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5章

01 渚の猛攻

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 それからというものの、渚は『メイドォール』に入りびたりとなった。



 ある日。

「優美ちゃん、来たよー。はい、マフラー! よかったら使ってね」
「そんな、悪いですよ」
「いいからいいから!」
「あ、ありがとうございます……。あれ、美喜さんは?」
「なんか都合が悪くなったんだって。ねえねえ、これを見てよ」

 渚はスマートフォンの画面を優美に向ける。そこには目がとろんとして、色っぽい表情の優美が映っていた。

(ああ、私って頭を撫でる接客の場面になると、こんな表情になるんだ……)
  ――感心してる場合か!

「ね、いいでしょ? これでいつでも優美ちゃんといっしょなんだー」
「う、うん」



 また別のある日。

「優美ちゃんっ。これ腹巻き! お腹は冷えやすいっていうし、休んじゃ嫌だしね!」
「先日マフラーもらったばかりですけど……」
「いいのいいの!」
「は、はあ……。あれ、今日も美喜さんがいないみたいだけど」
「『具合が悪くて行かない』って言ってた。そうそう、これを聴いてよ」

 渚は胸ポケットからICレコーダーを取り出して、再生ボタンを押す。

『おはようございます。渚お嬢様。今日もいいお天気ですわね』
「え?」

 まぎれもなく優美の声がスピーカーから発せられた。しかし、

「私、言った憶えがないけど……」
「音声を編集して作ったの」
「え……?」
「こうやって、違和感なく自然にするまでは、すごく時間がかかったけどね。でも、この音声を目覚ましの音にしたら、目覚めがかなりいいのよ!」
 ――ここまでするとは……相当ヤバイな。
(鳥肌が立ってきたわ。すごく逃げたい)
 ――この分だと、おまえの抱き枕も持ってるかもしれん。訊いてみろよ。
(そんな怖いこと訊けるわけないじゃない!)
 ――様子をうかがうためだ。仕方ねぇだろ。
(うう、わかったわよ)

 優美は意を決すると、努めて笑顔を作って質問してみた。

「あの、渚さん」
「はいはい」
「もしかして、抱き枕なんか持ってませんよね?」
「もちろん! 持ってるよー」

 渚は目を異様に光らせ、すばやくスマートフォンの画面を、優美の眼前に突きつける。
仰向けの体勢のメイド服姿の優美が、顔を上気させてシーツをキュッとつかんでいた。精巧に描かれている絵は、実物の写真と見間違えるほどである。
 優美の背筋に冷たいものが走る。笑顔がくずれそうだったが、なんとかこらえた。

「これって、私?」
「そうだよ。で、これが裏面ね」

 渚はスマートフォンを手元に戻し、操作してからまた眼前につきつけた。
 胸元がはだけ、胸の半球があらわになっている。スカートが恥骨の辺りまで下ろされて、ショーツが少し見えている状態だ。苦悶の表情で唇を噛み、瞳にはうっすら涙の膜が張られている――なんとも官能的なものであった。

 ――無いものを生み出せる……人間の想像力ってすげえな……いろんな意味で。

 優美は目をぱちくりさせていたが、やがて、

「あはははは、はははは、はははは、はははは――」

 狂ったように乾いた笑いを響かせるのだった。



* * *
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