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01・誘い
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私――大高夕季は今までの生きてきた人生で、絵を描いていてよかったと思う。
人に喜ばれるし、為になっていることに気持ちが満たされるからだ。リアルがつまらないから尚更そう感じる。
エロい話になってしまうが、自分のセルフ行為のおかずも描けるのが何よりも良い。
メジャーなものも好きだが、人間誰しもニッチな性癖をひとつやふたつを持っているものだ。
ニッチな作品にニッチなプレイは存在しないに等しい。昔色々嫌な思いをしたので、自分で描いて愉しんでいる。SNSやどこかのサイトにはアップしない。考え方が変わらない限りは。
男がやや嫌いなので、必然的に女かメスのキャラが対象となる。中でも一番好きなのは、中性的な顔立ちでサラサラのロングヘアー。髪の色なんてなんでもいい。背が高くて足が長くて、私よりも胸や尻が大きくて、ウェストは少し出ててもいい。要は大きい体でギュッと包み込んでほしいのだ。
……まあ、そういうキャラはなかなかいないので、必然的にオリジナルキャラになってしまう。この名もなきキャラに弄ばれたり、もてなされたりする妄想でひとりでするのが、大学に入ってからの愉しみだ。
そしてこのときもじっくり時間をかけて勤しんでいた。いやらしい音が部屋に充満している。指を秘部に抽送するスピードを上げた。下の口が指をごちそうのように味わい、出し入れを繰り返すごとによだれの分泌量を増やし続けている。
体中の熱が一気に高まった瞬間――そんなときに電話がかかってきたのだ。
「こんな夜中に誰よ……!」
もう少しで終わるところだったのに……! 声にならない嘆きを全身で表す。ひどく害された気分になる。空いた手でスマホを取り上げ、無礼者の名前をにらみつけた。
そこには何年も会ってなかった幼なじみの名前があった。
* * *
電話が向こうで切れた。
大学は春休み中の期間である。単刀直入に「一緒に旅行に行こう」と電話で誘われた。一緒に行く予定だった友達が行けなくなったらしい。急な誘いに、面倒くささよりも驚きのほうが上回った。
「……今さら何よ」
考えさせて、と無理矢理会話を切断し、スマホを枕に軽く投げ当てる。今この瞬間、私の心の中はグチャグチャになった。
幼なじみとの関係は、幼いころは隣同士ということもあって、家族ぐるみの付き合いをしていた。生まれたときからいっしょ――ちなみに生まれた日もいっしょ――で姉妹同然に育った。なんならマンガやアニメでよくある窓同士で移動もして、朝昼晩いっしょに話したり、遊んだりもザラにある。
くだらないことから真面目な話、ふたりだけの秘密の話――ヘタしたら当時は、親よりも会話していたんじゃないかな。ホント、唯一無二の親友以上の存在。こういうとなぜか、
「セックスもしているんじゃないの?」
と、勘繰られるが、一度もしたこともない。プラトニックな関係だ。性欲なんて湧きやしない。だって、同性で幼なじみよ? 今は同性愛に理解のある時代みたいだけど、奴にはあっても私はそんな気サラサラないから。断言できるもん。
幼稚園から高校まで共に歩んできた私たち。しかし今、大学は別々の所へ通っている。私は神奈川のほうへ。幼なじみは東京の大学へ。とうとう私たちは初めて離れ離れになる。
よほど楽しいみたい。進学してからパタッと連絡が来なくなった。どちらともなく、通話アプリで毎日のようにとりとめのない話をしていたのに。
生きているのであろうにいきなりいなくなる。生身の痕跡がない。声も匂いも何気なく触っていた体も。死んだわけじゃないのにね。まるで記憶の中の人間になったみたいで、心の中にぽっかり穴が空いてしまった。
どうして私のほうから連絡しなかったのだろう? 一時間も三十分も話す必要なんてない。軽くひと言「元気でやってる?」って聞けばよかったのだ。だけど、そのときは聞けなかった。
この蔑ないがしろにされたことは相当効いた。そりゃ、傷つくわよ。
行動に移せなかったのは、私の頭にある予想外の答えが返ってくることを恐れていたのだろうと思う。
無視されることはないにしろ、自分の予想以上にあっちの環境に馴染んでいたらどうしよう。私なんかそのころは全然馴染めていなかった。
情けないやら、馬鹿馬鹿しいやら。マイナス思考とくだらないプライドが、幼なじみの存在を遠ざけていた。
私の中で幼なじみは、連絡先がわかるだけの死人と化してしまった。
しかし、大学生活は惨めで誇れるものがないから、話すこともない。それを遠ざけて話したとしても、結局は聞いてくるだろう。そうなったら、だんまりを決め込むしかない。そのときの私の気持ちを察してほしくない。同情なんてしなくて結構。
……まあ、便りの無いのは良い便り、という言葉もある。幸い私にはSNSの別世界での交友関係もあった。だから、幼なじみに使っていた時間が、そっくりそのままそっちへ流れた。目を背けた。逃避である。目の端に映っていた幼なじみが消えた瞬間だった。
