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29・バンジー前の準備
しおりを挟む車でひとまず天昇館を後にし、山道を降り、天山市内を西へ行く。橋を一本渡り、隣接する江形市内に入った直後に、ドラッグストアに立ち寄った。
片道一時間弱の道のりだし、軽食かお菓子か飲み物でも買い足すのだろう。そう思っていたんだけど……。
「オムツのバラ売りってしてますか」
のこのこついて行かなきゃよかった。このバカは何を言ってやがるんだ。レジのお姉さんもキョトンとしているじゃない。
「えーっと、子ども用ですか? 大人用ですか?」
「大人用です」
「パンツタイプとテープタイプがありますが」
「着脱は楽なほうがいいよね?」
私に聞くなよ!!
「……そうね」
「やっぱりひとりで穿け――」
勢いよく手で彗のアホの口を塞ぐ。ついでに後ろに追いやりながらひと睨みし、無理矢理笑みを作って店員さんに向き直った。
「パンツタイプでお願いします」
「あのー、おじいちゃんかおばあちゃんに使うんですよね?」
かわいい店員さんは怪訝そうだ。
「そうなんですよ。この娘のおばあちゃん、加齢による衰えで尿漏れが増えましてね。ただ、介護状態もそこまでじゃないし。とりあえず本人を説得して、パンツタイプのオムツを穿いてもらおうかなーと」
「なるほど。それでは、インナーもパンツタイプの物を用意しますね。何枚ご所望ですか?」
彗の奴が手を力づくでどかし、
「二枚お願いします!」
「わかりました。少々お待ちください」
店員さんがレジから離れるのを横目で追いつつ、彗の脇腹を強めに肘で突いた。
* * *
車が出発して開口一番。
「なんでオムツなんか買ったのよ!」
「万が一のためだよ」
「なんの万が一よ。あ、まさか……私、そんなプレイは受け入れられないからね!」
癒される側一発目で、赤ちゃんか幼児プレイは勘弁してほしい。いくら彗が前の彼女――満井芽久によって、おびただしい量の性の目覚めがあったとしても、だ。せめてそこはシラフでいたい。何事も最初は大事なのよ。
「何を勘違いしているんだい。プレイで使うなら、二枚だけじゃ足りないよ。これはね、お互いバンジージャンプの直前で穿くためにあるんだ」
「バ、バンジージャンプ……??」
意外な言葉に頭の処理が追いつかない。バンジーってアレだよね? 高い所からぴょーん! って飛ぶやつよね? 海外ではビルから飛び下りられるアレよね?
「飛んでいるさなかで、恐怖か開放感から漏れちゃう人もいるらしいし。備えあれば憂いなしだね」
え? 嫌なんだけど。飛びたくないんだけど。数年会わない内にコイツ、私が高所恐怖症なのを忘れてんのか?
「ウォントゥーキルミー?」
「そんなわけないよ。ボクがついているから大丈夫」
この安産型女にむかっ腹が立ってきた。こっちの気も知らずに、どこまでも飄々と言ってのけるのが、マジで癇に障る。怒りに任せて尻を揉みしだきたくなるわぁ。
「アンタはバカだから高い所が好きなのよ! そんなに高い所から飛び降りたいなら、実家の屋根の上から飛び降りなさいよ!!」
「さすがにヒモなしバンジーは実家でも骨折するよ」
マジな口調でマジレスすんなよ!
「じゃあ、ひとりで飛んでなさいよ!」
「でももう高速乗っちゃったし、キャンセル料も同額取られちゃうんだよねぇ。ふたり分」
勢いで払いなさいよ! と言いかけたが、現状宿代も払ってもらっている手前、ドリンクホルダーのお茶をがぶ飲みして怒りを飲み下した。
私の剣幕にマズさを感じ取ったのか、彗が顔色をうかがいながら聞いてきた。
「この先のサービスエリアで、おいしいソフトクリームがあるらしいけど――」
「食べる!!」
* * *
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