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第4話 理想の詳細
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「あと十五分で中瀬大吉の『新惑星発表記者会見』か。記者会見が待ち遠しいなんて、初めてかもしれない」
「本当ね。行けるのかどうかは置いておいて、『二週目の人生』には興味があるわ」
成人は彼女の響と一緒に賃貸マンションの一室で、中瀬の記者会見を待っていた。
時間が過ぎ行く度に、胸の鼓動は加速していく。
この日、成人は別の意味でも緊張していた。
何故ならこの記者会見の後、響にプロポーズをしようと決めていたからだった。
特別な日を、より特別な一日に。
――会見を忘れさせるくらい、驚かせてやる。
惑星中が注目する会見を前に、成人はそんなことを考えていた。
何度も繰り返し考えたプロポーズを脳内で再生している間も、時間は確実に進んでいく。
「暫くお待ちください」と表示されたテロップは、定刻三分前に会見会場へと切り替わり、記者会見の映像が目の前のモニターに映し出された。
中瀬の到着を待つ会場の緊張や熱気が、モニター越しに伝わってくる。
成人の手は、じんわりと汗で滲んでいた。
部屋中に届きそうな程の大きな息で、成人は身体中の緊張を吐き出そうとする。
しかし、息を吸うごとに、吐き出した緊張は再び体内へと戻ってきたのだった。
前回までとは違い、今回は司会進行の男性がステージの脇に立っており、今日の流れ、会見の時間についてアナウンスをしている。
こうでもしなければ、今回ばかりは収集がつかなくなると考えたのだろう。
全体のアナウンスが終わると程なくして、男性は中瀬の登壇を促す。
そして、またしても画面全体が白くなる程に大量のフラッシュが焚かれる中、中瀬大吉はゆっくりと会見場に姿を現した。
男性の「よろしくお願いします」という挨拶を持って、バトンは中瀬へと渡される。
中瀬は報道陣に軽く頭を下げた後に着席すると、置かれていたマイクのスイッチを入れる。
ポンポンとマイクが入ったかどうかの確認を行うと、中瀬はようやく口を開いた。
「皆さん、こんばんは。中瀬です。まず初めに、たくさんのご意見をいただいた皆さま、そして会場にお集まりいただいた皆さま、誠にありがとうございます」
成人は音量を調整し、中瀬の言葉を逃すまいと耳を傾ける。
「私自身、各メディアの皆さまの報道を見ては、注目度の高さや社会への影響、何より責任を感じる日々を過ごしておりました。その為か、いつも以上に幾分か緊張しておりますので、どうぞお手柔らかにお願いします」
カメラに向かって再び頭を下げると、中瀬の顔にはいつもの笑顔が戻っていた。
「早速ですが、本日は以前よりお伝えしていた通り、新しい惑星についてポイントを絞って発表いたします」
注目度とは裏腹に、中瀬は落ち着いた雰囲気で淡々と進めていく。
発表された項目は次のようなものだった。
・新惑星の大きさは現惑星の十分の一程度の大きさであること。
・全ての生態系は現惑星と大きく変わりがないこと。
・食料品や日用品、IT技術、医療等々は不自由ないレベルで保たれていること。
但し、人手不足緩和対策として、それぞれ全体の八割から九割、ものによっては全てがロボット及びシステム化されたサービスからの提供に変わること。
・十八歳以上への働き口の確保、学生への学業の提供は現惑星水準かつ無償であること。
・気候の概念はなく、一年を通して春あるいは秋の気候が適用されること。
・新惑星は完成後、見学ツアーが組まれること。
主なポイントはこの通りだが、特に重要なポイントは以下の通り。
・八年後を目安に、新惑星への移住が可能となる見通しということ。
・移住者は希望者の中から抽選で決まり、次の会見内で発表されること。
・抽選はこの会見後からの一年間の応募者に限ること。
・その数はこの惑星の凡そ一割から二割程度になること。
・移住者への土地、家、並びに通貨は平等に移住時に提供されること。
・新惑星で何をするも自由だが、全てが自己責任になること。
そして最後に、「今回の移住者数はあらゆる未知数の可能性に備えて設定していることを理解してほしい」と、中瀬はこの後に出てくるであろう質問に対して釘を刺すように、語尾を強めて言った。
中瀬の説明が終わると、大勢の記者が手を挙げ、会場に質問の雨を降らせていく。
「惑星新聞の田中です。先日の記者会見の内容も踏まえての質問となりますが、今回、『平等』をテーマに通貨を始め、土地や家も提供されることとなっています。その上で、学業の無償化等も謳っておられますが、これらの運用資金はどのように賄われるのでしょうか」
「先にお伝えした通り、あらゆる分野でロボットを主体とする運用としたことで、基本的にはお金は発生しない仕組みです。しかし、これらはあくまでベースの話。その先に存在する事柄、サービスの提供につきましては、それぞれに事前提供するお金等を使って生活いただきます。加えて十八歳以上の職業においても、各分野の運営が一定の軌道に乗ったとロボットが判断した時点より、賃金が支払われることになります」
