。
「ありがとうございます!ちょうど今夜出発する予定だったのでお任せ下さい!」
ーーーサブクエスト『謎の捕食者を追え』を受注しました。進捗状況や報酬などの情報はマップ下のウィンドウより確認できます。
僕がそう返すと、システムメッセージが流れた。やっぱりクエストNPCだったか。これは覚えておかないと。夜の平原に出現する謎のモンスターか…討伐できるかは分からないけど、とりあえず確認だけでもしておきたい。
「よし、じゃあ一旦宿に帰って、準備したら行…」
「こら!セルゲイ!!またこんなとこで仕事サボって!」
隣にいるハルに振り返ってそう切り出した途端、突然響いた怒号に3人とも驚きで震え上がった。ドカドカという足音と共に現れたのは…またしても豹の半獣人だった。
「げっ、お袋!?なんでここに…」
「あんたの従業員から聞いたよ。お客さんが増えて忙しい時に店長が見えないって、さっき見たけどありゃあ大変だったよ!」
どうやらこの人…?半獣人はセルゲイさんのお母さんだったようだ。それにしても恐っ…セルゲイさんもそれなりに年は行ってるように見えたが、そのお母さんがセルゲイさん以上に筋骨隆々で若く見えるなんて…一体この親子は何者なんだろうか。
「ウチのバカ息子がすまないねぇ。こんなサボり癖のある店長だけど、一応情熱込めてやってるみたいだし、良かったら今後とも宜しくしてやっておくれよ」
「い、いえ、バカ息子だなんてとんでもない…セルゲイさんの料理はとても美味しかったです。これからも通わせて頂きますね」
ハルが何とか応対するも、その声は確かに震えている…厳しい鍛錬を重ねた彼女が声を震わすのだから相当怖いのだ、このお母さんは。母は強し…って、使い方間違ってたっけ?まあいいや。
「あらー嬉しい!ありがとうね。じゃ、そろそろこのバカを厨房に戻さないと。ほら、いつまでそこで突っ立ってんだい!早く行くよ!」
そういうとセルゲイさんのお母さんは、彼の耳を引っ張ってズルズルと引き摺っていった。あれ…引き千切れたりしないかな?あの腕っぷしならあり得ると思うんだけど。
「いだだだだだっ!ちょ、お袋!自分で歩くから耳引っ張んなっ!ちょいだだだっ!!」
「この程度で泣き言言ってんじゃないよ!全く…」
そうしてセルゲイさんは、お母さんに連行されていきましたとさ。合掌。
「……なんか、凄かったね」
「ホント。あんな怖いオーラを放ってたのは師範以来かも」
「へぇ、そんなに怖かったんだ?」
「まあね、軽くトラウマだよ…このゲームに来たのも、半分くらいは逃げるためだし」
「あはは…色々苦労してるんだね。さ、とりあえず僕達も行こうか」
ハルの置かれた師範代という境遇…彼女が自分の親の持つ道場について、どう思っているのかは分からない。でも、そういう思いでこのゲームに来てるのだとしたら…せめて色々なことをして、楽しんでほしいなと。そんなお節介な気持ちを抱きながら、僕達は店を後にし、宿へと帰るのだった。
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