私と白い王子様

ふり

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36・癒しの時間の始まり

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「かんぱーい!」

 グラスを鳴らし、私たちはビールを飲み干す。

 あのあと、顔面のクリームとめんつゆに、やり遂げた気持ちのいい汗を流しに、大浴場に行きたかった。しかし、思った以上に盛り上がってしまったらしく、部屋に戻る途中に何回か客に捕まってしまった。その都度旅館の職員が警備員よろしく引き剥がしてくれ、やむなく部屋風呂で汚れと汗を流した。

「さっきは芸能人かってぐらい絡まれたわね」
「本当にね。夕季ならともかく、ボクなんてどこにでもいる女子なのにね」

 昨日買った「天童」、「幸祝」、「紅麗」も開封し、マナーもクソもなく、ビールの泡の残る自分のグラスに注いだ。それを半分飲んでから、

「アンタみたいに顔がよくて、背が男みたいに高くて、ホワイトヘッドのケツデカ゚安産型ボクっ娘なんて、いるわけない!!」
「褒めているんだか貶しているんだかわからないけど、ありがとう」
「アンタのおっぱいは、このユキ様が丹精込めてじっくり、じぃ~っくり育ててあげるから安心なさい。キャベツのぬか漬けも食べればもう、相乗効果でボインボインよ!」

 キャベツに含まれる成分には、バストアップの効果が期待できるんだそう。

「もう、ボクはアンタって名前じゃないよ?」
「うっっさいわね。小野崎彗、アンタも『天童』を飲みなさい!」

 体を精一杯伸ばして急須の横にある茶碗をひとつ取った。勢いよく注いだもんだから、彗が慌てて顔を寄せ、あふれそうな『天童』を吸っている。

「夕季、キミは注ぎすぎだよ」
「私はキミでもキミちゃんでもありません~~~!」
「あははは、ごめんごめん。でもさ、夕季だってどこにでもいる女の子と違うんだよ。いつまでも嗅いでいたいようなよく手入れされたベージュブラウンのツーサイドアップでしょ。吸い込まれそうなブラックホールアイ。きめ細やかで真っ白な雪のような肌。可愛くて仕方ない小さい手。感情表現がいい意味で子どもみたいで、時々ボクの理性が崩壊しそうになるほど狂おしくなる存在なんだ」
「うんうん。よーくわかってるじゃなぁ~い……って、何か足りなくなぁぁ~い?」

 浴衣を緩めて前かがみになり、谷間を見せて誘惑まがいのことをする。

 彗は魅入られたように谷間を観察し、おもむろに手を挿し入れてきた。日本酒に氷を入れて飲んでいたせいか、手が冷たくて素っ頓狂な声が出てしまう。

「す、すごく積極的じゃない……!」

 全身が熱くなるのがわかる。不意打ちの攻撃に、こっちが照れてしまった。こんなになるなら挑発しなきゃよかった。

「よし、しよう」
「え? もうするの?」

 彗の真顔の宣言に、私の酔いが一気に飛びかけた。

「だって昨日は飲みまくってからしたじゃないか。少し手遅れ感あるけど、多少はシラフが残っているうちに、夕季を癒してあげたいんだ」
「あのさ、癒す癒すって言っているけど、どんなことをするのよ」

 彗は隣の部屋に通じる襖を開け放つ。私の心臓がとびっきり跳ねた。

 部屋が薄いピンク色に照らされていたのである。知らないうちに設置された間接照明が、部屋を煽情的に照らし、もうそっちのスイッチが入ってしまいそうになる。布団も大きめだが一組しかなく、枕がふたつ並べてあるだけだ。

 女将さんたちの粋な心遣いなんだろうけど、心内を見透かされているみたいで、ほんの少し嫌だった。結局のところやることはやる。それは否定しない。でもさぁ、そこは本人たちの意思でしょ。他人が演出しちゃダメだと思うの。エッチなビデオじゃないんだからさ。

「ピンクの照明じゃダメだ。電気点けるね」

 彗は間接照明の電源を切り、天井の照明のリモコンを操作する。白い光に包まれ、部屋は瞬く間に健全さを取り戻した。床の間のほうへ向かい、お香を焚いて戻ってくる。かけ布団を半分に畳み、敷き布団の上で正座する。

「右耳を上になるように寝転んで」

 言うとおりにする。上半身と比べものにならないくらい肉付きのいい太ももは、温かくて気持ちがいい。無意識によだれが出てきそうになる。

「今から耳掃除をするね」
「う、うん……?」

 従順に対応する。彗には彗の癒しプランとやらがあるだろうし。

 竹の耳かきが耳の中に侵入してくる。力の入れ具合は文句ない。奥まで突っ込み過ぎず、鼓膜にタッチされることもなかった。ただ、来る前にしておいたから、耳垢なんて無いに等しいはずなんだけど。

「夕季はえらいね。ちゃんと掃除していてほら」

 竹の耳かきの先端を見せてくる。内心ホッとした。彗には恥ずかしいところをできるだけ見せたくないからね。

「当然じゃない。レディのたしなみよ」
「うんうん、えらいえらい」
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