「つまり、働き口はあっても、最初から賃金が発生するわけではないと?」
「そうなります。無償を掲げている以上、資金もほとんどありませんからね。それ以上の恩恵を受けたいとなった場合は当然、それ相応の行動を取り、相応の対価を得る必要がある。それは現惑星となんら変わりはありません。ただ、人は様々な考え方を持つわけで、中には『世のため人のため』の精神でいらっしゃる方々だっています。そういった幅広い方々へ制限を設けないために、『賃金』という概念は捨てていないだけの話です」
「アルプス新聞です。この支給される通貨というのはどこから支払われるのですか?」
「提供を予定している通貨は新たな惑星独自のモノです。よって、『どこから』と聞かれれば、私からという回答になるかと思います」
「さざなみ新聞の安藤です。一問目の質問の中で先生が仰っていた『事前提供するお金等を使って』という部分ですが、これらは家や土地も含まれるという認識でよろしいでしょうか」
「言葉の通りです。事前提供したモノをどのように使っても、それは各人の責任の下、自由となります」
「家や土地の価値を決めていくのは?」
「各人です」
「大黒新聞です。発表された項目の中に、『人手不足緩和対策』という言葉がありました。これは、モノによっては人手が必要だが、現時点では不足している、という意味でしょうか」
「不足――という表現が正しいかどうかはその時々にもよりますが、凡そ、ご認識の通りです。分野によっては現惑星を百パーセントとした場合の九十、或いは八十程度の提供しか出来ない場合もあります。しかし、それらの中には移住する皆さんへ提供する職業が含まれていたりもしますので、一概には言えない部分です。また、常に百の提供が出来ないのは現惑星においても同様です。どれだけ努力をしても、受け手に取っての百にならない場合はあります。その点を踏まえて考えれば、『人手不足緩和対策』という言葉はこの説明のために用いた言葉に過ぎない、とも解釈いただけるのではないでしょうか」
中瀬はどんな質問が来ても毅然とした態度を崩すことはなかった。
間延びすることも、顔色一つ変えることもないままに答えを重ねていく。
粛々と自身に向けられたカメラの数と同数程度の質問を回答していき、記者会見は二時間三十分にも及んでいた。
しかし、その場その場で司会者が一つの質問に対する時間管理をしっかりと行ったお陰もあり、質疑応答も含め、会見は時間通りに終了の運びとなった。
最終質問の回答を終え、中瀬はゆっくり立ち上がると、カメラに向かって満面の笑みで手を振って退出した。
成人の目には、その表情は記者会見を終えた安堵が成したモノというより、まるでこの瞬間から、これから先の未来の創造に取り掛かり始めたかのように映っていた。
「本当ね。行けるのかどうかは置いておいて、『二週目の人生』には興味があるわ」
成人は彼女の響と一緒に賃貸マンションの一室で、中瀬の記者会見を待っていた。
時間が過ぎ行く度に、胸の鼓動は加速していく。
この日、成人は別の意味でも緊張していた。
何故ならこの記者会見の後、響にプロポーズをしようと決めていたからだった。
特別な日を、より特別な一日に。
――会見を忘れさせるくらい、驚かせてやる。
惑星中が注目する会見を前に、成人はそんなことを考えていた。
何度も繰り返し考えたプロポーズを脳内で再生している間も、時間は確実に進んでいく。
「暫くお待ちください」と表示されたテロップは、定刻三分前に会見会場へと切り替わり、記者会見の映像が目の前のモニターに映し出された。
中瀬の到着を待つ会場の緊張や熱気が、モニター越しに伝わってくる。
成人の手は、じんわりと汗で滲んでいた。
部屋中に届きそうな程の大きな息で、成人は身体中の緊張を吐き出そうとする。
しかし、息を吸うごとに、吐き出した緊張は再び体内へと戻ってきたのだった。
前回までとは違い、今回は司会進行の男性がステージの脇に立っており、今日の流れ、会見の時間についてアナウンスをしている。
こうでもしなければ、今回ばかりは収集がつかなくなると考えたのだろう。
全体のアナウンスが終わると程なくして、男性は中瀬の登壇を促す。
そして、またしても画面全体が白くなる程に大量のフラッシュが焚かれる中、中瀬大吉はゆっくりと会見場に姿を現した。
男性の「よろしくお願いします」という挨拶を持って、バトンは中瀬へと渡される。
中瀬は報道陣に軽く頭を下げた後に着席すると、置かれていたマイクのスイッチを入れる。
ポンポンとマイクが入ったかどうかの確認を行うと、中瀬はようやく口を開いた。
「皆さん、こんばんは。中瀬です。まず初めに、たくさんのご意見をいただいた皆さま、そして会場にお集まりいただいた皆さま、誠にありがとうございます」
成人は音量を調整し、中瀬の言葉を逃すまいと耳を傾ける。
「私自身、各メディアの皆さまの報道を見ては、注目度の高さや社会への影響、何より責任を感じる日々を過ごしておりました。その為か、いつも以上に幾分か緊張しておりますので、どうぞお手柔らかにお願いします」
カメラに向かって再び頭を下げると、中瀬の顔にはいつもの笑顔が戻っていた。
「早速ですが、本日は以前よりお伝えしていた通り、新しい惑星についてポイントを絞って発表いたします」