消えたはずだったのに……。
続きをする気も失せた私はショーツだけ身に着け、ベッドに潜り込んで不貞寝した。
人に喜ばれるし、為になっていることに気持ちが満たされるからだ。リアルがつまらないから尚更そう感じる。
エロい話になってしまうが、自分のセルフ行為のおかずも描けるのが何よりも良い。
メジャーなものも好きだが、人間誰しもニッチな性癖をひとつやふたつを持っているものだ。
ニッチな作品にニッチなプレイは存在しないに等しい。昔色々嫌な思いをしたので、自分で描いて愉しんでいる。SNSやどこかのサイトにはアップしない。考え方が変わらない限りは。
男がやや嫌いなので、必然的に女かメスのキャラが対象となる。中でも一番好きなのは、中性的な顔立ちでサラサラのロングヘアー。髪の色なんてなんでもいい。背が高くて足が長くて、私よりも胸や尻が大きくて、ウェストは少し出ててもいい。要は大きい体でギュッと包み込んでほしいのだ。
……まあ、そういうキャラはなかなかいないので、必然的にオリジナルキャラになってしまう。この名もなきキャラに弄ばれたり、もてなされたりする妄想でひとりでするのが、大学に入ってからの愉しみだ。
そしてこのときもじっくり時間をかけて勤しんでいた。いやらしい音が部屋に充満している。指を秘部に抽送するスピードを上げた。下の口が指をごちそうのように味わい、出し入れを繰り返すごとによだれの分泌量を増やし続けている。
体中の熱が一気に高まった瞬間――そんなときに電話がかかってきたのだ。
「こんな夜中に誰よ……!」
もう少しで終わるところだったのに……! 声にならない嘆きを全身で表す。ひどく害された気分になる。空いた手でスマホを取り上げ、無礼者の名前をにらみつけた。
そこには何年も会ってなかった幼なじみの名前があった。
* * *
電話が向こうで切れた。
大学は春休み中の期間である。単刀直入に「一緒に旅行に行こう」と電話で誘われた。一緒に行く予定だった友達が行けなくなったらしい。急な誘いに、面倒くささよりも驚きのほうが上回った。
「……今さら何よ」
考えさせて、と無理矢理会話を切断し、スマホを枕に軽く投げ当てる。今この瞬間、私の心の中はグチャグチャになった。
幼なじみとの関係は、幼いころは隣同士ということもあって、家族ぐるみの付き合いをしていた。生まれたときからいっしょ――ちなみに生まれた日もいっしょ――で姉妹同然に育った。なんならマンガやアニメでよくある窓同士で移動もして、朝昼晩いっしょに話したり、遊んだりもザラにある。
くだらないことから真面目な話、ふたりだけの秘密の話――ヘタしたら当時は、親よりも会話していたんじゃないかな。ホント、唯一無二の親友以上の存在。こういうとなぜか、
「セックスもしているんじゃないの?」
と、勘繰られるが、一度もしたこともない。プラトニックな関係だ。性欲なんて湧きやしない。だって、同性で幼なじみよ? 今は同性愛に理解のある時代みたいだけど、奴にはあっても私はそんな気サラサラないから。断言できるもん。
幼稚園から高校まで共に歩んできた私たち。しかし今、大学は別々の所へ通っている。私は神奈川のほうへ。幼なじみは東京の大学へ。とうとう私たちは初めて離れ離れになる。
よほど楽しいみたい。進学してからパタッと連絡が来なくなった。どちらともなく、通話アプリで毎日のようにとりとめのない話をしていたのに。
生きているのであろうにいきなりいなくなる。生身の痕跡がない。声も匂いも何気なく触っていた体も。死んだわけじゃないのにね。まるで記憶の中の人間になったみたいで、心の中にぽっかり穴が空いてしまった。
どうして私のほうから連絡しなかったのだろう? 一時間も三十分も話す必要なんてない。軽くひと言「元気でやってる?」って聞けばよかったのだ。だけど、そのときは聞けなかった。
この蔑ないがしろにされたことは相当効いた。そりゃ、傷つくわよ。
行動に移せなかったのは、私の頭にある予想外の答えが返ってくることを恐れていたのだろうと思う。
無視されることはないにしろ、自分の予想以上にあっちの環境に馴染んでいたらどうしよう。私なんかそのころは全然馴染めていなかった。
情けないやら、馬鹿馬鹿しいやら。マイナス思考とくだらないプライドが、幼なじみの存在を遠ざけていた。
私の中で幼なじみは、連絡先がわかるだけの死人と化してしまった。
しかし、大学生活は惨めで誇れるものがないから、話すこともない。それを遠ざけて話したとしても、結局は聞いてくるだろう。そうなったら、だんまりを決め込むしかない。そのときの私の気持ちを察してほしくない。同情なんてしなくて結構。
……まあ、便りの無いのは良い便り、という言葉もある。幸い私にはSNSの別世界での交友関係もあった。だから、幼なじみに使っていた時間が、そっくりそのままそっちへ流れた。目を背けた。逃避である。目の端に映っていた幼なじみが消えた瞬間だった。
消えたはずだったのに……。
続きをする気も失せた私はショーツだけ身に着け、ベッドに潜り込んで不貞寝した。
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