注目度とは裏腹に、中瀬は落ち着いた雰囲気で淡々と進めていく。
発表された項目は次のようなものだった。
・新惑星の大きさは現惑星の十分の一程度の大きさであること。
・全ての生態系は現惑星と大きく変わりがないこと。
・食料品や日用品、IT技術、医療等々は不自由ないレベルで保たれていること。
但し、人手不足緩和対策として、それぞれ全体の八割から九割、ものによっては全てがロボット及びシステム化されたサービスからの提供に変わること。
・十八歳以上への働き口の確保、学生への学業の提供は現惑星水準かつ無償であること。
・気候の概念はなく、一年を通して春あるいは秋の気候が適用されること。
・新惑星は完成後、見学ツアーが組まれること。
主なポイントはこの通りだが、特に重要なポイントは以下の通り。
・八年後を目安に、新惑星への移住が可能となる見通しということ。
・移住者は希望者の中から抽選で決まり、次の会見内で発表されること。
・抽選はこの会見後からの一年間の応募者に限ること。
・その数はこの惑星の凡そ一割から二割程度になること。
・移住者への土地、家、並びに通貨は平等に移住時に提供されること。
・新惑星で何をするも自由だが、全てが自己責任になること。
そして最後に、「今回の移住者数はあらゆる未知数の可能性に備えて設定していることを理解してほしい」と、中瀬はこの後に出てくるであろう質問に対して釘を刺すように、語尾を強めて言った。
中瀬の説明が終わると、大勢の記者が手を挙げ、会場に質問の雨を降らせていく。
「惑星新聞の田中です。先日の記者会見の内容も踏まえての質問となりますが、今回、『平等』をテーマに通貨を始め、土地や家も提供されることとなっています。その上で、学業の無償化等も謳っておられますが、これらの運用資金はどのように賄われるのでしょうか」
「先にお伝えした通り、あらゆる分野でロボットを主体とする運用としたことで、基本的にはお金は発生しない仕組みです。しかし、これらはあくまでベースの話。その先に存在する事柄、サービスの提供につきましては、それぞれに事前提供するお金等を使って生活いただきます。加えて十八歳以上の職業においても、各分野の運営が一定の軌道に乗ったとロボットが判断した時点より、賃金が支払われることになります」
「つまり、働き口はあっても、最初から賃金が発生するわけではないと?」
「そうなります。無償を掲げている以上、資金もほとんどありませんからね。それ以上の恩恵を受けたいとなった場合は当然、それ相応の行動を取り、相応の対価を得る必要がある。それは現惑星となんら変わりはありません。ただ、人は様々な考え方を持つわけで、中には『世のため人のため』の精神でいらっしゃる方々だっています。そういった幅広い方々へ制限を設けないために、『賃金』という概念は捨てていないだけの話です」
「アルプス新聞です。この支給される通貨というのはどこから支払われるのですか?」
「提供を予定している通貨は新たな惑星独自のモノです。よって、『どこから』と聞かれれば、私からという回答になるかと思います」
「さざなみ新聞の安藤です。一問目の質問の中で先生が仰っていた『事前提供するお金等を使って』という部分ですが、これらは家や土地も含まれるという認識でよろしいでしょうか」
「言葉の通りです。事前提供したモノをどのように使っても、それは各人の責任の下、自由となります」
「家や土地の価値を決めていくのは?」
「各人です」
「大黒新聞です。発表された項目の中に、『人手不足緩和対策』という言葉がありました。これは、モノによっては人手が必要だが、現時点では不足している、という意味でしょうか」
「不足――という表現が正しいかどうかはその時々にもよりますが、凡そ、ご認識の通りです。分野によっては現惑星を百パーセントとした場合の九十、或いは八十程度の提供しか出来ない場合もあります。しかし、それらの中には移住する皆さんへ提供する職業が含まれていたりもしますので、一概には言えない部分です。また、常に百の提供が出来ないのは現惑星においても同様です。どれだけ努力をしても、受け手に取っての百にならない場合はあります。その点を踏まえて考えれば、『人手不足緩和対策』という言葉はこの説明のために用いた言葉に過ぎない、とも解釈いただけるのではないでしょうか」
中瀬はどんな質問が来ても毅然とした態度を崩すことはなかった。
間延びすることも、顔色一つ変えることもないままに答えを重ねていく。
粛々と自身に向けられたカメラの数と同数程度の質問を回答していき、記者会見は二時間三十分にも及んでいた。
しかし、その場その場で司会者が一つの質問に対する時間管理をしっかりと行ったお陰もあり、質疑応答も含め、会見は時間通りに終了の運びとなった。
最終質問の回答を終え、中瀬はゆっくり立ち上がると、カメラに向かって満面の笑みで手を振って退出した。
成人の目には、その表情は記者会見を終えた安堵が成したモノというより、まるでこの瞬間から、これから先の未来の創造に取り掛かり始めたかのように映っていた。
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